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強くはないから

ちょっと長くなってしまった。

「今日はさすがに疲れたな」


 果たしてこの疲れは、魔法をずっと使っていたことによるものなのかどうかわからないが、とにかく50人以上の人を相手にしたら魔法抜きにしても疲れることは間違いなかった。


 俺は今日、噂を聞いて宿に集まった人たちを全部治療した。

途中で面倒くさくなってきて一度にたくさん回復できる範囲回復魔法を使ってやろうかと思ったが、それはやめてちゃんと一人ずつ相手にした。


 一人5分くらいで対応すれば意外と早く終わるかと思ったけど、何か喋りたがる人が結構いて、意外と時間をくった。

次の人が待ってるからまあまあその話はまた今度でと切り上げても、何人かはその場に残っていて、全員の治療後にまた話しかけてきた。


 ただ単に暇だから残ってたわけじゃなくてどうやら今日、宿まで歩いてこれなかった人がまだいるので家まで来て治療してほしい、そういうことを頼みたい人が最後まで残っていたようだ。


 気持ちはわかるがもう限界と伝えると、さすがに俺に魔法を使わせすぎたと皆思ったようで文句は言わなかった。

ただ見るからに落ち込んでいたので明日また迎えに来てくれと言うと、元気を取り戻してそれぞれ家に帰っていった。


 治療が終わる頃にはすっかり日が暮れていて、夕食を食べたあと早々に部屋に戻って寝ることにした。

キッツたちにも心配された。特に体に問題はないとは言っておいたけど。


 それでさっきまで寝ていたがふと目が覚めた。まだ夜中だった。

疲労感はだいぶなくなった。眠くもないので魔法について考えることにした。 

 

 <ヒール>と<キュア・オール>で治る現象の違いが気になっていたのでわざわざ一人ずつ相手にして効果を確認したのだ。

おかげで<ヒール>は主に肉体の傷、骨折とかも含む外傷性の問題に効いて<キュア・オール>は血流や内臓器官の異常、免疫力の低下からくる病気、ウイルスや毒物による体の変調、などに効くとわかった。


 簡単に言うと何かで怪我してとにかく痛いと言ってる人には<ヒール>が効いて原因は良くわからないけど調子が悪い人は<キュア・オール>が効く。

今のところこの2つで全て解決できていた。


「うーん後は回復以外の魔法だけど…」


 強化魔法はむやみに人にかけないほうがいいかな。

キッツの驚き方がこれまでにないほどだったし、かけられた本人が効果をちゃんと把握してないと危ない気もする。

それに魔物と戦うときくらいしか用はないし。

 

 それ以外の魔法だと後はもう俺には…あ、ひとつだけあった。

これなら今試してもいいかもしれない。


「<ライトボール>」


 俺がそう唱えると光の玉が手のひらから出現してフワフワと浮き上がった。

ほわオンで光魔法を最初の特技として選択したら必ず覚えてるやつだ。

ゲームでもまったく使わないのですっかり忘れていた。


 一応攻撃魔法なんだが俺の場合、この魔法の強化にスキルポイントを使っておらず、初期レベルのままで完全に最初っからあてにしてない存在だった。

<ライトボール>以外の光の攻撃魔法を取る人はスキルポイントを振って強化するんだが、俺の場合、他人の支援以外しない方向性でキャラクターを作ったので、敵に攻撃してダメージを与えることに関連したあらゆる能力が最低値になっている。


 だからこの<ライトボール>も攻撃魔法として何の役にもたたない。


「でもこうすると結構明るいから役にたつな」


 部屋の中でふわふわ浮かぶ光の玉が電球代わりに辺りを照らしていた。

かなり光量がある。ランプの代わりとしては優秀だ。


 せっかくなのでこれを利用してトイレに行こう。

ついでに喉も渇いた、水貰おう、あ、でも皆寝てるかな。

まあいいや探せばどっかあるだろ。


 <ライトボール>が自分の意思である程度操作できるようなので、俺の前方で頭より少し高い位置に浮かせておくことにした。


 トイレは宿の一階、一番端にある。遠い。

まあ水洗式のがあるわけないので匂いがなるべく客室に来ないように、遠くに作ってあるから仕方ないんだけども。


 用を足した後、水を求めて厨房のほうへ向かっていた。

勝手に入ったらまずいかな…しかし他に心当たりが…


「うわっ、まぶしいっ」


 うわっ、ビックリした。厨房から誰か出てきたのか。


「何コレ…ってヴォルガーさん?何してるの?」


 ケリーだった。

俺に気づいた後も<ライトボール>を不思議そうに見ている。


「ちょっと喉が渇いて、水貰えないかな」

「いいけど、これひょっとして光魔法?」

「そうだよ、知ってるのか?」

「うん、昔、村に来た神官の人も使ってた。<ライト>でしょ?」


 ボールはつかないのか。単なる明かりだけの魔法もあるんだな。

効果的には俺のこれも変わりない気がしたので頷いておいた。


 ケリーが厨房から水を注いだコップを持ってきてくれた。


「ケリーはこんな時間からもう起きて仕事なのか」

「そんなわけないでしょ、お母さんだってまだ寝てるわ。アタシも喉渇いちゃって目が覚めたの」


 ふうん、と思って渡された水を飲みほした。

礼を言い、コップを返して俺が部屋に帰ろうとすると


「あ、あのさヴォルガーさん、聞きたいことがあるんだけど」

「え?何?やっぱり宿代払ったほうがいい?」

「そうじゃなくて…なんで今更宿代?」

「他の村人は銀貨1枚で治療してるので…」

「そんなことか、いいよ払わなくて、その分一番に治してもらってるし」


 ああよかった、実はちょっと気にしていた。


「聞きたいのはキッツのことなんだけど…どう思う?」


 質問がザックリしすぎてわかんねぇなぁ…


「顔はいいと思うど、俺はそういう趣味ないんで…」

「何言ってんの!じゃなくて!キッツは強いかどうかってこと!」

「うーん?他の村人より強いんじゃないの?冒険者だし」


 この質問の意図がよくわからん。


「アタシもそう思うんだけど、本人はそんなことないって。昨日ゴブリン倒したのもヴォルガーさんの魔法のおかげって言うしさ」

 

 魔法で強化はしたけども実際倒したのはキッツなんだけどなあ。


「もっと自信持ってもいいと思うのに、違う違うってうるさいし」


 ケリーの口調がだんだんと不機嫌なものになってくる。

あー、自分が好きな人にはもっと堂々としてほしいタイプなんだな。


「ヴォルガーさん本当は強いんでしょ?凄い魔法使えるし。だからそういう人から見てキッツは本当はどうなのかなって」

「いや俺は強くはない。ゴブリンも倒せない」

「え?嘘でしょ?」

「本当だよ、敵を倒すような魔法は何も使えないんだ」


 そう言っても、いまいち信用ないのか信じてもらえない。


「キッツには確かに俺が魔法をかけて強くしたけど、あいつにはそれがどういうものか説明はしてなかったんだ。それでもケリーや俺たちを守ろうとすぐ飛び出したのはやっぱり凄いと思うよ。俺なら逃げる方法を探すからね」


 とりあえず思っていることを言った。これは本当にそう思う。


「そっか、そうだよね、普通はなかなかできないよね」


 キッツが褒められて嬉しいんだろう、ケリーはすぐさま機嫌がよくなった。


「でも…カイムさんが戻ってきたらまたそのうち村を出て街に行っちゃうのかなあ…」


 またテンションが下がってしまった、移り変わりが激しすぎる。


「そこまでは俺にもわからないが、まあその、伝えたいことはできるうちに伝えたほうがいいんじゃないか」


 ケリーの顔が赤くなる、早く言っちゃえばいいのに。


「…アタシってそんなに分かりやすい?」

「分かりやすい、これで分からないキッツがどうかしてる」

「やっぱり!?もうなんでアイツは分かってくれないのよ!」


 鈍感系のイケメンとかいう王道を行くキッツ。


「いつかハーレム作りそうだな」

「え!?」


 思わず口に出してしまった。意味伝わってんのかなこれ。


「それどういうこと!街にそういう相手がいるの!?」

「い、いや、知らん、ただモテそうではあるなと思っただけで」


 ケリーはああーとうなって頭を抱えている。


「じゃあ俺はこれで…」

 

 ケリーのことはもうそっとして部屋に戻ろうとした。


「待ってよ!人をこんな状態にしてさっさと行こうとしないで!」

「俺にどうしろというんだ」

「ヴォルガーさんいい大人でしょ、そういう悩みとか今までないの?ねぇ、あるでしょ?教えてよ、うまくいく方法」


 知るかよ!告白すればいいだろ!?

後、俺は大人に見えるかもしれんが実質赤ん坊くらいの年齢だぞ!


「はぁ、まあ迷ってたら大体手遅れになるから」

「なんで不安になることばっかいうの!?」

「『俺』の経験上それくらいしか言えない」

「え、その、もしかして…ヴォルガーさんにもそういう人が?」


 やめろ、食いつくな、なんで女はそういうの聞きたがるんだ。


「その人はもういない、俺が気持ちを伝えられたのは最後の最後、俺にその人を助けることはできないとわかったときだったから」

「え…そうなんだ、ごめんなさい、その…」

「気にするな、まあそうはならないようにしろよってことだ」


 ケリーも大人しくなったので今度こそ部屋に戻ろう。


「…ヴォルガーさんでも助けられない人、いるんだね…」


 背を向けた俺にケリーが小さくつぶやくのが聞こえた。


「別に強くはないから」


 それだけ言って俺はその場を後にした。

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