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年間拉致られランキング一位獲得

こっそりここから書き直すことにしました

「やあ、気分はどうかな?」


 目の前にいる子供がなんか言ってる。

誰だっけコイツ?


「んおおんああ?」


 喋ろうとして何か上手く喋れず自分が何か口にくわえてることに気づいた。

あとついでに椅子に座らされて手足が拘束されてることも。


「身体操作は解除したからそろそろ意識がはっきりしてくるはずだ」


 身体…なに?操作?ああ…そうか…思い出したぞ、こいつ…


「んおお!」


 魔王!と言いたかったのだが何か変な喘ぎ声を上げてる人みたいになってしまった。

ちくしょうなんだよこれ…くそ、俺の力をもってしても手足の拘束はビクともしないし口にくわえさせられた何か得体の知れない棒も破壊できない。

どうやら今の俺にできるのはSMプレイで見たことあるタイプの姿になってませんようにと祈ることだけらしい。


 諦めて周囲を観察すると見たことのない場所というか部屋に俺はいるようだった。

灰色のコンクリートみたいな壁に囲まれた薄暗い部屋だ。

雰囲気的に警察の取調室に似ているなと思った。

昔なぜかわからんが駐車違反の罰金支払いに行っただけなのに取調室に連行されたので一度だけ実際に見たことがある、たしかこんな感じで…もうちょい明るかった。

ある仕事のクレーム対応でクソ狭い住宅街に行かされて駐車場もなくどこに車停めていいか分からず客の家の前に10分ほど停めてたら知らない間に一瞬で張り紙していきやがってクソほどむかついたのでめちゃくちゃ覚えてる。

もしかしたらあの時むかついてたのが顔に出てたから取調室に連行されたのか?

コイツなにかやらかしそうとか思われて、だったら失礼にもほどがある。


「君に聞きたいことがあるんだ…いや、その前に少し説明したほうがいいか」


 いかん、どうでもいい過去に想いを馳せてる場合ではなかった。

それより目の前にいるこの年齢不詳のいけすかないガキは魔王ドールオタで間違いないはず。

俺が最後に一瞬その姿を見てから…気づいたらいきなりこんなわけのわからん状態になってるってことは…どうやら俺はしっかりコイツの魔法をくらって操られてここまで来たってことになりそうだ。


「僕は魔王ドールオタ、君に魔法をかけて…体をじっくり調べさせてもらったよ」


 じっくり調べさせてもらった!?

…い、いや、変な意味ではないはず…別に裸になってないし…知らん間に裸にされて何か大事なものを失ったとかないよね?


「もう知ってると思うけど僕は他人を操る魔法が使える、それで君の体を操作してここまで運んだ」


 …やはりそうか…はっ、そうだ、お嬢様とミュセはどうなった!?


「んんのおおおん!」

「ん…?ああ、君が守ろうとした二人のエルフ族の女は無事だよ、あの場で解放した」


 今のでよく通じたな、しかし俺との約束を守って本当に解放したのか…?


「あの二人には役目があるからね、特に殺す必要はないんだ、ただ…場合によっては死ぬけどね」


 場合によってはってなんだ、ちくしょう。


「あの二人にはある条件をつけて魔法かけてあるんだよ、次に君…ヴォルガーを見たりヴォルガーの声を聞いたら自害するという命令を与えて解放したんだ、勿論二人はその条件は知らない、魔法がかかってることだけ知ってる感じかな」


 …なんだそりゃ、そんな細かい設定ができるのかこいつの魔法は…

いや、でも…ナティア家の料理人が額にナイフを突き刺すという意味不明な自殺をさせられてたな。

つまりあれもそういう命令を与えられて殺された可能性が高いな。


「………」

「喋れないのも不便だからそろそろ猿ぐつわを外そうか」


 チャーーンス!喋れるようにさえなれば<ウェイク・パワー>かけてこんな拘束…


「当然だけど君にもある条件付きの命令を与えてある、それは僕の許可なく魔法を使うと自害するというものだよ」


 …チャンス終了…まあそれはそうか…でなきゃ喋れるようにしないよな…

無言のままじっとしていると魔王は自らの手で俺の猿ぐつわを外した。


「さて、これでようやく話ができるね」

「…それで?仲間にするって言った割にこの扱い…説明してくれるんだよな?」

「自分の置かれてる状況をすぐ理解してくれたみたいだね、じゃあ話そうか」


 拉致されることに関しては慣れてるからな。

とりあえず俺の人生において嫌な拉致ランキング第一位は確実に更新されたぞ。


「ここに来るまでに君の体の性能をちょっと試させてもらったんだけど」

「な、なに?」


 どうしよう…俺の知らないところで俺の体つかってなんかすごい悪事を働かれてたら…


「身体能力は申し分ない、僕の兵隊を遥かに超えていたので驚いたよ…しかしどうにもわからないことがあってね」

「…なんだよ」


 なるべく動揺を抑えることを意識しつつ魔王に聞き返す。


「…君の体にかかっている魔法はなんだ?何かを攻撃するという行動が一切できない、人でも魔物でもだ、必ず何か見えない力に阻まれる、一体どうなっている?」


 お、おお…よっしゃああああああああ!

今ほどふわふわにくまんという呪われた称号に感謝したことはない!


「ははは、そうか、何も殺せなかったか」

「…ああ、何を試してもだめだった、だからこうして君に直接聞くことにした」


 魔王が少し表情を変えた、イラついているのかもしれない。

ざまあみろって感じだがあまり刺激しないようにしたほうがいいか。

俺の状況は最悪中の最悪なんだった。


「残念だがそれは俺の意思でどうにかなるという類の物じゃない」

「…どういうことだ?」

「俺はな…何も傷つけられない代わりに他者を支援する魔法が飛びぬけてるんだ、そういう制約をつけることによって自分の長所だけに特化する呪いのようなものを自分でかけたんだ」

「馬鹿な…いやでも確か…」


 ちょっと適当な嘘を混ぜて答えたが魔王は何か思い当たることがあるのか考えこんでいる。

というか俺もなんでそんな体なんだと説明しろと言われてもできないので勝手に理由を考えてくれるなら都合がいい。


「それを解除するときはどうやる?」

「できない」

「嘘をつくんじゃない」

「本当にできない、よく思い出してみろ、俺が自分自身で戦ってたことが一度でもあるか?」


 そう言ってやると魔王はまた俺から目線を逸らし、何か考え込んでいた。

そんな魔王を眺めつつ俺もどうしたもんかなと考える。


 最大の問題は俺の魔法だ。

このクソったれ陰険魔王にかけられた魔法が<キュア・オール>で解除可能なのかどうか。

今までのことを考えると恐らく解除は可能、しかしそれがコイツの命令より先に達成できるかどうかがわからない。

最悪俺が魔法を使おうとした段階、魔法の名前を言い終わる前に即死するような行動をとったらどうしようもない。

それに…仮に運よく先に解除できたとしてもまた操られたら次は対処不可能な対応をされる。

ここがどこかもわからず、仲間もいない今の俺は魔法が使えるようになったところで脱出する前にまた捕まると思ったほうがいいだろう。

だったら…<キュア・オール>をいちかばちかで使うのはやめたほうがいいな…


「ふうん…ま、いいや…アマルティア」

「はい」


 魔王が何か言うと突然俺の後ろから女の声がした。

他に誰かいたのか!?まったく気配を感じなかったぞ!?


「ヴォルガーを訓練場に連れてってよ」

「わかりましたわ」


 え?なに?またどっか連れてかれるの俺、訓練場って言った?


「そこでヴォルガーが言ったことが本当かどうか試して」

「丈夫そうな男…楽しみですわ」


 あの、俺を挟んで不穏な会話するのやめてもらえませんかね。


「念のためにティモリアも連れて二人で相手するんだ」

「あの子は少々やりすぎるかもしれませんが…」

「…死ななければいいよ」

「まあ、それならティモリアもたくさん遊べて喜ぶでしょう」


 …俺一人めちゃくちゃ喜べない状況になりつつある気がしてならない。

俺の後ろにいる女の子がSMプレイに出てくる女王様みたいなこと言ってるけど絶対そういうのじゃないよなこれ。

仮に俺がマゾヒストであっても喜べない何かが迫りつつある予感。


「それじゃあねヴォルガー、死んだほうがマシって思うような目にあいたくなければ…本気を出してみろよ」


 最後にそれだけ言うと魔王は部屋を出て行った。 

そして後ろの女が…たぶん刃物で俺の手足を拘束しているチェーンを切り裂いた。


「なん…いてててててててっ!」


 ものすごい力で手首を掴まれ捻りあげるようにして強引に椅子から立たされた。

なんだこの女、ありえない馬鹿力だ。


「それじゃあ、一緒にいきましょうねぇ…ヴォルガー?」


 ねっとりと俺の耳元でそう言った女の顔は…とりあえず美人ではあった。

それだけが唯一の救いだ、今のところ。

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