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あげられること

正月に親戚の子が来てもお年玉をあげないスタイル(金がない)

 怪しい集団に突然囲まれ、一時はどうなる事かと思ったが力の限り走ったおかげでとりあえず無事に逃げのびることができた。

いや違った、一部無事ではなかった、俺は無事だが訳あって共に逃げたお嬢様の乙女の尊厳的な部分は死んだ。


 不幸中の幸いと言っていいかどうかわからないがお嬢様は気を失っていたため、自身の尊厳が死んだことに気づいてはいなかった。

だがそれは同時に、俺へ新たな試練を与えてしまうことになった。


「わ、わたくしに何をしたのですわ!!」 


 はい、おはようございますお嬢様、無事目が覚めましたね、良かったです。


「気を失っていたのでベッドに寝かせました…ぼろいベッドだったんでむしろ床に寝かせるかどうか迷いましたけどね、まあとりあえず手を尽くしたらベッドは使えるようになったんでベッドでいいかなと最終的には判断して」

「そんなことではありませんわ!わた、わたくしの…スカートと下着が、室内に干されていたのはどういうことかと聞いてるのですわ!!」

「とりあえず落ち着いて聞いて下さい、変なことはしてません、俺はただ…気を失ったお嬢様からスカートと下着を脱がして、それを洗って、干しただけです」

「変態!!」


 バシーン、平手うちをされた、いい音はしたが特に痛くはなかった。

なあにこれくらいされる覚悟はしていたさ。


 それから錯乱したお嬢様に叩かれたり罵られたりされつつ、時が過ぎるのを待った。

やがてお嬢様が落ち着いた頃、当然のことではあるが、なぜそんなことをしたのかと問い詰められ、なにかもうどう考えても気を失った女の子のパンツをこっそり脱がして洗ういい理由が思いつかなかったので正直に「漏らして汚れてたので洗いました」と伝えた。


 するとお嬢様は固まって絶望的な表情になり、泣き始めた。

滅茶苦茶気まずかった。


「すいません!でもそのままにしとくわけにもいかないと思ったんです!だってほらデリケートな部分ですし…」

「うっうっ…でり…?…もう何を言ってるのかわかりませんわ…ともかく召使いは…わたくしの………その………見たのでしょう?」

「それはまあ…はい、意図してはないですけど、見ました」

「うわああああああああああん!!」


 いやだって見るよそりゃ、見なきゃ脱がせないんだから、嘘もつきようが無いよ。

しかしなんだ、こんなに泣かれるとは思ってなかった。

だってちょっと前のお嬢様は夜中に俺の部屋へ来ようとしてなかった?

それってもう、こんなのとは比べられないくらい、すごいことになっちゃってたはずだろ?


 内心ではそう思いつつもこう言う時、それを口に出せる男はまずいないだろう。

まあそもそも気を失った乙女の下半身の世話をしなくてはならない状況に陥る男性が世の中にどれくらいいるかわからないけど。


「うう…もういいですわ…」


 泣きわめいていたお嬢様も大人しくなってきた。

正座で黙って待機していたのが好をそうしたか。


「召使い!このことは誰にも言ってはなりませんわ!」

「はい」


 涙をぬぐってお嬢様が立ち直った。

ちなみにパンツもスカートも既にちゃんと履いている、恐らくではあるが隣の部屋で目が覚めた後、魔法で乾かしたのだろう。 


「それで、ここはどこですの?」

「分かりません、適当に逃げてたんで…お嬢様が寝てる間に周囲を少し見てきたんですけど、付近に家はいくつかあるんですが誰も住んでませんでした」

「そうですの…あの怪しい者たちはどうなったんですの?」

「撒いたとは思いますけど俺たちのことをまだ諦めてなければ街のどこかを捜し回ってるんじゃないですかね」

「…ならあまり外をうろうろしないほうが良さそうですわね…」

「俺もそう思います、もうすぐ日も暮れるのでしばらくここに身を隠しましょう」


 お嬢様はうなずくと床に座った。

それから俺たちは一体何が起こったのか、改めて話し合って考えることにした。


「最初から順に考えましょう、まず屋敷の料理人がなんのためにシャブの実…毒を料理に盛ったかってところですね」

「そうですわね…一歩間違えればわたくしも…ところで召使いはなぜすぐ毒だとわかりましたの?」

「ああ、マグノリアを旅してる時に同じものを森で採って食べたことがあるんですよ」

「そ、そうですの、よく生きてましたわね」

「魔法で体内の毒は取り除けますから、自分で解毒しつつもりもり食べてました、毒が無ければ結構美味しいです」

「…わたくしは一生食べないので味なんかどうでもいいですわ」


 それもそうだな、食べないにこしたことはない。


「あの料理人たちは長年屋敷に勤めている者たちでしたわ…それがなぜ突然あんなことをしたのか…」

「本人の意思じゃないと思いますよ」

「どういうことですの?」

「誰かに操られてた可能性が高いです、魔法でしょうね、以前メイドが突然おかしくなったのと同じですよ」

「ええっ!?」


 これに関して俺は間違いなくそうだと思ってる。


「なんでそんなことがわかりますの!?」

「厨房で一人死んだ料理人がいましたよね、あいつ…自分で眉間にナイフを突き立てて死んだでしょう」

「え、ええ…」

「あの時すぐ魔法をかければ助けられるかと思って近づいてよく見たんですけど、即死でした、頭蓋骨を貫通して脳にまで刃が届いてたんですよ」

「え、ええと、それはどういう…」

「つまりですね、自分の額を割る勢いでナイフを突き立てたってことです、どんなに鍛えてる人でも普通そんなことできませんよ、恐怖心で刃はぶれますし何より腹とかと違って額は固いんです、それを一気に貫くなんて不可能ですよ」

「でもあの男は実際にそうしましたわ?」

「だから自分の意思で自殺したのではないと俺は思ってるんです…誰かに操られてああしたと」

「な、なるほど…そういうことですのね」


 もしかしたらだけど、そんな方法で死んだのは俺に治療させないためだったのではないかとも思っている。

俺たちを狙ってる、誰だかわからない敵は…俺のことをどうやってか調べたんじゃないだろうか。

俺の魔法なら即死以外なら治療できることをわかってて、それを妨害するためにああいう方法で自殺させた。

そうでなきゃあんな死に方をする意味がわからない。

薬物で催眠状態にするとかそういうレベルじゃないんだ。

前のメイドもそうだったけど身体能力的にあり得ないことが起きている、そんな現象をこの世界で説明するとしたら魔法くらいしかない。


「ではもう一人の逃げた料理人も操られていたということですの?」

「え?ああ…たぶん、そうでしょうね、あの場で自殺しなかったのも作戦だったのかもしれません、俺たちが追いかけて来るとわかっててあえて逃げた、そして外で待ち伏せしていた連中が本命だったんでしょう」

「あの時二手に別れたのは間違いでしたわね…ルビーは大丈夫かしら…」

「…ルビーさんは強いから大丈夫でしょう、きっと」


 お嬢様は黙ってうつむいてしまった。

あの黒マントの連中がどれくらい強いかわからないが…あいつらにとってルビーさんはたぶん標的では無いと思う。

ルビーさんは食事を一緒にとるわけではなかったから、一番最初にシャブの実を口にすることはありえなかった。

だから違うと思うんだけど…確信がないので、残念ながらルビーさんは無事だと信じるほかない。 


 そこからしばらく沈黙が続いた。

もう少しお嬢様と相談したかったのだけれど、お嬢様は何か考え事でもしているのかずっと黙ってこちらと目を合わせようともしないので話しかけるのがなんとなくためらわれた。

今の状況に不安を感じているのは間違いないだろう。


 グ~~~~~~。


 お腹が鳴る音がした、どうやらお嬢様は不安以外に空腹も感じているようだ。


「………ひ、昼飯食べそこないましたからしょうがないですよ」

「…もう!最悪ですわ!なんでわたくしばっかりこんな恥ずかしい目に…」

「なにか食べるものがあればよかったんですけど…調べた限りじゃ何もなかったですね…あっても腐った物か…あるのは水くらいですね」


 お嬢様の濡れてしまった下半身をどうにかするために…いや変な意味じゃないけど、とにかく洗うために周囲を探索した時、家の裏に井戸があるのはわかった、水も綺麗だった。

あと隣の家のタンスに綺麗な布が何枚か残ってたくらい、食べられる物はマジでなんもなかった。


「わたくしのお腹がなったのは召使いのせいですわ!!」

「えぇ…」


 突然の無茶苦茶な言い分に困惑。


「召使いが美味しそうな匂いをさせてるのがいけないのですわ!」

「なんですかその理由…いや臭いとか言われるよりは嬉しいですけど…」

「いいから上着を脱いで早く洗ってくるのですわ!!」


 上着?上着がいい匂いがするのか?

ちょっと意識して上着の匂いを嗅いでみた。

鳥ガラスープみたいな匂いが確かに…ああっ、そういえば厨房でスープかぶったわ、あれのせいか。

今まで匂いに慣れ過ぎて全然気づかなかったわ。


「じゃあちょっと家の裏にある井戸で洗ってきます」

「洗ったらすぐ戻ってくるのですわ」


 井戸にいって水を汲み、上着をじゃぶじゃぶ適当に洗うと言われた通りすぐお嬢様の元へ戻った。


「わたくしが魔法で乾かします、上着を広げて持ってそこに立つのですわ」

「こうですか?」

「そのままじっとしてるのですわ…<ドライ>」


 ぶおーーーっとドライヤーの風みたいなのがお嬢様の手から出てきて、俺の上着はすぐ乾燥した。

なんか普通に温風当てただけではない勢いで乾いたよなぁ、やっぱお嬢様の魔法便利じゃん。


「ありがとうございます、いやあやっぱお嬢様の魔法すごい便利ですね」

「…どうせわたくしにはこんなことくらいしかできませんもの…」


 あれっ、褒めたのになんかネガティブなこと言い出してお嬢様は落ち込んでしまった。


「そんなことは無いですよ」

「ありますわ!!だってそうでしょう!?わたくしが勝手に着いてきて、足手まといになって、召使いはわたくしがいたせいで逃げることしかできなくって…!」


 …いやお嬢様いてもいなくても俺には逃げることしかできませんでしたが…


「わたくしは結局何の役にも立たないんですわ!!」


 お嬢様は膝を抱えて完全にいじけてる体勢になってしまわれた。

どうすりゃいいのよ…まさかまた泣いちゃう?


「だから…嘘をついてまで、わたくしとの結婚を避けたんでしょう…」


 どうしたらいいのか迷っていたらなにか聞き捨てならないワードが飛び出して来た。


「え、あの、え?嘘ってなんのことでしょう」

「…召使いが神殿に行ってる間にミュセから全部聞きましたわ…婚約の話は嘘だと…もう知ってるのですわ…」


 あの女あああああああ何してくれとんじゃい!!

裏切りやがったああああああああ!

ちくしょう、こうなったら腹をくくるしかない。


「えーっとですね…すいません、嘘つきました、でもそれはやむにやまれぬ事情がありまして」

「ええ、それもわかっていますわ、召使い…いえ、ヴォルガーにとって大切な人は、もういるのだと…でもそれならそうと、どうして言ってくれなかったのですわ」

「大切な人…」


 なんとなくその時俺の頭に浮かんだのは、美人だけど馬鹿で酒ばっか飲んでて、すぐゲロを吐く女の顔だった。


「お嬢様は…俺との結婚をどう思ってたんです?両親に言われて、それで決めたのではないんですか?」

「確かに最初はお母様からそうしろと言われましたわ…でも、結婚を決めたのはわたくしの意思です、わたくしが貴方と一緒にいたいと思ったから、結婚を申し込んだのですわ」


 なんだって、それじゃあこれは…普通に俺が好かれてたってこと?


「そうだったんですか…俺はてっきり望まぬ結婚だとばかり思って…本当にすいません、勘違いしてました」

「でもわたくしと結婚するつもりはないんでしょう?」

「それは…ええ、リンデン王国で待ってる人がいるんで、俺は帰らないといけません」

「やっぱりそうですのね…」


 ミュセはお嬢様の気持ちに気づいて、それで全部バラしたんだろうか。


「…ふう、これですっきりしましたわ」

「じゃあ俺が嘘ついたこと許してくれます?」

「それは許しませんわ」


 だめかぁ、やはりここは…土下座か?


「あのどうすれば許してもらえます?」

「…何か、ヴォルガーの話をしなさい」

「え?」

「今まで誰にも話したことのない話をわたくしにするのですわ!」

「よく意味がわからないんですが」

「だってずるいのですわ!よくよく考えたらわたくしは貴方自身のことをほとんど知らないのに、貴方はわたくしの恥ずかしい事ばかり知ってるんですのよ?これは不公平ですわ!」

「はあ…不可抗力なんですけどまあなんとなく言いたいことは理解しました、ただ誰にも話したことのない話じゃないと駄目なんですか?」

「そうですわ、ミュセも、貴方にとって大切な人も知らない話を…わたくしは聞きたいのですわ」


 変な注文をされちゃったな、困ったぞ。

さて何の話をしたものか…

別に俺の恥ずかしい話をしろってことではないよね?


 数分考えてから俺はお嬢様に向かって話を始めた。

俺がまだこの世界の誰にも教えてない話を。


「俺の両親とかの話でもいいですか?これ一応誰にも話したこと無いんですけど」

「…ええ!勿論ですわ!!」

 

 思い切り食いついてきたのでこれで正解だったみたいだ。

俺は自分の両親について話をすることにした。


「俺の家は…母親が仕事をして家計を支えて、父親は主に家事をやってたんですけど」

「まあ、お母様がお仕事を?何のお仕事ですの?」

「健康食品を開発する仕事で…えーとなんて言ったらいいかな、体にいい食べ物を作って売る仕事をしてたんですよ」

「お母様は料理上手でしたのね」

「いや、料理はできません、クソでした」

「く…ええと…でも食べ物を作る仕事って…?」

「例えばですね、何かこう青い葉っぱの野菜を集めてそれを絞って出来上がった汁を体にいいから飲めって言われたら、お嬢様は飲みますか?」

「嫌ですわ、だってそれ、きっと苦いでしょう?」

「苦いです、でもそういうのを作る仕事を母はしてたんです」

「全然売れる気がしませんわ」


 こっちの世界じゃきっと売れないだろうなー。

地球に比べて娯楽が少ない分、この世界の人にとって食事はかなり楽しみな事の一つだと思うし。


「まあでも俺の住んでた所じゃそれなりに売れたんですよ、味も多少工夫してましたから」

「変わったお仕事ですわね、それじゃあお父様が料理上手で…あっ、ヴォルガーはきっとお父様から料理を教わったんでしょう?」

「多少はね、でもほとんどは自分で勉強しました、いろんな店で仕事をしながら」


 俺が父親から教わったことはあまりない。

なるべく関わらないようにしていたから。


「俺は子供のころから自分の父親があまり好きじゃなかったんです、優しい人ではありましたけど…どことなく男としては情けないような気がして、友達から言われたのもありますね、お前の親父はいつも家にいて洗濯とか掃除ばっかりしてるよなって」

「何がおかしいのかしら?洗濯も掃除も大変なことだと思いますわ」


 こっちだとそうなんだけどね、水汲みとか大変だから。

実際お嬢様の家だって男の使用人はたくさんいた、メイドができない力仕事をするために。


「とにかく俺の住んでた所じゃそういうのは珍しかったんです、まあ今じゃ俺も父親みたいな仕事をしてるのが多くなって…何とも言えないですけどね」

「別に恥じることはありませんわ」

「…そ、そうかな、それはどうも…」

「ええ、それで?まさかこれで終わりなわけはないですわよね?」

「えーと…そうですね、話の続きなんですけど、俺が15だったかなあ、それくらいの時に母親が死んでしまって」

「えっ…」

「ちょっとした事故で」


 歩いていた所を車にはねられた、交通事故だった。

車を運転していた男はきちんと救急車を呼んで対処してくれたが、ダメだった。


「母親が死ぬ直前…俺に言ったんです、お父さんのことを頼むって」

「…ヴォルガーに言ったんですの?お父様に、息子のことを頼む、ではなくて?」

「俺にですよ、意味わからないですよね、聞いた時はわからなかったんですけど日がたつにつれ、意味がわかりました…俺の父親は、自分の妻の死を受け止められなかったんです、よっぽど好きだったんでしょう」

「ヴォルガーのお父様はどうなってしまったんですの?」

「何もしなくなりました、家でいつも暗い顔をしてじっとしてるだけで、だからその時から俺が家のこともやるようになりました」

「それは…大変でしたわね…」


 高校もあったから本当に困ったよ。

このまま親父も自殺するんじゃないかとすら思ったくらいだ。


「そんな生活が続くうちに、俺はとうとうそんな父親に愛想が尽きて言ってやったんです、いつまで死んだ者のことを引きずってんだって、一人が寂しいなら新しい女を作ればいいだろ!って」

「………………」

「そしたらずっと死人みたいだった父親が突然怒って殴りかかってきたんで、殴り返してそのまま家を出ました」

「それからお父様とは…?」

「会ってないです、ああでも生きてますよ、それくらいは確かめてたんで」


 たぶん今も生きてるだろう、家政婦を手配しておいたから親父に何かあれば家政婦から俺に連絡がくるようになっていた、少なくとも俺の記憶に死んだって報告は来てないんで生きてるだろう。


 俺はその後、バイトをしながら大学に行った。

心理学を学んだのは、それで何かもしかしたら、両親のことが少しは理解できるかもと思ったから。

結論としてはあまり意味はなかったな。

今でも親父のことは良く分からない。

そんな父親に対する反動で、多少女癖が悪くなったかもしれないという自覚はあるな。


「これが俺の両親の話です、面白くはない話でしたけど…まあ勘弁してください、だって面白い話って大抵誰かにもう話しちゃってるんで」

「わかりましたわ…変な話をさせてしまいましたわね、ごめんなさい」

「いや謝らなくてもいいですよ!俺自身そんなに気にしてないんで!」


 今更どうしようもない事だしな、親父のことは日本にいるはずであろう俺に任せよう。


 それからまた少し気まずくなって俺とお嬢様は黙った。

何で両親の話なんかしちゃったんだろう、後悔している。

これならまだ大学時代に知り合った男友達が、彼女からしょっちゅう怒られてケツを蹴られるせいで、痔になって最終的にケツを蹴られるだけで勃起するようにまでなった話とかのが良かったかもしれない。

いやだめか、下品すぎるな、あと俺の話じゃないわこれ。


「…ねえ、わたくしにできることってなにかしら?」


 下品なことを一人思い出していたらお嬢様が何か言い始めた。


「ミュセから話を聞くまで、もし貴方と私が一緒になったら、毎日美味しいものを食べさせてくれたり、楽しい話を聞かせてくれたり、わたくしに危険が訪れた時は必ず助けてくれるんだろうなって、そんな風に思ってましたわ」

「………」

「だけど真実を知った後、わたくしが貴方にしてあげられることは一体なんだろうってふと考えましたの、そうしたら何もありませんでしたわ…住むところやお金は与えられてもそれは結局お父様の力で…貴方が冒険者の仕事を続けたとしても、わたくしにはディム様やミュセのような経験もありません…だからそれも手伝えそうにないと思いましたわ」

「お嬢様…」


 この子はこの子なりに真剣に考えていたんだな。

服乾かせるじゃないですかとか言ってもフォローにならないよな。

なんか騙していたことが今までの10倍くらい申し訳なくなってきた…


「わたくしにはきっと、まだ結婚は早かったのですわ…貴方と出会って、それを教わりましたの」


 優雅に笑ってお嬢様はそう言った。

…数年したらめちゃいい女とかになってそう。

そんな感じする。


 でもたしか俺より年上なんですよね。


「少し休みますわ…あんまり喋ってるとまたお腹が鳴りそうですもの」

「あ、なら俺が見張りを…」


 しておきましょう、と言おうとしたところで異変に気付いた。


 ギシ…ギシ…と上のほうからかすかに音が聞こえる。


「お嬢様…屋根の上に誰かいます」

「え!?まさか…追手ですの!?」

「恐らく」


 見つかっちゃったか…屋根の上にいるってことは既に囲まれてるかも…


 万事休すかもしれん。 

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