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ぶちのめしたい

なんか立て続けにモニタ二台壊れて腰も壊れて虚無に取り込まれて現実逃避してました、申し訳ございません。

「…どうしますの?」


 お嬢様が小声で俺にそう問いかけてくる。

いやあ…どうしよう、もう一度闇雲に逃げるか?

少し休んだからお嬢様も多少走れると思うけど俺がかついで走ったほうが速いな。

そしてお嬢様にはナビに専念してもらえば今度はどこか、少なくともここよりマシな場所にいけるような気がしなくもない。


「いるのはわかってる、大人しくすればお前たちに危害は加えない」


 外から男の声がした。


「わたくしたちのこと、ばれてますわよ!?」

「…まあ、そうですね」


 危害を加えないとか言ってるけど…これまでのやつらの行動を考えると微塵も信用できないんだが…

 

「また逃げるつもりならやめておいたほうがいい、外には人質がいる」


 人質?なんだそれ、誰だよ?

まさかルビーさんが捕まった…?


「人質!?一体なんなんですのあなた方は!この街でこのわたくしにこのような無礼…むぐっ」

「すいませんお嬢様、ちょっとだけ黙ってて」


 むやみにヘイト買わないで下さいよ。

こっちは正直お嬢様をどうやって安全に逃がすか考えるので精一杯なんですから。


「人質?しょうもないハッタリ言いやがって!」


 外から聞こえる声にそう返してやった。

本当に誰か人質がいるかどうかわからない、ただこの状況で相手から声をかけてきたのは…再び鬼ごっこになったら俺たちを捕まえる自信が無いからこういう手段に出てきた可能性がある。

話をしてる最中に包囲を完全にするつもりかもしれない。


「そんなことを言っていいのか?表に出てきて自分の目で確かめた方がいいぞ…ヴォルガー」

「なに…」


 俺のこと知ってるんだろうなとは思っていたけど…なんで今ここで俺の名を呼んだ?

お嬢様じゃなくて俺から先に出てきて欲しいのか?


「ヴォルガー…」


 お嬢様がこちらを見つめている、くそ…そんな顔しないで下さいよ。


「…俺が先に外に出て人質を確かめる、お嬢様は家の中に…ただしあまり俺から離れないで」

「わ、わかりましたわ」


 よし…じゃあ行くか。


「わかった!外に出よう!ただし小屋を囲んでる連中を引かせろ!これから先、勝手に小屋へ近づいたら攻撃の意思があるとみなす!その場合俺は…人質よりお嬢様…カルルナティアを優先するため問答無用で反撃する!」


 反撃できないけどとりあえず言うだけ言ってみよう。


「…いいだろう」


 一呼吸あって外からそう返事があり、そしてすぐに複数の足音がこの小屋から遠ざかっていくのが聞こえた。

屋根にいたやつらもちゃんとどこかへ行ったみたいだな。


 俺は小声で<プロテクション>と<レジスト・マジック>を自分に、お嬢様には<ディバイン・オーラ>をかけ小屋の扉を開けた。


 扉を開けて正面、小屋からは15メートルほど離れた位置に誰かがいた。

一人ではなく何十人も。

全員顔はわからない…俺たちを追いかけ回していた黒ずくめの連中であるのは間違いなさそうだが。


「…なんの団体だよ」


 俺の視界にはかなりの数の人間が映っている。

だというのにそれらはまるで微動だにせず、言葉も発しない。

そこにいるはずのになんというか…気配みたいなものを全く感じない。

訓練された軍人のように綺麗に並んでいるだけだ、その光景はひたすら不気味に感じられる。


「ようやくこうして、直接話せたな」


 集団の中から一歩、前に出てきた者がいた。

声からして先ほど俺とやり取りをしていた男だろう。

こいつの声からも感情というものが全然感じられない。


「お前らは何なのか聞いてるんだが、人のこと散々追い掛け回しやがって」

「………」


 なんか言えよ。

話したかったんじゃないのかよ。


「とりあえず自己紹介してくれない?でないとお前のこと変態ストーカーブラックマンって呼ぶしかなくなるよ?」

「…フフ、いい…だろう、こちらの名を教えよう」


 えっ、半ば冗談で言ったけどマジで名乗るつもりか?

というかちょっと笑ったな、はじめて感情らしきものが見えたぞ。


「どのみち俺は名を聞かれたら、必ず答えなくてはならないからな」


 意外と律儀な…自分ルールとかなのか…?


「俺の名は…魔王…魔王ドールオタ」

「えっ?」


 …聞き間違いかな?

魔王って言った?


「魔王ドールオタとかおかしな名前が聞こえたんだが?」

「それであっている」


 えっ………。

ええええええ!?

魔王いるんかよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!

なんでえええええええええ!?

ゴキさんだけじゃなかったのおおおおおおおお!?


「魔王が直接出て来るとは思わなかったようだな」


 いやっ、魔王自体まだいると思ってなかったんだけど!?

なんで今、魔王に絡まれてんだ俺たちは!?


「言っておくが今回はもう負けるつもりはない…先手を打たせてもらうぞ、例え女神たちに俺のことが伝わろうとな」


 …やべえ何言ってんのか全然わかんねえ…

お嬢様…実は魔王に狙われてたの?何したの?


「…魔王がなぜナティア家を狙う?」


 内心の動揺を必死に抑えつつ自称魔王さんに話しかける。


「やめておけ、もうそんな小細工は通用しない、こちらは全てわかっている」


 こちらは何もわかっちゃいない、何をやめろって言ってんの?

主語を明確にして発言してくれ?


「確かに最初は混乱させられたよ、何せこれまでは必ず一人だったからな」

「ああ…?」


 わかんねえ話を続けられてる予感。


「まだとぼけるつもりか?…フ、まあ別にそれでも構わんが、滑稽なだけだぞ」


 こいつ頭大丈夫か?

一人で訳わかんねえ話続けやがって、お前が滑稽だよ。


「…どうした、反論もできないか、それとも今も機を伺っているのかな、だが忘れるなよ、こちらには人質がいるぞ」


 意味不明な話を続ける男の隣に、集団からまた一人黒ずくめが出てきて隣に立った。

そいつも顔を隠していて誰だかわからない、それが人質なのか?

でも今自発的に出てこなかったか?拘束されてる様子もない。


「そんな自由な人質がいるかよ」

「ははっ!間抜けが!俺が魔王ドールオタだと言ったことをもう忘れたのか!」


 いや覚えてるけどそれは。


「こいつも当然、俺の魔法によって意識を操作されているのだ!俺が一言死ねと命令すればこいつはすぐにでも自ら命を落とす!」

「なにっ!?」


 意識を操作!?

あっ、じゃあ今までのなんかおかしくなった人たちはこいつが犯人!?


「おっと、こちらに近づくなよ、小屋から離れろと言ったのはお前なんだからな?それに…お前の魔法が俺の魔法を打ち消せることも知っているぞ」


 そうだったのか!?

てことはやっぱ<キュア・オール>とか適当にかけてたことで狂ったメイドとかメグちゃんとかも治ってたのか!


 …じゃあ、ナティア家の料理人も…こいつが殺したってことだよな…

操って、自殺するように命令して…


「なんで…ナティア家の料理人まで殺す必要があった?シャブの実を俺たちに食べさせようとしたのもお前の仕業だよな?」

「勿論そうだとも、ただあんなに早く気づかれるとは思わなかった、お見事だよ、まさかマグノリアの植物にも精通していたなんてな」

「何で殺したんだって聞いてんだよ!」

「…お前がいるからだ…お前にこれ以上僕の魔法を汚されてなるものか!」

「ああ!?頭おかしいのかクソボケ魔王が!」


 逆ギレされた、なんかちょっと言い方も変だし。

よくわかんねえけどこいつは自分の魔法が俺に解除されるのが我慢ならねえってこと?

だったら仕掛けてくんなよ!


「あまり舐めた口を利くなよ、人質のことを忘れたのか?」

「い、いや忘れてない、今のは嘘」


 つーか人質は結局誰なんだよ。


「これはお前が最も大切にしている者だ…それがどうなってもいいのか?」

「俺が大切にしている者だと…」


 まさか…いやでもこんなところにいるはずがない…

だってあいつは今頃コムラードで…


 いや、ていうか俺に対する人質ってことはさ。

こいつの目的ってナティア家とかじゃなくて…俺…なのか…?


「さあよく見ろ!この顔を!」


 人質のフードがめくられる。

そこにあったのは…緑の髪にとがった耳を持つ女の顔。


「…あっ…」


 それはもう確実にどこからどう見てもミュセだった。

虚ろな目をしてどこ見てるのかわからない間抜け面でぼーっとしているミュセ。


「………」

「ふ、驚いたようだな…声も出ないか」


 …いやまあ、うん…

人違いですって言いたいところなんだが…

この勘違いぶり…恐らく魔王ドールオタはミュセが本当に俺の婚約者だと思ってるわけだ…


 微妙に中途半端な情報集められてんな…


 どう反応していいかわからずなんとなく後ろをちらりと見た。

お嬢様が家の扉からこちらを覗いている。

たぶんあの位置からではミュセがいることまではわかっていないだろう。


「一つ聞きたいんだが…お前の目的はなんなの?」

「決まっているだろう、勇者であるお前を倒すことだ」


 なるほど。

なんとなくわかりかけてきた。

俺、いつの間にか勇者になってたらしい。


「女神たちもやってくれたよ、まさかこんな勇者を用意しているとはな、こちらの大陸でただ安穏と過ごしているように見せかけ、その実、俺が現れることを予見し対策していたらしい」


 たぶんそんなんではないとは思う。

俺の出会ってきた女神の中にそんな頭のまわりそうなやついなかったよ。

俺をこの世界へ呼んだアイシャですらお前のことなんか一言も言ってなかったよ。


「とりあえず、俺さえどうにかできれば、人質もナティア家もお前にとってはどうでもいいのか?」

「そうだな、お前が死ねば別に他の者がどうなろうと知ったことではない、いちいち俺が手を下すことはしないということだ」


 ははあ…今までちょっかいかけてきたのは…あれ全部お嬢様とかセサル様関係なくて…

俺が狙われてたのか…


 よく考えたら全部の現場に都合よく俺がいたもんな。

俺が狙われてるなら俺がいないところじゃ事件は起こらないよな。


 ええとつまり…この魔王ドールオタはどこかで俺のことを知って、んで俺が女神の用意した勇者だと勝手に勘違いして、俺のことを一生懸命調べて現在に至る、ということだろうか。


 なんて迷惑なやろうだ…

勘違いで何度も狙ってきて、挙句無関係な人まで殺しやがって…

まさかこっち来て一番むかついた人間が、異世界人じゃなくて結局日本人だなんてな。

ちなみに一番むかついた神はフォルセだ。

両者を比べたらこいつはフォルセよりむかつく。

ミュセのことを俺が最も大切にしてる人物だと勘違いしてるのもかなり不愉快だ。


 だけどここでミュセをほったらかしにしてお嬢様連れて逃げるわけにもいかない。

別に好きでもなんでもないが見捨てるのもちょっと…できそうにない。

俺と魔王のごたごたに巻き込まれてるだけの可哀想な立場だからな。


 でも俺だって死にたくないんですけどおおおおおおおおおおお。

この魔王ドールオタは今すぐぶちのめしてやりたいけど俺にはできない!

この状況でお嬢様とミュセを助けて、魔王ぶちのめす手段なんですか!?

誰か教えてください!!


「さて、これでお前が死ねば他の者には何もしない…と伝えたわけだが、お前は信じないだろう」

「当たり前だ」


 むしろお前が死ね、とめっちゃ言いたい。

でもこいつ、簡単に人を殺すような人間だからな。

迂闊なことを言ってミュセが死んだら取り返しがつかない。

とりあえず我慢して話を聞く。


「そこで提案がある」

「なんだ?」

「お前は光魔法が使えるようだな」

「…まあ一応使えるな」

「その力、俺のために使え、そうすればお前は死ぬ必要もない、大切な者も無事に家へ帰そう」

「仲間になれってことか」

「そうだ」


 …いやいや、お前の魔法って人を操るんだろ?

これ100%俺操られるでしょ?


 …いやでも、わざわざ提案して持ち掛けてきたってことは、なんか人を操るのに条件みたいなのがあるのか?

簡単にできたら俺のこと操ってるよなもう…

たぶん俺には防御する手段があるんだ、だから警戒してる?


「返事は?」


 魔王が俺に問う。

賭けるか…一旦従ったフリをしてミュセに近づくことさえできれば…

たぶん<キュア・オール>で解放できる。


「わかった、仲間になろう」

「では人質をまずそちらへかえすぞ」


 ミュセがふらふらとこっちへ向かって歩いてくる。

えっえっ?普通にミュセを返してくれるのか?

じゃあ治すよ?あれ、勝った?


「ミュ…ちょ、おい!?」


 俺のほんの3メートルほど前まで歩いてきたミュセは突然マントを脱ぎ捨て、俺に飛び掛かって来た。

手にはナイフを握りしめている。


 俺はミュセの両手首を握り、拘束した。

何かあるよなーという気はしていた、しかしこの程度なら普通に対処して<キュア・オール>で…


「ヴォルガーーー!!下ですわ!!」

「なにが!?」


 お嬢様の叫びで視線を自分の足元へ向ける。


 子供!?

なんかいつの間にか小さい男の子が俺の足元にいるぞ!?

ミュセのマントの中にいたのか!?ていうか誰これ!?


「<ライアー・アンド・ドールズ>」


 男の子が俺の足に触れながらそう言った。


「これで僕の勝ちだよ」


 得体の知れない少年が笑みを浮かべて足元から上を見上げていた。


 まさかこいつがまお


 

 

 

 ………………


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