それぞれの今3
誰の視点かサブタイトルに書くべきだったかもしれないと今更思うだけで書かない
あれはおじさんたちが村を去って少し時間がたってからのこと。
タマコちゃんの様子がどことなく、おかしいことに僕は気が付いた。
特に何か変ということでもないんだけど…なんだか元気がないみたいな気がしたんだ。
「タマコちゃん…何か食べたいものある?」
僕は元気づけるつもりでタマコちゃんにそう言った。
「んーと…じゃあ、ちくわ食べたい」
タマコちゃんはどこか遠くの方を見ながら僕にそう返事をくれた。
でも僕はその時タマコちゃんが言った「ちくわ」というものがなんなのかよくわからなかったんだ。
それでちくわが何なのか聞いてみたら、海の魚で作る料理のことだってわかった。
おじさんが作った食べ物だった、僕が村へ戻ってくる前に全部食べちゃったからもうないんだって。
僕はひとまず村の近くの川でとれる魚を使って、タマコちゃんに話を聞きながらちくわを作ってみたんだけど…どうにもうまくいかなかった。
タマコちゃんは食べてくれたんだけど、あんまり嬉しそうじゃなかったように思う。
やっぱりまだ僕じゃおじさんみたいにうまく作れないかぁ…
そんなことを考えながら出来損ないのちくわを僕も食べていると
「海の魚なんかどこでとったんだ?」
僕らの様子を見に来たマサヨシさんがタマコちゃんにそんなことを聞いた。
「狐人族の村だよ、ランとかいるとこ」
「いやランとか言われても誰だかわかんねえよ…狐人族の村が海のほうにもあんのか?」
「そーだよ、そこではじめてちくわ作った」
それがきっかけで僕は北の海沿いにあるという狐人族の村に行くことを決めたんだ。
本物のちくわをタマコちゃんに食べさせてあげたくて。
僕がその村まで行きたいと言うと、タマコちゃんは一瞬驚いた後「任せて!」と嬉しそうに叫んだ。
おじさんたちがいなくなってから初めて見るタマコちゃんの心からの笑顔だった。
旅にはマサヨシさんと、シレネさん、カズラさんも付いてきてくれた。
この三人はその内サイプラスの方へ戻っちゃうかと思ってたから、一緒に来てくれるとわかったときはとても心強かったよ。
「ちょっとタマコーーー!本当に道あってるのこれ!?」
「カズラっ、タマコの通った後をそのまま通るのは諦めなさい!マサヨシみたいになりますよ!」
「誰か助けっ、助けてくれっ!沼ん中でなにか俺の足引っ張ってるんだって!おいまじで死ぬってこれ!!」
…ただこんな感じで道中は結構大変だった。
タマコちゃん、常に最短距離を行こうとするものだから…どうやって道を選んでるんだろう。
苦労の末僕たちは北の海沿いにある狐人族の村へたどり着いた。
僕たちはとても歓迎された、神樹の森で猫人族と狐人族が共に暮らしていることを伝えると村の人たちは離れ離れになった同胞の無事を知ってとても喜んでくれたんだ。
ちくわの作り方も詳しく教えてもらえた。
それから僕はそこでタマコちゃんから、ランという名の狐人族の女の子を紹介された。
ランちゃんは村のまとめ役であるヤナギさんの指示でオーキッドへ行こうとしているところだった。
どういうわけかその村にいた兎人族たちと一緒に。
「オーキッドでいろいろ買いたい物があるんだけど…私たち皆誰もオーキッドに行ったことが無いから無事にたどり着けるかどうかわかんなくて…困ってんの」
オーキッドかぁ…この場所からだとはっきりわからないけど僕なら案内できるかもしれない。
「あたし道わかるよ!」
僕が何か言う前にタマコちゃんがそう言った。
マサヨシさんとカズラさんシレネさんは、なぜか無言で僕の方を見ていた。
言わなくてもなんとなくわかった、あれはタマコちゃんに案内させたらランちゃんたちが死ぬんじゃないかと思ってる顔だった。
タマコちゃんを止められるのは僕だけ。
僕にどうするんだと、三人はそう問いかけていたに違いない。
「あの…僕、行商でオーキッドへ行ったことがあるけど…」
「えっほんと?じゃあ私たちと一緒に来てよ!シンタロウ!!」
こうして僕たちとランちゃんと兎人族の一行はオーキッドへ向けて旅立った。
兎人族の人たちがインセクトホースという馬の魔物を使った馬車を引いて、それを僕たちが護衛する形で進んで行った。
僕はどちらかというと、ただ歩いていただけなんだけどね…
だってマサヨシさんたちは元々冒険者だから魔物を倒すことにも慣れてるし、タマコちゃんは一人でオーキッドへ行けるくらい強い。
おまけにランちゃんも水魔法が使えて…兎人族の人たちは皆大人で馬の扱いに慣れてる。
この旅で一番弱いのはどうやら僕なんだってすぐにわかったよ。
「シンタロウは飯を作るという立派なことをやってるじゃねえか」
マサヨシさんがそんな風に励ましてくれたけど、ランちゃんの強さを知ったときはやっぱりそれなりにもやもやしたよ。
まあそもそも、ランちゃんは強いからヤナギさんに言われて旅のまとめ役になってるんだろうけどね。
オーキッドに着くころには二台ある馬車にはたくさんの魔物の素材が積み込まれていた。
それを売ってオーキッドで買い物するお金を手に入れるためだ。
オーキッドの最北にあるルスルスに着く前に、そこから一番近い海で魚もとった。
そこでなぜかランちゃんに釣り竿を自慢されたんだけど…
「えーっ!なんであんたたち釣り竿のこと知ってるの!?」
「え…僕はオーキッドで釣りをしてる人を見たことあるから」
「サイプラスにもいるよな、釣りしてるやつがたまに」
「獣人族で釣りしてるのはほとんどいないわね」
「そうですね、獣人族は基本的にあまり落ち着きがないですから、この中で落ち着きがあるのは私とシンタロウくらいでしょうね」
「おおっと?シレネは私より落ち着きも色気もないわよね?」
「はい出ましたカズラの妄言が、見てわかりますよねランさん、どちらが正しいことを言っているのか」
この後シレネさんはカズラさんといつもの喧嘩をしていた。
それを見る限り二人とも落ち着きがあるとは…その、ちょっと言い難い。
「ははははは、二人ともすぐ手が出るじゃねえか!どこが落ち着いてんだ!?」
「「はぁ!?」」
この後マサヨシさんが二人に殴られてた、それもいつも通り。
とにかく色々あったけど僕たちはオーキッドにあるルスルスの街へ辿り着いた。
でもそこで僕たちの馬車に使われてる馬が魔物だからってことで街の中に入れてもらえなかったんだ。
何を言っても門番さんは街中に馬車を入れるのは駄目だって言っていた。
なので仕方なく僕とランちゃんが街中に入って商人を探し、門のところまで連れて来ることになった。
「さあシンタロウ!商人がいるところまで案内してよ!来たことあるんでしょ」
「そ、そうだけど商売の話はいつもお父さんがやってて、僕は荷物を運ぶ手伝いをしてただけで…」
「もーいいから早く…うひゃあ!?」
突然ランちゃんが変な声をあげて飛び上がった。
「うわーーこれはなんなのじゃーー!!助けてなのじゃーー!」
「ひゃああなによこの子!!私の尻尾に顔突っ込んで何してるのよ!!」
何事かと思ったら、街の子供が走ってきてランちゃんのお尻にぶつかったみたいだった。
僕はランちゃんの尻尾に顔をつっこんでもがく子供を抱え上げてそこから助け出した。
「ごめんなさい…君たち大丈夫だった?」
直後に人族の大人の女の人が来て僕とランちゃんに謝った。
その人の後ろのほうに狐人族の女の人がいるのも見えた。
「私はサジェスっていうの」
サジェスさんからドワーフ族のロリエさんと、狐人族のナツメさんのことを聞いた。
それから僕たちが何をしているのか尋ねられた。
たぶん子供二人で北門の近くにいたから心配されたのだろう。
もしかしたらこっそり子供だけで街の外へ行こうとしてると勘違いされたのかもしれない。
「私たちはマグノリアから物を売りに来たのよ」
ランちゃんがサジェスさんに僕たちがここで何をしているか説明した。
するとロリエさんが街中に荷物を運び込むための代わりの馬車を用意してくれると言ったんだ。
僕は是非ともお願いしますとロリエさんに頼むことにした。
「ちょっとシンタロウ!そんなの用意してもらってお金はとられないの?」
「…あ、ごめん、それもそうだね、うっかりしてたや…」
「ど、どうすんのよ~、私たちの売り物で払えないお金とかだったら…」
「大丈夫だよ、マグノリアにいる魔物の素材は結構高値で売れるから…たぶん」
「たぶん!?たぶんじゃ駄目なの!」
僕とランちゃんがひそひそと相談しているとサジェスさんが笑いながら「心配ないわ、お金はとらないから」と言ってくれた。
「こっちが勝手に言い出したことだしね、それに君たちの返事も聞かずに走って行っちゃったでしょ、あの子」
確かにロリエさんは言うだけ言って走って行ってしまった…
僕とランちゃんはサジェスさんのいう事を信じて待つことにした。
「そっ、じゃいいわ、ところでずっと気になってるんだけど…ナツメさんだっけ?あの人はなんでこっちに来ないで遠くから私たちを見てるの?」
「ナツメさんは少し…知らない人と話すのが苦手なのよ」
「そうなんだ?でもせっかくオーキッドで同じ狐人族に会えたんだから話してみたい…私、声かけてくるわ!」
「えええ、ランちゃん!?」
ランちゃんは僕が止める間もなくナツメさんの元へ行ってしまった。
その場に残されたのは僕とサジェスさんだけ。
「あの子も結構、思ったらすぐ行動に出るみたいね」
「すいません、僕止めてきます」
「…いえ、いいわ、もしかしたらこれで何か変わるかもしれないから」
「え、止めなくていいんですか?」
「悪い子じゃないんでしょ?」
「勿論です!!」
「じゃあきっとうまくいくわよ」
よくわからなかったけどサジェスさんの言う通り、数分後にはランちゃんがナツメさんの手を取ってこっちへ戻って来た。
「こ、こんにちわ…えっ!」
ナツメさんは僕におずおずと挨拶をしてきて…目を見開いて驚いたような顔をしていた。
「僕がどうかしましたか?」
「い、いえ…なんでも…」
なぜ急にそんな顔をされたのかさっぱりわからなかった。
もしかしたらだけど…狐人族のランちゃん以外とはまだ話しづらいのかもしれない。
僕は軽い挨拶だけして、あまりナツメさんのことを見ないようにすることにした。
そうこうしているうちにロリエさんが馬車を連れて戻って来た。
三台も連れてきている、でもインセクトホースが引く僕らの馬車は一台が大きいから普通の荷馬車三台でもギリギリかもしれない。
馬車を連れて街の外へ出ると、待っている間、暇だったのか皆そこらで騒いでいた。
待ってる間にちくわを焼いておく提案をしたのは失敗だったかもしれない…
あれはきっと我慢できずに食べてしまって、ついでにお酒も飲み始めてる状況だ。
ロリエさんからも当然、何をしているのかと尋ねられた。
僕とランちゃんはちくわを作ってることを説明し、興味がありそうなロリエさんにちくわをあげることにした。
ロリエさんはすたすたとちくわを焼いてるタマコちゃんの元へ歩いて行った。
僕も慌てて後をついていく。
タマコちゃんは…僕が頼まないとわけてくれないかもしれない。
案の定タマコちゃんは話しかけてきているロリエさんのことを無視してちくわを焼いていた。
「ちょ、ちょっとタマコちゃん!とりあえずこっちに向いて!この人は僕らのために馬車を借りてきてくれた大切な人なんだから!」
「なんだー!ちくわが欲しいならマサヨシにもらえー!あっちでも焼いてるから!」
「なんと、タマコ…タマコではないか、ヴォルガーと共に故郷の村へ行ったお主がなんでここにおるのじゃ」
今度は僕が驚く番だった。
なんとタマコちゃんとロリエさんは知り合いだったんだ。
おじさんがオーキッドにいるとき…二人は既に出会っていたみたいだった。
そこから先はえっと…とりあえずロリエさんに落ち着いた場所で事情が聞きたいって言われて、タマコちゃんだけだとうまく説明できないから僕も一緒にってことになって、ロリエさんたちが滞在していた宿までついていった。
馬車のほうはマサヨシさんやランちゃんに任せておくことにして。
「なるほどねぇ、タマコちゃんが前にオーキッドで捜していたのがシンタロウ君だったのね」
「はい、でも僕はサイプラスのほうから故郷に帰ったのでこっちでは会わなかったんです」
サジェスさんもタマコちゃんのことを知っていた。
しかもサジェスさんは技術局ってところの偉い人だった。
おじさんがそういえばそう言う場所で働いてたって聞いた、タマコちゃんもそこで働いてたのは初耳だったけど…
「畑で仕事してたよ!」
「タマコは遊んでただけじゃろ」
「ロリも仕事してないよ、家にきてご飯食べて遊んでただけ」
「わちしはそれでいいのじゃ!!」
二人が何をしていたかはともかく、タマコちゃんはロリエさんと結構仲がいいみたいだった。
話をしている内に自然と話題はおじさんのことになった。
「ヴォルガーは二人の故郷に行ったあと、どうしてたの?」
「変なやつが来たからあたしとマグナと一緒に戦って倒した!それから木の女神様のとこいって…村の近くに木をはやしてから村を出てった」
「…えっと、どういう意味?シンタロウ君」
「最初の方は僕も聞いただけで良く分からないんですけど…どうも魔王?とかいう人が土の女神様を襲いに来て、それをおじさんたちが倒したらしいです」
「「えええーーーーーーっ!?」」
サジェスさんとロリエさんが大声を出して驚いていた。
ナツメさんはびっくりして椅子から転げ落ち、部屋の隅にいって縮こまっていた。
「倒したってことは殺したの!?」
「たぶん…そうだよね?タマコちゃん」
「うん!マグナが首斬り落として、死体は守り人たちが燃やしたからもうないよ!」
「あ、あやつらは相変わらず何をやっておるんじゃ…」
「まあでもこれが真実なら、一つ憂いが減ったわね」
「しかしそうならばなぜイルザ様から何も神託がないのじゃ?」
「さあね…それは私にはわからないわ」
僕とタマコちゃんはそっちのけでサジェスさんたちは難しい顔をして何か話し合いをはじめていた。
どうしたものかなと思っていると、タマコちゃんが皆のところへ帰ろうと言い出した。
確かにそろそろ皆の様子を見に行った方がいいかもしれない。
商人との取引はカズラさんとシレネさんがランちゃんについててくれているから、大丈夫なはずだけど、やっぱり少し心配だ。
「あの…僕たち一度、仲間のところへ戻りたいんですが」
「え?ああ…結構話込んじゃったわね、でももう少し詳しく話を聞きたいんだけど…」
「明日ではだめですか?…その、ナツメさんもあまり気分がすぐれないみたいですし」
部屋の隅で固まってるナツメさんの様子が気になる。
ランちゃんを連れて来たほうが良かったかもしれない、僕とタマコちゃんに怯えてるのかも。
「お腹すいたからあたし先に戻る!!」
相手の返事を待たずにタマコちゃんは部屋を出て行った。
お腹がすいてるときのタマコちゃんは僕でも止められない。
「すいません、タマコちゃんが勝手に…」
「腹が減ってるのなら飯くらい奢ったのに、せっかちなやつじゃ」
「まあ仕方ないわ、シンタロウ君、悪いけど明日もう一度ここに来てくれる?」
「はい、それじゃ僕も帰ります」
僕は二人に軽くお辞儀をして部屋を出た。
でも宿を出ようとしたところで、誰かに腕を掴まれ、止められた。
「待って!」
僕を止めたのはナツメさんだった。
「どうしても二人きりで話したいことがあるの、こっちへ来て」
「え、はい…」
ナツメさんに引かれるまま僕は宿の裏へ向かった。
一体なんだろう?
宿の裏、建物と建物の間にある暗がりで、ナツメさんは僕の目をまっすぐ見つめてきた。
「先ほど話を聞いてはっきり思い出しました…君は…以前商人の父と共にアバランシュへ来た少年ですね」
「僕のことを知っていたのですか!?」
「はい…アバランシュで見ました…ああ、生きていたのですね!本当に良かった!」
突然、ナツメさんが僕の背中に手を回してきて…僕のことを強く抱きしめた。
な、なんだろう!?一体どうしちゃったんだこの人!?




