liar
街中には普通無いタイプの家へ行く
「そろそろどういう事なのか説明してもらいたんだがね」
ウルカちゃんが言う通りディムは一体何がやりたいのか俺にも説明して欲しいところだった。
ミュセとプラムを連れて来てまで…俺の知り合いを集めてパーティーをしてくれるってことでもなさそうだし。
「わかった、しかしまず四人だけで話をしたい」
ディムは俺とウルカちゃん、それにプラムだけを部屋に残すようウルカに頼んだ。
他の人には聞かせたくない類の話のようだ。
久々にあったミュセとは軽い挨拶程度しかできなかったが別にいいや。
あいつ俺がここ来る前に泊ってた宿屋で、ディム宛に残して来た伝言を一緒に聞いてたらしく「お金くださいってよく平然と言えるわね?冒険者やめて物乞いにでもなったの?」と厳しい意見をバシバシぶつけてきたのでとりあえず今後はお金が欲しいときは伝言ではなく、直接頼むことにしようと思う。
そんな風にミュセに絡まれていたらお嬢様が何か言いたそうにこちらを伺っていたのでとりあえずミュセはお嬢様におしつけて事なきを得た。
チラっと二人が話す様子を見た限りでは友達みたいな雰囲気を感じられた。
お嬢様、お友達いたんですね、良かったです。
「ヴォルガーはもう既にアリム様の話は聞いているんだな?」
「ああ、その人の墓へ俺を連れて行くのにいろいろ手間取ってるんだろ?プラムをわざわざ連れてきたのは何か関係あるのか?」
「プラムはラレイア一族の代表だからだ」
おう…そうか、プラムの本名はプラムラレイアだった、忘れてたけど。
「違うわよ、私はただの代理なの、本当のラレイア一族の代表はこの街に住んでるのよ」
「え?そうなの?」
「ええ、でも事あるごと何かと私にラレイア一族の代表として評議会に出ろって言ってくるのよ、私はそれが嫌でベイルリバーに住んでるんだけど」
「プラム君、それだとヴォルガーが誤解するだろう、本当は君が代表で妹さんは君の代理で普段の評議会に出席しているはずだよ」
「…つまり妹に押し付けてる?面倒なのか?」
俺の言葉から逃げるようにプラムは視線を逸らし、無言でティーカップを手に取った。
つまり評議会とやらが面倒で妹に押し付けてるとみて間違いなさそうだ。
「今回だけよ?ヴォルガーをアリム様のお墓へ連れて行くためにディムに協力したんだから」
「俺がそこへ行ってなんになるんだ?」
「お前にあるものを読んでほしいのだ」
「はあ?」
変なことを言い出したディムが一枚のメモ用紙みたいな紙をテーブルの上に置いた。
「ヴォルガーはこれが読めるか?」
見てみると短い単語がそこに書いてあった。
目にした瞬間、口に出して言うべきかどうか迷った、でもディムは俺が読めると確信してるっぽいので仕方なく声に出して読んだ。
「liar…」
「読めるんだな?どういう意味だ?」
「…嘘つきって意味だよ」
なんだよこれ、どういうこと?
俺は嘘なんか…いやあの、たまに、ごくたまに嘘つくけど、いやそれはどうでもよくて、なぜディムは俺が英語を読めると気づいてたんだ?
「この紙はどこで?」
「アバランシュにいた魔王教のやつらが持っていた」
魔王教という単語が出た途端、ウルカちゃんとプラムの表情が険しくなった。
「ただし魔王教のやつらはこれが読めていない、古くから伝わる魔王教の紋章のような感じで使っていたのだ」
「…そうか、ディム殿が今まで隠していた理由が今ので全てわかったよ」
「あのいや、俺はそこまで理解できてないんで教えてほしいんだけど?」
「アリム様はこれと似たような文字を使って何かを書いた石板をいくつも残してるのよ、それがお墓にあるの…今まで誰も読めなかったんだけどね」
「あー、ええ?じゃあ俺を連れてって読ませようってこと?…あの一つ聞きたいんだけどアリムさんていうのはエルフ族だよな?」
「そうだ、エルフ族のアリム様が書き残した物をヴォルガーに読んでもらいたい」
アリムさんてのは日本人じゃないのに英語を知ってた…教わったんだろうか、こっちに来た日本人に。
でもなんで英語でわざわざ書いたんだろう、今のエルフ族が誰も読めないってことは英語は伝えなかったんだ。
そうだよな、伝えてたらダンジョンのEXITも誰か読める者がいたはずだもんな。
じゃあもしかして、それはこの世界の生まれではない人にあてたメッセージ…?
英語にしたのは他の人に読んで欲しくなかったから?
「念のために聞くが…ヴォルガーは魔王教の者ではないんだな?」
「ええっ、何言ってんのウルカちゃん!?」
「違う、こいつはむしろ魔王とは敵対している、既に一人魔王を殺してるくらいだからな」
「えええええっ!?」「なんだと!?」
オウノウ…ディムに魔王関係のことをさっくりばらされてしまった。
でも殺したのはマーくんだよ、俺じゃないよ、と言ったところで無意味な気がした。
「信じられん話だが…ならば残る魔王は後一人ということか…」
「後一人ってなんだよ!?魔王まだいるの!?」
「未確認だがな、実は魔王教のやつらが魔王コックローチを復活させるため活発に活動をはじめたのは、何らかの偶然でそれ以前に魔王が一人蘇ったからではないかと推測されている」
「初耳なんですけど」
「これはまだごく一部の者しか知らない、逆にオレが聞きたいんだがヴォルガーはもう一人の魔王について何か知らないか?マグナたちは何も知らなかったみたいなんだが…」
「そんなこと言われても俺が会ったことあるのはゴキさん…魔王コックローチだけで他の魔王なんか知らないよ」
「ヴォルガーのことだから、気づかない間にどこかで偶然あってそっちの魔王ももう倒しちゃってたりするんじゃないの?」
俺をバトルマニアのキリングマシーンみたいに言うな人妻おっぱいめ。
「知らんて!そもそも何を根拠にもう一人魔王が復活したなんて話が出てきたんだよ」
「ナインスが神隠しの森にある館の中にあったホムンクルスが一体消えたと言っていた、魔王教のやつらはそのことを知っていて、魔王が復活してどこかへ姿を消したと、そう思っているのだ」
ナインス…神隠しの森…あっ…
このキーワードによって俺はとてつもなく嫌な考えに思い至ってしまった。
その消えた一体…俺かな…?…アイシャが盗んできて俺の精神体を突っ込んだやつかな…?
確証はないけど…今のところそれが最も近い答えのような気がしている。
だからさ、あの、まあ無いとは思うんだけど、可能性の一つとして言うと…
アイシャがホムンクルスを一体盗んだせいで、魔王教のやつが魔王いつの間にか復活してるやん!と勘違いして、アバランシュで二体目起こそうぜぇーってなった結果ゴキさんが出てきた…みたいな…はは。
「どうだ?何も知らないか?」
「何も知らないっすね」
しらを切り通すことにした。
だってこんなの言えないよ!?
あ、それ俺のことかもしんないですって言った瞬間、俺の人生お先真っ暗だよ!?
テーブルに置かれたメモの言葉が心に染みる。
ああはいはい、俺はライアー、嘘つきですよ。
「もう一人の魔王が見つかったらヴォルガーにまた倒してもらえばいいわね」
「頼りにしてるぞヴォルガー」
害虫駆除業者みたいな感覚で頼まれてるな…
「まあいいよそれで」
「頼んでおいてなんだけど随分あっさりしてるのね」
だって魔王なんかもういないからね、俺の予想が正しければ。
そんでいつまでたっても出てこないから皆もその内忘れると思うよ。
「魔王のことはさー正直どうでもいいんだけど、アリムさんのお墓は気になるな」
「ど、どうでもいいのか…ヴォルガーの強さは底が知れんな」
「ディムもさあ、そういう理由があるなら先に説明してくれればよかったのに」
「すまん、アリム様の墓のことはギリギリまで秘密にしておきたかったのだ、どこに魔王教のやつがいるかわかったもんじゃないんでな」
ああ、同じ字を使ってるから、最悪魔王教の仲間だと思われることもなくはないか。
ディムはそれを避けたかったんだな。
「とりあえずはヴォルガーがアリム様の石板の解読に協力してくれそうでよかった」
「いや、まだ墓に行って読むとは言ってないよ?気にはなると言っただけで」
「なに…なぜだ?お前しか読める者がいないのだ、協力してくれ」
「そうよ、私もウルカもずっと気になってることなんだから、力を貸して」
本当はすぐ協力してもいい、でも面倒事を避けるためにあえて一つ条件を付けようと思う。
「うーん、そうだな…じゃあ、なぜ俺がその文字を読めるのか詮索しないこと、この条件を呑んでくれるなら解読を手伝おう」
「「「………」」」
ディム、ウルカちゃん、プラムの三人が揃って黙った。
あぶねぇーやっぱりこいつらそのことを俺に聞くつもりだったな。
結構色んなところで異世界から来ましたって言っちゃってるけど、本当はそんなに言いたくないんだよ。
「…わかった、それで手をうとう」
「残念、ヴォルガーの秘密がわかりそうだったのに」
「ははは、プラムが独身なら教えても良かったよ、ただしベッドの中でね」
「私にだけ後でこっそり教えてくれないか?ベッドの中でも構わん」
「おい」
何言ってんのウルカちゃん、お前は独身でもない上に男だろーが。
ホモはお帰り下さい。
とにかくこれで周りにごちゃごちゃ聞かれずにアリムさんの残した英文の石板を読むことはできそうだ。
でもまだそのために解決すべき問題がもう一つある。
今のところグライア、ナティア、ラレイアの三家が俺をアリムさんの墓に連れて行くことに賛成してるわけなのだが、反対してるのも三家ある。
ティセア、カルニム、ラグネアという俺の全然知らないお家の方々だ。
ディムの話ではこの三つは取りつくしまもないらしい。
とにかくエルフ族以外がアリムさんの墓に行くことが許せないそうだ、例えどんな理由であろうと。
またアリムさんの残した石板を外に持ち出したり複製を作ることは、アリムさん自身が遺言で絶対禁止にしたみたいなので不可能だった、つまり俺が石板を読むには墓に行くしかないのだ。
「私がいいって言ったらいいと思うんだけど、どうして評議会の許可がないとだめなのかしら」
プラムがそんなことを言っていた。
彼女はアリムさんの直系の子孫にあたるらしい。
つまりアリムさんのフルネームはアリムラレイアということになる。
子孫の意見が尊重されるべきだと、そういうことを言ってるのだが、それを通すとやがてはリンデン王国みたいな王の家系だけが権力を持つことになりかねない。
「プラムは王様…女だから女王だな、女王になってもよかったのか?」
「…やっぱりここは評議会のやり方に従うことにしましょう」
俺の考えをプラムに説明したところ、このような返事が返って来た。
彼女はやっぱりそういう上に立つとかってことが相当嫌らしい。
ミュセにラレイアの名を継がせなかったのは、その辺のことが関係してるのかもしれないな。
娘に面倒なことをさせないためにさ。
そうなると妹さんの子供が継いでいくことになるのかな、妹さんの家にやや同情する。
「残るクライム一族の代表を説得するしかなさそうだ」
この話は結局そこに落ち着いた。
反対してる三家をどうこうするより残された一つを味方にすることで解決しようというのだ。
そうすれば賛成四、反対三になって俺はアリムさんの墓へ無事に行ける。
結論が出たことでディムが早速クライム家に行ってくると言い出した。
「あ、じゃあ俺も行く、当事者なんだし俺からも頼んだ方がいいだろ?」
「まあ、そう…だな、わかった一緒に行こう」
もっともらしいことを言ってディムに同行することに成功したが、とりあえず俺はクライム家に行きたいとかよりもこの家から出たかった。
このまま何だかんだ外でうだうだやって、今晩はこの家に帰らないつもりなのだ。
このままだとお嬢様とイケナイ関係になるかもしれないから…!
「ウルカが泊ってもいいって言ってくれたから、私とミュセちゃんはここで二人が帰ってくるのを待ってるわね」
すまないプラム、帰ってこないかもしれないけど一応なんかえーその時はこの家の使用人とかに帰れないことは伝えておくから安心してくれ。
そんなこんなで俺はディムと、ナティア家を出た。
ミュセに少し、ジグルドたちが今どうしてるのか聞きたかったけど次の機会にしよう。
ていうかあいつ、別に用事ないのになんで来たのかよくわからんかったけど、プラムのために道案内で着いて来たらしい…
ここからベイルリバーへ帰るときに、プラム一人じゃ道に迷って帰れないからとかいう悲しい理由で。
ベイルリバー行きの馬車乗り場ですらたどり着けない人妻に行ってきますと告げた後、ディムに案内されてウィンドミルの街中へ繰り出した。
歩いてる途中で腹減ったので俺たちは適当な店に入って食事をすることにした。
「そういえば…金はあるのか?」
「ん?あ、ああーまあ…あるとは言えないかな」
「宿代くらい置いていけばよかったな」
そう言ってディムは俺に金をくれた。
信じていたよ、お前はやっぱり心もイケメンなんだってな。
何も言わず金貨をくれるなんて、俺が女ならここで服を脱ぎだすところだった。
適当に入った飯屋にはメニューは置いてなかった。
今んとこ置いてあるところを見たことがない、出す料理がほとんど店によって決まってるせいだ。
地球みたいに色んな食材が手軽に手に入ったり、調理器具が揃ってたりしないからだな。
青鉄庫という冷蔵庫代わりの物体はあるけど、逆に言えばそれくらいしかないもんなぁ。
うどん屋のおっさんはうどんを茹でるための水を運ぶのが一番きついって言ってた。
ただ俺が行ったことのないような高級店ならメニューもあるかもしれないな。
そんなことを考えながら人族の店員に美味いもん持ってきてとか適当に注文すると、数分後に俺たちのテーブルに運ばれて来たのはお好み焼きだった。
でもお好みソースはかかってない、代わりに醤油を塗ってる、あとかつおぶしの代わりなのかよくわからないが千切りにされたニンジンが大量にお好み焼きの上に乗せられていた。
なんでこれだけ混ぜて焼かなかったんだろう。
ちょっとそばかすのある若い女の子の店員は「これ兎人族には大人気なの」と言っていた。
たぶんこのニンジンのせいだろうな…
食べてみるとそう悪くなかった、中身はキャベツと肉の細切れが入ってて、ニンジンはピクルスみたいに酸味があった。
お好み焼きにぽん酢かけたらこんな味になるのかもしれない。
ディムもこの店は初めて来たらしい、まあまあ美味いなって言ってた。
「サイプラスに来て良く思うんだけどさ、この国は獣人族とエルフ族と人族が同じ場所に結構いるよね?」
「そうだな、オーキッドのように居住区が分かれていたりはしない」
「種族的な差別とかは無いんだな、ドワーフ族はいないけど」
「多少はあるさ、例えばプラムの普段住んでいるベイルリバーは獣人族とエルフ族だけしか入れない」
「あ、そうだった、それ聞いたことあるわ」
「そういうことを気にしない者だけがウィンドミルにはいるんだ」
面白い街だな、住むには結構良さそうだ。
城みたいな家じゃなくて普通の家ならば、という話になるが。
食事を終えて店を出た後、俺は数日前に起きた出来事を思い出してディムに話した。
メイドの子がおかしくなって、セサル様とお嬢様を殺しに来た事件のことだ。
「そんなことがあったのか」
「でもその後何も無くて、家の人たちもあまり気にしなくなってるけど」
「ヴォルガーは魔法でメイドを誰かが操っていたと思ってるんだな」
「ああ、だけど皆そんな魔法は知らないって、ディムはどう?」
「お前が知らない魔法なのにオレが知るはずないだろう」
ディムの中で俺の評価がどうなってんのか気になるが、俺は別に魔法博士ではない。
こっちの世界の魔法でわからないことはまだまだたくさんある。
「ただ、そのメイドの行動は妙だな」
「そうだろ?戦闘なんか全然したことない子だったのに、ルビーさんと殴り合ってたんだぜ?」
「それもおかしいが、オレが言いたいのはそのことじゃない、仮に操られていて、セサルとカルルの殺害が目的だったなら、なぜウルカの妻を脅すようなことをしたんだ?」
「部屋の場所がわからなかったからだろ?」
「部屋の場所を知りたいならもっと上手い方法があるだろう、その家の者なら怪しまれずに部屋の場所を探る方法はもっと他にあった様に思えるぞ」
…確かにそうだな、玄関で奥さんにナイフを突きつけて聞き出す必要はない。
別のメイドにお嬢様の部屋の掃除を手伝ってとか言って案内してもらえばいいだけだ。
あんなでかい家に山ほど使用人がいるんだから、それくらいのこと言ってもそう怪しまれないだろう。
「…なんですぐ騒ぎになるような手を使ったんだろう?」
「そうだな…オレが思うに二人を殺すとかってのはでまかせで別に目的があったんじゃないか」
「目的?どんな?」
「あの家にいる者がどれくらいの強さか調べたくて、わざとそういう行動をしたとかな」
「じゃあ偵察だったのか!?」
「あくまでオレの推測だ、本当にそうかはわからん」
ちょっと心配になってきたな、何も起きてないってことはルビーさんの暴力を見て諦めたってことかな。
それとも、次に攻める準備中だとか…くそ、やっぱりあの家に帰った方がいいか。
「俺やっぱりあの家に戻ろうかな」
「心配になったのか、シルバーガーデンじゃ召使いにされていたのに案外あの家の者に優しいんだな」
「召使いの経験も悪くなかったからな」
「今はプラムもミュセもいるから安心しろ、それに…もう着いたぞ、あれがクライム一族の中で評議会出席者のマイカクライムが住む家だ」
「家…?」
そこにあるのは高い壁に囲まれ、さらに塔のようなものが壁の角に建てられており、壁の上には弓で武装したエルフ族の男がウロウロと巡回しているように歩いている光景だった。
ディム、間違ってもこれは家じゃない。
「何者だ!そこで止まれ!」
普通の家の人はいきなり弓を構えてそんなこと叫ばないからね。
これはたぶん…砦って言う物だと思うよ俺は。




