やばい人種
そんな文化を持つ国が本当にあるのか…
・ロイの話で千年前といってたのを800年に修正しました。適当にいわせるんじゃなかった。
おれの名前はジグルド。
外見は人族となんら変わらないがドワーフ族の血を少し受け継いでいる。
そしてエルフ族のミュセロレリアと銀天族のロイとモモを仲間に持つ、パーティー『調和の牙』のリーダーだ。
おれたち四人はある意味では非常に珍しいパーティーで、まずドワーフ族の血を継ぐおれと純血エルフ族のミュセが一緒にいることが普通ではありえない。
ドワーフ族とエルフ族の仲が悪いことは有名だからな。
ただ仲の悪さの原因は実のところよくはわかっていない。
大抵自分の親が相手の種族が嫌いで、子もその感情を受け継いで育つ。
そうやってお互いわけもなくいがみあっている。
おれは幸か不幸か、ドワーフ族の親父がおれが小さい頃に死んじまって、エルフ族の悪口を聞くことはまずなかった。
人族のおふくろに育てられたしな。
おかげでミュセに対して嫌悪感はない。
仲間として信頼している。
信頼はしているが女としてはどうにも興味はわかない。
その辺はもしかしたら親父の血が関係しているのかもしれない。
ロイとモモのギンテン…銀天族ってのは厳密には人族と同じだ。
人族の中で、水の女神ウェリケ様からの加護を授かったものだけが集まって、雪の降る山奥に村を作ったのが始まりらしい。
要は全員が水魔法を使える珍しい一族ってことだ。
しかしモモは銀天族の村で生まれたのに、何の因果か光の女神アイシャ様の加護を授かってしまい、しきたりがどうとかで村を追い出された。
ロイはそんなモモを不憫におもって一緒に村を出たらしい。
そして街でおれと出会った。
その後にモモのことを気に入ったミュセがおれたちのパーティーに入った。
おれたちは種族の垣根を越えて仲間になれたことを誇りに『調和の牙』とパーティーに名付けた。
牙とついてるのは、いつか人族と敵対している獣人族のやつとも分かり合えると信じているからこその証だ。
おれたち四人ならどんな困難でも乗り越えられる。
常にそう思って来た、だから今回もなんとかできるはずだ。
この単なる村人にしか見えない男が見たことも無い強大な魔法を、無詠唱で自在に操る化け物だとしても。
さあ落ち着けジグルド、おれがまず言うしかないんだ。
「な、なかなかできるようだな、実力は申し分ない。ヴォルガー、おれたちはお前を雇うことになんら異論はない」
まだミュセとロイは放心している、モモなど腰を抜かしている。
無理もない、突然光輝く幻のような宮殿に閉じ込められたのだ。
おれも実際何がどうなっているのかさっぱりわからんが、この宮殿はヴォルガーが魔法で作り上げたことだけは確かだ。
意味はわからんがリーダーであるおれがまず動かなくてはならん。
その程度の実力があればおれたちに着いてこられるな、と言った装いで動揺をひたすら隠しおれはヴォルガーに告げた。
「だが少し仲間と相談させてくれ、報酬をどれくらいにするか等の」
おれがそう言うとヴォルガーは「わかった」と大人しく頷いた。
そして光の宮殿も消してくれた。
おかげでロイとミュセも我に返った。
「ロイ!ミュセ!ちょっと来い!」
おれに呼ばれたロイとミュセはすぐにこちらに走ってきた。
モモは…悪いがまだ腰を抜かしているし、そのままヴォルガーの気を引いておいてもらおう。
内緒話にもあまり向いてない性格だしな。
「とんでもねえやつを連れてきてくれたな、ミュセ」
ヴォルガーに会話が聞こえない程度の距離は保っている。
だからまずミュセに嫌味を言ってやった。
これくらいは言わなくては気が済まない。
「あ、あれほどとは知らなかったのよ!?私とジグルドの攻撃を防いだ魔法もすごいけど、その次の宮殿みたいなのはなんの魔法よ!ロイ知らないの!?」
「はは、ボクにもわからないですねぇ。ただあれはボクを封じるためだけに使ったと思うんだけど、二人はあの宮殿の中で何か異変など感じませんでした?」
「驚きはしたけど…体に異変とかはなかったわ?」
おれも自分の体に異変はなかったか考えてみる。
が、よくわからない、あの魔法の効果はなんなんだ?
「おれも特に異変はなかった気がする」
「ボクはウェリケ様の加護が消えたように感じました。おそらく水魔法の全てを封じられたんだと思うんですよねぇ。あはは、そうなるとボクは完全に役立たずです」
笑いごとじゃないんだが。女神の加護を消すなどありえるのか?
「え、じゃあロイはもう水魔法が使えないの!?」
「いえもう平気なようですね。あの宮殿の内部では水魔法は完全に封じられる、といったものなのでしょう」
「ならいいが…で、あいつの扱いをどうする?ミュセが無理やり連れてきてここまでした以上、今更やっぱり報酬が払えないと言って帰したりはできんぞ」
「昨日ちょっと痛い目にあわされたからお返しのつもりだったの!荷物持ちくらいでこき使ってやろうと思って!」
ミュセが必死に言い訳をしているが言われてもどうにもならん。
そっとヴォルガーの様子をうかがう。
モモが何か話しかけている。
特に危険はなさそうだな。
まあ話自体は普通に通じたわけだしな。
「それ、アイツに言ってきたらどうだ?荷物持ちとして使ってあげるってよ、案外それで承諾するかもしれん」
「言えるわけないでしょ!!!バカなの!?」
「まあまあ二人とも、それより彼は何者なんですかねぇ。村の人から何か聞いてないですか?ボクが知らないことなど」
そう言われてもおれはロイと大体一緒に行動していた。
カイムとキッツからは旅人だと聞いてはいるが…
「海の向こうにある大陸から来た旅人で回復魔法に長けている、くらいしかわからん。ロイも大体そうだろう、ミュセは?」
「私だって知らないわよ、一番本人と話をしたのモモくらいでしょ」
「…もしかしたら彼は『ニホ人族』かもしれないですねぇ」
ニホジン族?ロイは何か知っているようだ。
「その、ニホ人族ってのはなんだ?」
「今じゃ魔族って呼ばれてる種族ですよ、基本は人と同じ見た目ですが髪が黒く、元々はこの世界にいなかった種族だとか」
「あ!それ私も聞いたことあるわ!エスト教の司祭様から!」
「おれは魔族って存在がいたことについてはイルザ教でも聞いたが、具体的にそれが何をしてどういう種族かはよく知らんぞ。街にいる黒髪のやつらもただの人となにも変わらないだろ」
大体なんだ、この世界にいなかった種族とは。
じゃあそのニホ人族とはどこから来たんだ。
「ボクも詳しくは…というか詳しい話を知ってるのは、もう誰もいないんじゃないかと思いますよ。なんせニホ人族が現れたのは800年以上も前の向こうの大陸らしいですから」
「じゃ、あのヴォルガーって男は800年以上生きてるって言うの!?」
「それは分からないですが…」
「とりあえずまずはニホ人族について教えてくれ」
おれがそういうとロイは村の長老から聞いたという話をおれとミュセに語り始めた。
「ニホ人族がどこから来たかはわかりません。その種族名は自らがそう名乗っていたそうです。そして彼らは三節の魔法を使いこなしていたんだとか」
「三節って…それもう神様と同じ領域じゃないの…」
「その神様みたいなやつらがなんで魔族になるんだ?」
「それは…彼らは人、エルフ、ドワーフ、獣人といった種族などおかまいなしに交わって子を成すから…だったとか」
「見境ないわね」
「中でもニホ人族の男はハーピーやラミアのような魔物であっても、女の姿をしてればそういう対象になったらしいですよ」
「なんだそのとてつもない変態種族は。頭がいかれてるのか」
大体その二つの魔物は卵で生まれてくるぞ。
どうやって子を作る気だったんだ。
できるわけがないだろう。
「魔物だろうが何だろうがなんでも交わる種族ということで魔族。今の黒髪を持つ人たちはその子孫ではないかと思われてるんですよ」
「ロイはアイツ…ヴォルガーがそれだって言うの?」
「変態の部分はともかく、あの宮殿は三節の魔法としか思えません。そしてそんな魔法を使うのはニホ人族しか伝承にないんですよ」
「色んな意味で恐ろしい種族だな…」
「あっ!モモは今そんなやつのそばにいるのよ!?危険だわ!今すぐ助けに行かないと!」
「今の話が本当ならミュセもそういう対象かもしれんぞ」
とおれが言ってやると、うっ、とミュセの足が止まった。
「ミュセも女性なのにモモにべったりですし、彼が嫁にもらってくれれば、ある意味変態同士ちょうどいいのでは?」
「ロイは私に殺されたいの?」
おれもロイと同じことを思ったが口に出さなくてよかった。
「とにかく、ヴォルガーが本当にそのニホ人族かどうかもわからん。まずは今日、雇ってあまり刺激しないよう様子を見よう。そしておれたちは全力でホーンウルフのボスを探して、できれば今日中に片をつける、二人ともそれでいいな?」
おれの出した結論に二人はゆっくりと頷いた。
二人の返事を確認したおれは、どうか、かつてない最強の変態であってくれるなよ。
そう願いながらヴォルガーに声をかけた。