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旅は道連れ世は無情

しまった、日をまたいでいる。

 ゴトゴトと馬車に揺られて何時間が経過しただろうか。

俺ことヴォルガーという名の人造人間は馬車の荷台はそんなに快適ではないと知った。

日本の自動車に乗ったことがある記憶を持ってるせいで余計に乗り心地が気になる。


 ナクト村からコムラードという街へ向けて旅立った俺は、商人のタックスさんが運転…馬車でも運転するって言うのかな…わからんがとにかくその馬車の荷台に乗って、通ってきた道のりを眺めている。


 馬車の周りには、大剣を背負うジグルド、水魔法を使うロイ、レズの疑いがあるエルフのミュセが護衛として共に歩いている。

彼らは冒険者で『調和の牙』というパーティー名で活動している4人組だ。

4人組ということはもう一人いるわけだが、その一人は何をしているのかと言うと


「うーんうーん、肩こりが治るイメージ…肩こりが…」


 ぶつぶつ意味不明なことを言いながら俺と一緒に馬車の荷台に座っている。

背は小さいが胸はでかい女の子、モモだ。

薄暗い中にちょこんと座るその姿は洋風ざしきわらしのようだな。

銀髪のボブカットが、もし黒髪だったらおかっぱと言うところかもしれない。


「やっぱりイメージでなんとかなるって言われてもわかんないです!!」


 うーんまあそうだよね、俺も言われてもわかんないからね。


 モモは巨乳ゆえの悩みである肩こりを治すために必死だった。

俺が一度魔法で治したために変な希望を抱いてしまったのだ。

頑張れば魔法で治せると。


 そのため、旅の道中ずっと俺に魔法を教えてくれとしつこい。

しかし俺には魔法の教え方がわからない。

俺の魔法は全て『ほわほわオンライン』という地球のVRMMO、つまりゲームの中で習得したものだからだ。

敵倒してレベル上げてスキルポイント振れば覚えれるよ、などと言ったところでこの世界にレベルという概念はないし、スキルポイント振ろうにもゲームのようにステータス画面が出るわけでもない。


 どうにもこの世界じゃ、魔法を覚えるためには『女神の加護』なるものが必要で、その加護とやらがある者に限り、『詠唱』という魔法を発動させるために必要な前置きのようなめんどくさいキーワードを言うと魔法が使える。

慣れれば詠唱は省略できるようだが。


 モモは『光の女神アイシャの加護』を持っていて光魔法が使える。

俺はそのアイシャという女神のことはよく知ってるというか一緒に住んでたことがある。

それと関係あるかどうかわからないが俺も光魔法が使える。

しかし詠唱は知らん。元々無いから。

使いたい魔法の名前を言うだけで使えるのだ。


 モモは俺が肩こりを治すのに使った<キュア・オール>という魔法の詠唱を教えてくれと言ってきたんだが知らないものは教えようがない。

詠唱なんか無いよと言ったら「じゃあどうやって覚えたんですか!」と聞かれるのは明白。

そこで俺はこんな嘘をついた。


「俺の魔法の師匠だった人は魔法とは想像力だと言っていたんだ。実際に魔法を使って効果を見せ、俺はそれを真似して学んだだけ。詠唱のことを教えてくれなかったのはたぶん詠唱は想像するための手助けでしかないからだよ」


 師匠なんかいないけど、魔法とは想像力次第ではないかとは思っている。

俺の<キュア・オール>はゲーム時では様々な状態異常を治すある意味万能の魔法だった。

それをこの世界でそのイメージで使ったら肩こりが治ったのだ。

それ以外にもいろいろ治ったが。


「うー、でも<キュア・オール>なんて高度な二節の魔法を無詠唱でいきなり覚えるのは、私には難しいです…」

「<キュア・オール>じゃなくて肩こりだけ治す魔法として考えれば?」

「そんな魔法あるんですか?」

「作ればいいんじゃないか?今ある魔法もそうやって作ったかもしれないよ」

「言われてみると、最初に魔法を使った人はそういうことかもしれないですね…」


 それでモモに「では頑張って<キュアカタコリ>を生み出してくれ」と伝えると肩こりが治るイメージとかぶつぶつ言いだしたわけだ。

根性でそのうちそのアホみたいな名前の魔法が誕生するかもしれない。

今はまだ、だいぶ苦戦して早速「イメージとかわからない」となっているが。


「うーん肩こりってのはさ、結局のところ肩の筋肉が緊張してそこの血管を圧迫…つまり血のめぐりが悪くなるから起きるんだよね」

「え、そうだったんですか!」

「そうだったんですよ、で、モモの場合はほら肩の前に重いものが二つついてるから普通の人より肩の筋肉にかかる負担が多くて…」


 そこまで言ってふと思った。そもそも肩の負担を減らせば?


「モモはブラジャーつけてんの?」


 言ってから、あっ、これセクハラで訴えられたりしねえかなと思った。


「ぶらじゃあってなんですか?」


 セーフ!そもそもブラジャーを知らなかった!

だが男の俺がそれについて詳しく説明してもいいのだろうか!


「女性の下着だよ、胸を包む系の」


 モモの未来のためだ、言わねばなるまい、俺の判断は早かった。


「布を巻いてますけど…って変なこと聞かないでください!!もー!」


 ははは、そんなに怒るなよ、暴れると余計に揺れて目立つんだ。

と、微笑ましい気持ちで見守ってたら何か馬車の後方から殺気のような悪寒を感じた。


 ミュセが短剣を片手にこちらをじっと見ている。

既に武装状態だ、なぜそんな覚悟を決めた目をしている。


 このレズエルフは俺とモモが会話しているときは今までも必ず俺の視界内のどこかにいた。

言い換えると重度のモモのストーカーだ。

最初のころは会話に割り込んできていたのだが、なぜかホーンウルフのボス討伐を一緒に行った後から割り込みはなくなった。

代わりに一定の距離を保って監視してくる。

このままいくとそのうちクレイジーサイコレズエルフと呼ばなければいけない気がする。

一体俺が何をしたというんだ。


 モモはそれには気づかず、ぽかぽかと擬音がつきそうな感じで俺を叩いている。

旅に危険はつきものだというが恐らくこれはそういうのではない。

やはり俺も外を歩くべきだったのか。

なぜ一番安全なはずの位置でこんな危機感を感じるんだ。


 「敵襲だ!ゴブリン6!オーガ1!」


 その時ジグルドの声が響いた。

敵だと!ありがとう!いや感謝している場合ではない!


 俺は颯爽と馬車を飛び降りた。

ミュセはきっとこれに気づいて武器を取り出したんだ!

そうに決まってる!そうだよな!?


「チッ」


 ミュセが馬車前方へ走っていった。

あれ、気のせいかなー、俺のほうみて舌うちしなかった?

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