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新たな冒険者

次以降の話のことを考えずに名付けていくスタイル。

 人は生まれてから死ぬまで何度、怪我をしたり病気になるだろうか。

一度たりともそんなことは無い、という人はいないだろう。

もし、そんな人がいたらそいつはもう人ではないと思う。


 少なくとも俺が知る限りそんな人に出会ったことはない。

ナクト村で、俺が一度も治療したこともない人はいるが、その人たちだって過去には怪我や病気もしただろう。


 ただ、怪我が治った翌日にまた怪我をする人は珍しい。

運が悪いかよほどの馬鹿だけだ。

そういう人は一応いるにはいる。


「はい、治りましたよ村長さん」

「おう、すまんのう」

「そう思うなら元気になった直後、走り回るのやめてくれませんかね?」

「嬉しくてのう、ついついはしゃいでしもうた」


 村長のじいさんを治すのはこれで3度目だ。

肩こりを治した翌日、宿に来た村人たちに混ざっていたときは両ひざをすりむいていた。

しょうもない怪我だが一応治した。


 さらにその翌日、動けない村人たちの家を回った最後、村長の家にも案内された、ギックリ腰で寝込んでいた。

こいつはよほどの馬鹿だなと確信した。

この世界のじじいはロクなのがいない。


「ほれ、銀貨1枚」

「まいど、そんな調子で毎日怪我してたら金欠になっても知りませんよ」

「大丈夫じゃ、この値段ならまだまだ余裕があるぞい」


 怪我をしねえという発想に至れよ。

よくこの年まで生きてたなこのじいさん。


 俺はこの馬鹿村長はボケるより先に死ぬな、と思いつつ村長の家を出た。

空を見るとまだ日は高い、飯はさっき村人がくれたサンドイッチを食べた。

何かフラフラ歩いてるだけで誰かが食べ物をくれる。タダで。

腹が減ったら村をうろつくだけでいいとは俺はなんて凄いシステムを完成させてしまったんだ。


 とはいえ、これから先どうしよう、食べ物はまあいいとして。


 俺は暇になってしまった。もう宿にいても特に誰も来ない。

この数日で怪我や病気の村人をすべて治療してしまったのだ。

銀貨は100枚以上ある。重いので半分は宿の部屋においてきた。

不用心だとは思うがまあこの村なら大丈夫だろう。


 稼いだはいいがこの村であんまり金を使うことってないんだよな。

宿のほかに、酒場と雑貨屋も1軒ずつあった。

雑貨屋で日用品を買ったりもしたが銀貨5枚も使ってない。

酒は飲めないわけじゃないが特に飲みたくもならないので酒場は用事がない。

飯は宿で出るものに普通に満足している。


 ああ、雑貨屋に服があればよかったんだけどな。

基本的に皆古着を使いまわしてて、新品とかは売ってない。

新しいのは裁縫ができる村人に頼んで仕立ててもらう。

サムの奥さんができるとか言ってたから一応頼んである。

昨日サイズを測ってもらったばかりなので完成にはまだかかるだろう。


 宿に帰ってもすることないんだが他に行くあてもないので、宿のほうへと足が向く。

すると宿の裏から人の声がしたのでなんとなく見に行くことにした。


 そこには弓を構えたキッツがいた。


「え、キッツって弓も使えるのか?」


 俺の言葉に気づかないほど集中しているのか真剣な顔で遠くの的に向けて矢を放つ。

見事ど真ん中に命中した。


「すごいな」

「まだまだですよ、ヴォルガーさんは村長さんの治療終わったんですか?」


 あれ、普通に返事をくれた、実は気づいてたのか?


「ああ、たぶんまた明日も何かしらやらかすだろうが」

「ある意味ではヴォルガーさんの安定した収入源ですね…」

「言うな」


 それにしてもキッツが弓を使ってるの初めて見たな。


「キッツは弓が得意だったのか?」

「ええ、今は予備の弓に慣れるため訓練してました」

「予備なのかそれ」

「愛用していたものは森で襲われた時落としてしまって」

「あの時か、なるほど」


 俺はそのまましばらくキッツの訓練をぼーっと眺めていた。

ははあ、イケメンがやると絵になるんだなあ。

ケリーよ、こりゃ急がないと村の若い女の子が見たらあっという間に先を越されるかもしれんぞ。


「宿に誰か来たみたいですね」

「ん…?そういえば何か騒がしいな」


 しばらく見てると、ふいにキッツが手を止めて宿のほうを見ながら言った。


「もしかしたらカイムが戻ってきたのかもしれません」

「おお、じゃ見に行こう」


 俺たちが宿に戻ると、表に馬車がとめてあった。

そのすぐ傍にカイムの姿が見えて、キッツがおかえりと声をかけた。


「すまんなキッツ、遅くなって」


 カイムとキッツがそのまま喋ってるところに俺も混ざろうと思ったけど、カイムのほかに知らない顔が五人いてそっちのほうが気になって仕方ない。


 一人は馬車の持ち主か?他と比べて身なりのいい服を着ている。

カイムたちの会話に何か混ざりはじめた。

もしかして行商人かな、たまに村に来るとかいう。


 他の四人はどことなくカイムと雰囲気が似ている。

冒険者かもしれない。男が二人、女が二人。

あっ、あの女の子はもしや…


「あっ、そこの貴方、悪いけど私たち先に宿へ案内してくれない?」


 俺が見ていた女の子と目が合って、話しかけられた。

非常に綺麗な顔立ちで髪が緑色だ、すげえな…

いやもっとすごいのは耳が尖ってることだ。これエルフなのでは!


「ねえ聞いてるの?貴方に言ってるのよ?」

「え、なんですか?」

「だーかーら!早く宿の部屋に案内してって言ってるの!」


 何で俺が?


「中に入って手続きしてもらえばいいと思いますが」

「馬鹿にしてるの?」


 エルフ語ちょっとよくわかんない。今ので何でキレたの?

 

「おいミュセ、そいつ宿の人間じゃないんじゃないか?」


 赤身がかった短髪の男がエルフにそう言った。

革鎧を着て背中には結構なでかさの剣を担いでいる。


「え、そうなの?」

「あ、はい、この宿に泊まってる客です」


 金払ってないから客と言っていいかどうか迷うが。


「何よもう!紛らわしい!」

「ははは、いかにも村人って感じの平凡な男ですし、そりゃミュセだって間違えますよ!あははははははははは!」


 もう一人の、眼鏡をかけてローブを着た銀髪の男が俺のほうを見ながら盛大に笑っている。

笑いすぎじゃない?むせてるほどなんですけど?


「ふ、二人とも失礼ですよ!ロイも笑うのをやめてください!あ、あの、ごめんなさい!平凡な村人さん!」


 杖を持った背の低いこちらも銀髪の女の子が謝ってくれたがこの子も大概だな。

わざと言ってるわけではなさそうだが。

まあその巨乳を強調した白い変な服に免じて許そう。

ほわオンで見た魔法使い系の服に似てるな。


「悪いなにいちゃん。連れが勘違いしたみたいでよ」


 赤髪の男が詫びてくれた。俺のことをにいちゃん扱いしてくれるのか。

こいつたぶんいいやつだな。


「特に気にしてないからいいですよ。それより聞きたいんですが貴方たちは冒険者ですか?」

「おう!おれたちは『調和の牙』ってパーティーの冒険者だ!ホーンウルフのボスをやりにここまで来たんだぜ!」


 パーティー名とかあるんだ…

ただ調和感…あー、うん、今のところまったく感じない、かなあ。

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