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<ライアー・アンド・ドールズ>1

悪の秘密結社の怪人役とかでもいいから誰か俺を一生腰痛の無い体に改造してくれ

 僕の魔法はなんらかの物質に直接、手で触れながら唱えるとそれが僕の思い描いた通りの人形に変形する効果がある。

地面に使えば土が盛り上がって人型になるし、木に使えばなにも道具を使わなくても自在に削って木彫りの人形ができる。


 そうして出来上がった人形の体に『liar』とアルファベットで文字を刻む。

なぜそうしなくてはいけないのかわからないけど、それが僕の魔法の仕上げみたいなものなんだ。

その文字が刻まれることで人形は僕の意思で自在に動かせる操り人形に変わる。

そしてその文字が消えたりすると動かなくなる。


 なんだったかな…前に誰かがこの話を聞いて、ゴーレムの伝承みたいだねって言ってた気がする。

誰だっけ…ええと…先生じゃなくて…まあいいか、誰でも。

これを言われた時、すごく不愉快だったことだけは覚えている。


 だって僕以外にもそうやって何かを操る魔法が使える人はたくさんいたんだ。

話に出てきたゴーレムだって扱える人がいた。

そいつは僕と違って人間と同じ大きさじゃないものも作れた上に、人型以外の物も作れた。

僕の人形とそいつのゴーレムが戦ったら、負けるのは必ず僕のほうだった。

僕がどんなに人形の数を揃えても…相手は巨大なゴーレムを出して力で押し切ってくるんだ。

何体も僕の人形が踏みつぶされて死んだ。


 嫌なやつと言えばネクロマンサーと呼ばれてた女の子も大嫌いだったな。

彼女は人や魔物の死体を操る魔法が使えたんだ。

ゴーレムに比べたら弱い相手だったけど…僕とは数が圧倒的に違った。

僕が一つの人形を完成させるのに必要な魔力と、彼女が一つの死体を操るのに必要な魔力は全然違ったんだ。

こっちが必死に100体の人形を用意しても…相手は1万の死人の軍団を繰り出して来た。

僕の人形はアンデッドの群れに押しつぶされて死んだ。


 憎かった、悔しかった。

僕があの人から貰った魔法が、弱いと言われるのが何より我慢ならなかった。

だから二人とも、僕が殺してあげた。

嫌なのを我慢して、ゴキ君たちの仲間になってまで復讐した。


 ゴキ君…魔王コックローチは嫌なやつだったけど、この世界で生き抜く方法をちゃんと考えていた。

まず常にゴキブリたちを使って自分たちの周囲数キロを監視し、敵がいないか確認していた。

それから魔王ロリコニアの魔法をエサにこの世界の権力者に取り入っていた。

不老というのは権力を持つ者にとって非常に魅力的に見えたらしい。

世界が変わっても、人間というのは結局そういう生き物なんだろうね。


 ともかくそうやって築き上げた陣地を完全にしたのが残る一人、魔王ケモニストだ。

彼の魔法で不老につられて来た権力者たちの体に乗り移り、記憶を読み取っていた。

そしてこの世界の勢力、秘密、他の地域にいる魔王の情報を得ることで三人は自分たちの優位をたもっていたんだ。


 僕はなんとかして彼らのグループに入るため、洗いざらい僕の魔法について打ち明けた。

でも話に食いついてきたのは魔王ロリコニアくらいで、しかも僕の魔法では本物の人間そっくりの人形は作れないとわかると、すぐに興味を失っていた。

たぶん彼はなにか変なことに僕の人形を使う気だったんだろう。


 でも僕は彼らに縋るしかなかったんだ。

他の人たちは仲のいい者で大体最初に固まってしまっていた。

地球から来た僕たち全員が<ソウル・イーター>という一撃必殺の魔法を持つ以上、みんなもう、信用できる人としか絶対に組まなかったんだ。

魔王コックローチたちは言わばそういったグループからはみ出した者の集まりだった。

だからこそ…僕はそのグループに賭けるしかなかった。


 だけど僕の当てが外れ、交渉に行った場でおぞましい数のゴキブリに取り囲まれた。

魔王コックローチの操るゴキブリはただのゴキブリじゃあない。

それら一匹一匹が、魔力をまとい鉱石のように硬く、異常な速さで動き回る。

僕は死を覚悟した。


 でも僕は死ななかった。

僕が死なずにすんだのは魔王ケモニストの一言があったから。

その一言が未来を変える一言だったのは間違いない。


「お前の魔法って、人に使ったらどうなんの?」


 僕はそれまでこの魔法は生き物には使えないと、そんな風に思い込んでいた。

だけどそれは間違いだった。

僕の魔法は生き物に使うことでも効果があると気づいたのはその時だ。

きっと他人に乗り移って操るという魔法を扱う魔王ケモニストだからこそ、すぐその発想に至ったんだろう。


 僕の魔法<ライアー・アンド・ドールズ>は生物に使うとその生物を二通りの方法で操ることができる。

ひとつは完全に僕と感覚を共有して遠隔操作する方法。

これは魔法をかけた相手を僕の思い通りに動かせるんだけど、僕の本体がある程度近くにないとできないという点と操作中は僕の本体が完全に無防備になる欠点がある。

それに魔王ケモニストの魔法と違って操ってる相手の記憶なんかは全く読みとれない。

だからその人物の持つ魔法も使えない。

ただ僕の魔力で肉体を強化できる程度だ。

あと魔物には使えない、たぶん僕が魔物の体の構造を理解してないからだと思う。


 もう一つは催眠術のようなものに近い。

簡単な命令を与えて、それを実行させることができる。

例えば…キャバクラで働いてある客の相手をしろ、料理に毒を盛れ、捕まりそうになったら自害しろ、全力で走ってある地点まで行け、僕が命令するまで黙って立ってろ…とかね。

これは魔物にも使える。


 すごく便利なように見えてこれも落とし穴がある。

遠隔操作と違って感覚を共有していないので実際に命令通りのことをしてるかどうかは離れていると僕にはわからないこと。

そして僕の命令をどう解釈するか、魔法をかけられた者によって違いが出てしまうこと。

特に魔物は馬鹿だから思うようには扱えない、仮にキャバクラにいるやつを襲えって言ってもキャバクラが何か理解できなくて何もしないでじっとしてたりする。

多少日本語が通じるだけマシだと思う程度にとどめておいたほうがいい。


 そして…最悪の欠点は同じ命令は同じ人物には二度使えないこと。

迂闊に「僕の質問に答えろ」なんて命令を与えてしまうと、一つの事柄について答えを聞いた時点で命令を完了したとみなされ、それ以降もう質問できなくなってしまう。

だから何か知りたい時は質問する相手に別の制限をかけて尋問するしかない。


 この現象がなんとかならないかと思い試しに「一生僕の質問に答え続けろ」と命令してみたことがあるが、一度質問した直後、命令を与えた人物は自害してしまった。

僕は死ねなんて命令していないのにもかかわらずだ。

恐らくだけど矛盾した命令を与えてしまうと無理やり力技でどうにか矛盾を消そうとしてしまうんだろう。

この命令の場合「一生」という点をどうにかしようとして勝手に死んだのだと思う。

僕の<ライアー・アンド・ドールズ>の効果は永遠じゃないからね。

消費した魔力の量に応じて操作できる時間が変わってくる。


 いろいろと不便なことはあるが僕はこの魔法を使って今日まで生き残って来た。

この魔法のおかげで魔王コックローチたちの仲間になり、ホムンクルス計画のためにどうしても必要だったミスト君たちのグループにも入り込むことができた。


 ミスト君は本当に良くやってくれた。

僕がありったけの魔力を込めて<ライアー・アンド・ドールズ>をかけたかいがあった。

死ぬまでに僕がルグニカ大陸からこのルフェン大陸へ、女神たちにもバレないよう移動できる手段を残してくれた。

400年前にルグニカ大陸のダンジョンでゲートクリスタルを起動したとき、本当にどきどきしたよ。

これでようやく準備が整たったんだなって。

生き残った他の魔王を始末するための準備が。


 ルフェン大陸に来て400年かけ、僕は完全な陣地を築き上げた。

今や大陸中央を支配するリンデン王国は僕の国と言ってもいい。

アイシャ教だって僕の傀儡だ。


 全ての準備が整って、予定通り魔王コックローチをこちらへ呼びよせた。


 でも…何かおかしなことが、予定とは違う事が起こり始めた。

結果だけ見れば魔王コックローチと、魔王ロリコニア、魔王ケモニストのバックアップも始末できたから全く違うとは言えないのだけど…


 そもそも魔王コックローチは土の女神を倒した後、出て来るであろう光の女神にぶつけるつもりだった。

それであわよくば相打ち、どちらかが生き残ればそれを僕が始末するはずだったのに…


 実際はどうなった?

土の女神は倒されていない、光の女神も出てこない、それどころか僕の全く知らない誰かに魔王コックローチは倒されて帰ってくる有様。


 それになにか<ソウル・イーター>にも異変が起こり始めた。

僕の知らないところで何かが起きてるのは確実だった。


 そんな折にサイプラスに潜ませているエルフ族たちから報告があった。

そのエルフ族たちは僕が<ライアー・アンド・ドールズ>をかけて命令を与えている者たちだ。

普段はシルバーガーデンという街を拠点にホムンクルス作成のために必要な素材をマグノリアから秘密裏に調達する役目を与えている。

魔王教と呼ばれている集団のひとつでもある。


 報告の内容はあの街にあるダンジョンで隠し通路が発見され、それを発見した者が自らを勇者だと名乗っていたというものだった。


 僕は直感的にそれが魔王コックローチを倒した者ではないかと思ったのだが勇者と名乗ったのはエルフ族の男だと聞かされた。

魔王コックローチはエルフ族と戦ったとは言っていなかった。

混乱した僕は直接自分の目で確かめるべく、サイプラスに向かった。


 シルバーガーデンに着いた時、その者は既に街にはいなかった。

どうやらダンジョンの隠し通路がその者が借りていた家に通じていたのが原因で、現地の誰かが強引に家から追い出したようだ。

余計なことをする。

<ライアー・アンド・ドールズ>の欠点が出てしまった。

命令外のことは勝手に自己判断で解決する場合があるんだ。


 隠し通路を確認するかどうか聞かれたが僕はそれを無視した。

あのダンジョンは嫌いなんだ、アンデッドが出て来るから。

昔のことを思い出して嫌な気分になる、なるべく近寄りたくない場所だ。


 そんなことより勇者と名乗った者の行方を探す方が先決だった。

幸いにもその者の行方は簡単にわかった。

ウィンドミルのちょっとした有名人だったんだ。


 行方はわかったけれど、すぐにウィンドミルまで移動するかどうか僕は迷った。

魔王コックローチが土の女神を襲撃したことで魔王の存在が伝わるとは思っていたが、どういうわけか魔王は二体いると各国の者たちが勘違いしていたんだ。

どうやらアバランシュ近辺で活動させていた魔王教の者が、ホムンクルスが一体紛失したのを魔王が復活して動き出したのだと思い込んでいたことに原因があるらしい。

普通なら誰かが移植手術のためにでも勝手に持ち出した、で済む話だったんだろうけど、後に魔王コックローチが復活してしまったことでその話に信憑性が増してしまっていた。

タイミングが悪いことこの上ない。

リンデンの田舎のほうだからって甘くみて放置しすぎちゃったのがいけなかったか。

リスク分散のために僕が直接支配する場所以外でもダミーとしてホムンクルスを作らせていたのが裏目に出てしまった。


 その件があって多少遅れてしまったが結局、僕はウィンドミルまで赴いた。

そして噂の勇者の居場所を見つけ、奴が本物かどうか調べるために、勇者の住む屋敷で働いているメイドを一人、遠隔操作で操ってその屋敷で騒ぎを起こした。

僕が人を操れるということは魔王コックローチと魔王ロリコニア、魔王ケモニストしか知らないことだ。

その三人が死んでしまった今ではもう誰も知らない。

女神たちは僕の魔法のことを、人形を作って戦わせるだけの魔法だと思い込んでいる。


 だから僕の仕業だとはまずわからないと踏んで勝負に出た。

僕の操作するメイドは一般人だったが、僕の魔力によって相当強化されていた。

こちらでいう2級冒険者クラスの身体能力はゆうにあっただろう。

勇者に勝てないとしても噂の真偽は確かめられるだろうと思っていた。


 思っていたのに…!

僕を倒したのは屋敷にいた別のメイドだった!

だがそいつは勇者などではない!

僕はそいつの傍にいた黒髪の男こそ、勇者だと気が付いたんだ!


 そいつが何か魔法を使った後、明らかに敵のメイドの身体能力が変わった。

光魔法にある強化系の魔法に近いものだろうが僕が知っているものとは性能が全く違った。

それになんとそいつは…気絶したフリを続けていた僕の<ライアー・アンド・ドールズ>を強制的になんらかの魔法で解除したんだ!


 これまでそんな魔法を使う相手には出会ったことが無かった。

だがダメージを受けすぎて僕の集中が途切れ、操作できなくなった可能性も捨てきれない。

やつの魔法が確かなものかどうか確かめるべく、次は別の人物を操ってやつに近づけさせた。

今度は僕が直接操作せず命令を与えるタイプのやつを使って。


 やつが良く利用しているというキャバクラに一人の女を送り込んだ。

やつ…ヴォルガーというその男に近づいてなんでもいいから話をして、三日後に僕のところへ報告に来い、という内容の命令を与えてだ。


 三日後、女は報告には来なかった。

それどころか以前に働いていた場所に戻っていた。

自分がなぜキャバクラで働き始めたのかわかっていないようだった。


 僕の魔法は確実に解除されていると見て間違いなかった。

つまりそれは…僕の能力が完全にヴォルガーにはバレているということ…!


 一体なぜ!?どうやって僕の魔法に気づいたんだ!?

そんな能力を持った勇者を送り込んで来るってことは前々から女神たちが僕のことに気づいていなきゃできるわけがない!

僕は今まで泳がされていただけなのか!?


 焦る気持ちを抑え、僕は身を隠してヴォルガーを観察することにした。

恐ろしくもあったが、目を離すわけにはいかなかった。

なぜあいつは僕のことを知っていながら、何も仕掛けてこない?

まるで僕のことなんか知らないような感じで毎日キャバクラに通ったりしているだけだ。

僕が油断して目を離すのを待っているのか?

その瞬間…僕に…


 ヴォルガーは今まで見てきたどんな勇者よりも狂気に満ちていた。

恐るべき力を持っていながらやることと言えば大きな屋敷でダラダラ過ごしているか、街に繰り出して酒を飲んで遊んでいるだけ。

いかにもさあ今がチャンスだぞ、かかってこいよと僕に向けて言っているかのようなその態度が、何よりも狂気に満ちているとしか思えなかった。


 僕は決断できないまま怯えた子犬のように隠れて日々を過ごした。

リンデン王国にある本拠地に一度戻るべきかとも考えた。

あそこなら僕が特別に用意したホムンクルスの部隊が大量にいる。

今も多少連れて来てはいるが50体では何の意味もないような気すらしてきていた。


 だけどもしかしたらヴォルガーはそれが狙いなのかもしれない。

僕が本拠地に逃げ帰るのを待っているのかもしれない。

僕の後をつけて全てのホムンクルスを徹底的に叩く気かもしれない…


 そんな風に考えているとなんとやつが今までとは違う動きを見せた。

風の女神の神殿に向けて移動したのだ。


 僕の頭に最悪の可能性が浮かんだ。

それは…ヴォルガーが風の女神の力を借りて、僕をあぶりだそうとしているのではないかということ。


 今すぐ逃げる…いや、駄目だ!

魔王コックローチを殺した今、もうバックアップは無い!

今ここにいる僕が全てなんだ!

僕が最後の魔王であり、頂点なんだ!


 その僕が逃げるというのは、あってはならないことだ!

ここで逃げたらかつての…惨めな僕に逆戻りしてしまう!


 僕は覚悟を決めた。

今ここで、ヴォルガーと戦い、勝ってみせると。

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