割と失礼な宿屋
村娘という響きが好き。
「ここが僕たちの故郷、ナクト村です」
俺とカイムとキッツの3人は無事村までたどり着いた。
途中でまた棍棒もったゴブリンが出てきたけどもカイムにあっさり斬り殺された。
グロかった。
しかしグロさには既に慣れつつある。
なぜならアイシャとの生活中にプレイしたリアルほわオンで、最初は二人で街をぶらつくデートだったはずなのに数日後にはレベル上げをしたいと言われて魔物を虐殺するただの狩りになっていたから。
その時にグロいものをさんざん見せられた。
「俺は村長と話をしてくる、クルトのこともあるしな。ヴォルガーさんの案内はお前に任せるぞ」
カイムはどうやら森のことを報告にいくようだ。
キッツに俺の案内を任せて走って行ってしまった。
「じゃ、どうしますヴォルガーさん。とりあえず飯でも食いに行きますか?奢りますよ」
腹は減ってるからそれは有難いんだが…
「いいけどキッツはその恰好を先にどうにかしたほうがいいんじゃないか、血生臭いぞ」
「あ、そういやそうですね、腹を刺されたんでした。いやぁ、すっかり治ってるから忘れてましたよ」
この血生臭い状態の男と飯は食いたくなかったので
先にキッツたちが泊ってるという村の宿屋に向かった。
「故郷なのに自分の家族の家はないのか?」
「僕とカイムと、クルトは…皆、親を早くに失くしてしまって。それで3人で街に行って冒険者になろうって決めたときに元の家は他の村人に安く売ったんですよ」
「そうか、苦労してるんだなぁ」
なかなか厳しい世界なんだな、と思ったが
俺も金もなければ家も無いので他人事じゃないなこれ。
キッツに兄弟とかいないのかとも聞いてみたりしながら
歩いていたら宿に着いた。結構、日も暮れてきた。
ちなみにカイムだけ、姉がいるらしいが
若いころにどっかの街に嫁入りしてるそうだ。
それより腹減ったな。
ちょっと他より大きいけどここまでに見た他の建物と
そんなに変わらないな、それが目の前の宿屋を見たときの感想。
基本、木造建築なんだなこの村は。
間違っても現代日本風の家は建ってなかった。
「あ、キッツお帰り…その恰好どうしたのよ!?」
「ただいまケリー、色々あってね…あれ、おかみさんは?」
中に入ると店番だろうか、若い女の子がいて、キッツに話しかけてきた。
しかし茶髪多いなこの村、この子もそうだけど途中で見た
畑の世話をしてる村人もみんなそうだった、遺伝かな。
ケリーって子とキッツが話をはじめたので、ちょっと手持ち無沙汰になった俺は店の外で待つべきだったか、しかしこのタイミングで出ていくのも違うような、このカウンターはなかなかいい味を出しているなとか暇を持て余してそこら辺を見ていた。
チラ、と横目で二人を見るとケリーがキッツの話を聞いて驚いた顔を見せたり、続いて怒ったり、しまいには泣いたりしてたが推察するにキッツはこの子とデキてるんじゃないのか?
「とにかく僕は大丈夫だから…すいませんヴォルガーさん。すぐ着替えてきますんで、もう少し待っててください」
ケリーとの話を切り上げてキッツは宿の奥に見える階段をのぼって行った。
いや…気遣いはいいんだけど…
ケリーが明らかにまだ話したそうで、泣き止んでるけど目が赤くて、そして俺はそんな子と二人きりで気まずい。
「あ、ど、どうも…」
ケリーと目があってしまった。
「アンタ、誰よ?キッツたちのパーティーの人?」
客商売のくせに口悪いなおい。
もしかしたら俺が客かもしれないだろ!金持ってないけど!
「いや、村に来る途中で偶然会っただけだ、パーティーではない」
キッツよ、ちゃんと一言俺のことを説明してからいけ。
「ふうん、で、泊まるの?」
「え?」
「だからウチに泊まるのかどうかって聞いてんのよ」
「泊らない」
正確には泊まれない。無一文なので。
「あっそう、別にいいけどこの村はウチしか宿屋ないからもし泊まるんなら早めに言ってよね」
ケリーはそれだけ言うとカウンターに置いてあった
水さしを取り、そばにあった木のコップに注ぐと自分で飲んだ。
一瞬くれるのかと期待した。なんだよこいつ。
「キッツのこと好きなのか」
「ブフゥゥゥゥゥゥ!!」
ケリーの態度にイラっとしたので唐突に聞いてみたら口から水を吹いた。
汚ねえな…そしてわかりやすいな。
デキてる以前の問題だなこれは。
「はあ!?何?何言ってるの?」
「片思いなのか」
「かかっ、かた思ってないですけど!?」
なんてことだ…やはりイケメンだけあって村娘とのフラグくらい持っていて当然だったか。
「キッツがこの宿継いでくれたらいいのにな」
「なああああああ!?」
ケリーが顔を真っ赤にして俺のことを睨んできた。
これ以上はやめとくか、面白すぎて可哀そうかもしれない。
「なにかケリーの叫び声が聞こえましたけど…」
そこへ服を着替えたキッツがちょうど戻ってきた。
「ああ聞いてくれキッツ、実はこのケリーという子は…」
「ぎゃあああ、出てけっ!」
ケリーに宿の外に押し出された、なんて接客の店だ。
「こ、こらケリー!何してるんだ!?」
「ははは、いいんだよ気にするなキッツ君」
ケリーの行動に疑問をもったキッツが彼女の肩を掴んで止めた。
「とりあえず飯食いに行こう、そこで詳しく話すから」
「ま、待ちなさい!出ていくな!」
「ケリー!?さっきから何を言ってるんだ!」
出てけといったり行くなと言ったり忙しい子だな。
「食事ならウチですればいいでしょ!」
「え、ケリーのところは夜はやってないんじゃ?」
「いいの!今日はアタシが作るから!」
有無を言わさずケリーに今度は引っ張られて再び宿の中へ行く俺。
「アンタ、キッツに変なこと言ったら許さないからね」
小声で俺にそういうとケリーは店内のテーブルに俺を連れて行き椅子を引いて差し出してきた。
ここに座って待てということだろうか。
とりあえず座ってみた。
「ケリーが勝手にすいません、ヴォルガーさん、ここでもいいですか?」
「ああいいよ、構わない」
俺がそういうとキッツもテーブルの向かいに腰を下ろした。
「ケリーは結構料理上手いですから、味は保障しますよ」
「へぇ、そうなんだ、人は見た目によらないな」
「うるさいっ、大人しく待ってなさいよ!」
キッツの言葉を聞いてニヘラッと笑ったケリーだったが、俺の言葉を聞いてすぐさま怒りの表情でそう言うと店の奥へ行った。
さっそく作ってくれるのか。…ところでメニューとかないの?
「いつもはあんな失礼な態度をとる子じゃないんですけど…」
「そうか、それより何も聞かずに行っちゃったけど何を出してくるつもりなんだ彼女」
「ああ、パンとスープと…良くある一般的な宿の食事だと思います」
アイシャの家で食べたことあるやつかなぁ、と思いながら、俺はこの世界の地上で初めて食べる食事に少し期待しつつ、待つことにした。