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髪型と恋はドリルのように

えぐりこんでいくのだ

 わたくしの名はカルルナティア、由緒正しきナティア家の一人娘ですわ。

優しいお父様とお母様、それから大きなお屋敷で何一つ不自由なく育てられたわたくしですが、一つだけ不満はありましたの。

それは…一度でいいから冒険者というものになってみたいということ。

勿論そんな願いをお父様、お母様にしたところで絶対に許してくれませんわ。

だからわたくしは二人に黙って家を飛び出しましたの。

この時もし一人きりだったらきっとすぐ諦めてその日の内に家へかえってましたけど、わたくしにはお兄様がいましたわ。


 この世界でわたくしが誰より尊敬し、頼りにしているセサルお兄様。

冒険者になりたいというわたくしのわがままをお兄様は許してくれて、一緒にシルバーガーデンという街まで着いてきてくれましたのよ!


 シルバーガーデンはウィンドミルと違って何もかもが新鮮でしたわ。

冒険者ギルドに行っても誰もわたくしが冒険者になるのをとめたりしません、これがウィンドミルの冒険者ギルドならきっとすぐお父様に連絡が行ってわたくしは家に連れ戻されていたでしょう。


 お兄様は右も左もわからないわたくしに代わっていろんなことをしてくれました、ギルドの手続きもそうですし、住むための家を借りるときも商人と交渉してくれましたの、さすがお兄様ですわ。

わたくしと一緒にウィンドミルから出たことなんてないはずなのに、お兄様はなんでも知っていますの。


 一通りの準備が済んで、さあこれから冒険へというときに…お父様が雇っているナティア家で一番怖いメイドのルビーが来ましたわ。

ルビーに会った瞬間、ああ、まだ何もしていないのにわたくしの冒険はここで終わりですの…と落胆したのですけれどルビーはなぜかわたくしたちに協力してくれましたわ。

シルバーガーデンでの生活を支えてくれましたの。


 でもルビーは冒険にはつれて行けません、だって強すぎるんですもの、ルビーが一緒ではどんな魔物と出会ってもわたくしとお兄様は見てるだけになってしまいますわ。


 だからルビーの代わりに、そんなに強くなくて冒険中のわたくしたちの荷物を持つための召使いをギルドで雇うことにしましたの。


 召使いはすぐに見つかりましたわ、ギルドに入ってすぐしょぼくれた顔の人族の男がいましたのでその男を雇うことにしたのですわ。


 その男の見た目はパッとしませんけど、力があって、文句も言わず荷物を持つのでなかなか良い召使でした、風呂の準備も手際が良いのでルビーも特に教えることがないと言ってましたわね。

それどころか自分と同じくらい鍛えているかもしれないので、シルバーガーデンのダンジョンに行くなら絶対彼を連れて行くようにとも命じられましたわ。


 ルビーの言う通りその召使いはとても役にたちましたわ。

地図もわかるし、魔物にあっても怯えず、荷物を放りだして逃げたりしませんの。

ただ、他の冒険者に襲われた時すごくかっこ悪い姿を晒してましたわ。

のこのこと敵の前に出て行って一発でのされてましたのよ?

結局そこはわたくしとお兄様が華麗に活躍して敵を撃退したのですけれど。

その時はルビーでも間違うことがあるんですのねと思いましたわ。


 それからわたくしと素敵なお兄様と、情けない召使いの三人でダンジョン攻略をしました。

嫌な魔物に出会ったり、ダンジョンを歩き疲れたりしましたけど、それはそれはとっても楽しい時間でしたわ。

わたくしの傍にはお兄様、そして危機には必ず力を貸してくれる魔剣がありましたから何も怖くありませんでした、出て来る魔物をどんどんやっつけて、さらには今まで誰も見つけたことがない隠し通路も見つけて…わたくしの冒険はその時が最高潮でしたわね。


 …つまりそこから先はわたくしの考えていた理想的な冒険からは遠ざかったということですわ。

いろんな驚きはあったのですけれど、何より一番驚いたのは…


 わたくしは召使いに騙されていたということですわ!!


 召使いのことを尋ねて、なぜかあの有名なディム様が家に来て。

話を聞いている内に召使いがディム様よりも強いということが判明しましたの。

わたくしとお兄様が魔剣の力だと思っていたのは全部召使いの仕業、彼がこっそり魔法をかけてわたくしたちを強くしていたのですわ。


 それを確かめるため実際に召使いと戦ったから間違いないですわ。

召使いはわたくしとお兄様、ルビーの三人がかりでもかすり傷ひとつ負いませんでしたの…

ディム様の魔法も一瞬でかき消してしまうほどの凄まじい魔法の使い手なのですわ。


 わたくしはその時恐ろしくなりました、今まで散々馬鹿にしながらこき使っていた召使いが、実はわたくしたちを一瞬で殺せるほどの力の持ち主だと気づいて…

思わず彼を見て「化け物」と言ってしまいましたわ。


 その後、怒って仕返しされたらどうしようとひたすら恐怖していたのですけど、召使いは悲しそうな顔をしてディム様と共に家を出て行きました。

あんなに強いのに、とても大人しい態度でわたくしたちの前から去って行ったのですわ。


 わたくしとお兄様とルビーは、召使いが去ってもしばらく庭でぼーっとしていました。


「あの男、こちらには一切手出ししませんでしたね」


 ルビーがそう言いました、確かに彼はこちらの攻撃を防ぐだけで自分からは何もしてきませんでしたわ。


「ディム様より強い人がなぜ大人しく僕たちの召使いになったんだろう」


 お兄様がそう言いました、それはわたくしにもさっぱりわかりませんでしたわ…

 

「今私たちにできることは彼の気が変わらない内にこの街から離れることだけです」


 ルビーの言葉にわたくしもお兄様も同意しました、もう冒険なんてどうでもいい、お父様とお母様の元へ一刻も早く逃げ帰りたい気持ちでいっぱいでしたわ。


 帰り支度をしていると、わたくしたちの元へ一人の少年が来ました。

シルバーガーデンの街中で会ったことのある、オウルという名のエルフ族の少年ですわ。


「さっきヴォルガーに会ったんだけど、お嬢様のことを聞いた途端、泣きながら走って逃げてっちゃったよ」


 あの男が泣きながら逃げる?全く想像できませんでしたわ。


「何があったか知らないけどさ、ヴォルガーには借りがあるから一応伝えにきたよ」


 泣きながら逃げ出すのはこっちのほうですわ。

なぜあの男がわたくしのことで泣きながら逃げ出す必要があるんですの。


 オウルと話をしているとディム様もこちらへやってきました。


「ヴォルガーは…やはりここには来てないか」


 ディム様も、ヴォルガーは泣きながら走ってどこかへ行ったとそうおっしゃいましたの。


「お嬢様何したのさ?いい大人があんな無様な姿で逃げ出すなんて、なかなかあることじゃないよ?」

「わ、わたくしは何も…そんなこと言われてもわかりませんわ!」

「…オレの想像だが…カルルたちに嫌われたのがかなり堪えたんじゃないか」

「え…?」

「ヴォルガーはお嬢様に嫌われるような、何かひどいことしたの?」

「ええと…」


 召使いは…嘘をついて…弱いふりをしていましたわ。

わたくしとお兄様とルビーを騙して…


 でも、なぜかよくわからないけど、ダンジョンではずっとわたくしとお兄様を助けてくれましたわ。

冒険者なりたてのわたくしとお兄様の冒険にも、ずっと付き合ってくれましたわ。

ダンジョンで疲れたら、すぐお茶の準備をしてくれましたわ。

わたくしたちが道に迷わないよう、ずっと地図を見て案内してくれましたわ。


 冒険者に襲われた時も、ダンジョンの最下層で鎧の魔物に会った時も、召使いは一度だってわたくしたちを置いて逃げたりはしませんでしたわ。

わたくしたちが危険な時、彼はいつも傍にいましたわ。

他の冒険者にやられた時も今考えると、やられたふりをしていただけですわよね…たぶん、どういう状況かよくわかってなかったわたくしのために…わざと一番に狙われるようなことをして…

 

 家ではルビーの代わりに食事を作ってくれたこともありましたわ。

わたくしが好きな豆腐を使って、見たことも無いけどとっても美味しい料理を。


 それから…わたくしの魔法の話をしても、全然馬鹿にしたりせずに凄いって言ってくれましたわ。

自分のほうが凄い魔法使いだったくせに、わたくしの魔法を褒めてくれましたわ。

あの時の言葉は嘘?それとも心の底からそう言ったんですの?

あの時のわたくしには…嘘だとは思えませんでしたわ。


「別に酷い事はしてませんわ…嘘はついてましたけど」

「だったら許してあげなよ、この街じゃ誰だって嘘つきさ、だけど、それが皆悪いやつってこともないよ、単に正直なだけじゃ生きていけないから嘘をつくこともある」

「そうかもしれないね、彼も光魔法が使えることを知られたくなかったから嘘をついていたようだし」


 お兄様がいつの間にか一緒に話を聞いていました。


「あいつは強すぎる、だから力を隠したいという気持ちはオレにも少しわかる」

「ディムも昔、1級冒険者になるのを相当嫌がってましたね」

「今でも1級なんかになるんじゃなかったと思うぞ、おかげでサイプラスのどこへ行っても何かと頼み事をされる、リンデンの田舎にでも行かなきゃ落ち着いて飯も食えん」

 

 ディム様とルビーがそんな話をしていました。

有名になるっていいことばかりじゃないんですのね。


「もしかしたらさあ、お嬢様のこと好きだったんじゃない、ヴォルガーって」

「なな、突然何を言ってますの!?」

「だってそうでなきゃ嫌われたこと気にして泣きながら逃げ出したりしないよ」


 召使いがわたくしのことを…?あ、ありえませんわ!?


「…まあ、これ以上はここで何を言ったって変わらないけどさ、最後に一つだけ言っておくよ…この街は金が全てだけど、金より価値のある物もあるよ」

「なんですのそれは」

「信頼だよ、僕はヴォルガーがいいやつだって、なんとなく信じてるけどね、それじゃ」


 オウルはそう言ってこちらに背を向け、手をひらひら振りながらわたくしたちの前から去っていきました。


 それからわたくしたちがどうしたかと言うと…ヴォルガーと共にウィンドミルへ帰ったのですわ。

思うところはいろいろありましたけど、ディム様とヴォルガーもウィンドミルに行く予定みたいでしたし、あとその、オウルの言ったことを気にしてたわけではないですけど、ええ違いますのよ?

でもひょっとしたらそうかもしれないですから、一応、ヴォルガーを捜し出して、わたくしたちの馬車に乗せてあげることにしましたの。


 いざ会ったら思っても無いことを口にしたりしてしまいましたわ…

だってあの男、にこにこしながらわたくしの隣に座ろうとするんですもの。

それはその…恥ずかしいから、お兄様の隣に座ってもらいましたわ!


 そしてウィンドミルに着いてからは、彼とは別れました。

家に招待しようかと思ったのですけど…言い出せなかったのですわ。

彼、ディム様とばっかり話をしてましたから…もう!わたくしのことが好きだったんじゃないんですの!?

なんで道中もずっとわたくしとちょっと距離をとった感じで接するんですの!

そんなだからわたくしも何と言っていいかわからなくなるんですのよ!


 家に戻ると、お父様とお母様に物凄く怒られましたわ。

でもその後、無事でなによりだと抱きしめられて思わず泣いてしまいましたわ。


 わたくしはお父様とお母様にシルバーガーデンの話をたくさんしました。


「その召使いの話はよく出て来るが、なぜ家に連れては来なかったんだい?」

「彼ははぐれてしまった仲間をシルバーガーデンで捜していただけでしたの、ディム様が彼の仲間の居場所を知ってるみたいでしたので、ウィンドミルに着いてから別れましたのよ」

「ふむ…そうか…ところでその召使いは黒髪、黒目で背はセサルと同じくらい、人族で言うところの30代ほどの外見をしていて、光魔法が使える、であってたかね?」

「ええそうですわ、わたくしそこまでお父様に話したかしら?」

「ん?ああ、そうだとも、カルルが教えてくれたのだよ」


 見た目の特徴なんてそんなに話をしたような記憶がないのだけれど、わたくしは知らず知らずの内にそんなことまでお父様に話していたのかしら。

なんだか恥ずかしいですわ…これではまるでわたくしが彼のことをいつも見ていた様じゃありませんの!


 それからしばらく自分の部屋で、もやもやしたものを抱えて生活していました。

ふと気が付くと、召使いのことを考えてしまいますの。

ほんの数日一緒にいただけなのに、なんでこんなに彼のことを…

あーもーなんなのですわーーー!


 もうきっと会うことはない、だから忘れよう、そう思っていましたのに彼とは意外な形で再会しました。


 ある日突然、屋敷のどこかから悲鳴が聞こえて、なんだろうと見に行くとそこに彼がいましたの。

近くにはお父様とルビー、そしてお母様がなぜかメイドの一人に羽交い絞めにされて。


「カルル!こっちへ来るな!」


 お父様の叫び声、そしてわたくしに向かって何かが飛んできて…それはわたくしの前でキンッと何かにぶつかったような音がして地面に落ちました。

地面に落ちたそれを見るとナイフでした、ナイフがわたくしめがけて飛んできたのですわ!


「召使い!何事ですの!?」

「俺もう召使いじゃないんですけど…とりあえずお嬢様はあの子に狙われてるっぽいんで前にでないほうがいいですよ」


 意味がわかりませんでしたけど、とにかくわたくしがメイドの一人に命を狙われてるようだったので、その時は大人しく彼の指示に従って腰を抜かしたメイドを抱えて逃げましたわ。

いきなりメイドを渡された時はわたくしが運べるわけありませんわって思ったけれど、案外軽々と運べましたわ、きっとまた彼が何かしたんですわね。


 事が終わってお父様から話を聞くと、突然メイドがおかしくなってお母様を脅し、わたくしとお兄様を襲うために部屋の場所を聞こうとした、ということでしたわ。

ルビーと彼が協力してメイドを取り押さえて何事もなく終わったみたいでしたの。


 彼はお父様が呼んだみたいでしたわ。

まだ彼がウィンドミルにいることをどこかで知ったお父様が、ルビーに命じて彼をここへ招待したんですの。

そしてたまたま騒ぎに遭遇した…そういうことですわ。


 それから彼は屋敷に滞在することになりましたわ。

…わたくしが危険なときは傍にいてくれるなんて…やっぱり彼は…わたくしのことを…?


 改めてそう考えると顔から火が出そうでほとんど会話なんてできませんでした。

だと言うのに、お母様がおかしなことを言い出したのですわ!


「カルル、お見合いのことですが…」


 わたくしは以前よりお母様からそろそろ結婚するべきだと言われていましたの。

それが嫌で家を飛びだしたのも、無いとは言いきれませんわ。

結婚をするということは、この家を出て行くということですのよ?

大好きなお兄様と離れ離れになってしまう…それはわたくしにとってあまりに辛いことでしたわ。


 お見合いの話をお母様が切り出した時、適当に、この前あんな騒ぎがあったばかりなのにそんなの考えられませんわ!等と言って話をうやむやにしようと思ってたのですけれど


「お見合いはもうしなくても構いませんよ」

「ええっ!?どういうことですの!?」


 以前はあんなにお見合いをさせたがっていたのに急にもういいなんて。

おかしいですわ?


「代わりにあの男…ヴォルガーと結婚しなさい」

「ふええええええええっ!?」


 わたくしと彼が!?結婚!?


「彼は逃がしてはなりません、あの魔法の才能をナティア家に受け継がせることができれば…ナティア家は一生安泰でしょう」


 お母様はうっとりした顔で自分の左腕を自分の右手で撫でながらそう言いました。


「ヴォルガーと結婚するとなれば、彼をこの家に婿として迎えることになるでしょう…彼はどうやら家族どころか、自分の家も無いそうですからね」

「お母様はいつそんな話を…」

「ふふふ、治療という名目で何度も呼びつけましたからね、その時に少し探ったんですよ」

「そんなことをしてましたの…で、でもお母様!彼は人族ですわ!?わたくしたちエルフ族とは違いますのよ!」

「あら、別にいいじゃないですか、それくらい大した問題ではありません…とにかく一度このことについてよく考えておきなさい、貴女にとって悪い話でも無いと思いますから」


 まさかお母様が人族との結婚を許すなんて思いもしませんでしたわ。

だって、人族とエルフ族では寿命が倍以上違いますの。

残されるのは大抵、エルフ族になりますのよ?


 わたくしはこの話をお父様に相談しました。


「素敵な案だな、私も賛成だよ、料理長も喜ぶんじゃないか?彼は料理に関しても博識のようだからな、毎日美味しい物も食べられるぞ、レシピを売り出すという手もあるな!また儲かるぞ!」


 お母様と何も変わりませんでしたわ、むしろちょっと酷かったですわ。

わたくしは次にルビーに相談しました。


「そんな馬鹿な!?そんな話ありえません!!」


 ルビーは猛反対してましたわ、そこまで嫌がらなくても…あれ、わたくしは何を考えてますの?

と、ともかくルビーがこの話を知って、首を覚悟でお母様に抗議にいったのですけど…


「あら?でもルビーのお父様も人族だったわよね?」

「それは、そうですが…」

「貴女のお母様は、お父様と結婚したことを後悔してるかしら?人族と結婚して夫に先立たれて、嘆きながら暮らしてる?」

「…いえ」

「それに人族の血が混じったからといって、エルフ族の魔力が衰えたりはしないわよね?それどころか親を超える魔法使いになることだってあるもの、そうでしょうルビー?」

「…はい、ですが混血ですと仮に子供が生まれてもナティアの名を継げない子になります」

「ああそれね、その風習もうやめようと思ってるの、ちょうどウルカもそのことに疑問を感じてるから評議会で混血の子も名を継げるように掟を変える会議をしようって言ってたわ」

「な…そんな簡単に掟が変えられるのですか!?」

「簡単ではないけどナティア家はサイプラスで一番財力があるからなんとかなると思うわ、それにヴォルガーのことでグライア家と…ひょっとしたらラレイア家も味方につけられそうだから、可能性は高いでしょう」


 二人が話すのをどきどきしながら見てたのですけど、結局お母様にはルビーも勝てませんでしたわ。

最後には「ルビーもこれでお母様と同じラグネアの名を名乗れるわね?」と言われると反論できなくなって、すごすごと退散して行きましたわ。


 わたくしはこの話を最後にお兄様へと相談しました。

お兄様が最後だったのは、たぶん、何を言われるかわかってたからですわ。


「ふむ…そうだな、もしヴォルガーが女だったら、この兄が妹に代わって結婚していただろう、勿論それは自分の意思でだよ」


 お兄様も結局、彼のことが嫌いではないのですわ。

思った通り…というか、女だったら結婚していたとまで言うのは予想より上でしたけど。


「だが妹よ、これはお前の問題だ、お前にその気がないのなら嫌とハッキリ言えばお父様もお母様も無理にとは言わないだろう」 


 お兄様にそう言われ、わたくしは自分が一体どうしたいのか考えましたの。

それで、まだよくわからないけれど、こうなったらもうヴォルガーに直接、わたくしと結婚となったらどうするか聞くことに決めましたわ。


 だから彼に今夜、部屋で大事な話があると勇気を出して伝えましたの。

心臓が爆発するかと思いましたわ。


 でもその日、夜になる前にディム様が新たな客を連れて我が家を訪れました。

一人はラレイア家のプラム様、そしてもう一人が…プラム様の娘のミュセでしたわ。

ミュセはわたくしが冒険者に憧れることになったきっかけを作った子ですの。

彼女とは数えるほどしか会ったことがありませんけど、わたくしの大切な友人なのですわ!


「ミュセ!またウィンドミルに来て…」

「あんたねー、コムラード出てオーキッドに行ったって聞いたのに、なんでこんなところにいるのよ、逆方向じゃないの、どうやったらこんなことになるわけ?」

「色々あったんだ!聞くも涙、語るも涙の物語がだな」


 わたくしの大切な友人のミュセは、彼ととても親しそうに話をしていました。

…二人は知り合いだったんですの…?


 二人の会話に割って入る気になれなくて、戸惑ってる内に彼はディム様と共にどこかへ行ってしまい、ミュセが私のところへ来ました。


「ごめんねカルル、挨拶が遅れちゃって」

「少しくらい…気にしてませんわ、それよりミュセは彼と知り合いですの?」

「彼?ああ、ヴォルガー?うん、そうよ、ほら前にタイラントバジリスクの話をしたでしょ?その時無茶苦茶な作戦立てて、実際やってのけたやつがいるって言ったと思うんだけど…それがあいつなのよ」


 そうだったんですの…ということはミュセは、彼から実力をきちんと教えてもらっていたということ、わたくしのように秘密にされていたのではないという事ですわ。


 つまりミュセは最初から彼から仲間として見られていたのですわ…

そう考えると心が少し痛みました、なんなのですわ…


「ねえ、ミュセは彼のことどう思っていますの?」


 この時なぜ突然ミュセにこんなことを言ったのかわたくしにもわかりませんわ。


「どうって…?うーん、変な男だなあと思ってるけど?」

「それだけですの?」

「他にはそうねえ、まあ強いとは思うわ、仮に私が100回あいつに挑んだら100回負けると思う」

「ふふ、彼は強いですわよね」

「ちょっと笑わないでよ、これ結構悔しいんだから」

「ごめんなさい、それで他にはありませんの?」

「まだ言わなきゃだめなの?…そうねえ…基本的に変態だと思ってるわ、いつもいやらしい目してると思わない?私のママのこともいやらしい目で見てたりするのよ、最低だわ」

「そこまで言う事ありませんわ!」

「何で怒るのよ…聞かれたから答えただけなのに…」


 彼のことを悪く言われて、ちょっと興奮してしまいましたわ。

とりあえずミュセは彼に対して特別な感情は持って無いとわかって、何となく安心しました。


 それでようやく気付いたのですわ。

わたくし、彼のことが好き…みたいですの。


 そうと分かれば、もう何も迷う必要はありませんわ!

彼が戻ってきたら今晩…わたくしの気持ちを伝えますの!


 そう覚悟を決めていたのですけど、彼はその日戻ってきませんでした。


 翌朝になって、ディム様と一緒に戻って来たのですけど…


「どもども、うちはマイカクライムちゅうもんや、お嬢ちゃんとは何度かおうとると思うけど覚えとる?」


 彼はエルフ族の女の人をもう一人連れて帰ってきました。

その女は仲良さげに彼と腕を組みながら私に話しかけてきましたわ。


 この変な喋り方の女はウィンドミルにいるクライム家の代表。

パーティーで何度か見かけたことがありますから、しっかり覚えていましたわ。

これまであまり話すことはありませんでしたけど。


「ウチこの度結婚しようと思いましてなあ、隣におるこの男、ヴォルガーはんがな、ウチの旦那様になるんや、せやから一応挨拶しとこうちゅうことで今日はここへ来たんよ」


 一瞬頭の中が真っ白になって、この女が何を言ってるかよくわからなくて、もう一度二人をよく見て、彼はマイカと腕を汲んでてマイカはにこにこして彼を旦那様と呼んで。


「何を言ってますの?ヴォルガーはわたくしと結婚するのですから、貴女の旦那様ではありませんわ!」


 わたくしの口が勝手にそのように叫んでいました。

しかしマイカは何も言わず、にやにやと嫌な笑みを浮かべていました。


 そして彼…ヴォルガーは…口を開けて、馬鹿みたいな顔で固まっていました。


 しっかりしなさい!貴方はわたくしの夫となる人物なんですのよ!!

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