介護みたいなもの
今日2つめの話です。
タックスさんのところで世話になって数日が過ぎた。
ここでの生活にも慣れてきた気がする。
俺の一日はまず、店の敷地内の井戸から水を汲むことに始まる。
この場所は壁に囲まれた敷地内に店の他に倉庫が2つと俺の借りてる家があって、井戸は倉庫の手前にあった。
順番待ちとかを気にせず井戸を使えるのがすごくいい。
これまず便利ポイントその1。
それからトイレ掃除、まあ下水道がないんで汲み取り式になるんだが、汲み取ったものを敷地内の隅に捨てておく穴があるのでそこに入れる。
するとそういうものを回収してまわる専門業者がいるみたいで、毎朝回収していってくれる。
これは割と金持ってる人じゃないと頼む余裕はないらしい。
タックスさんが頼んであるらしくてこれが便利ポイントその2。
トイレ掃除の後は洗濯しながらついでに体も拭いて洗う。
風呂は残念ながらまだ見かけてすらいない、タックスさんの店にもない。
いずれ解決したい問題のひとつである。
続いて朝食を作って食べる。
かまどは使ってないが火を使った料理はする。
ここで便利ポイントその3、いやもう便利ポイント1、2の1万倍くらいの価値があると俺は思っている物体が登場する。
タックスさんの店で調理器具を見てたら紹介されたその名も『赤鉄板』。
セキテツバンとか言うその物体は真四角の鉄板が乗ってる木箱なんだが鉄板の中央に穴が開いてて、箱についてるレバーを回すとなんとその穴から火が出る。
これはもう完全にカセットコンロだ。
鍋がおけるように付属で鉄の台座もついている。
ガスボンベはついてなくて下の箱に電池をいれておくみたいに開閉する場所があり、そこに真っ赤な色の金属の延べ棒みたいなのをセットすると使える。
火魔法の力を利用した商品だとか説明されたが原理はさっぱりわからん。
とにかく便利なので即買った、5000コルもした。
おかげで俺の金貨はもう1枚もないぜ!だがまったく後悔していない!
他のナイフとかの調理器具はそれを買ったからってことでオマケでくれた。
この商品と関係あるんだがタックスさんはそういう魔法グッズ的な魔道具というものを扱うのがメインの商売らしい。
魔法と関係ないものはあくまでオマケで店に置いてある。
魔道具は全部高額商品だから、それだけで商売するのはまだこの街では厳しいんだとか。
他にも気になる商品があったがいかんせん金がないのでひとまず諦めた。
疑似カセットコンロを使って朝食を作った後はトニーとディーナの授業をする。
トニーは今一生懸命、九九を覚えている。
ニニンがシとかニサンがロクとか俺が数式と一緒にひらがなで読み方を書いてやった表を見ながら声に出して覚えている。
この表はどうしてもいると思ったのでタックスさんに紙を仕入れてきてもらって書いた。
それは必要経費として認めてくれた、むしろタックスさんにもほしいと言われて二枚表を作った。
トニーはこの調子で九九を覚えるだろう。
まだ若い分飲み込みがいいのかもしれない。
それよりタックスさんから聞いて、トニーより8つ年上だったことが発覚したメンディーナさん(23)のほうだが。
「でっ、できたわ!私にもとうとう計算ができた!」
俺が黒板に書いた10個の足し算にそれぞれ答えを書きこんでディーナはそう叫んだ。
「ふむ、なんとか意識を失わずに二桁までの足し算ができるようになったな…」
書いてある答えが一応全部正解なのを見て一安心する。
教えてる最中はもう犬とかのほうがまだ可能性があるんじゃ?とすら思ったがなんとかなってよかった。
「ヴォルるんがくれたこれのおかげね…」
ディーナは机の上に散らばっていた小さい石ころ…おはじきみたいな物を手に取った。
これは俺が露店で見つけて買ってきたものだ。
店のばあさんにこれは何に使うんだ?と聞いたら、子供が遊びにつかったりする玩具だと言われた。
本当にただのおはじきと変わりなかった。
ディーナにはその、もう名称不明なのでおはじきと呼ぶが、それを使って1+4も2+3もどっちも答えは5になるだろ、と言った感じで視覚的に教えた。
それを理解させた上で2+6も3+5も8だろと5を超える数についておはじきを並べて教えたら指を使わずに済んだのでディーナも「そうだったのね…凄い発見だわ」と何か恐ろしいつぶやきをしながら覚えた。
そのまま1~9までの数字を2つ使った足し算をやって答えが10を超える数になっても意識をたもっていたので、ディーナの気絶は自分にはできっこないと思い込んでる部分からくるプレッシャーが原因だなと判断した。
「それはもうなくても計算できるだろ?今黒板の前に立って書いたときは触ってなかったんだから。ディーナはやればできるんだよ」
褒めて伸ばす、そういう教育方針が必要だとわかったのでとりあえず褒める。
「あ、ああ…ヴォルるん…じゃあ、けっ、けっこ…」
「ディーナ、352+123は?」
「さっ、さんびゃく…いやあああああっ」
何かごちゃごちゃ面倒なことを言い出したらこれで黙る。
「はいじゃあディーナは席に戻って、そこでしゃがまない、俺にしがみつかない、おい早く戻れ、この石ころ全部投げ捨てるぞ」
「それはダメぇぇぇぇ」
おはじきを必死にかき集めて守ろうとするディーナ。
そんなに大事か。
「トニーの調子はどうだ?」
「バッチリ覚えたっす!」
「じゃあテストしてみよう、7×8は?」
「え、ええと…しちごさんじゅうご、しちろくしじゅうに…しちしち…」
「………」
「わかったっす!56!」
「いやダメだよ、今表を見ただろ最後」
「くうーバレてたっすか…」
「次から表は取り上げてからテストするからな」
トニーも表がとられては大変と思ったのか慌てて手元に引き寄せる。
そんなに大事か、大事だな。
「じゃ、今日はここまで」
「はい!先生ありがとうございましたっす!」
「はぁい、ありがとうヴォルるん…」
終了の合図とともにトニーは家を出ていく、トニーは他にもいろいろやることがある、あいつも大変だな。
俺は昼飯を食ってからタックスさんに報告に行こうかな。
「おなかすいたー今日は何を作るの?」
台所に立つ俺にさも当然のようにディーナが聞いてくる。
「今考えているところだが…ディーナは何をしている、店の方に戻って食事を用意してもらえよ」
「嫌っ、だってここのごはんの方がマリンダさんが作るのよりおいしいもの」
マリンダさんというのは家政婦のおばちゃんだ、俺はあまり顔を合わせない。
たまに井戸で会うくらいだな。
「昨日もその前もそう言ってここで食っていっただろ」
「ここがいいの、それにマリンダさん怖いんだもの…」
「怖い?怖いことはないだろ、ちょっと話したけど普通に礼儀正しい人だったぞ」
「だって向こうの台所でお酒飲んでたらまるでゴミクズをみるような目で私のこと見るのよ!」
「うんまあそれはタックスさんのお酒だからね?飲むなって言われてるよな?」
「私のお酒がないんだからそれを飲むしかないの」
飲まないという発想はないのか、さすがゴミクズは言うことが違う。
「俺のとこだって酒はないぞ」
「ここなら我慢できるからいいの」
店でも我慢しろよな…
そう思ったが俺は諦めて二人分料理を作り始めた。
ディーナは無理やり家から連れ出しても、俺が料理を始めると窓からこっちをずっとのぞき込んで帰ろうとしないのは既にこの数日でわかっているからだ。
パスタを茹でて昨日適当に買った野菜といためて出したら凄い勢いでディーナは食べた。
こいつは飯を食うのが早い、誰かにとられるとでも思っているのだろうか。
俺は昼食後、タックスさんに一応トニーの進捗具合を報告に行く。
そして今日はついでに「昼からいつもディーナに付きまとわれるんですが、ディーナは置いて一人で街に出かけていいですか?」と言った。
なぜか俺の給料が一日銀貨3枚から5枚へアップした。
どうやらディーナの相手をするのは仕事とみなされるようだ。
拒否はできないらしい。




