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ぼっち

闇がぁ

 冒険者ギルドとはギルドに登録された冒険者と依頼人の仲介をするのが主な仕事である。

個人の依頼だけでなく時には街を収める領主、または国からも依頼を受けることがある。


 基本的には依頼を選ぶのは冒険者側になるが、依頼に対してその冒険者が相応しいかどうかはギルドが判断する。

判断基準として1~6級までの冒険者の格付けがある、数が少ないほうが優秀だ。

冒険者登録をした人は最初は皆6級からはじまる、例え歴戦の戦士だろうが有名な魔法使いだろうが6級からだ。


 級を上げるためには、ギルド側が用意する昇級試験をクリアする必要がある。

試験内容に関しては決まっていない、試験を行う街のギルドマスターの判断により変わるが、前提条件として人格面の審査があるためどんなに強くても人として信頼できない人物は昇級できない。

また、犯罪を起こせば冒険者登録自体を抹消される場合もある。


「後はそうですね、ギルドは仲介料として依頼人の用意した報酬から5%を頂いています。これはちなみに依頼が達成できない場合は、依頼を受けた冒険者がペナルティとしてギルドへ報酬の5%分の罰金を支払うことになります。高額報酬の依頼はそういう点で特に注意が必要ですね」


 ラルフォイはそこまで言ってようやく言葉を止めた。

聞いてないのに長々とギルドのシステムについて説明してくれた。

聞いてないのに。


「質問いいかな?」

「はい、どうぞ!何か気になる点はどんどん質問してください」

「冒険者登録するとは一言も言ってないんだが?」

「まだそうでしたね!他に質問はありませんか?」


 こいつの自信満々な態度はなんなんだ。

そんなことは特に問題ではありませんよと言った感じで軽く流された。


 一応、ラルフォイから説明された内容に特に不審な点はない。

話を聞いた上では単なる仕事の斡旋所くらいにしか思えないし、俺にデメリットがあるようにも感じない。


「…とにかく、どう言われてもすぐ判断はできない、俺は今雇われている身だ、雇い主に黙って勝手なことはできない」

「確かタックス商会で雇われているんでしたね!うーんそういう律儀なところも良い点ですよ、その真面目さなら昇級もすぐできると思います」

「あーもうわかったよ!一度雇い主と相談する!問題なければまたここへ来る!それでいいだろ」

「またここへ来て『登録』するという意味ととらえていいんですよね?」

「チッ、ああそう、そうだよ」


 俺の必殺、適当なごまかしが通用しない。

この世界であった人物で一番やりにくいかもしれん。


「今日はもう帰る」

「次はいつ来られそうですか?明後日の同じ時間とかどうです?」


 なんだよもう歯医者の予約みたいに聞きやがって!

歯医者はこんなに早く次の予約いれてくんなかったけど!


「それでいい」

「わかりました、ではまたお会いできるのを楽しみにしております」

「…じゃあな…あ、質問あとひとつあったわ」

「なんでしょう?」


 さっきの説明でなかった部分がひとつ気になる。


「ギルドが冒険者を指名して仕事をやらせる、ということはないのか?」

「たまにあります、本当にたまにですよ?緊急依頼と言って早期解決が望まれるものをこちらから直接、冒険者の方にお願いする、そういうものですね」

「それを断る権利は?」

「当然あります、そういう場合は依頼達成できそうな他の方に回します」

「そうか…それじゃ明後日にまた来る」

「ええそれでは」


 ラルフォイの笑顔に見送られて俺は部屋を出た。

むかついたので次はコーヒーの1杯でも用意してもらおう、あるかわからんが。


………


 階段を降りてギルドの1階に戻る。

案内してくれたピンク髪の受付の子に頭を下げて、さっさとここを出ようかと思ったが、このまま帰るのも何か癪なので、ラルフォイの言ったことが本当に正しいのかどうかくらい誰かに確認を取ってから帰ろう。

できればギルドの関係者じゃなくて冒険者の人間がいい。


 話せそうな奴はいないかな、と思って辺りを見る。

大抵のやつは誰かと話しているか、たぶんあれが依頼なんだろう、壁の張り紙を真剣に見てたりする。


 そういう中で一人だけ、テーブル席を一人で占領して座っているやつがいる。

あいつは俺がここに来たときもいた、ぼっち臭ただようやつだ。

ていうかずっと座って何してるんだ?

ハローワークに来て何もせずに受付の順番を待つフリをして時間をつぶすみたいな高度なプレイを堂々と一人でしているようだが。


 まあいいか、仕事探しに来たけどやっぱ働くのが唐突に嫌になった若者だろう。

もしくは親に言われて嫌々来たニートとかそんなんだ、よしあいつなら話しかけても平気だな、あいつにしよう。


 俺は建物内の端にあるテーブル席に一人で座る人物に近づいた。

顔はよく見えない、フードがついたマントを身に着けている。

右腕には包帯が巻かれている、怪我をしているんだろうか?

できることなら治療してやりたいが、人目があるからなぁ。


「すいません、ちょっとお時間いいですか?」


 俺がそう話しかけるとそいつは顔を上げてこちらを見た。

フードの中からはまだ少年ともいえる若い男の顔がみえた、イケメンぽいけど前髪長いな。

左目が濃い紫の髪で隠れている。


「冒険者の方ですか?俺も冒険者になろうかどうか迷ってるんですけど、良かったら現役の人に話をちょっと聞きたいなーと思ってるとこでして」

「ほう…その漆黒に満ちた髪、貴様も闇の力を持つものか」

「…んっ?んん?」


 何か会話のキャッチボールできたか怪しい返答がきた。


「よかろう、その力、我に相応しいかどうか見極めてやろうではないか」

「あー…はい、じゃとりあえずこの椅子かります」


 たぶんOKということだよなと思って向かいに座る。


「どうも、俺はヴォルガーと言います、いやこの街に来たばかりで…」

「どこから来た?」

「え?えーっと…」

「待て!我が当ててやる…ふむ…ベルポイ…だな?」

「いやナクト村のほうからですが…」


 ベルポイってどこだよ!


「なるほど、そんな気はしていたがな」


 じゃ今のなんだよ。


「そ、そうですか、ところで…」

「待て!我の名はマグナクライゼス。暗黒の刃マグナクライゼスだ」

「え、ええと…マグナクライ…ゼスさん?…ですね」

「そうだ、それと普通に話せ、闇の使途の間に敬語はいらん」


 なんだろう、こいつもしかして面白いやつかもしれない。


「じゃマグナクラ…ごめんなんだったっけ?」

「呼びにくければ別の名でもいい、暗黒の刃とか、深淵なる者とかな」


 そう言ってマグナなんとかはクククとなぜか笑った。

謎の笑い、意味不明な二つ名、やたらの闇アピール。 

もうこの子絶対あれだよ、日本だったら中二病とか言われてたやつだよ。


「わかった、じゃあマーくんに聞きたいんだけど」

「おい待て、マーくんとは我のことか」

「そうだ、覚えやすくていいと思うんだがどうだろう」

「我を侮辱しているのか?」

「違う、むしろ親しみを込めている、友情を育みたいという願いが込められているんだ」

「友情…」


 マーくんは目を閉じて何か考えてるのか、少しの間動きをとめてから


「ならば良い」


 許可してくれた。

フッ、どうやら友達欲しい系のぼっちだったようだな。

俺の目に狂いはなかった。


「よし、ならマーくんに聞くけど、この仕事はじめて長いの?」

「我は8つのときに闇の使徒となってから10年、旅を続けて訪れた街で冒険者をしている」

「えっ、じゃあ今18?若いのに凄いな!しかも8つのときからって普通はできないよ」

「フッ、ま、まあそれほどでもない」

「この街はどれくらいの間いるんだ?」

「そろそろ1年ほどになるか…それがどうした?」

「いや、ギルドマスターに会ったことあるのかなと思って」

「ああ…あるぞ、あの男は弱いフリをしているが恐らく実力を隠している、滅多に顔を見せんからなかなかその実力を確かめるチャンスがないがな」


 なるほど、ラルフォイはこういう人に絡まれるのか、もっと絡まれたらいいのに。


「俺もさっき会ったんだけどさ、確かにうさんくさかったよ」

「む、貴様はギルドマスターに呼ばれて来たのか」

「ああ、冒険者になれとか言われてな、あと貴様はやめてくれ」

「お、おう…ヴォルガー…これでいいか」

「それでいい」


 急に照れがはいるマーくんを見て、さっきまでラルフォイにむかついてた気持ちがだいぶ収まった。


「ラルフォイって男の評判はどういうものか他に何か知らないか?」

「やつはうさんくさいが無能ではない、仕事は正確だ、会ったことのない大半の人間はきっと優秀なギルドマスターだと思っているだろう」

「マーくんは?」

「我も仕事に関しては真面目な男だとは思っている、他の街では報酬をごまかされたりしたことがあるが、ここに来てからはそういうことは一度もないからな」


 意外と高評価だな…余計にラルフォイのことがよくわからなくなってきた。


「そうか…実は俺は冒険者になろうか迷っていたのはラルフォイがやたら冒険者になれとすすめてきたからなんだ」

「あの男が直接スカウトしてきたのか?」

「ああ、理由はよくわからないんだが、たぶん俺の魔法のこと関係なんだろうけど…」

「ほう…まさかそこまでの闇の使い手だったとはな」

「いや闇魔法は使えないよ、俺の専門は光魔法だから」

「なんだとっ!?」


 急にマーくんが椅子から立ち上がる。

あれ、光魔法じゃやっぱ好感度ダウンなんですかね?


「我をだましたなっ!アイシャ教のヤツだったとは!」

「騙しては無いと思うんだが今はじめて言ったし、あとアイシャ教にも入ってない、というか入れない、黒髪のやつはダメらしいぞ、知らなかったのか?」

「ぬ、そういえばそうだった、しかし光魔法か…」

「何か問題が?」

「光と闇は相容れぬ存在、我と貴様では進むべき道が違いすぎたようだな」


 マーくんはそう言ってそのままどこかへ行こうとした、家に帰るのか?


「待て!マーくんにひとつ言いたいことがある」

「なんだ?最後に聞いてやろう」

「俺の故郷にこんな言葉がある」


 俺は立ち止まっているマーくんの目を見てこう言った。


「光と闇が両方そなわり最強に見える」


 なんかのゲームで見た言葉だ、意味はかなり不明。


「…それは光と闇、両方の属性を備えることで強大な力の融合が起こり最強の力になるということか!」


 マーくんは目を輝かせてそう叫んだ。

何を言ってるのかまったくわからなかったが俺は真面目な顔で力強く頷いておいた。

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