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目から出る水

新手の水魔法なんだ。

「はあ、村にいないと思ったら昨日はそんなことしてたんですか」


 キッツよ、そんな呆れた風に言われても昨日の件は不可抗力だ。

早朝に無理やり連れていかれたんだぞ。

しかも調和の牙のメンバーからそれ以来微妙に避けられてて、俺はいささか悲しみを覚えているんだ。

ただしモモは普通に接してくれる、モモにも避けられてたらたぶん今日ここ来てない。

今も宿でふて寝していた。


「でもさー金貨5枚はいくらなんでも多すぎじゃないの?」


 …やはりそうなのか。

それだけあったら宿で1年以上過ごせてしまうもんな。

ケリーの言葉に改めて大金を貰ったのだと思い知らされる。


「だがヴォルガーさんが村人の治療費をちゃんと貰ってたら金貨5枚は軽くいくぞ。つまりそれだけの働きをする人ということだ」


 カイムが俺のことをフォローしてくれている。

なんていいやつなんだ。

酒を奢ってやろう。


「で、俺のことはともかく、クルトの墓参りはもういいのか」


 今日は俺のことをとやかく言いに三人集まったわけではなく、キッツが作ったクルトの墓にお参りするため集まっているのだ。


 俺も誘われた時は、クルトに一回も会ったことないから顔も知らないんだけど一緒に行っていいのかなと思ったが、キッツが来てくれというのでじゃあまあ、わかった、と着いて来た。


 カイムとキッツとケリーの三人がそれぞれクルトの墓に挨拶して、俺の知らない思い出とか語った後、ヴォルガーさんも何か一言いってやって下さいと言われた時は、えっ、いや、そう言われても…と困り果てたが仕方ないので「助けるのが間に合わなくてごめんな」と言っておいた。


 そうしたらキッツに「湿っぽくなるからそういうのはいいんですよ!」とか言われて、いやお前らも俺が言う前に湿っぽくなるような思い出語りしてたじゃん!ケリーなんか涙ぐんでただろ!?と内心つっこみまくった。

大体他に何を言えというんだ。


 で、その後、唐突に俺が昨日どこで何をしていたのか聞かれたので教えたんだ。


「ええ、今日のところは墓参りはこれくらいにしときます、これからはちょくちょく来てやれそうですからね」

「ん、そうか、もう決めたんだな」

「はい、カイム…いや、カイムさん、勝手に決めてすいません、そして今日まで本当にありがとうございました」

「いいんだ気にするな、俺もそうなることを願っていた」


 え?なんの話?キッツとカイムが何かやり遂げた男の顔で会話してるんだけど、全然さっぱり内容がわからないのでもうちょい俺にもわかるように説明してくれませんかねえ?


「ちょ、ケリー、二人は何の話してんの?」


 ケリーにこっそり聞いてみたが、なぜか顔を赤くして黙って教えてくれない。

あの本当、今そういうハブられ感に敏感なんでやめてくれませんか?


「ヴォルガーさん、僕、決めました」

「え?何?」


 今度は急に俺に言うんかーい。


「冒険者やめて、村で…こいつと一緒になって宿屋をやっていこうと思います」


 こいつ…の部分で隣にいたケリーの肩を抱いた。

ケリーは顔真っ赤である。


「あ…えーと…二人は結婚する?ということかな?」

「はい」


 おお!なんだよ!そういうことか!

てことは、ケリーはとうとう告白したのか!

そして即結婚、あんだけどんくさかったのに決まるとすぐそこまでいくんだな。


「おめでとう、特にケリー」

「うん、ありがと、ヴォルガーさんのおかげかな、えへへ」


 そうかそうか、俺の生後1か月の人生経験に基づいたアドバイスは役にたったんだな。


「あ、そうか、じゃあカイムとはパーティー解散するってことなんだな。カイムはこれからどうするんだ?」

「俺も村で暮らすよ、元々冒険者になったのは村を守れるように腕を磨くためだったんだ。強くなっていくうちにいつの間にか、大事なことを忘れて危険に首をつっこむようになってたがな」


 自ら皮肉めいたように言うのはきっとクルトの死があるからだろう。


「まあそれでも多少なりとも村の役には立てる強さになれたと思っている。これからは本当に危ないことは、それこそヴォルガーさんみたいなやつに頼むことにするさ」


 そう笑いながらカイムは言った。

いや、俺だって頼まれても嫌なんだが、冗談だろうけど。


「それで僕たちはともかく…ヴォルガーさんはこれからどうするんですか?このまま村に住むつもりで?」

「俺か?俺はそうだな…」


 キッツにそう言われて、ふむ、考えてなかった、と気づいた。


 この村は少々不便だが、なかなか居心地がいい。

村人は大抵純粋で、素直だし、どこかの誰かみたいに勝手なことばかり言って俺を困らせはしない。

馬鹿村長に言えば住むところも用意してくれそうな気もする。

それでキッツやケリーをからかったり、カイムと酒飲んだりしながら暮らして、いつしか村の誰かと夫婦になったりする…かもしれない。

そういう人生もあるんだろう。

あるんだろうが、ただ…


「…ヴォルガーさんは、村にいてはいけない気がしますけどね」


 ええっ!?黙ってたらそんなこと言われるなんて!


「何だよキッツ!実は俺のこと嫌いなのか!」

「ああいえ、すいません、言い方が悪かったですね、そのなんというか…ヴォルガーさんはきっと多くの人を助けられると思うんです」


 まあ、魔法を使えばそれなりには…


「僕らが村に住んでくれって頼めば…聞いてくれそうな気もします。だけど、この小さな村にヴォルガーさんを閉じ込めてていいのか、そんな風にも考えてしまうんですよ」

「なるほどな、キッツの言いたいことはわかる」

「そうね、アタシもお母さんを助けてもらったし、わかるよ」


 いや俺はわからん、どういうこと?


「きっと今もどこかで、ヴォルガーさんの助けを待ってる人がいるんじゃないでしょうか。そんな気がしてならないんです」

「そんなこと俺にはわからない…」


それに俺は本当に助けたい人は助けられなかった。

そんな俺にそこまでの力はないんだ。死ぬ人は死ぬ。


「いるかもわからない人を助けに行けだなんて勝手なことだと思います。でも言わせてください」


 アイシャのことは忘れないと誓ったけど、思い出すのは最後の時のことばかりだった。

助けられない人に出会ったら俺はどうしたらいい?

また後悔しなくてはならないのか?

だから正直に言うと、キッツにはこれ以上そういうことは言ってほしくはなかった。


 だけど、キッツは一度ケリーの顔を見た後、俺の方に向かってこう言った。


「僕は貴方に助けられて、本当に良かった。ありがとう、ヴォルガーさん」


 何かよくわからないが変な涙が出た。

俺はこの時、生まれて初めて涙を流した。

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