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墓標

変なところで区切るからっ

 マイカが部屋から出て行ったあと、俺はしばらくベッドの上に寝転がって考え事をしていた。

それはメグちゃんのことだ。


 キャバクラで二度ほどあったことがあるだけの彼女。

マイカの言う通りメグちゃんが何らかの薬物…あるいは魔法によってキャバクラで働くよう操作されていたのならば、それは一体何のためだったんだろう。

俺を接客してくれていた時は不自然な点はなかった、初々しさはあったけど他の女の子と同様に優しく笑顔で対応してくれた。

あと王様ゲームもやってくれた。

リンデン王国でそれやったら打ち首になりかねませんよって注意されたのを覚えている。

どうもリアル王様がいる国で王様ゲームは危ない遊びになってしまうようだ。


 王様ゲームはどうでもいい、それより問題は俺の<キュア・オール>が原因でメグちゃんは正気に戻ってマイカのところへ帰ったという部分だ。

俺の魔法どんどん意味わからなくなってきてるけど想像通りの効果があったとしたら、ナティア家でおかしくなったメイドも俺の<キュア・オール>がきっかけで正気に戻ったと考えてよさそうだ。


 メグちゃんがメイドの後に続く刺客だったとしたら…狙いはあの時キャバクラへ一緒に行っていたセサル様だったのかもしれない。

隙を見てセサル様を襲う予定だったのを俺がもののはずみでかけた魔法によって偶然阻止したとか。


「果たしてこれをラッキーだと考えていいのかどうか、いやはやなんとも言えなくて困るな」


 考えてもよくわからないのでベッドから起き上がり、テーブルの上にあったフルーツ盛り合わせの籠からリンゴをとってかじる。

無心でむしゃむしゃと果物類を食べた後、暇だなと唐突に思った。


「ここで待っててくれって言われてもな…何もすることないんだよな、テレビも無いしクソ暇なんですけど?…ああ、また独り言を言ってしまった」


 部屋の中をうろうろして昼寝でもすべきかと思い始めた頃、そういえば別に部屋から出るなとは言われてないことに気づく。


 そっかそっか、そうだよな、別に監禁されてるわけじゃないもんな。

何度か拉致られたり監禁されてるせいでつい監禁慣れしてしまっていたぜ!

よくないよね、この傾向、お姫様じゃないんだから。

竜の王に攫われたお姫様を助けにきた勇者だって、囚われてるのが普通のおっさんだったらきっとお姫様抱っこで運んではくれないだろうし、そもそも真剣に助けに来てくれるかどうかもあやしい、ゲームの話だけど。

つーかそんなヒロイン?がいるゲームは誰も買わないだろう。


 ゲームのヒロインではない俺は普通に扉を開けて外に出た。

特に何も考えずとりあえず出たわけだが…そうだコンサートやってるとか言ってたな、暇つぶしにそれ見に行くのはどうだろう。


「どうかなさいましたか?」

「うわあびっくりした!」


 いきなり声をかけられてめちゃ驚いた。

廊下に誰かいたらしい、見ればローブを着たエルフ族の男が立っていた。


 誰こいつ、といぶかしんでいたらどうやら俺のために用意された神殿の神官らしい。

聞いたら普通にそう教えてくれた。


 しかしタイミング良く来たなー…廊下出たらすぐいたもんな。

まさかと思ってずっとここにいたのか尋ねたら違うと返された。

俺が部屋から出るのに気が付いて別の部屋からやってきたようだ。

なんで俺が部屋から出たのわかったのか聞いたらにこにこ笑って無言になった。

何か怖いのでそれ以上聞くのはやめた。


 代わりにコンサートが見たいって言っておいたんだけど…


「入場料がかかりますがよろしいですか?」

「え、どれくらい?」

「エスト教の信者でない一般の方ですと聖銀貨3枚です」

「…結構するんですね、ちなみにエスト教の信者だとどれくらいに?」

「聖銀貨1枚です」


 信者割引ずるくない?

エスト教入らないと三倍になるの?

とんだぼったくりだよ!!


 考えた結果、俺はコンサートを断念した。

だってそんなにお金余裕ないし…それに今いってものんびり楽しめそうもない…この人ついてくる気だもん、たぶん。


 あ、ちなみにですね、エスト教入るのにも寄付が必要だそうです。

何かこの国にいるとケツの毛までむしり取られそうな気がしてならない。

俺は大人しく部屋に戻った。

ところでなんで徹底的に金を奪われることをケツの毛までむしり取られるって言うんだろうな。

ケツの毛なんて欲しい人いる?

例えそれがお姫様の物だとしても俺はいらねえんだけど。

もうお姫様からはいい加減離れようか。


 暇だなーと部屋の中で<ライトボール>を飛ばしてどこまで精密な動作ができるかテストする遊びをしていたら部屋の扉がノックされ、マイカが部屋に入って来た。


「うわまぶしっ、なんやこれ…<ライト>?部屋んなかびゅんびゅん飛び回って…何してんのこれ」

「暇だったのでつい…」

「…そんな暇やったんか、なんや申し訳ないな…」


 こっちこそすいません、股間を光らせて遊んでいたのをごまかすために貴方の顔めがけて飛ばしてしまって。


 適当にごめんごめんと謝った後、マイカの話を聞いた。

どうやら評議会とやらは終わったもよう。

会議とか言う割に案外早かった気がしなくもないな?

ここ時計がないから何時間たったのか把握できないが。


「結果は予定通りや、ディムはんの要求が通った」

「んじゃあ俺はこれからアリムさんのお墓とやらに連れて行かれるのかな」

「せや、ウチに着いてきてな」


 部屋を出てマイカと共に神殿の奥へと進んだ。

他の人らはどうしてるのかを尋ねると、ディムは既に目的地で待っているらしい。


「プラムはんは会議が終わるなり妹さんに連れてかれたわ、なんや家族で話すことがあるんやろな、ウルカはんも家族の様子が気になるちゅうていっぺん家に戻ったわ」


 ふむう、ウルカちゃんもまだやはり家のことが心配なんだな。

あっちにはミュセやルビーさんもいるから大丈夫だとは思うんだけど…

プラムはまあ、知らん、頑張れ。


「メグのことウルカはんに聞いたけどな、まったく知らん様子やったわ、キャバクラの店長からはなんも報告がいっとらんかったみたいやな」

「ふうん、まあ雇用は店長の判断に任せてるってことなのかねえ」

「せやろな、キャバクラ以外にもウィンドミルにはいくつもウルカはんの店があるからいちいちそこまでは把握しとらんのも別におかしない話や」


 メグちゃんはキャバクラ入ってすぐ辞めたことになってるっぽいな。

給料も貰ってないんだろう、だからあんまり問題になってないんだと思う。


「ほんでこれから行くところはウチとディムはんが案内する予定やったんやけど、ちいと事情が変わってもう一人人数が増えてな」

「そうなんだ、なんて名前の人?」

「クレオティセア、評議会に出てたエルフ族の者でヴォルガーはんをアリム様の墓へつれてくのに反対しとった派閥の一人や、ディムはんの要求を呑む条件として反対派からも一人連れてくことになってしもて」

「あー…まあ、当然と言えば当然か、反対派からしたら俺をこのままほおってはおけないよな」

「わかってくれとるようで安心したけど、先に言うとくで、クレオはむっちゃ嫌なやつやから気つけてな」


 はい嬉しくない情報きました。

何をどう気をつけたらいいのかまったくわからん。

とにもかくにも本人に会ってみなければどうしようもない。


 一体どんなやつなんですかねえと不安を感じつつ歩みを進め、目的地とおぼしき場所に到着した。


 そこは巨大な両開きの鉄製の扉があって、いかにもなんかここ大事なものがありますよと言わんばかりの装飾が、扉やそばにある柱などにも施されていた。

というかここくる手前に何度か警備してる兵士っぽい人たちとマイカが話をしていたのでまあここが終点で間違いないのだろう。


 そして扉の前にはディムと、もう一人見たことのないエルフ族の男が立っていた。

ディムは普段の冒険者風の軽装からマントを外した状態なのに比べ、その男は白い礼服のような服装にきらきらと金ぴかの刺繍がいくつも入った装いをしていた。


「こいつが例の男か、フン!どう見ても知性の欠片もない顔をしているではないか!このような男がアリム様の石板を読めるなどと…どう考えても嘘だろう!」


 わあ、嫌なやつだあ。


「しばらく見んうちにディムも耄碌もうろくしたものだな!こいつが自分より魔法に長けていて聡明な者だと?そろそろボケが始まったんじゃないのか?いい加減グライア家の代表を退いてサイプラスの街で奥方と大人しく余生を過ごしたらどうだ?」


 俺の次はディムか。

ディムは顔色一つ変えず俺に向かって「すまないな」とだけ言った。

いいえ、何かそちらも大変そうですね。


「ほなクレオはんの挨拶も終わったところでさっさと中はいりましょか」

「今のは挨拶ではない!こら僕の話を聞け!いいかそもそも僕はな、マイカがクライム一族の代表というのも…」


 クレオはまだなにか喚ていていたがディムとマイカが扉を開けて中へ入ったのを見ると慌てて後を追っていた。

俺もそれに続いて中へと入る。


「ここがアリム様の墓だ」

「ここがそうなのか…」


 恐らく神殿の一番奥であろうその場所は、不思議な空間だった。


 なんせ部屋の中に家が建っている。

瓦屋根の家が、昔ながらの日本の家って感じの木造建築が。


「家が建ってますけど」

「これはアリム様が生前使われていた家を再現したものだっ!貴様のような男にはわからんだろうがな、この家はアリム様が直々に設計したと言われていて至るところに素晴らしい技術が使われているのだ!」


 解説ありがとうクレオ。

髪をオールバックにしておデコ丸出しになってる顔を俺に近づけて唾を飛ばしながら言ったのでなけれ素直にお礼を口にだしてもよかったよ。


 顔面にかかった唾をぬぐって「この中に墓が?」と聞き返した。


「いやこれ自体が…「馬鹿めっ!そうではない、これ自体が墓標なのだ!」


 ディムの解説を遮ってクレオがまた唾を飛ばしながら喋る。

今度は距離をとったので唾は回避できた。


「クレオ、評議会で決まった以上オレの要求に従ってもらう、あまり邪魔をするな」

「邪魔?この僕が邪魔だと!?無知なこいつがアリム様の墓標を汚さないようこの僕が直々に説明してやっているんだろうが!」

「入口はこっちやで、ここで靴脱いでな」

「おいマイカ!お前はすぐ僕を無視する!なんのつもりだ!待てまだ僕の話は終わってないぞ!」


 二人とも無視するの慣れてるんだろうなー。

騒ぐクレオに目もくれず引き戸の玄関を開け、靴を脱ぎ、中へと上がっていく。

俺もそれに続こうとしたら


「お前は戸の外で靴を脱げ」

「え、なんで?」


 クレオに変なことを言われた。

玄関の外で靴を脱いで、そして靴は家の外に置いて行けと言うのだ。


「その変な毛皮で出来た靴は臭そうだからな、家に匂いが残ると困る」

「なんだと」

「既に十分人族の匂いで臭いけどな!評議会で決まったからお前が中へ入るのは許してやる!だが靴が中に入っていいとは決まってないからな!靴は外に置け!!!」


 小学生みたいな理屈言いやがって…なんだこの野郎。

俺はしぶしぶ靴を脱いで家の外に置いた、嗅いでみたら臭かった、ちくしょう確かに臭いのは認めざるを得ない。


「二人とも玄関でなにしてはるんや」

「いやなんでも…すぐ行くよ」


 クレオにいちいち構ってると無駄な時間がかかりそうだ。

俺は大人しく家の外で靴を脱いで裸足で玄関に入り、板張りの廊下に足を乗せた。


「そんな足で上がったら廊下が汚れるだろうが!!」

「お前が外で靴脱げって言ったからだろーが!!」


 めんどくせーなこいつ本当に!

クレオにじゃあ足拭くものなんか貸してくれよと言ったら想像していたけど貸すものなどないと断られたので代わりにマイカに頼んだ。


「そのハンカチはあげるわ…」


 ハンカチをマイカから借りることに成功、それで足を拭く。

若干疲れた様子でマイカがこちらを見ていた、きっと会議中もうるさかったんだろうなクレオは。


「家の中は暗いな」

「明かりは置いてないんだ、済まないがヴォルガーが「おいお前光魔法が使えるんだろう、早く<ライト>を使えよ」


 なんで君はディムの話にいちいちかぶせて発言すんの?

誰に言われようとどっちみち使うつもりだったけどさあ。


 俺が<ライト>という名の<ライトボール>を放って廊下を照らした。

クレオが「魔法が使えるのは嘘ではなかったか」とか俺の後ろでつぶやいていた。


 外から見た時に気づいたがこの家に二階部分は無い。

あまり広くもない様子で部屋も四つほどしかないようだった。


 障子で仕切られた一つの部屋に入ると、そこには無数の石板が美術品の展示物のように机の上に丁寧に並べられて置かれていた。

床は畳だ、畳があるんだ、なんだか懐かしい気分になるなー。


 畳じゃなくて石板の話になるが、一枚が大体野球のベースのようなサイズをしている。

ホームベースじゃなくて一塁ベースとかのほうな。

それよりやや大きめなので縦横が40センチから45センチくらいか。


「これがアリム様の残した石板や、ヴォルガーはん、ほんまにこれが読めるんか?」


 ふうむどれどれ…

近づいてよく見ようとするとまた横から唾が飛んできた。


「妙な真似はするなよ!!盗もうとした瞬間、貴様の命は無いと思え!」

「こんな石の塊、誰が盗むんだよ」

「サイプラスの街からこちらに神殿とアリム様の墓を移設する際に何枚か盗まれたのだ!!恐らく魔法の道具か何かと勘違いした馬鹿な盗賊によってな!」


 そうなのか、解説どうも。


「見るだけだから落ち着いて」

「読めないなら素直に読めないと言え、今なら拷問なしですぐ処刑してやるぞ」

「クレオはん、ちと黙っときや」

「なん…うっ…」


 マイカが酷く冷たい声でクレオにそう言った。

俺が言われたわけでもないのにちょっと怖かった。

真正面から言われたクレオはもっと怖かったのだろう、静かになった。


「ヴォルガー、石板を読む前にオレの話を聞いてくれ」


 今度はディムか、なんなんだ?


「詳しい説明もせず、お前をここまで連れてきた理由を話したい」

「はあ、じゃあどうぞ」

「…アリム様がこのような誰にも読めない文字で石板を残したのは、エルフ族にも伝えたくない何かがここに書かれているのだとオレたちは考えていた」

「かもしれないな」

「だがオレたちはどうしても何が書いてあるか知りたかった、そして一度エスト様にこの文字が読めないかお伺いしたことがあるのだ」


 なんとまあ、女神にも聞いたのか。


「しかしこの文字はエスト様でも読めるものではないとわかった、つまりアリム様は女神様も知らない文字を使っていたということになる…だからオレたちはずっとアリム様がこれは一体だれのために残した物なのか疑問だった」

「………………」

「…アリム様はルグニカ大陸からこちらの大陸へ移って来た、ルグニカ大陸にはこちらの大陸には存在しない種族がいたと伝わっている」

「それって…」

「魔族…そして魔王だ、だからオレはこの文字はもしかしたら…」

「アリム様を侮辱する気かディム!それ以上のことを口にしたら僕は許さんぞ!!」


 クレオが顔を真っ赤にして横やりを入れてきたのでディムの話は中断された。

しかし言いたいことはわかった。


 ディムはアリムさんと魔族、いわゆる過去の日本人につながりがあると気づいている…

きっとマイカやクレオもそうだろう。

だがクレオの怒り方を見る限り、よほどエルフ族にとっては大事な人物なのだと予想できる。


「ま、見てみれば全部わかるさ」


 軽い口調でそう言って俺は石板に近づいた。

そこに書かれていた文字は…アルファベット、やはり英語だった。


 でも少し困ったな、英語あんまり得意じゃないんだよな。

学生だったときは勉強もしていたから読めたけどさ、大学出てから使う機会なんかほとんどないから忘れちゃった部分も結構あるんだよ。

そのおかげで今、ヴォルガーなんて名前になってしまってるからな。


 ざっとみて石板は20枚以上ある、それぞれに文字がびっしり刻んであって読むのにはなかなか骨が折れそうだ。


「どうだ、読めそうか?」

「…まあ、なんとかね、とりあえずわかったのはこれ順番があるな、動かして並べ替えてもいいかな?」

「駄目に決まっ…うぐふう!」


 文句を言おうとしたクレオがみぞおちにエルボーをされていた。

やったのはマイカである。

こいつもやはり手が出るタイプの女であったか…


「構わん」


 ディムから許可が出たので俺は石板を一通り眺めて、恐らくこれが一ページ目だろうと思われる物を見つけてテーブルの端に置いた。


 それを見つけた時は、思わず笑ってしまった。


「ははっ…そういうことか」

「どうした?何がわかった?」

「ここ、ここにだけ漢字が書いてあるだろ、これ読めるか?」

「いや、わからん、その漢字の意味がわかるものも誰もいなかったのだ」

「これは名前だよ、アリムさんのな」

「なんだって?」


 そこに書かれていたのは英文と四つの漢字。

発音するとこういう風になる。


「マイネームイズアリムラレイア」

「そこに書いてある言葉がそうなのか?」

「そうだよ、私の名前はアリムラレイア…有村令亜だってな」


 エルフ族だとか言われてるけどたぶん本当は違う。


 これを書いたのは日本人だ。 

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