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人には向けて使わないでください

何かいつの間にか100ptもあった、ありがとう。うれしいね。記念にいい話にしたかったけど無理だったよ。

 タックスさんと長いこと倉庫で話していたらトニーが俺たちを探しに来た。

店のほうに客やらタックスさんの商談相手やらが来ていて大変らしい。

ディーナにすら店の手伝いをさせてる、という情報を聞いてタックスさんは慌てて店に飛んで帰った。

トニーも急いでその後を追っていく。


 俺は締め出された倉庫の前で魔動車の取扱説明書とやらを片手に、忙しそうだから邪魔にならんようにしとくか、と家に帰った。


 それで早速、手にしていた説明書を開いてみた。


『この度は魔動車シの乙型をご購入頂き誠にありがとうございます』


 シの乙型ってなんだ…嫌な名前だな…


『目次…運転の仕方…2ページ、お手入れの仕方…40ページ、よくある質問…41ページ』


 おいなんだよこれぇ!家電の説明書みたいな、いやお手入れに関して1ページしかないの!?

ありえねえだろ!運転に38ページも使ってんのに!


 いや落ち着こう、目次でこんなにつっこんでいたら何時間かかるかわからない。

さっと最後まで一旦目を通そう。


………


 …読み終えた。

これを書いたやつは頭がおかしい、もしかしたら猟奇的な犯罪者かもしれない。


 まず運転に関してだが、アクセルとブレーキとハンドルの絵があってそれぞれ、アクセル…踏んだら走ります、ブレーキ…踏んだら止まります、ハンドル…回すと方向転換します、と書いてあるだけで舐めてんのか?と思った。


 だがおそらくこれだけ簡潔な説明だったおかげでタックスさんは運転できたのだ。

シフトレバーやその他の普通の自動車についてそうなワイパーだとかパワーウィンドウの操作とかは一切書いてない、たぶんそもそもついてない。

あ、ライトだけは書いてあったな、ボタンがあってここ押すと前が明るくなります、とだけ。


 それだけの説明は1ページで終わるのであと30ページ以上何を書いてるのかと思えば、何かいろんな、たぶん魔物と呼ばれる生物の絵が出てきて


『割と簡単に轢き殺せます』


 というやばい感じの説明文が絵の横に書いてあるのだ。

しかもいちいちこれは時速何キロくらいでぶつかっても平気とか、これは死体の血が車体に着いた場合拭きとるのが大変だとか、どうしても殺したい場合は車のこの部分に刃物を取り付けてくださいだとか。


 殺意しか感じられない。

運転の仕方じゃなくて運転して効率よい殺害の仕方を書いている。

最後に人間の絵が書いてあったときはゾっとした。

それだけは『危ないので人には向けて使わないでください』という注意書きだった。

一番最初に書いてほしかった。


 よくある質問には『人を轢いた場合どうなりますか』などと書いてあってそれに対する答えが『自己責任です』。


 …他には『〇〇が壊れました』という車の故障に関する質問がいくつかあるが全部『最寄りの修理店へご連絡下さい』という頼もしい回答が書かれていた。


 この大半が意味あるのかわからない説明書にも少しは役に立つ部分はあった。

1ページしかなかったお手入れの部分である。

おかげで魔動車について少しわかった。


 魔動車というのは地球産の物ではない。

きっとこの世界の技術を使って地球の自動車を参考に作られたんだと思う。

誰がそんなことをしたんだという疑問は残るが。

開発者の名前どころか会社名も書いてないしさぁ。


 まあそれは置いといて、そう思う理由の一つが、燃料がガソリンじゃなくて赤鉄セキテツという物だからだ。

これは俺がタックスさんから買った疑似カセットコンロにも使われている赤い鉄みたいな延べ棒と同一の物に間違いない、白黒だが絵も描いてある。


 この赤鉄を入れる箇所が車の側面にあるようなんだが、その部分について『高圧洗浄機などを使って洗浄後、油膜を除去し乾燥させて下さい』という注意書きがついている。

きっとこれはタックスさんには読めてないと思う。

しかし高圧洗浄機なんかあるのか…?

そう書いてある以上無いとおかしいんだけど、急に技術力あがりすぎてない?


 少なくとも今この世界にある技術力じゃないよな。

大体こんなもんが普通に街中に普及してたらもっと生活レベルも上がってるよ。

俺だって毎朝うんこ汲み取ってないよきっと。


 そんなことを考えながら読んでいたら、いつの間にか夜だったので報告は明日の授業後でいいやと思って、俺は飯を食って寝ることにした。


………


 そして翌日。

授業を受けに来たトニーとディーナに一つ聞いてみた。


「なあ、トニーたちは魔動車っていうのでこの街に来たんだろ?あれの乗り心地どうだった?」


 俺がそう言うとトニーは急に真顔になって


「オレっちは何があってももう絶対アレには乗らないっす、例え親父が乗らなければ縁を切ると言っても乗らないっす、死んでも乗らないっす」

「そ、そうか…大体わかった」


 トニーは心の傷を負ってしまっているようだった。

一方ディーナは…


「あばっ…あばばばば…あああああ…」


白目をむいて変な声を上げ、痙攣していた。

何か普通ならこんなの見たら慌てるがディーナの場合見慣れてきた感がある。


「どうしたんだこれ、やばい様子だけど…今の質問のせいか?」

「ディーナ姉ちゃんはアレの後ろに荷物と一緒に放り込まれて、気絶しては揺られて無理やり起こされるのを繰り返してたっす、ようやく外に出れたときには盛大に吐いてて…多分その時のことを思い出したっす」


 トニー以上の深刻なトラウマになっているようだ。


「昨日、親父がもしかしたらまたアレを動かせるかもしれないとか言ってたっすけど、まさか先生が直せるっすか?」

「いやさすがにそこまでは…無理だと思う、あんなもん初めて見るし」


 この世界のものは、とつくけど。


「ならよかったっす、アレは確かに速くて便利だと思うっすけど…オレっちは馬車があれば十分だと思うっすよ…」


 トニーが遠い目をして窓から倉庫の方を眺める。

ひとつは魔動車とか別の商品がある倉庫、もうひとつは馬車とそれを引くための馬がいる。

馬がいるほうは倉庫というよりはなんだっけか…厩舎かな?


「とりあえず魔動車のことはもう聞かないほうがよさそうだな、気をとりなおして授業をしよう。おいディーナ、正気に戻れ」


 まだディーナはあばあば言っていたのでこれ魔法かけたほうが早いか、いやでも心の傷は治らない気もするので叩いて治そうとディーナに近づいたところで


 ドンドン、と家の戸が叩かれる音を聞いた。

誰だ?と思って玄関まで行って戸を開けるとそこには深い青色をした髪をアップにしてまとめてる、40代くらいに見える女性がいた。


「あれ、マリンダさん…何か用事ですか?」


 切れ長の目が印象的な家政婦のおばちゃん…いやちょっと話したことあるけど印象的にやっぱりおばちゃんとは呼びにくいな、家政婦のおばさんかな。


「ヴォルガーさんにお客様がお見えでしたのでご案内いたしました」


 表情を一切変えずに礼儀正しくそう告げると「では仕事がありますので私は失礼します」とマリンダさんは俺が礼を言う暇もなくさっさとどこかへ行った。


「久しぶり、ってほどでもないかしら」

「こんにちわ、ヴォルガーさん!」


 マリンダさんが連れて来た客に挨拶された、見覚えがある二人だ。


 それはエルフのミュセとロリ巨乳のモモだった。

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