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魔法が使え…

「起きた?じゃ、行くわよ、早くして」


 今日、目が覚めて一番に聞いた言葉がそれ。

まだ薄暗い、日も昇らぬうちから部屋のドアをドンドン叩かれて、誰だよ?ケリーじゃないよな、いくらなんでもこんな時間に来ないし。

と思いつつドアを開けたらミュセがいてそう言われた。


 寝ぼけた頭でよくわからないまま、早くしてなどと言われたから、はぁまぁ2時間くらい後でもいいかと聞いたら手を引っ張って強引に連行された。

やめてくれ俺は朝起きてまずうがいをしないと落ち着かないタイプなんだ。

何をするにもまずうがいからだ。


 そんな願いもむなしく外に連れ出され、ぐいぐい行こうとするので、わかった、ついて行くからまずうがいをさせてくれ、と頼んだら、さっさとしてと近くの井戸を使うことを許してくれたので顔を洗ってうがいをして宿に帰ろうとしたら


「ついて行くって今言ったわよね?」


 そう言いながら顔面を掴まれて目が覚めた。

そして村のはずれまで顔面を掴まれたまま連れていかれた。

女の子にアイアンクローされながら歩くという貴重な経験だ。

嬉しくはなかった。


「…おいミュセ、忘れ物を取りに行ったんじゃないのか」

「そうよ?これが忘れ物」


 村のはずれに調和の牙の3人がいた。

リーダーのジグルドが忘れ物がどうとか言ってるが…


「あっ、おはようございますヴォルガーさん!」

「ああ、おはよう」


 モモに挨拶されたので返したがそろそろ説明してほしい。


「この男も森に連れて行くけどいいわよね」

「ダメに決まってるだろう。遊びに行くわけじゃないんだぞ」


 森ってなんだよおい初耳ですけど。


「ただの村人じゃないのよ、昨日は言い忘れたけど二節の魔法を無詠唱で使えるの。ね、そうでしょ、モモ」

「はい!肩こりを治す魔法を無詠唱ですよ!?凄いです!」


 ロイがそれを聞いて笑い出した、こいついつも笑ってんな。


「肩こりはともかく、ヴォルガーさん、だっけか」


 ジグルドが困った様子で俺に話しかけてきた。


「さんはいらない」

「じゃ、ヴォルガー、確かにアンタが凄い魔法を使うってのは、昨日おれも酒場で一緒に飲んだキッツから聞いてる。アイツもお前を連れて行けば絶対死なないとか言ってたからな」


 キッツめ、余計なことを。これだからイケメンは。


「ジグルドたちはこれから森にホーンウルフを狩りに行くところか」

「そうだ、ここまで来てミュセが宿に忘れ物をしたと言うんで待ってたんだが、アンタを連れてくるとは思ってなかった」

「あら?昨日も言ったじゃない、一緒に連れてってはどうかって」

「おれはそんな必要はないと言った覚えがあるんだがな」

「でもモモとロイは賛成してたわよ?」


 モモは昨日のやり取りでわかるがなんでロイも賛成したんだ?

こいつとはほぼ話もしてないはずだが。

ロイは俺のそんな気持ちを察したのかこちらをみてニヤーっと笑った。


「ヒーラーが二人ということはモモに万が一のことがあっても安心じゃないですか?たかがホーンウルフとはいえ油断はならないですからねえ、キッツさんも死にかけたそうですし」


 常に笑っているので、いまいちこのロイという男は本当にそう思っているのかどうか判断できない。


「ヴォルガーが優秀なヒーラーだとしてもだ。本人の了解を得てないだろう。無理やり連れてきてどうする」


 ジグルドが至極まっとうなことを言う、なんて頼りになる男だ。


「じゃ今ここで本人に決めてもらうわ。ねえヴォルガー、わたしたちと一緒に行く?それとも帰る?」


 何言ってんだ、帰るに決まって…

いる、と言おうとしたところでモモがとてつもなく期待した目でこちらを見ていることに気づいた。

…ええ…そんな目で見られてもな…


「勿論、ついてきてくれるなら報酬は払うわ。わたしたちが貴方を雇うといった形で。それくらいはするでしょ?ジグルド?」

「そりゃまあ、当然、タダでというわけにはいかないからな」


 金か、金は欲しい。

また収入がなくなったところだし、タックスさんから何か買ったら、後どれくらい残るかわからんしな。

 

「俺を雇うとしたらどれくらいの金を出してくれる?」

「それはハッキリとは言えん、おれはまだヴォルガーの実力をこの目で確かめたわけではないんだ」


 確かにそうだ、使えないヤツに大金は払わない。

と、いうことはここは俺の実力をみせればもしかしたら高く雇ってくれるのでは?そうすれば金もたくさんだ!


「よし、じゃあ俺も付いて行こう!報酬は俺の働きを見て決めてくれればいい!」

「ほう、自信があるようだな…しかしお前装備は何もないのか?回復魔法は使えるらしいが、魔物の相手はどうする気だ」

「ああ、俺は攻撃はできないから特に何もいらん」

「いやいやいや、身を守るのにどうするんだということだ」

「魔法で防ぐからなにもいらん」


 本当は盾があればいいけど、なくてもまあ防御系の魔法を使えばなんとかなるだろう。

二節の魔法でモモが驚いていたあたりから俺の使う魔法は、この世界じゃ結構、高レベルの気がしたので。


「そこまで言うなら今試していいか?」

 

 お、もしかして俺に何かするつもりだろうか。

ここはひとつ余裕を見せてより高く売り込むべきでは。


「ああいいぞ、なんでも試してみろ」


 俺がそう言うとさすがにちょっと頭にきたのかジグルドが拳を構えた。

素手で来る気だな。


「わかった、これが防げないようなら置いていく、いいな!」


 言葉が終わると同時にジグルドが突っ込んでくる。


「はあっ!」

「<ディバイン・オーラ>」

  

 俺は即座に物理的な攻撃に対してほぼ無敵になる魔法を唱えた。

ちなみに盾2で習得できるやつだ。

魔法は防げないんだけど。


 ガン、とジグルドの拳は俺の周りに球状に展開された障壁に阻まれる。

痛そうな音がしたな。


 ギン!とさらに後ろからも何かをはじく音がした。

ミュセが短剣で不意打ちしようとしたのを防いだからだ。

ジグルドが動く少し前に俺の視界から移動して消えようとしたので、何かするつもりだと予想はした。

しかし短剣を使いやがるとは。

もしうっかり刺さったらどうするつもりだったんだ。


「なっ!?無詠唱か!」

「後ろも防御してる!?昨日見たのと違うわ!」


 驚く二人に俺はさらに言ってやる。


「なんなら全員で来てもいいぞ。この二人だけじゃ今出してる魔法も破れないだろうし」

 

 モモはヒーラーだからか、特に来る様子はない。

というかこのやり取りがはじまってからずっとあわあわ言ってる。


「面白いですね!ではボクも参加させてもらいますよ!」


 ロイは楽しそうに笑いながら俺に向かって杖を振りかざした。


「<アイシクルバレット>」


 ロイの前方にいくつもつららのようなものが出現して、その尖った先を俺に向けて宙に浮いている。

ロイは無詠唱なのか、多少驚いたがこれは水魔法1で使えるやつだな。

ジグルドとミュセは俺からすぐに離れて距離をとった。

いい連携だ、ということはあれがもう飛んでくる。


「<パレス・オブ・アース>」


 それに対し俺は光魔法3と土魔法1を必要とする三節の魔法を唱える。

俺を中心に半透明な光の宮殿が出現した。

周りにいた4人を全員その内部に取り込むほどの巨大さだ。

この中では一切の水魔法の使用が禁止される。


 ロイの使おうとした魔法は俺に届くことなく消滅した。

別にこんな大げさなやつじゃなくて<ライト・ウォール>でも良かったが、派手なので選んでみた。


「言っておくが、俺は覚えている全ての魔法を無詠唱で使える」


 俺がそう言うと、三人の動きが完全に止まった。

これは面接終了ということでいいのかな?


「な、何かよくわからないけど、肩こりどころじゃないです…」


 モモはその場にへたり込んで上を見上げている。

ふふふ、これなら結構高評価されたはず!銀貨何枚くれるかな!

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