緑のロングヘアの美人の圧力
気づいたら10件もブックマークがあった、うれしい。
決して俺にはわからない悩みを抱えたモモに
肩こりなら治したことあるよと伝えたら頭を下げて治療をお願いされた。
村長のじいさん以来二人目の肩こりだな…
「まず俺が普通に魔法をかけていいのかな」
「はい!あ、他の人は皆お金払ってるんですよね…?」
「いや金はいいよ、代わりに魔法について話が聞きたい」
それくらいなら、と了承してもらえたので、早速<キュア・オール>をモモにかけてみた。
最近では見慣れてしまった魔法陣とそこから溢れる光。
夜だと結構目立つな。
「どう?治った?」
「………」
あれ、リアクションがないな、おーい。
「無理だったのか?原因が取り除けない場合は治療不可能なのかな」
「今の魔法なんですかっっっ!」
うわ急にスイッチ入ったな、びっくりするわ。
「<キュア・オール>って言うんだけど…知らない?」
「知らないです!もしかして二節の魔法なんですか!?」
おやぁ、こっちでも二節、ニセツっていうのか。
ほわオン以来の言葉だな。久しぶりに聞いた。
二節とは特定の特技を二つ以上選択しないと使えないスキルだ。
特徴としてゲーム内表記では<〇〇・〇〇>と言った感じに途中で名前が区切られている。
<キュア・オール>とか<ウェイク・スピード>とか。
その区切りが3つになると三節という。
<キュア・オール>は光魔法を2度特技として選択しなくては取得できなかった。
二節以上のスキルは必ず同じ特技二回取得の条件を要求される。
面倒なやつだとさらに違う特技も要求される。
<ライト・ウォール>の光2、盾1のように。
「まぁ二節の魔法になるのかな」
ほわオンと同じ仕様でこの世界の魔法が成り立ってるとしたら。
「ところで治ったかどうか知りたいんだけど」
「あ!治ってます!肩が軽いです!」
モモは嬉しそうに肩をぐるぐる回している。
とりあえず治ったみたいだけど、でもなぁ…
「俺の想像だとまたそのうち肩こりになると思うんだが…」
「それは…いいんです…わかってます」
悲しそうに自分の胸を見るモモ、どうやら原因を理解はしているらしい。
「一時的な治療でもいいんです!それに自分で魔法を覚えたら、またこうやって治して素晴らしい気分になれるじゃないですか」
「確かに自分で治せるならそうかもしれない」
「です!だからお願いします!今の魔法の詠唱を教えてください!」
えい…しょう…?
「詠唱って何…?魔法の名前じゃなくて?」
「え?」
モモがまた固まってしまった。
「ヴォルガーさんは、今の魔法を極めてるから無詠唱なんですよね?」
「極めて…うーんまあ頻繁には使う」
「普通は、詠唱してから集中力を高めて魔法を使うじゃないですか?」
どうやら俺の魔法とこの世界の一般的な魔法の見解に違いがありそう。
「…モモは無詠唱で使える魔法ある?なんでもいい」
「わたしですか?まだなにも…<ヒール>でも無理です」
「それ試しに詠唱してもらっていい?」
「え、はい…じゃあ魔力を込めずに詠唱だけします。光よ、我が祈りをもって命をつなぐ力となり給え<ヒール>」
えー、そんなの必要だったの!?ゲームになかったよ!
魔力を込めるとかもよくわからんし!
この魔法つかいてーなーって思って名前言うだけで使えるんだぞ!?
「な、なるほど…ああ、それね、詠唱ね…」
今から適当になんか<キュア・オール>の詠唱考える?
いやダメだろな、俺が考えたのつけても絶対意味ないよな。
「お願いします!教えてください!お願いしますぅー!」
俺が教えるのをもったいぶってると取られたのかモモが必死になって頼んでくる、
おう腰に抱き着くのおやめください。
俺の股間に非常に悪い。
「なんでもします!なんでもしますから!」
「ちょ、わかったから落ち着い…」
「きえええええええっ!」
しがみつくモモをはがそうとしていたら怪鳥の雄たけびみたいなのが聞こえた。
「モモになにしてるのよぉぉぉぉぉ!!」
道の向こうから緑のセロリさんが…いやミュセロレリアが走ってくる。
女の子がしてはいけない顔をしている。こわい。
なぜこのタイミングで来るんだ!?
「こらぁぁぁぁぁ!」
「ひっ、うわ<ライト・ウォール>」
ゴン、と鈍い音を立てて硬いものに何かぶつかる音がした。
いや不可抗力だ、反射的に生存本能が働いただけなんだ。
「いったぁぁあぁああ!」
「ミュセ!?どうしたんです!?」
頭を抱えて地面を転げまわるミュセロレリアにモモがようやく気付いた。
ふう…離してくれたか、ロリ巨乳に目覚めるところだった、危なかった。
しかしどうしよう、いっそ今のうちに逃げるか。
「あいたっ!?」
ゴン、とまた音がした、しまった、モモがミュセロレリアに近づこうとして内側から<ライト・ウォール>に頭をぶつけたようだ。
頭を抱えてしゃがんでうーうー言っている。
俺は慌てて<ライト・ウォール>を消した。
「…どうした二人ともっ!大丈夫かっ!」
知らないフリしてごまかそう、ついでに<ヒール>すれば俺が助けたみたいに見えるはずだ!
「<ヒール>!こっちにも<ヒール>!」
二人に<ヒール>しておいた。詠唱なんかもう覚えてねえ!
「うー、ありがとうございます…」
モモが立ち上がって俺に礼を言う、まだ気になるのか頭をさすっているが。
「よし、大丈夫だな、ではそろそろ俺は宿に行く、おやすみなさい」
「待ちなさい」
二人に背を向けて宿に入ろうとしたらすごい力で肩を掴まれた。
「ミュ、ミュセロレリラさん…」
「ミュセ!ロレリア!」
「違う、今のはわざとじゃないんだ、呂律が回らなかっただけで」
「ならもうミュセでいいわ」
「そ、そうか、じゃ明日からそう呼ぶ」
ので帰らせてくれないかなと思ったがダメなようだ。
肩を離してくれない。
「ねぇ、私が頭をぶつけた光の壁って貴方の仕業よね?」
ばれている、確信にみちた目で俺を見ている。
「実はあれは俺にもよくわからないんだ、ある日から突然、俺の意思とは無関係に発生するようになって」
「次に嘘をついたら殴るわね?」
「あっ、はい…」
なんて暴力的な女だ。
エルフってもっとこう…筋肉で物事を解決するのとは違うタイプじゃないのか?
「もう~ミュセ!乱暴はやめてください!」
「モモ!この男に変なことされてない?大丈夫?」
「されてません!魔法の話をしてただけですっ!」
モモが俺たちの間にはいって訴えてくれた。
頑張れモモ!そうだ!もっと言ってやれ!
「ふうん?魔法の話ね、おかしな魔法使うみたいだし私も興味あるわね、是非その話にまぜてもらえるかしら?」
「もう夜だしその話また今度にしないか?」
「逃げる…いえ、まあいいわ、そうね今度にしましょう。私たちも明日は朝早いから。それがいいわね」
おっ、なんだ急に物分かりが良くなったな。
ミュセはそう言ってさっさと宿に帰っていった。
モモは結局<キュア・オール>を覚えてないのでやだやだ言ってたが、何かミュセに耳打ちされて大人しくなるとそのままずるずると連れていかれた。
助かったという安心感から俺は宿に帰るとすぐ寝た。
翌日、なぜかミュセが朝早くに起こしに来てくれたおかげでグッスリとはいかなかったが。