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<ライアー・アンド・ドールズ>2

ヒーローと戦ってもいいから!ただツルッパゲ以外のヒーローに限定での話。

 ヴォルガーという男は一体何者なんだろうか。

やつと戦う決意をした僕は改めてそのことについて考えた。


 サイプラスに来てから僕はただ隠れていただけじゃない。

あらゆる方法でヴォルガーに関する情報を集めていた。


 だけど調べた結果、不可解なことも増えてしまった。


 まずやつはいつ頃からか時期がはっきりしないけど、シルバーガーデンに姿を現している。

魔王コックローチはマグノリアにある神樹の森でヴォルガーらしき男と戦ったと言っていた。

つまりやつはその後、東に移動してサイプラスに来たんだろう。

ただどういうわけか魔王コックローチと戦ったときの仲間と別れ、たった一人でシルバーガーデンに来た後、エルフ族の兄妹と共に行動をするようになっている。


 そしてシルバーガーデンのダンジョンをエルフ族の兄妹と共に攻略している。

ここでまたおかしいのがシルバーガーデンの冒険者ギルドにはエルフ族の兄妹の記録があるのに、ヴォルガーに関しては一切何も無い。

他の冒険者連中もヴォルガーに関しては何も知らないようだった。

エルフ族の兄妹に関してはさまざまな噂が飛び交っていたのにヴォルガーだけはまるではじめからそこにいなかったのように誰もが気にしていなかった。

僕がシルバーガーデンで情報収集をしたとき、そういえば荷物持ちの召使いもいたような気がすると語った者が数人いた程度だ。


 ヴォルガーが荷物持ちの召使いだって?

魔王コックローチを倒したということは、あいつは<ソウル・イーター>を防ぐ手段を持ってるってことだ。

そんな強さを持つ人間がただの召使い?


 信じられないような話だけど、これは僕の魔法を使って聞き出した内容だから嘘じゃあない。

嘘じゃないとすれば、ヴォルガーはなるべく目立たぬようあえてそういう風に振舞っていたんだ。


 それは一体なぜか?

決まっている…僕に情報を渡さないためだ…

あいつはきっと、ずっと前から魔王の存在に気が付いていたんだ。

だから、魔王コックローチが土の女神を襲撃に行ったとき、そこにいたんだ。

マグノリアで待ち構えていたんだろう。

魔王が最初に狙うなら身動きのとれない土の女神だろうと予測して。


 狡猾な男だ…間抜けの女神たちが選んだ勇者とはとても思えない…

…っ…まさか…ヴォルガーを選んだのはこちらにいる女神たちじゃないのか…?


 そうなると答えは一つ、ヴォルガーの正体はルグニカ大陸にいるだろうレイコさん…闇の女神が選んだ勇者だということになる。

僕と同じ方法…いや、女神の使う転移魔法でこちらの大陸に送り込まれて来たんだ。


 それにしても…まだ存在しているのか…レイコさんは…

最後の最後まで嫌な人だ、こんな方法でまだ僕を苦しめるなんて。

僕があちらに置いてきた人形ではごまかしきれなかったということか。


 …でもいいさ、あれだけの能力を持つ勇者を作ったってことは、レイコさんも本当に最後の力を使い果たしたということだろう。

ヴォルガーは光魔法が使えるように見せかけて、本命は闇魔法の使い手の可能性があるな。

これまでも複数の属性魔法を使う勇者はいたし、あいつがそうであっても変じゃない。


 不可解な点と言えばあともう一つある。

でもこれはどちらかというと僕にとっては有利なことだ。


 ヴォルガーによって僕の<ライアー・アンド・ドールズ>を解除された者は僕に関する記憶を失うということがわかったんだ。

僕が遠隔操作で操った屋敷のメイドも、キャバクラで働くように命じた女も、なぜか生かされたままヴォルガーの元から解放されている。


 僕は念のためにこの二人にもう一度接触して調べてみたが、僕と初めて会ったときのように何ひとつこちらのことは覚えていなかった。

ならば、僕が今使っている姿はヴォルガーには知られていないことになる。

これはかなり有益な情報だった、きっと役に立つ。


 これらのことを考えた後、僕はひとまず直接対決は避け、別の方法でヴォルガーを襲撃する計画を立てた。


 あいつが風の女神の神殿から戻ってくる前に、僕はナティア家の料理人二人を捕らえて操ることにしたんだ。


 ヴォルガーはずっとエルフ族のナティア一族の屋敷で生活している。

だから料理人を使って食事に毒を盛ることにした。


 毒として使う物はシャブの実と言われる特殊な木の実だ。

マグノリアの中でも特に狂暴な魔物が生息する一部の地域にしか生えていない物で、採取が困難なうえ、毒としての危険性の高さから所持しているのが見つかっただけでマグノリア以外の国では死刑になる。

多くの者はその存在さえ知らないだろう。


 マグノリアにいたことのあるヴォルガーならば知っている可能性はあるが、ならばこそ、食べたことなどないはず。

シャブの実の恐ろしい点は他の食用である果実に非常に似てるというところだ。

しかも口に含んでも別段変わった味もしない、特徴的な匂いもない。

皮をむいて他の料理にでも混ぜれば、見た目は大根かカブとでも誰もが思うだろう。


 だけど僅かでも食べると数分の内に強い幻覚症状に襲われ、見境なく暴れ回った後、死亡する。

ヴォルガーがこれを最初に食べないとしても、同席した誰かが食べればひと騒ぎ起きるだろう。

狡猾なやつのことだ、まあ間違っても最初に食べたりはしないだろうな。

あいつはたまに食事する場所を適当に変えていた。

ナティア家のほうがよっぽどいい料理が出るだろうに、時折なんの変哲もない安っぽい屋台などで気まぐれに食事をしたりしていた。

ランダムに食事場所を変えるのは普段から毒を警戒している者の動きだ。


 でも別にそれで構わない。

僕の目的はシャブの実によるヴォルガーの殺害じゃあなくて、この騒ぎでヴォルガーを屋敷から遠ざけることだ。


 あの辺りは前回僕がメイドを使って襲撃してからかなり警備の人数が増やされている。

それらを倒すのに別にどうということもないけど、できればヴォルガーと戦う前に無駄な魔力を使いたくはない。


 屋敷の外に出ればこちらに分がある。

僕の人形たちが自由に使えるし、それに…切り札も用意してある。


 計画を立て終えた僕は、ウィンドミルにある犯罪組織の一つからシャブの実を入手した。

これは別に僕の関与している組織じゃないけど、シャブの実を取り扱っていることは知っていた。

いくら禁止していても法を破る者は必ず、どこにでもいる。

こういう馬鹿なやつらは僕にとっては現地で使える便利な使い捨ての駒になるだけだ。


 そしてナティア家の料理人が二人、買い物に出ていたところを捕まえて魔法をかけた。

屋敷の重要人物は常に警護がつけられているが料理人まではさすがに重要視されてはいなかったので特に苦労はしなかった。


 片方の料理人は僕が直接操作することにして、もう片方を命令を与えて動かすようにした。

僕一人だと屋敷の勝手がわからないので面倒なことはもう片方にやらせるためだ。


 屋敷に戻るとすぐ食事の支度をするよう他の料理人から命じられた。

今日ここで、客人を含めて食事をすることはもう片方の料理人から聞いて知っている。

ヴォルガーもそこにいる。

奴が戻るギリギリを狙って僕も屋敷に潜入したんだ。


 まあ僕は料理なんかできないので作るフリをして片方のやつがサラダを作るのを眺めていただけだ。

他の連中はそれぞれ別メニューを作るのに忙しくていちいち僕のことなんか見やしない。


 料理はすぐ出来上がった、特に怪しまれることはなかった。

味見として他の料理人がドレッシングを調べたくらいだ。

前菜としてこれがまず出される、僕はメイドが台車にそれらの料理を乗せて運んで行くのを見守った。


 どれくらいで騒ぎになるかな…と思っていたら、予想外の早さで何者かが調理場に飛び込んできた。

以前に僕の操るメイドと戦った、黒髪のエルフ族のメイドだ。

名前は確か…ルビーだったかな、こいつも多少警戒すべき相手として一応少しは調べていた。


「先ほどの料理を作ったのは誰です!!」


 どうやらもうバレたらしい、来るのが予想以上に早いな。


 怒鳴り声をあげて入って来たルビーを見て、調理場にいた者は驚きつつも、尋常ではない様子だと悟り誰かが僕の方を指さした。


 するとルビーが即座に僕の方へ近寄り、胸倉を掴んで捻りあげた。

女のくせに男を片手で持ち上げるとはすごい力だ。

振り払って逃げることもできるけど…まだヴォルガーの姿がない。

あいつは出てこないのか?何をしてる?


「お前が何をしたかはもうわかっています、どこの手の者ですか?狙いはなんです?正直に吐けば苦しい思いをせずに済みますよ」


 ルビーが僕に向かってそんなことを言っていた。

僕はヴォルガーがどうなったのか確かめるため言葉を返した。


「な、なんなのですか突然…苦しい…やめてください、僕は何も知りません」

「…これに見覚えがありますね?」


 僕の目の前に白い何かが付き出された。

シャブの実だ、ルビーはどうやら証拠をしっかり持ってきていたみたいだ。


「そ、それがなにか…」

「これはシャブの実という毒物です、お前が作った物に入っていました」


 やり取りを聞いていた他の料理人たちがざわつき始めた。

皆信じられないといった顔でこちらを見ている。

この辺が限界かもしれないな。


「…ふう、よくご存じですね、その通りです、何人食べましたか?」

「貴様…」

 

 ルビーの表情が歪んだ、相当怒っているな。


「解毒方法は僕しか知りませんよ、僕を殺したら方法が…」

「そんなことはもう必要ありません、被害者は治療済みです」


 ヴォルガーか…やはりあの男、毒程度ならいくらでも回避策があるんだな。


「はったりですね」

「こちらには万能な馬鹿がいるのを知らないのですか?毒を盛るならもっとあの男のことを調べてからやるべきでしたね」

「万能な…馬鹿…?」


 聞き間違いか?そう思った瞬間ヴォルガーが調理場に飛び込んできたのが見えた。


 来た!

僕はもう片方の命令を与えていた料理人にハンドサインを送った。

その男には合図を受け取ったら、僕たちを拘束しようとする相手を妨害した後、眉間にナイフを突き立ててすぐに自害しろと命令してある。


 サインを理解した男はスープの入った寸動をルビーの死角から蹴り飛ばした。


「ルビーさん危ない!!」 

  

 ヴォルガーが瞬時に動いてルビーをかばった。

凄まじい速さだった、だが身を挺してメイド一人をかばうとは。


「あっつ!あっつ!魔法で防げばよかった!」


 スープを浴びたヴォルガーは熱がっている。

その光景に一瞬我を忘れかけた。


 だがすぐに命令を与えていた男が自分の眉間にナイフを突き立て、周囲から悲鳴があがったことで我に返った。

僕はルビーの拘束を振りほどき、調理場の裏口から外へと飛び出す。


 さあ着いてこい。

僕は後方を確認しつつ、庭を走り抜ける。

この体は僕の魔力で強引に限界以上の能力で走らされている。

常人では追いつけるはずのないスピードだ。


 だがヴォルガーならば追いついてくるだろう。


 また後ろを少し振り返る。

思った通り、僕のことを追いかけてきている。


 ただ…ヴォルガー以外にルビーと、もう一人女がいる。

あいつは確かナティア家の娘…そういえばさっきヴォルガーと一緒に調理場に来たな。

なぜあいつまで着いてきているのかわからないがまあいいだろう。


 それにしても本当に驚異的だ。

三人もこの僕についてこれているなんて。

これもヴォルガーの魔法によるものなのか?

どうやらあいつは同時に複数の人間を強化できるらしい、また一つ君のことが知れて良かったよ。


 僕が操る体はもう街中まで走ってきている。

こいつ自身の魔力はこの体の生命維持に全力で使われて…それももうほとんど残っていないだろう。

死ぬ寸前の体を僕の魔力で強引に動かしているだけだ。

完全に死んだら僕の魔法は解けてしまう、それだけ気を付けなくては。


 分かれ道のある路地に来た。

僕は左の方向へ進む。


 残り1分もこの体はもたないだろう、そんなことを考えた辺りでもう一度後ろを見た。


 僕に着いてきているのはルビーだけだった。

分かれ道で二手に分かれたんだな、ちょうどいい。


 僕は<ライアー・アンド・ドールズ>を解除して自分の本体へ意識を戻した。

今頃きっとルビーの目の前では、走り続けていた男の足の骨が砕け、筋も切れて派手に転げているだろう、そして近くで見て、ルビーはその男が死んでいると気づく。

そこに僕の痕跡はなにも残らない。


 本体に戻った僕は、僕の本体を守らせていた人形たちに命令を出す。

こいつらは人間そっくりだけど…ホムンクルスだ。

だから人形と変わらない、僕の魔法で何度でも命令できる。

人形ゆえに言葉は発せないが、戦闘要員としては僕が作れる物の中で最高レベルだ。


 その人形を使って、ルビーとは逆方向の道へ進んだヴォルガーを取り囲んだ。

ヴォルガーはナティア家の娘をなぜか背負っている。


 思う様に身動きの取れない今が絶好のチャンスだと思った。


 だと言うのに…


「…くそっ、どうなってるんだアイツの体は!!」


 ヴォルガーは僕たちと戦うことを一切せず、即座にその場から逃げ出した。

女を背負ったまま、異常な身体能力で強引に包囲から抜け出したんだ。


 必死に逃げるヴォルガーを追う。

追いかける側がさっきとは逆転した。


 それにしても一目散に逃げ出すとは思わなかった。

ヴォルガーは魔王を倒すのが目的なんじゃあないのか?

それよりもあの女を助けることを優先したということか?


 とにかく逃げ出すということは僕に十分勝ち目があるのを意味している。

今の状況はヴォルガーにとって不利なんだ、絶対見逃すわけにはいかない。


 だけど…ウィンドミルの南東辺り、ほとんど街の外れ付近でヴォルガーを見失ってしまった…

この辺りにいるのは間違いないはずなのに居場所がわからない。


「あああああ!捜し出せ!!絶対にここから逃がすな!!」


 僕は人形たちに周囲の探索を命じた。

また逃げられたら最悪だ、僕の人形も永遠には動けない。

持久戦になると人形たちに魔力を補充しなくてはいけなくなる…


 だから僕は隠しておいた切り札をここへ持ってくることにした。  

これまでのヴォルガーの行動で、それは十分通用すると確信したから。


 やがて人形の一体がヴォルガーの隠れているボロ家を発見した。

ナティア家の娘も一緒だ。

まだ運は僕に向いていた。


「いるのはわかってる、大人しくすればお前たちに危害は加えない」


 ボロ小屋の中に向かって僕はそう問いかけた。


 だがこれは僕であって僕じゃあない。

この体は適当に近くで捕まえてきたウィンドミルの住人だ。

僕の魔法で操作し、代わりに喋らせている。

そのままヴォルガーと何度か言葉を交わし、交渉に持ち込んだ。


「わかった!外に出よう!ただし小屋を囲んでる連中を引かせろ!これから先、勝手に小屋へ近づいたら攻撃の意思があるとみなす!その場合俺は…人質よりお嬢様…カルルナティアを優先するため問答無用で反撃する!」


 ここで僕は切り札を使った…それは人質だ。

ヴォルガーの大事な大事な女をこの場へ連れてきたんだ。


 あんなことを言っていたが僕にはわかるぞ。

お前はきっと人質を見たら、必ず助ける、そういう男だ。

今そのカルルナティアをかばっていることこそ、お前がそういう人間だという証拠じゃあないか!


 ヴォルガーが小屋の外へ姿を現した。


「とりあえず自己紹介してくれない?でないとお前のこと変態ストーカーブラックマンって呼ぶしかなくなるよ?」

「…フフ、いい…だろう、こちらの名を教えよう」

 

 思わず笑ってしまった、だってストーカーなんて言葉、久しぶりに聞いたから。

ヴォルガーはどこでその言葉を覚えたんだろう?

ブラックマンというのも英語を理解していなければ言うはずのない言葉だけど…


 いや今は余計なことを考えない方がいい。

目の前の敵に集中するんだ。

こいつは油断できない、気を逸らした瞬間、攻撃してくる可能性だってある。


「俺の名は…魔王…魔王ドールオタ」


 僕はあえて、先に自分からそう名乗った。

この今会話している男こそ魔王だと思わせたかったから。


 するとヴォルガーは少し驚いているように見えた。


「魔王が直接出て来るとは思わなかったようだな」


 僕のことを知っているこいつからすれば、きっと人形だけで対処して来ると思っていたに違いない。

まさか本体がこうして直接目の前にくるとはさすがに予想外だったみたいだな。

まあ、それも半分嘘ではあるけどね。

確かに僕の本体はここにいるが、今会話しているのは僕の本体じゃあない。


 このままのペースで僕は交渉を押し切ることにした。

途中、しつこく料理人を殺したのがどうだとか聞かれてついイライラしてしまったけど。

こちらに人質がいることを告げ、その顔を見せてやったとたん絶句したヴォルガーの顔を見たら、幾分か気が晴れたよ。


 そう、僕がヴォルガーのために用意した人質は…ヴォルガーの婚約者だ。

どういう縁でそうなったのかまでは知らないが、ヴォルガーはミュセロレリアという名のエルフ族の女と婚約していた。

僕はその女を捕らえ、魔法をかけて操り、この場に連れて来たんだ。


 そして僕はミュセロレリアを捕らえた時、閃いたんだ。

これを使えば、ヴォルガーを…勇者を僕の手駒にできるのではないかと。


 これから先バックアップの無い僕は、絶対に今の体で死ぬわけにはいかない。

僕自身をこれまで以上に守る必要があるんだ。


 ヴォルガーという男はその能力から見て、他者の強化や治療を得意としているのは明白だ。

その力は今の僕にとって一番必要な物。

僕はなんとしてもヴォルガーを手に入れたかった。


 だけどそのために僕の本体で直接ヴォルガーに触れて魔法を使わなくてはならない。

これは強者相手にはかなりリスクが高い行為だ。

ヴォルガーに近づいた途端、なんらかの魔法で攻撃されるのはわかりきっていた。


 僕は人質を返す代わりにヴォルガーへ仲間になるよう命じた。

当然、僕の魔法を知るやつにとっては操られて仲間になることだと伝わっている。

それでもヴォルガーはそれに「わかった」と返して来た。

きっと僕に近づけさえすれば人質も僕も何とかできると思っているに違いない。


 そう読んで人質をヴォルガーの元へ先に返した。

ミュセロレリアにこっそり、ヴォルガーに近づいてナイフで襲い掛かれと命令して。


 ミュセロレリアがヴォルガーの元へ歩いて行く。

ヴォルガーは顔色一つ変えず…突然襲い掛かってきたミュセロレリアを拘束した。


 なんて男だ!婚約者に襲われても平然としてるとは!

でも僕はそれすら読んでいたよ!!

お前が冷静に婚約者へ対処するって!


 僕はミュセロレリアの後ろから飛び出し、ヴォルガーの足元へ滑り込む。

ずっといたんだよ、君の婚約者の羽織ったマントの中に…!

この瞬間を待ってたんだ!!


 僕は今、10歳程度の子供の姿をしたホムンクルスの体に精神体を移し活動している。

ホムンクルスの外見は通常…精神体の影響を受けて勝手に変化してしまう。

だが僕はそれを無視して別の姿に固定することができる!

このことはこれまで誰一人として一切教えたことがない!


「<ライアー・アンド・ドールズ>」

 

 僕はヴォルガーの足に触れながらそう言った。


「これで僕の勝ちだよ」


 ヴォルガーは何も答えない。

ただその場に立ち尽くしていた。


 次に僕が命令するまで、ずっと。

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