頼むよキッツ君
大体次の日に誤字チェックしてるせいですぐ改ってついてたのか…
服が欲しい、あと家も。
窓から差し込む朝日をパンツ一丁で体に受けつつ唐突にそう思った。
ケリーの母親を治療して無事寝床を確保した俺は着替えを持ってないのでパンツ一丁で寝た。
そして、俺がまだ布団から出るのをためらっているときにケリーが部屋を訪れ、水の入った桶をおいていってくれた。
水桶で顔を洗ってうがいをした後、口の中の水をどこに吐けばいいんだ?と思って部屋を見渡し、どこにも吐けないのでまた桶に戻した、もう使う気しねえなこの水。
うがいをした後、服を着ながら、日本の生活レベルを思い出し、俺は早速この世界の基準に不満を抱いていた。
いやでもこの世界で暮らしていくならこれに慣れ…
無理だな、慣れるくらいなら自分で理想に近い環境の家を得る方向で考えよう。
アイシャの家は日本に近かった。
じゃあどこかに同じような技術力を持った家があってもいいはず。
建てたのが神という点はあるけど深く考えないことにしよう。
とりあえず朝食が欲しい、下行けばいいのかな。
俺は部屋を出て階段を降りた。この宿は二階が全部客用だ。
ひとつひとつは狭いが8部屋あった。
下に降りたらキッツが一人で飯を食っていた。
その傍にケリーもいたので俺の分も、と頼んでおいた。
ついでに手に持った水桶をこれどこに捨てたらいい?と聞いたら部屋に置いといてくれれば勝手に片付けとくのに…
と変な顔でケリーに見られた。そうか、別に持ってこなくていいのか。
一応ケリーは受け取って片付けにいってくれた。
俺はキッツと朝の挨拶を交わすと同じテーブルについた。
「カイムはどうしたんだ?まだ寝てるのか?」
「馬を借りて朝早くに村を出ましたよ、森でホーンウルフが増えてる件を街の冒険者ギルドに知らせに行ったんです。僕はまあ、留守番です、ヴォルガーさんの案内もまだですし」
それは助かるんだが、ホーンウルフのことは実は結構緊急で、俺の案内とかしてのんびりしてていいのかな?と思ったのでそれについて聞いてみた。
「それはですね…」
ホーンウルフは通常、単独で行動しているのだが稀に群れを作って率いるボスが現れる。
毎回、ホーンウルフの数が増えたときにはボスが確認されている。
やつらは森から出ては来ないのでひとまず森に近寄らなければ
危険は回避できる、ということらしい。
「毛皮や角が結構高値で売れるんですよ。だからギルドに知らせれば狩りに来る人が村を訪れるでしょう」
「キッツも狩りに行くのか?」
「僕は正直二度と戦いたくないですよ…殺されかけたんで…」
そりゃそうか、俺だって狼が襲ってきたら怖いって思うもんなあ。
それより俺の飯まだかな?と思ったらココアが持ってきてくれた。
やっぱキッツと同じで昨日のスープだけか、器は大きいんだけど。
あ!スープの中に具が増えてるぞ。なん…なんだこれ。
きりたんぽ…違う、すいとんみたいな物が入ってる。
これがある分腹持ちはしそうだ。
「昨日は本当にありがとねぇ、こんな宿でよけりゃいくらでも泊っていってくれていいよ!」
いやいくらでもは困るだろう。なんぼなんでも。
「ココアさん、体の調子はどうです?」
再発の可能性があるかどうかが少し気になっていたので聞いてみた。
「すっかり良くなったよ!あと実は最近、腰も痛くて困ってたんだけど、それも治ったのか今日はすごく調子がいいよ!」
腰痛がなぜか同時に治ったようだ。魔法どうなってんだ。
「そうですか、まぁ数日は村にいる予定なんでもしまた調子が悪くなったら教えてください。俺は完治させたつもりですが万が一ということもあるんでね」
「大丈夫だよ!そこのキッツも助けたんだろ?こいつもどこを怪我してたんだいってくらいピンピンしてるじゃないか。それにあんな凄い魔法二度も受ける金なんてありゃしないよ!」
ココアは「はははは!」と豪快に笑って俺の背中を叩いた。
スープが跳ねてキッツの顔に飛び散ったんだが…
ココアは一切気にしてないな、では俺も気にしないことにしよう。
「その時は金はいいですよ、俺の魔法が間違ってたってことなんで」
何がおかしいのかココアは、そうかいそうかいと笑いながら
厨房のほうへ戻っていった。
「金をちゃんと貰っといたほうが良かったと思いますよ。あれじゃ元気になりすぎです、まったく…」
キッツはぼやきながら顔をふいていた。
「そうすると俺はキッツからも金を貰うことになるが」
そう返すと、うっ、と黙ってしまった。
「普通は神官に頼んだらどれくらいするんだ?」
「え、ええと…俺のはちょっとわからないですね。なんせ死んでもおかしくなかったんで…」
「心配するな、別に今更、金を貰うってことじゃない。相場がよくわからんから参考までに聞きたいだけだ。ココアの場合だとどれくらいかわかるか?」
「おかみさんの場合は、街から神官を呼んだと考えたら…銀貨50枚はするんじゃないですか?」
え、あれ、この宿が朝食付きで1日銀貨1枚とか言ってたよな。
50日分以上?かなり高い…ような、でも日本の感覚だしな…
「高くないか?」
わからんので正直に聞いてみる。
「高いですよ、ここの村人が気軽に出せる金じゃありません。だから普通は神官のいない村は行商人から薬を買ったり、商人が来るのが遅いなら誰かに街まで行ってもらって薬を買ってもらうとかですね。そっちのほうがまだなんとかなる金額で済むんで」
薬はあるのか、あ、そういやポーションあるんだったな。
「ただ薬より魔法のほうがすぐ効きますし、効果も高いですからその分値段もあがるってわけですよ…」
「でも魔法は元手がかからないと思うんだが、唱えるだけだし」
「…そりゃヴォルガーさんが特別なんですよ」
「どういう意味だ?」
まあちょっと特殊な生い立ちではあるけどさあ。
「普通は俺の怪我だったら何度も魔法を使ってると思いますよ。一回で瀕死の怪我が完治なんか聞いたことないですから。魔法をそんなに連続で使ったらしばらく動けないほど疲れるらしいんで、今度はそれの治療に魔力ポーションを使います」
え、じゃあ街の神官はがぶ飲み魔力ポーションなのか?
体に悪そうだな…なんとなく、イメージで。
「なのにカイムを治したあと僕をおぶって平然と運んでるし、おかみさんの病気も一発で治したじゃないですか」
「いや、ココアには3回魔法使ったぞ、何が効くかよくわからなくて」
「余計におかしいですよ!回数増えてるじゃないですか!」
「おかしくないって、訓練すれば案外、人はいけるんだって」
それにその程度のことでおかしいと言われては困る。
これからやることがやりにくいじゃあないか。
「ところでキッツ、この後村長の家に案内してほしいんだが」
「いいですけど何か村長に用ですか?」
「まあ挨拶がてら許可とっといたほうがいいかなと思って」
「はあ?なんの許可です?」
おいおいー頼むよキッツ君、俺ができることはひとつしかないだろ。
「村の人見て回って、怪我人とか治療して金を稼ごうかなと」
「今言ったじゃないですか。村人はあんまりお金が…」
「心配するな、一人銀貨1枚の安心価格でいくから、それくらいならまあいいかって村人も思うだろ!なら50人もみれば銀貨50枚だ、薄利多売の精神でいこうと思う」
俺の言葉を聞いてキッツは口を開けて固まっていた。
これは賛成のサインだと思っておこう。