海のほうからきました
侵略はしない
「すまん!少しだけそいつの様子を見ててくれ!俺はもう一人の仲間を探してくる!すぐ戻るからな!」
<ヒール>をかけてやったいかつい男は木のそばにあった剣を拾うと、そう言ってどこか走っていった。
顔に着いた血もふかずに。
いやその…ホーンウルフとかいうのが来たらどうしようもないから出来れば置いていかないでほしい、と言う暇もなかったので仕方なく寝てるおっさん…こいつよく見たら割とイケメンだ。
おっさんといっていいかわからない。
とにかくそいつの横で俺は座って大人しくしていた。
もうこの寝てるやつ起こした方がいいんじゃないかと迷ってたら、さっきのいかつい男が戻ってきた、顔の血はふいたようだ。
一人で戻ってきたけど、仲間を探しに行ったんじゃないのか?
「仲間は?」
「ダメだ、少し行ったところに倒れていたが魔物に食われているのが見えたので引き返してきた」
それはもう、確実に死んでいるということだろうな…
既に死んでいるのは俺にはどうしようもない。
ほわオンには死者を復活させる魔法はなかった。
死んだらすぐ近場の街に戻されるからだ。
「ここもまたいつ襲われるかわからん。移動しよう」
「じゃあこの寝てる人は俺が背負ってくよ、手ぶらだし」
いかつい男に手伝ってもらって俺は背中にイケメンを背負った。
意外と軽いな、なんか背負ってても走れそうな気もする。
「見た目より力があるんだな」
「自分でも意外だが。まあ早く行こうか」
「あ、ああ…そうだな」
そうして俺たちは森を歩いて進んだ。
幸い魔物には出会うことのないまま森を出ることができた。
おまけにちゃんと街道らしき道がある場所にこれた。嬉しい。
「ふう…ひとまずは安心だな」
「魔物は?もう来ないのか?」
「ホーンウルフは森を出ては来ない。他はこの辺にいるのははぐれゴブリンくらいだな、やつらは大した脅威じゃない。知らないってことは、あんた、ナクト村の人じゃないのか?」
違う。もしかしてそれが俺が目指してた村だろうか。
なんと答えようかな、適当に旅人でいいかな。
「俺は村の人間じゃない」
「…おや…ここは…?」
適当にごまかそうとしてたら俺の背負ってた男が目覚めたようだ。
「キッツ!気が付いたか!傷はどうだ?自分で歩けそうか?」
「少しめまいはするが…大丈夫だ、クルト、降ろしてくれ」
降ろしてくれって言われたから俺に言ってるんだろうがもう一人の仲間と勘違いしているのか?
まあ大丈夫ならとりあえず降ろすけど。
「ん、誰だ、クルトじゃない!?」
「落ち着けって、まあキッツも起きたし少し話をするか」
俺たちは近場にあった適当な岩や倒木に腰かけ3人で向かい合った。
周囲は見晴らしがいいしお互いの背後を見る形で座ってるから、これなら何か近づいて来たら誰かがすぐ気づくだろう。
いかつい男はカイム、イケメンはキッツという名前だった。
二人とも明るめの茶髪でカイムは短いがキッツは後ろで一つに縛ってまとめるほどには髪がある。
そのキッツだが背中から降ろしてすぐはふらついてたけど、カイムから水筒をもらって水を飲み、座って話してるうちにだいぶ体の調子もよくなったようだ。
ゲームのように回復魔法をかけたらすぐ元気いっぱいとはいかないか。
出血もそこそこしてたようだし。
まあそれが当たり前ではあるな。
そして、俺は見ていないが、クルトというのが死んでしまった彼らの仲間だ。
俺も運が悪かったらそうなってたかもしれない。
彼らは、この近くにあるナクト村の出身で冒険者というものらしい。
普段は別の街にいて、3人で久しぶりに帰郷したところ村の人が、このところ定期的にゴブリンが森のほうから畑を荒らしに来るというので調べにきたそうだ。
で、その結果が森に住むホーンウルフの数が増えたのが原因でその分、ゴブリンが森で食べるものが減り、人の村まで来たようだ。
「いくらかは倒したんだけどよ、あまりに数が多いから一旦引くことにしたんだ、だが撤退の際キッツがやられてな。ヴォルガーさんと会ったところまでは戻れたんだが…」
「僕がやられなければクルトも死なずに済んだのにっ…!!」
キッツが負傷した際に自分の荷物を落としてしまいその中にポーション、いわゆる回復薬が残っていて
それを使えばキッツが助かると思ってクルトは一人で荷物を取りに戻った。
カイムは止めたが、キッツを残してクルトを追いかけるわけにいかずその場で待った。
しかしそこに新たなホーンウルフが数匹来てカイムは一人で戦ってウルフたちを追い払ったものの、怪我をして動けなくなった。
俺が聞いた音はその時の戦いの様子だろうか。
「もう泣くなキッツ、冒険者はそういうもんだってわかってたろ。それに本当なら俺たちは全滅だった。クルトも…お前が助かったんならきっと許してくれるさ」
「ううっ…そうかな、そう思ってくれるだろうか…」
うわぁ、空気が重いなぁ。部外者の俺はどうしたらいいのか。
良く知らないのに、きっとそうだよ!とか言えないしなぁ。
「気が済んだらちゃんとヴォルガーさんに礼を言え。すごい回復魔法を使って疲れてるだろうってのに、お前をおぶってここまで運んでくれたんだぞ」
いや特にそんな疲れてはないですけど。
「ありがとう、ありがとうヴォルガーさん!」
キッツがすごい勢いで頭を下げてきたので俺はちょっとビクっとした。
「い、いやまあなんだ、助けられて良かったよ、うん」
実際にヒールとか使ったのは初めてだったからな。
あれで大丈夫かどうかは賭けみたいなところはあった。
しかしゴブリンといい冒険者といい、ほわオンに似てるな。
ホーンウルフはゲームじゃいないからどんなのか知らん。
「ヴォルガーさんは旅人だったか?しかし荷物を何も持ってないようだが、どこから来たんだ?」
カイムに聞かれて、やべ、どうしようかなと思う。
旅人とはいったけど手ぶらで旅するやつはいねえなそういえば。
「俺はその、海があるほうから来たんだけど途中でゴブリンに追い掛け回されてね。そのとき荷物を全部失くしたんだ。回復魔法は使えても、あいにく攻撃魔法のほうはさっぱりで」
「向こうの大陸から来た人か、そういや髪も黒いもんな。にしてもヴォルガーさんもこっちについて早々、難儀だったな」
カイムが妙なこと言って納得してるが、黒髪の人この大陸いないのか?
「この辺は田舎だからまだそんなに強い魔物もいねえが…旅を続けるんなら護衛を雇ったほうがいいと思うぜ」
全くその通りだな。
「俺もそう思うよ、それでだ、二人とも村に行くなら俺も一緒について行きたいんだがいいだろうか」
「勿論構わないですよ!僕たちが護衛します!」
キッツが勢いよく言った。イケメンの顔が近いな。嬉しくはない。
「ただ俺は護衛を頼むにしても金を持ってない」
「何言ってんだ、命の恩人から金は貰えねえよ。どうせ俺たちも村に行くんだ、気にしないでくれ」
「ええそうです、むしろお金を払うのは僕たちですよ!」
「い、いやとりあえず案内と護衛をしてくれればいい」
金は欲しかったがキッツが有り金全部出しそうなので止めておいた。
村に着いたら何かしら金を稼ぐ方法を考えるか…
「よし、それじゃ行こうかヴォルガーさん」
「ああ、頼む」
俺たち3人は村に向かって歩きだした。
「クルト…きっとお前が俺たちにヴォルガーさんを引き合わせてくれたんだな」
キッツが後ろ向いて何か言ってたがまあそういうことでいいや。