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ダメな子一直線

くっ、昨日アップできませんでした、そのせいかどうかは不明ですがやや長いです。

「モモはもう肩こりなのか?」

「いえっ、ミュセが毎日、肩を揉んでくれるので今はまだ平気ですっ」


 借りの我が家を訪れたモモは俺に聞かれると元気よくそう言った。

ミュセは親切だな、というよりただ揉みたいだけなんだろうな。


「話があるんだけど、家にあがらせてもらっていいかしら?」


 といいつつ既にもう体半分、家に入ってきているミュセ。


「あ、ちょっと待ってくれ、これから授業なんだ」

「授業ってなによ?」


 俺は二人に説明した、俺の仕事について。

トニーとディーナの二人を紹介して、午前中はこの二人に計算の仕方を教えるのが俺の仕事なのだと伝えると、何を考えてるのか「面白そうね?じゃあそれを見学しながら待つわ」とミュセは言い出した。

それに賛成なのかモモはさっそく席についてトニーたちに挨拶していた。


「いやいや困るよ、俺はこれ、金を貰ってやってるんだから」

「別に邪魔はしないわよ、後ろで見てるだけ、ね?モモ」

「だめですか…?ヴォルガーさん…」


 おい汚いぞモモを使うな、ぐあああ悲しそうな顔をするんじゃない。

そんな顔をされても仕事は仕事なんだ、俺はこれでもこの仕事を真面目にしているつもりなんだ。


「モモ、すまないが…」

「先生!オレっちは全然構わないっす!頑張るっす!」


 トニーがいつも以上のやる気を見せる。

なんだ、どうした、女の子が増えたから嬉しいのか、青少年め。


「そう言われても俺の雇い主はタックスさんだからな…」

「じゃあ親父に聞いてくるっす!すぐ戻るっす!」


 そう言うとトニーはダッシュで家を出て行った。

やる気だしすぎだろ、これが若さか。


「あー…ディーナはどうだ、二人がいても問題ないか」


 タックスさんから許可が出たときのことを考えてディーナにも一応聞いておく。


「えっ、う、うん…私は別に…」


 と言いつつも初対面の人が二人いるこの状況で落ち着かないんだろう。

微妙に視線をウロウロさせてディーナはキョドっている。


「いいなあ、私もヴォルガーさんにいろいろ教わりたいです」


 視線があったモモにそう言われると、ディーナは動きをとめてニヤニヤしだした。

なんだその笑いは。

そして「何を言ってるのモモ!危険すぎるわ!」とか言ってる人はもう帰ってもいいですよ。


「先生ー!親父は許可してくれたっす!」

「うおう、早かったな…まあタックスさんがそう言うならいいよ」


 戻ってきたトニーははぁはぁ言いながら早速やるっす!とか言ってるがまず落ち着け。


「じゃあ私たちは邪魔にならないよう後ろで見てますねっ」


 モモとミュセは4人掛けのテーブルから椅子を二つ引っ張って部屋の端っこに行った。

授業参観みたいなポジションだな…

何しに来たんだ君たちは。


 やりにくいなと思いつつも仕方ないので俺はいつものように授業をはじめた。


………………


………


「…ふむ、全問正解だ、良くやったなディーナ、これなら露店で買い物くらいは一人で出来るんじゃないか」


 ディーナは俺が黒板に書いた引き算の問題全てにちゃんと正解を書いていた。

だというのになぜか俺の方を見てキョトンとしている。


「わあー凄いですねディーナさん!私より計算早かったです!」


 モモがそう言うとディーナは「えっ?そ、そう?えへっんへへへへへへへへ」と不気味な笑いをはじめたのでさっさと席に戻らせた。

戻らせたのだが後ろにいるモモに「あのねえこれを使うと覚えるのが楽なのよ」とおはじきを自慢げに見せびらかしている。


 私語はやめなさいと言おうかと思ったが異常なほど嬉しそうだったので大目に見てやった。

モモの隣でミュセが「フン、あれくらい私だってできるわよ」と不満そうにしているのも面白かった。

というかできないとヤバイ領域だからなそれは。


「せ、先生!オレっちも!オレっちにも問題をだしてくださいっす!」


 突然声を大にしてそう告げるトニーの異様な熱意に若干引いたが


「あ、ああじゃあトニーは…ええと7の段まで昨日は完璧だったから8と9を言ってみようか」

「はい!」


 トニーは早速、九九の8の段を言い始めた。

それは間違うことなく9の段にうつりそして…


「くく、はちじゅういち、っす!」

「おー、全部言えたじゃないか、ちゃんとあってたしすごいぞ」


 俺が褒めてやるとトニーは嬉しそうに笑って、なぜかバッ、と後ろを振り返った。


 トニーの視線の先にはミュセとモモがいる。

二人はぼけーっとしてこちらを見ていた、特にリアクションはない。

おいトニーのことも褒めてやれよ!ディーナのときはあんなに反応したのに!

ああほらトニーがガックリきてるじゃん!


「…今の何よ?魔法の詠唱?」


 ミュセがおかしなことを言い出してピンときた。

ああ、なるほど九九のことを知らないのか。

何を言ってるんだコイツって感じで見てたわけだな。


「今のは掛け算の基本を覚えやすくするための言葉だ。トニーはあれで1から9までの数字ならどの組み合わせで掛け算を作っても一瞬で答えがわかるようになった」

「一瞬?そんなの無理でしょ?」

「無理じゃないさ、ミュセは掛け算ができないのか?」

「馬鹿にしないでよ!できるに決まってるでしょ!」

「じゃあ試しにトニーに何か問題を出してみろ、1桁の数字を二つ使った掛け算な」


 ミュセは少し黙って何か考えた後、トニーの方を見て


「じゃあいくわよ?3×5は?」

「15っす!」

「えっ、はや…ま、まああってるわね、でもマグレでしょ、次は…6×7!」

「42っす!」

「……………………うん、あってるわね」


 なんだよその間は。

ミュセはこれ自分でも答えがすぐわからないのに適当に問題だしたな。


「えー!トニー君すごーい!なんですぐわかるんですか!?すごいすごい!」


 モモにすごいすごい言われてトニーは今日一番の笑みを浮かべた。

トニーよ…モモのことが気になっていたのか…とてもそうは見えないだろうがこの子は君より3つ年上だぞ。


「うふふ、それはね、教えてる先生がいいからよ?」


 ディーナはなぜか勝ち誇った顔でそう言った。

それからトニーとモモとディーナの3人は集まってキャッキャッと騒ぎはじめたので、こりゃもう集中力完全に切れたな、今日はこのくらいにしとくか、と俺は授業の終わりを告げた。


「くっ…50年生きてきた私より計算が早いだなんて…」


 小さく、とんでもねえことが俺の耳に入ってきた。

ミュセ50歳だったのかよ。

ばば…いや、やめとこう、きっとエルフは長生きなんだ。


………


「トニー、悪いけどこの本タックスさんに渡しておいてくれるか?今日はすぐ報告に行けそうにないから」


 授業を終えて店へと戻るトニーへ、昨日渡された魔動車の説明書を預けた。


「あ、はい、これ何の本っすか?」

「…例のタックスさんが夢中になってるやつに関係してる、内容は直接会ったときに詳しく話すと伝えてくれ」

「…あ、了解っす、もうそれ以上は言わなくていいっす」


 できれば聞きたくないと言った感じの気持ちがトニーの表情からみてとれる。


「親父、今日はどこか出かけるみたいなんで話は明日でもいいと思うっすよ」

「そうか、わかった」

「…あの、それとは関係ないことっすけど」


 本を受け取ったトニーはまだ何かあるのか家の前で立ち止まったままそう言った。


「モモちゃんて、彼氏とかいるっすか?」

「…知らん、本人に聞けよ」


 青少年らしい質問をされたがそんなことを俺に聞かれても知らんものは知らん。


「そうっすけど、モモちゃんと話をしようとすると…あのミュセって人がオレっちのこと睨んでるような気がして、怖くてなかなか話しかけられないっす…」

「安心しろ、気のせいじゃないから、モモと仲良くなりたいなら越えねばならない障害だぞ、頑張れ」

「えぇ…全然安心できないっす…はぁ」


 前にあの女はオーガの股間に短剣投げて突き刺してたぞ、と教えてやるのはやめておいた。

子供の夢を壊すわけにはいかない、強く生きろ、トニー。


 少し力無く去っていったトニーを見送って家に戻ると、ミュセとモモは何か用事があってきたから当然まだいるんだが、ディーナも当然のようにそこに混ざって残っている。

そしてモモに「ヴォルるんは料理が上手なの、今日のお昼はなにかなあ」とか言ってて当然食っていきますよという態度だ。

打ち解けるのはいいが遠慮をするということを覚えてほしい。

そんなディーナに対し、ミュセは特に目くじらを立てている様子はない、モモに絡むのが女ならセーフということなのか。


「待たせて悪かったな、二人が良ければ話は昼食を食べながらでどうだ?俺が作ったものでよければだが」


 勝手に待つと言ったのはミュセだが、まあそれでも俺の用事を優先してもらったのでお詫びのつもりで聞いてみたら、二人とも食べると言ってくれた。

ディーナもわーいとか言ってるが、ここでお前の分はないんだけどと言うとさすがに可哀そうな気がしたので仕方なく4人分作ることにした。


 俺はじゃあもう少し待っててと3人に告げ、一人で台所にいって料理をはじめた。

4人分だからもう材料なくなっちゃうよ。

冷蔵庫ないから買いだめできないんだよなあ。

今日後で買い物にも行かなきゃ…


 とか考えながら手は動かしている。

赤鉄板のほうでフライパンを動かしてカシューナッツっぽい木の実とパプリカ、エリンギを炒めながら、鍋に水を入れてそこには干し肉を刻んで入れていく。

肉を入れた鍋は一旦横に置いて、キャベツをまな板代わりにしているただの木の板の上でザックリ刻んだ後、果物を売っていた露店で買ったネロロという謎の果物を絞って果汁と少しの砂糖で和える。

ネロロはレモンみたいな形だがオレンジ色をしていて、食べるとすっぱくて少し甘い香りがする。

そのキャベツの和え物と炒めていた野菜を塩で味を調えて器にそれぞれ盛る。

その二つを食卓に持っていく前に干し肉の入った鍋を火にかけて、ほうれん草とおぼしき野菜と一緒に煮ておく。


 食卓に二つの料理の大皿を置いて、取り分ける器などを準備し終えたころ、鍋から干し肉とほうれん草のスープを塩コショウで味を調えて最後に出す。

やっぱコンロ、じゃないわ赤鉄板二つ欲しいな。


「悪いけど今日はパンは無いんだ、これで我慢してくれ」

「ず、随分手馴れてるのね…」

「私たち器を並べただけですけどいいんでしょうか…」

「大丈夫!コップに飲み水も汲んだわ!」


 最後の自信満々に言ってるやつはディーナだ、こいつはいつもそれだけだ、何がどう大丈夫なんだ。


「じゃ食べながら話を…」


 しようか、と言おうとしたら皆もう食い始めていた。


「う、美味しいっ!?なんでこんなやつの料理がこんなに美味しいのよ!?」

「私たちが泊ってる宿の食事よりずっと美味しいです!ディーナさん毎日こんなの食べてるんですか!?ずるいですー!」

「もふっまいもぐもぐまないは」


 食い終わるまでダメだなこりゃ。

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