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この魔法の万能感よ

魔法がダメだったらまずペニシリンの製法を思い出すとこから…

 ケリーの父親は既に亡くなっていて現在は母親と二人で宿を切り盛りしていた。

二人でやるって大変そうな気がしたが、このナクト村に訪れる人はそんなにいないのでなんとかなるそうだ。


 二人なら。母親が倒れたらなんとかならないのである。

今はカイムたちしか泊まってなくて問題ないが、村で生産している食料品を買い付けにくる商人や、森に用のある冒険者があわせてくると途端に忙しくなる。


 そういう説明を受けつつ母親の寝ている部屋へ案内された。

俺としてはプレッシャーが増しただけだな。


「お母さん、具合はどう?」


 ケリーに声をかけられた女性はベッドから上半身を起こした。

なかなか恰幅のいいおばちゃんである。

名前はココアと言って随分甘そうで可愛らしい。名前は。


「何だい、人の心配する前に店の掃除は終わったのかい?」

「終わって…あ、厨房はまだだけど」

「まったくこの子は…おや、そこの方はどなただい?」


 部屋のドア付近に立ったままだった俺のことに気づいたようだ。


「この人はヴォルガーさん、回復魔法が使えるからお母さんのことみてもらおうと思って来てもらったの」

「ええっ!?街の神官様をわざわざ呼んだのかい!」


 ココアは大層驚いた様子でちょっとウチのどこにそんなお金があるっていうのさとかケリーにひそひそ言ってるが丸聞こえなんだが。


「呼んだって半日で街から来られるわけないでしょ!とにかくこの人は神官じゃないの!」

「あー、どうも、神官ではない、単なる旅人のヴォルガーです。俺はカイムさんたちの案内で偶然この村に来ただけですよ。娘さんに街から呼ばれたわけではないのでどうか落ち着いて」

「そうなのかい?でも回復魔法が使えるって…」

「うん、カイムさんやキッツも森で怪我したんだけどヴォルガーさんに治してもらったんだって」


 だから大丈夫よお母さん、きっとすぐに良くなるから、とぐいぐいハードルを上げるのをやめないケリー。

その辺にしてくれませんかね?


 ココアはでもお金が…と心配してたがこのままではらちが明かないので


「お役に立てるかわかりませんが、<ヒール>」


 とりあえずヒールをかけてみた、俺の手が光ってココアもうっすら光る。

 

「どうですか?体の調子に変化は?」

「…少し楽になったわ、ありがとうねヴォルガーさん」


 気をつかってのことだろう、ココアはそう言ってくれたが少しってことはつまり完治してないわけだ。病気はこれじゃダメくさいな。


「具体的にどこがどう痛いとかありますか?」

「え、そうね、体は痛くはないんだけどなんだかだるくてねえ。今朝からずっと、熱があるみたいなのよ」


 まだ俺から魔法を受けることに戸惑っていたがココアが何か言うより先にこっちから質問をして黙らせておいた。

しかし俺の記憶には医者の知識はないのでそう言われても、風邪ですかね、と思うくらいしかできない。


「ではもう一度<キュアポイズン>」


 ゲームでは毒状態を治す魔法を使ってみた、さっきと違う色の光がココアを包む。

白がうっすらピンクになっただけだ、エフェクト的に地味なんだよな。

ヒーラーの仕事って。


「今度はどうですか?」

「良くわからないわ…ごめんなさいねぇ、せっかく色々してくれてるのに」


 変化なしみたいだな。解毒の魔法もダメか。

あーもーそんな目で見るなってケリー。

治す、治すから泣くな。


「ならば、少し上級の魔法を使います。集中するのでケリー、ちょっとお母さんから離れて」


 ケリーが慌てて母親から離れる。本当は別にそんな必要はない。

いかにも努力してます感を出すために言ってみただけだ。

次の魔法も効果ないと、今すぐどうにかする方法があるかわからないので。


「<キュア・オール>」


 基本的な状態異常をすべて治す魔法を使ってみた。

魔法陣がココアの頭上に出てそこから溢れた緑色の光が彼女の全身を覆うようにして包んだ。

いやー治療不可の状態異常でなきゃこれでいけるんだけどなー。


 ケリーとココアは驚いたのか<キュア・オール>の演出が終わっても固まったままでいた。

大丈夫かな。


「ココアさん?どうです?」

「え、あ、ああ…そうだね、今度は効いたみたいだよ。さっきまでの辛さがウソみたいだね!熱もないよ」

「本当!?」


 ケリーが母親の額に手を当てて様子を見ている。

そうやって熱を計るシーンとか何かで見たことあるけど素人がわかるのかなと、見るたびに疑問に思っている。


 でもまあとりあえず効いたっぽいし、なんとかなったな。

<キュア・オール>がダメなら俺はこの先、ケリーはもちろん飯食ったところで待ってるカイムとキッツにもきまずい報告をしなくちゃいけないところだった。

 

「本当ありがとうねヴォルガーさん」

「ありがと…ぐすっ…」


 ケリーは結局泣いているがこれならまあいいだろう。


「治ったようですね、えーでは、お代のことですが」


 さっそく金の話をする俺、いやらしいかもしれない。

まあでも俺のほうから切り出したほうがさっさと終わるだろう。

二人が一番気にしてるであろう部分だしな…


「数日ここにタダで泊めてもらえませんかね?」

「え?ウチは一泊銅貨8枚の安宿だよ」

「食事つきですか?」

「朝食つけても銀貨1枚さ、治療費にしちゃ安すぎるよ」

「じゃ夕食もお願いします」


 それにしたって…とまだココアは納得いかないようだったがどうも医者…じゃなかった、神官を呼ぶってのは俺が考えるよりかなり金がかかるみたいだな。


「お母さん!本人がそれでいいって言ってるんだから!それにそっちのほうが1週間泊めてもまだお釣りがくるよ!」


 ケリーちゃっかりしてるのはいいが聞こえてんぞ。


「まぁそんなにいるかはわかりませんが、ひとまず1週間分の代金ということでどうですか」

 

 俺がそういうとココアは変わった人だねぇと言い、ケリーは部屋を用意してくるから!と早速飛び出していった。

とりあえず寝るところと食事はなんとかなったな。


 現金をもらったほうが良かったかもしれないがま、それは明日稼ごう。

今日のことでやりようはいくらでもあるとわかったしな。

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