村の酒場にて1
セロリ。
『調和の牙』の4人は赤髪の軽戦士がジグルド、眼鏡のローブがロイ、巨乳の子がモモ、そしてやっぱりエルフだった子がミュセ…ミュセなんとか。
覚えづらい名前だったので1回聞いただけじゃよくわからない。
その4人は商人タックスの護衛とホーンウルフ討伐を兼ねてナクト村まで来た。
酒場でエールを片手にカイムがそう説明してくれた。
今日は俺も酒場で飯を食っている。いつもは宿だが。
本来、宿では夕飯は出してないのを特別に用意してもらっていた。
キッツも普通にそれに便乗して毎日一緒に食っていたけど…
美味しいのになんでやってないのか疑問だったのをココアに聞いたら、ウチはかよわい女二人でやってる宿だから、夕飯どきに酒を飲んで酔っぱらって暴れる客がいたら対処できない、とかそんな理由だった。
酒自体もあんまり宿で提供したくない様子だった。
カイムは知り合いだから特別に出してたみたいだけど。
それよりかよわいという点にいささか疑問を感じたがそれは顔に出さず、理由はわかったので今日はじゃあ俺も酒場に行くと伝えた。
一応、部屋のほうに夕飯を運ぼうかとも聞かれたけど、宿泊客が増えた今、俺一人だけ特別扱いされるのも気が引けたので断っておいた。
「あの4人なら相当な腕だ、ホーンウルフのボスも案外早く片付くかもな」
「カイムはあの4人と知り合いなのか?」
「ああ、コムラードのギルドで何度か話をしたことがある。共に組んで狩りをしたことはないがな」
コムラードというのはカイムが連絡に行った街だ。
ナクト村と違って冒険者ギルドがあり、結構人も集まるところらしい。
「森のことを伝えたらギルドが討伐依頼を出してくれたのさ。それをちょうど街にいた調和の牙の4人が受けてくれた。ただそっちのタックスさんも村まで行くのに護衛を探しててせっかくだから一緒に行くことにしたってわけだ」
カイムの隣に座っていたタックスさんが俺たちの会話に気づくと、温和そうな笑みを浮かべてどうもどうも助かりましたと言ってきた。
「タックスさんは村へ行商に来られたんですか?」
タックスさんのさらに隣、俺の隣でもあるが、そこにいたキッツが尋ねる。
俺たち4人は同じ丸テーブルについて食事をしているところだ。
ちなみに調和の牙の4人は隣のテーブルで仲間同士で食事をしている。
「ええ、ええ、そうです、後はホーンウルフの素材もできれば買い取らせてもらおうかな、と、たははは」
どうやらこれから得られるであろう商品のことも
計算していち早く一緒に来たみたいだ、その辺はさすが商人というところか。
「ヴォルガーさんは村での生活はどうだ?俺が出てから何か変わりないか?」
「それが聞いて下さいよカイム!ヴォルガーさんときたら…」
キッツが何か語りだしてしまった、微妙に愚痴が混ざりつつ今日まで俺がいかに過ごしてきたかを勝手に説明しはじめた。
途中からなぜかタックスさんのほうがその話に食いついて、キッツはいつの間にかタックスさんに向かって語っていた。
「またとんでもないことしてるな…」
「金がなかったんで」
カイムは呆れていたようだが、俺も生きるためだ、仕方ない。
「…しかしキッツのやつは喋り方がすっかり昔に戻っちまったな」
「え?あれが普通じゃないのか?」
「元々はな、ただ俺とクルトに対しては途中から変えたんだよ。それがどうもヴォルガーさんと数日一緒に過ごしてたんで昔の口調に戻っちまったみたいだ」
はあ、そうなのか、俺にとってはこれがキッツなのでよくわからん。
カイムもまあこれでいいかもなと一人で変な納得の仕方をしていた。
「ほっほう!村の怪我人をすべて治療したというのは本当ですか!」
うわ、タックスさんの興味が俺のほうに向いたみたいだ。
ちょうど俺の向かいにいるからテーブルに身を乗り出してまで
こちらに顔を近づけている。
「ええ、まあ、一応」
「凄い!もしやどこかの司祭様ですか!」
「いえ、単なる旅人ですが…」
タックスさんにあれこれ聞かれたが適当に答えておいた、大体嘘で。
俺は海の向こうの大陸近くにある島で暮らしていたが、俺に魔法を教えてくれていた師匠が亡くなったのでそれを機に世界を見るために旅に出た。
こっちに来るとき嵐で船から投げ出され、ナクト村近くの海岸に運よく流れ着いた。
という設定を密かに考えていた。
強引な気もするが他にうまい言いようがない。
ははあやっぱり途中の嵐が激しいんですなあとタックスは言った。
どうも本当に、大陸間の海では凄まじい嵐がしょっちゅうあっておかげでほとんど交易らしい交易もないようだ。
それが決め手で納得してくれた様子である。
「他に…俺のように黒髪の人は見たことはありますか?」
「ええ、はいはい、ありますよ、街にもいますからね。多くは向こうから来た人の子孫だと言われていますが」
ああなんだ、黒髪はそこまで珍しいわけじゃないのか。
過去にもこっちにわたってきた人たちがいてその血を受け継ぐ人がちゃんとこの大陸で生活してるんだな。
…日本人の子孫とかじゃないよな?
一応、異世界人は連れてきてはダメってことだったはずだがアイシャも突発的に俺を呼ぼうとしたからなー。
それにアイシャの上司である創造神がアレだし…いまひとつ信用できない。
もぐもぐと何かの串焼き肉を噛みつつ街で普通に黒髪がいるなら、俺も街に行って見てみたいな、と考えていたら誰かが俺の服のすそをちょいちょい、と引っ張った。
いつの間にか俺の座っている席の横に小さい女の子が立っていた。
おっぱいはでかい。この子は確か…
「モモさん?でしたか」
「うん、あなたはヴォルガーさん、ですよね」
「そうですが、何か俺に用ですか?」
「わたしも回復魔法が使えるんですよっ」
と言ってにこーっと笑った、なんだろ、とりあえず可愛いけど。
さっきの話があっちのテーブルにも聞こえてたのかな。
「へええ、そうなんですか」
回復魔法が使えるのか、自分以外の使い手がどれくらいの実力なのか気になるといえば気になるな。
話に聞いた神官レベルだろうか。
「<キュアポイズン>も<プロテクション>も使えますっ」
「おおーそれ俺も使えますよ!」
なんでそんなこと言われたのかわからないが俺と同じ魔法を使うと知ってちょっと嬉しくなった。
ほわオンで言ったらモモは光1ってところなのかな。
ほわオンでは戦士や魔法使いといった明確な職業はなかった。
自分が選んだ特技の種類によって使えるスキルが変わる。
特技を選ぶのはゲーム開始直後の他、レベルが50毎にさらに選べる。
俺はレベル299だったから1、50、100、150、200、250のときで計6回特技を選択する機会があった。
あと1レベルあげれば7回だったがレベル300はまだ未実装だった。
光1っていうのはその選択で一度は光魔法を選んでるってことだ。
ちなみに俺は光3、光魔法を3回選んでいる、同じ特技は3度までしか選べない。
同じ特技を何度も選ぶメリットはその特技でより強いスキルが使えるようになることだ。
光魔法以外だと俺は耐久力と防御系の魔法を得るために『盾』を2回と『土魔法』を1回選んでたなたしか。
その二つも攻撃系のスキルはあるんだけど、それは取らずに支援用のスキルを取るためにこの二つを選んだだけだ。
<ライト・ウォール>とか光2と盾1が取得条件だったせいで。
「えっとじゃあ、<マインド…」
「こらっ、変なおじさんに自分の魔法をぺらぺら教えないの!」
俺と魔法について語ろうとしていたモモはエルフの女の子に気づかれ
怒られて止められた。それより…
「誰が変なおじさんだ、ええとミュセ…ミュセロリ…さん」
「ミュセロレリア!!」
ああそうそう、そんな舌を噛みそうな名前だったわ。