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別の意味で狙われている

ここが貴様の墓場となるのだ

 超金持ちであろうナティア家に泊りたいという俺の申し出は難なく通った。

当主であるウルカちゃんがいいよと言ったので他の誰が何と言おうが、高そうなアンティークの家具が揃った広い部屋で俺がベッドに寝転がる権利は当然ある。


「きゃああああああ!」

「ちょ、いやあの落ち着いて」


 真っ白なシーツにふかふかのベッドのコンボを久しく味わってなかった俺はついうっかり部屋に案内された後、そうそうに寝てしまった。

たぶん疲れてたんだよね、連日夜遊びが過ぎてたもんだから。


「また襲撃ですか!!」


 部屋に飛び込んで来るルビーさん、彼女の目には両手で顔を覆う若い女の猫耳メイドと、ベッドの傍に立っている俺の姿が映ってるはずだ。


「次はこの娘ですか…一体どうなってるんです!?」

「違うんだ、待ってルビーさん!殴らないで!」


 今にも猫耳メイドを殴ろうとするルビーさんの手を掴んで止める。

その行為によって俺の体を隠していたシーツが床に落ちた。


「はなし…なっ、なぜ貴方はそんな姿なんですか!?」


 見られてしまった…俺は今…全裸なのに…

パンツだけは履いてるとかそういうこともない、生まれたままの姿、正しい全裸なのだ。

正しい全裸ってなんだ?


 ルビーさんが驚いた後、俺から目を逸らす。


「誤解されるとアレなので説明しよう、さっきの悲鳴はこのメイドが上げたものではあるが、襲撃があったとかじゃあないんだ、そして俺が彼女に何かしようとしたわけでもない、ただその、俺の姿を見て思わず叫んだと、それだけのことなんだ」

「そそそ、そうなんです!お食事の準備が出来たのでお呼びに来たのですが返事がなく部屋の鍵も開いていたのでどうしたのかと中に入ってベッドの方を見たら、その、裸で大の字でお休みになっておられたのでつい…騒がしくして申し訳ありません!」

「紛らわしい…!とにかく貴方はさっさと服を着なさい!!」

 

 はい、俺は素直に服を着た。

猫耳メイドの子はルビーさんにもういいと言われて部屋を出てった。

つまり俺はルビーさんから横目でチラチラ見られながら服を着るという羞恥プレイを行ったと言える。


 あまりに綺麗なシーツだったので思わず全裸になって寝てみたかったと、正直にありのまま説明したのだが怒られた。

あんなことがあったというのにどうかしてると、ああ全くその通りだ、気が緩んでいた。

しかしな、日本にいるときの俺は全裸で寝るタイプの人間だったんだ。

こっちの世界じゃ衛生面が気になってその生活スタイルはやめたんだ、同居人もいたし。

女と寝るときは別として…いやそれはどうでもいい。


 大体最後に一人でゆっくり裸で寝たのってナクト村でココアとケリーの宿に泊まった時なんだぞ、あの時も最後の砦として一応パンツは履いてた、だから完全な一人全裸就寝は今回しかチャンスがないと思ったんだ、街にある宿はあんまり綺麗なベッドじゃないからやりたくなくて。


「貴方に裸を見せられるのはこれで二度目です…」

「え?ああそうだっけ?ははは、俺はルビーさんの裸を一回しか見てないけどねあのいやなんでもありません間違えました、なので果物ナイフをテーブルの上にゆっくり置いて下さいあと俺は一度もルビーさんの裸を見てません」


 さて俺の息子がボディとお別れしそうだった危機を乗り越えた後、ウルカちゃんたちと一緒に食事を…と思ってたのだが生憎そうはならなかった。

奥さんが大分ショックを受けて部屋で寝てるらしいんで、食事会とはならず俺の食事は部屋に運ばれて来た。

美味かったのだが和食じゃなくていささか残念だ、先にお嬢様たちと同じ食事でいいよと言っとけば良かったと思ったのだがそれってめちゃくちゃ遠慮なしにこの屋敷で一番偉いやつらと同じもん食わせろよと言ってるのと同じという風にとれないこともないのでどう言えば良かったのか迷う。

あ、普通に「サイプラス料理も好きですよ」で良かったか。


「彼女のことだが」


 食事の後、応接室らしきところに呼ばれた。

そこで待っていたウルカちゃんがそう切り出したのは、例のおかしくなったメイドのことだ。

俺としちゃその話の前に朝食の注文をしたいところだったが、部屋には真剣な顔のお嬢様とルビーさんもいるのでどうもそういう事が言い出せる空気じゃない。

あまりふざけてるとウルカちゃんの背後でこっちに睨みを効かせるルビーさんから今度こそ股間をもぎ取られる気がする。


「今は地下牢に閉じ込めている、勿論見張り付きでな、もっともそれは彼女が自害するのを止めるための見張りと言ったほうがいいだろう」


 これくらいの家になると牢屋も完備してるのか…普段何を捕まえとくのか気になるが、それよりあのおかしくなったメイドはやっぱり自責の念にかられて未だ自殺をはかろうとしているようだった。

本来なら自殺しようがしまいが、殺されても文句は言われないくらいの罪を犯してしまっている。

だけど彼女を生かしているのは未だに理解不能な点があるからだ。


 彼女はルビーさんやお嬢様たちも知っているようにこの家のメイドだ。

だから当然、セサル様とお嬢様の部屋の場所も知っている。

なのに奥さんを脅して二人の部屋はどこかと聞いていたんだ、皆そのことが引っかかっている。


「やっぱり誰かに操られてたって線が一番あるんでは?」

「どうやって?魔法でか?そんな魔法聞いたことも無いぞ」

「めしつか…いえ、ヴォルガーはそういう魔法をしっているんですの?」


 知らない、ほわオンにもそういう魔法はない。

でもオフィーリアが確か魔王の中に憑依の魔法を使うやつがいるとか言ってたはずだ。

そういう魔法ならば同じことができるとは思うんだが、でも魔王の話が聞いた通りならそれは魔王固有の魔法なんだよなー。

魔王は既にゴキさんを殺してるし、ゴキさんは憑依なんかじゃなくてええと…オフィーリアは何て言ってたかな…不老は覚えてるんだよ、ロリコンの魔王だってわかりやすいから。

ゴキさんは、えー…あ、群体だ、そうそう。


 …あれ、群体って海にあるサンゴみたいな生物に使う言葉だよな。

なんか聞き間違えた?もしかして『軍隊』って言ったのかな。

でもどっちにしたって数が多いって意味合いでは共通している。

あー、ちくしょうあの時ちゃんとゴキさんの魔法について詳しく聞いておけばよかった。


 そして考えるほど嫌な考えが浮かんできた。

ゴキさんてあれ…もしかしていっぱいいるタイプなんじゃね…?

ゴキブリって名前だしさ…一匹見かけたら三十匹はいるという…


 実はゴキさんはいっぱいいて、俺たちが殺したのがその内の一匹だけだったらどうしよう。

きっと怒って復讐に…きてねえな、俺の勘違いかな。

いやでもまだ来てないだけという可能性も…


「随分考え込んでいるが心当たりがあるのか?」

「ん?あ、ああー…うーんと…」


 おかしくなったメイドについて話していたんだった。

つうかゴキさんがゴキブリみたいにいっぱい増えるタイプの魔法だったとしても、このメイドの件とは全然関係ないな。

人を操る訳じゃないもんな、ゴキさんのことは不安が残るが一旦置いておこう。


「魔王の中に、誰かの体に乗り移って操る魔法が使える者がいるとは聞いたことがある」

「なんだと!」

「どこでそんな話を聞いたんですの!?」

「マグノリアを旅してるときに土の女神オフィーリアに会って、その時に」 

「ヴォルガーは女神様に会ったことがあるのか!」


 これ言わないほうがよかったかな、案の定驚かれた。

でも他にどうやって知るのかうまい言い訳が思いつかなかった。


 オフィーリアがどんな姿だったかとかを聞かれたが、木に埋まってるってことは隠しておいた。

俺なりの優しさ、というのは冗談でもないが獣人族が大切に守っている以上オフィーリアの身動きが取れないことはあまり言いふらすべきではない。

獣人族はたぶん絶対そのことを言わないから、その話が獣人族以外に広まったら俺とか完全に疑われちゃう。


 俺の旅の話に矛先が向きそうになったのでメイドの話に戻したんだけど、それ以上特に進展はなかった。

結局あの子はしばらく牢で様子を見るってことになっただけだ。


 それから数日、屋敷に滞在した俺はちょくちょく牢に彼女の様子を見に行った。

なんかほっといたらまずい感じだったので、俺にできる限りの手段で彼女を調べたのだ。

服全部脱がせて全裸にしたとかではないよ?

街で彼女のあの日の足取りを調べたわけでもない、それは別の人がやってる。

魔法を使って調べたんだ、<キュア・オール>ももう一度試した。

<ホーリー・ライト・ブレッシング>も試した。

何か見落としてるのかとも思って<ライト・アウト>も使った。

セサル様とお嬢様を伴って、俺が完璧な防御魔法を二人にかけて、牢にいる彼女にあってもっかい一連の同じことをしてみたりもした。

でも成果はゼロ、わかったのは彼女には何の異常もないってことだけだ。


「私などのために、いろいろと手を尽くしてくれてありがとうございます…」

「…でも結局こんなことになっちゃって…すまん」

「いいんです、私には死ぬか、犯罪奴隷になるか、その二つしかありませんでしたから」


 おかしくなったけど何の異常も見つからないメイドは屋敷から追放された。

サイプラスのずっと南のほうに故郷の村があるのでそこへ帰って村で一生を過ごすことを条件に許されたらしい。

もうこのウィンドミルには二度と来れないが…最悪の結果にはならなかっただけマシだと思うことにした。


 それで俺も屋敷を出て、キャバクラで傷ついた心を癒す日々に戻ろうかと思ったんだけど、ウルカちゃんがまだ屋敷にいてくれていいっていうから屋敷にいる。

というか帰らしてくれない。

日に日に待遇が良くなってきて、今やウルカちゃんとその奥さん、セサル様、お嬢様と一緒に食事をしてるほどなんだけど…


「ははは、ヴォルガーが食べたいというので米を取り寄せたぞ、これはサイプラスでも一部の地域でしか作られていない貴重品だ」

「え、わざわざありがとう…なんかいいのかな、高いんでしょ?」

「いいんだいいんだ、ヴォルガーが食べたいのならいくらでも取り寄せよう」


 念願のお米様ともこうして再会したのだがどうも今一つ喜べない。

ウルカちゃんがここまで俺によくしてくれる理由がわからない。

米はその…意外にも日本で食べ慣れたようなやつとほとんど一緒で美味かったんだけど…


 部屋もスイートルームみたいな所に変わっておまけにそこで全裸で寝ても全く怒られない。

ルビーさんも汚物を見るような目を向けて来るどころかベッドメイクと俺の服を洗濯してくれている。

他の屋敷にいる使用人たちもめちゃ親切、メイドに酒飲みてーなーって言えばすぐ果実酒を持ってきてくれる。

 

 酒飲んでふとキャバクラ行きてえなーってつぶやいてたら、セサル様が一緒に行こうって俺をキャバクラに連れて行ってくれた。

自宅謹慎は終わりらしい、いや正確には俺と一緒なら良いという条件で外出許可を貰ったとのこと。

なんでかわからんがとりあえずセサル様と一緒に行ったキャバクラは楽しかった。


 ここまででも割と異常な感じがするのだが、もっともおかしい事がまだ他にある。


「ヴォルガー、わたくしとお茶にしましょう」


 お嬢様がおかしいんだ、毎日お茶に誘ってくる。


「ヴォルガーはこの街が好きですの?」

「まあ…はい、好きだけど」

「以前はリンデン王国のコムラード…でしたかしら、そこに住んでいたんですわよね、この街とどっちが好きですの?」

「えぇ、それはなんとも…いやもしコムラードの前にこの街に来ていたらここが一番好きと断言したと思うよ」

「そうですの、ところで毎晩お兄様とどこへ出かけてますの?」

「あ、すいませーんそこのメイドさん!紅茶お代わりくださーい!あとお茶うけにマカロンも!ん?なんだってマカロンは何ですかって?知らないのか、そいつはいけない、作り方を教えようさあ俺と一緒に台所へ」

「ヴォルガー!!どこへ行くんですの!!」


 こんな感じでなんというか以前より距離が近いのだ。

話を途中でうやむやにして逃げ出すのも難しくなってきてる。

一体なんだっていうんだ?


 狂ったメイドの襲撃もあれ以降なくて平和なもんだし、もうこれ以上俺がここにいる必要もない気がする。

はじめのうちこそ、このセレブな暮らしに喜んでいたけど最近じゃあまり楽しめない。

皆の…ディーナとアイラとマーくんの顔が頭をよぎるのだ。

三人は俺と違ってウェリケに会ってるはずなんだ、そして何か話をしてる。

ここで遊んでないで合流するのが正しいはず。

つーか俺が皆に会いたい。


 ディムのやろーは全然連絡よこさねーし、いくらなんでも俺を放置しすぎだろ。

俺を偉い人の墓に連れて行って何がしたいのか知らんけど、もう知らん。

俺は帰る、帰るぞ!


「…ヴォルガー、大事な話があるのですわ」


 帰ると決意した日の昼時、お嬢様がもじもじしながら俺に話しかけてきた。


「大事な話とは?」

「すうーはあーすうーはあー」


 お嬢様過呼吸なの?紙袋でも頭にかぶせたほうがいい?


「こっ、ここここ、今夜!」

「ひえっ」

「貴方のお部屋に行ってそこでお話しますわ!!」


 それだけ言ってお嬢様は顔を真っ赤にしながら走り去っていった。

お嬢様が走り去ったのとは逆方向、視線を感じてゆっくりそちらを向くと、廊下の陰から誰かがこちらを見ていた。

ウルカちゃんの奥さんだった。

気のせいかその顔は不敵に笑っていたような気がする。

 

 ここでようやく、何か俺は人生の墓場にいれられようとしているのではないかと感じ始めた。

急に俺の待遇が向上したのはあれだ、牢屋であの子に魔法使ってからだ。

単に俺の労働に対するお礼として優遇してくれてんのかと勘違いしてたが、たぶんこれ違う。


 俺の魔法を見せたからこうなったんだ。

それしかない。

あの日以来、妻の様子も見てくれとウルカちゃんに頼まれて奥さんの体調も見た。

良く分からんので適当に魔法かけて安心させた。

だというのに奥さんからはやけにその後も治療を頼まれた。

別に悪いところ無いと思うのになと思いつつも頼まれたら魔法をかけていたのだけど…


「最近お前はますます美しくなったな」

「そうかしら?おほほほほほほほほ」


 そんな会話を食事中にウルカちゃんとしていたじゃあないか。

なのになんで俺はそんなのそっちのけでごはんのお代わりを要求し、時には食事にあれこれ注文をつけて料理人と季節の物を使った炊き込みご飯とか熱心に開発していたんだ、馬鹿か。


 奥さんはあれだ…俺の魔法が美容に効くと完全に察している。

俺の魔法にはいつからグルコサミンとかコンドロイチンとか含まれるようになっちゃったんだろう。

いやそれ関節痛とかに効くやつだったっけ、まあなんでもいいわ別に。

もしかしたら美容サプリみたいな成分は含まれてはいないのかもしれないが、とにかく俺の回復魔法をかけるとお肌はすべすべになるし髪もうるおい成分増量してしまうようになってしまった。


 つまり俺は…俺の美容魔法という新ジャンルの力は狙われている。

この家の人たちに…!

お嬢様は俺を堕とすために送り込まれた刺客だ、間違いない!


 今晩、俺の部屋にお嬢様がどんなセクシーなランジェリーをつけてやってくるのか死ぬほど気になるがもうこれ以上ここにはいられない。

来られたらたぶん手を出す、俺はそういう人間なんだ。

取り返しのつかないことをしてしまう前に屋敷を出よう、それが最善だ。


 そう思って逃げる支度をしていたのに…


「待たせて悪かったな」


 ディムがこの屋敷に来てようやく俺の前に姿を現した。

 

「久しぶりね~~こんなところで会うなんて」

「まったくよ、何してんのよここで」


 あとなんかおっぱいのでかいのと貧乳のと、二人エルフ族の女を連れていた。

どっちも俺は知っていた。

貧乳はジグルドたち調和の牙のパーティーメンバーである冒険者、ミュセ。

もう一人はミュセのお母さんであるプラム。


 ディムは何でこの二人を連れてきたのだろうか?

もうエルフ族の女はお腹いっぱいなんだが。

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