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三人の内二人は危険なメイドがいる家

メイドってなんだっけ

 心の中でメイドAちゃんと呼んでるエルフ族の女の子から、三杯目の紅茶を貰った頃にようやく屋敷の主人が顔を見せた。


「待たせて悪かったね、私はウルカナティア、聞いているとは思うがセサルとカルルの父だ」


 セサル様と顔は似てはいるが、どことなく身にまとう雰囲気は違う。

落ち着きがあると言えばいいのかな、口では待たせたことを詫びつつもごくごく自然に俺の向かいに座るその振舞いからは反論できない威圧感を感じる。

やっぱり俺は怒られますか?


 これがセサル様であればこの後、窓の外を眺めつつ紅茶を手に取りフッと笑ったりするのだがこれはどういう意味かというと特に意味はない、ただやりたいだけ。


 対してウルカと名乗ったエルフ族の男は俺から目を逸らさず、俺が一応名乗り返すのを温和そうな笑みを浮かべながら黙って聞いていた。


「ウィンドミルに来るのは初めてかな?」

「え?ええ、そうです、随分大きな街なので驚きました」

「なかなかのものだろう?他の街にはない物もたくさんある、例えば君が毎日楽しんでいるキャバクラもその一つだよ」


 面と向かってはっきりそう言われるとなんかやだな。

いや別にこの街で世間体を気にする必要はないんだけど、ていうか俺がキャバ通いなのを把握してるってことだよな、ルビーさんもそうだったぽいし、こっそり監視されてたりすんの?俺って。


「あそこは私の店なんだよ」

「あ、そうだったんですか、いやー素晴らしいお店ですね!お酒は美味いし、女の子も皆可愛いし!」


 ウルカがオーナーだと知って納得した俺はとりあえずヨイショしておくことにした。

他にも教育が行き届いてるとか、店の落ち着いた雰囲気も素晴らしいとか思いつく限り適当にいろいろ。

にこにこしながら話を聞くウルカの背後で、立ったまま控えているルビーさんの目が俺の話を聞いている内にどことなく冷たくなったような気がするがたぶん気のせい、元々ああいう目の人だったはずだ。


「随分私の店を高く買ってくれているようで嬉しいよ、それともただのお世辞かな」

「いえいえ事実を言っただけですから!」

「その割に代金を支払ったことは一度もないそうだが?」


 背中を嫌な汗が伝う、チクショーそこつっこまれないようにめいっぱいヨイショしたのに!


「いやあのそれはー払う気がない訳ではなくてですねーえー」

「ああ、いいんだよ、君には店の女たちを魔法で治療してもらってるからね、女たちはあの店で一番重要な財産だ、それを守ってもらってると考えれば君一人の酒代など安いものだ」

「やっぱそこら辺のこともご存知なんですね」

「勿論、これからもどうか好きなだけ店で楽しんでくれ」


 キャバクラのことでとやかく言われるのではないとわかって一安心した。

しかもオーナーから今後もタダでいいよと言われたたのでもはや何一つ恐れることなくキャバクラを楽しめる、やったぜ。

いや待て、まだ完全に安心はできない、違うことで怒られる可能性は残っているのだ。

世間話はこれくらいにして本題にはいってもらおう。


「ところで俺を呼んだのはどういったご用件ですか?」

「君に興味が湧いてね、一度この目で直接見てみたいと思っていたのだよ」


 …興味って変な意味じゃないよね?ノーマルですよね?


「なんでも君はルビーやディム殿よりも強いらしいね」

「ええ?いやそんなことはないですけど」

「旦那様、彼は嘘つきでございます、真に受けないほうがよろしいかと」

「ルビー、私が招いた客人に対して失礼なことを言うな」

「…申し訳ありません」


 はははそうだぞルビー君、失礼なことを言うないやすいませんあのこっち見ないで下さい。


「すまないね、ルビーは君に負けたことが相当悔しいようで帰ってきてから毎日鍛錬ばかりしているのだよ」

「はあ…それはなんというか…ほどほどにしておいたほうが…」


 筋肉ムキムキになったルビーさんとか絶対見たくないし…


「私程度がいくら鍛錬しようと敵ではないということですか?」

「えっ?いやそうじゃなくて体を大事にしてねみたいなそういう意味で」

「…命を粗末にするなと、なるほど弱者に情けをかけているのですか…覚えていなさい、今は敵わなくともいつか…」

「ルビー、いい加減にしたまえ、これ以上勝手な発言をするつもりならこの部屋にいる必要はない、今すぐ出て行きなさい」

「大変申し訳ございません…旦那様…ヴォルガー…様…」


 ルビーさんはそう言って一歩引くと、黙って置物の人形のようになってしまった。

色々誤解しているようで後が怖いな。


「ルビーが失礼なことをしてすまない」

「いえ、気にしてませんから…」

「君は器の大きい人物だな、ルビーも少しは見習いたまえ」


 余計なこと言わないでくれます?ルビーさん無表情だけど内心絶対怒ってるよー。


「しかしディム殿よりも強いというのは本当なのかね?ルビーだけでなく、息子と娘からも同じように聞いているが、そこだけはどうも信じられん」

「あの何か誤解してるみたいですけど、強いという訳ではなくて、単に大抵の攻撃が防げるというだけです、俺は攻撃魔法なんかはさっぱり使えないんですよ」

「そうなのか?」


 ウルカはルビーさんにちらりと目をやった。

俺のいうことが本当なのかどうか一応ルビーさんに確かめてるようだけど…


「確かに、ヴォルガー様が攻撃魔法を使うところは一度も見たことがありません」


 <ライトボール>しかないからね、しかもそれも威力皆無の明かりにしかならないやつだし。


「本当に?攻撃魔法は何一つ?」


 今度は俺を見てそう問いかけるウルカ。

少し考えて、二人に俺が攻撃できないことを教えることにした。

と言っても攻撃魔法が使えないことだけだ、ふわふわにくまんのことをすべて教えるわけじゃない。

何も教えず誤解されたままでいるといつかルビーさんがリベンジにきそうで嫌なので致し方ない。


「<ライトボール>だけは使えますけどね、でも当たっても痛くも痒くもない<ライト>とほぼ変わらないようなものですよ」

「随分片寄った魔法の覚え方をしているんだな」

「俺の仲間が攻撃のことしか頭にないようなそんなのばっかりだったんです、だから俺は仲間を支えるためにこういう魔法ばかり覚えてしまって」

「役割分担が完全に決まっていたんだな、冒険者というよりはまるで軍人だ、その仲間たちは今はどうしているんだい」

「もう二度と会うことはないでしょう」

「…そうか、それは悪い事を聞いてしまったな」


 ウルカは申し訳なさそうに頭を下げた、さらなる誤解を与えてしまったようだが特に問題はないのでこのままにしておこう。

すまん、ほわオンで共に遊んだギルドの仲間たちよ、君たちはたった今死んだことになってしまった。

でもそっちは何度死んでもリスポーン地点に戻るだけだから別にいいよね。


「話を変えようか、実は先日ディム殿が私のところに来てね、頼み事をしていったのだ」

「ディムのやつここに来てたんですか?」

「ああ、アリム様の墓にヴォルガー君を連れて行きたいので協力してくれとね」

「アリム様?誰ですか?」

「聞いていないのか?ディム殿は君をサイプラスの創始者であるアリム様の墓に連れて行きたいと言っているのだよ」


 ディムのやつ…なんでそんなところに俺を…一緒に墓参りがしたかったのか?

意味がわからんけど、許可がいるってことはアリム様の墓ってのは相当重要な場所みたいだな。

ますます俺を連れて行く意味がわからんけど。


「何か連れて行きたい場所があるので待っててくれとは言われてます」

「これは口が滑ってしまったな、まあいい、この際アリム様のことをきちんと伝えておこう」


 それは俺にとっても聞きたいことであったので、是非お願いしますとウルカに頼んだ。

それで話を聞いたんだけど、アリム様の墓ってのはエルフ族にとってすごく大切な場所で、これまでエルフ族以外の種族が立ち入ったことは無い場所だった。


 ディムはそんなところへ人族の俺を連れて行こうとしているもんで、問題になってるらしい。

俺をアリム様の墓へ入れてもいいかどうか、それを決めるために評議会ってのが開かれる予定にまでなっちゃって…ウルカは多数決で結論を出すことになるだろうと教えてくれた。


 評議会に出席予定のサイプラスを代表する七大エルフ族から代表者が、ディムの要望に賛成するか反対するか決議を行うのだ。

七大エルフ族って言うのはラレイア、グライア、ナティア、クライム、ティセア、カルニム、ラグネアの名を持つ一族のことを言う、覚えておける気がしない。

とりあえずディムはグライア一族代表で、ウルカはナティア一族代表だった。

要するにディムはウルカに一票いれてくれと根回しに来たのだ。


「何のために人族のヴォルガー君をアリム様の墓へ連れて行きたいのか、ディム殿に尋ねたところ詳しい事は答えられないと返された」

「ああそれで俺を呼んで理由を聞こうと思ったんですね?」

「そうだ、しかし君もどこへ行くかすら教えられてないとはな」

「いやあ…手続きがいるから重要な場所かなあとは思ってましたけど…」


 墓参りだとは聞いて無い。


「それで、今どんな感じなんです?聞く限りじゃ俺が行くのは難しそうですけど」

「ティセア、カルニム、ラグネアの三人は反対している、ラレイア、クライム、そして私はまだ考慮中といったところだ」


 おいおいじゃあそれって実質ディムのいるグライア一族だけしか賛成してないってことじゃん。

なんかこれ俺がめちゃ嫌われてるみたいで傷つくなぁ。

俺、本当に墓参り行く必要ある?


「ただ私はディム殿の要望に応えてもいいと今は考えている、君と会って考えが固まったよ」

「はあ、まだ少し話をしただけですが…それはどうしてですか?」

「こうして見る限りヴォルガー君は悪人ではなさそうだ、それに息子と娘も世話になった、あの二人には相当振り回されたのではないかね」

「ま、まあそれなりに…いやでも俺も魔法使えること黙ってたんで何とも言えないですけど」

「それでも陰ながら二人を助けてくれたのだろう?カルルなど何度もダンジョンで冒険した話を私に教えてくれたよ、君が剣にかけた光の刃を生み出す魔法が特にお気に入りのようだ」

「そうだ、お二人は今どうしてるんですか?」

「部屋で勉強中だ、しばらくは外出禁止にしてある、一応反省はしてもらわないとな」


 ああ…やっぱそこはお父さんからお叱りを受けたのか。

自宅謹慎中だったのな、そりゃ街に出ても会うこともないわ。


「もう一つ君を気に入った理由があるぞ、それは私の経営するキャバクラを楽しんでくれていることだ、キャバクラ好きに悪人はいないからな、はっはっはっ!」


 なんだその超理論、どちらかというとたぶん悪人の方が好きだと思いますよ、キャバクラ。

俺の勝手なイメージだと酒を浴びるように飲んで、女をはべらすのって真面目な人あんまりやらないですよ。

だってヤクザが悪い顔して相談事するのに使うような場所だよ。

間違いないよ、だって見たもの、龍〇如くで。


 でも俺はそんな内心とは裏腹に「名台詞ですね!俺もそう思います!」と言ってウルカの超理論に同意して笑っておいた。

少なくとも俺は悪人ではないと、自分ではそう思ってるからな。


「今度私と一緒に行くかね!」

「お、それもいいですねー、あ、でもウルカさんが行ったら店の女の子緊張しちゃうんじゃないですか?」

「大丈夫だ、何度も行ってるからな、それに私の店ではあるが実質経営しているのは私の部下だ、私の顔を知っている女などほとんどおらんよ」

「なら平気ですね!そうだ一緒に行ったら王様ゲームやりません?」

「なんだねその王様ゲームというのは」

「ええとですね遊びの一つで、くじを引いて、誰が王様か決めて…」


 俺は王様ゲームの話でウルカと盛り上がった。

ウルカは「遊びの一環ならばきわどい命令もできそうだな!」と王様ゲームの本質を早くも見抜いていた。

なかなか話の分かる男だ、結構好きかもしれない。

墓参りはぶっちゃけどうでもいいが、ウルカとは仲良くしたいなと思った。


「早速今夜行こうではないかヴォルガー!王様ゲームと、あとバニーガールという衣装についてももっと詳しく知りたい!」

「いえーい、ウルカちゃん分かってるー、いえーい」


 網タイツとバニーガールの話もしたら食いついてきて、いつの間にかお互いをヴォルガー、ウルカちゃんと呼び合う仲に発展していた。

だが俺とウルカちゃんは話が盛り上がりすぎて忘れていた、この部屋にはもう一人いたということを。


「では奥様に、旦那様は夕食時には不在だとお伝えしてまいります」


 ルビーさんの一言でウルカちゃんが凍り付いた。


「ルビー、分かっているとは思うが余計なことを言う必要はないぞ?」

「分かっております、ヴォルガー様とキャバクラに出かけられたと、そうお伝えしておきます」


 それが余計なことであった。


「る、ルビーさんも一緒に行きません?」

「私は結構です」

「まあまあ、楽しいから、ウルカちゃんもルビーさん連れてくくらい構わないよね?」

「あ、ああそうだな、ルビーも行こうではないか、きっと大いに楽し…」

「私は、結構、です」


 なんて冷たい目をしているんだルビーさん…

おかげでウルカちゃんの目から光が失われてしまった…

この人もやはり、奥さんには弱いんだろうな…


 盛り上がりから一転してお通夜ムードになってしまった。

ごめんなウルカちゃん…また今度一緒にキャバクラ行こうな…今日はとりあえず、俺と店の女の子たちだけで王様ゲームしてくるから。

なんかトイレにも行きたくなってきたし今日はもう帰ろう。


「あの、それじゃ俺はこれで…」

「きゃあああああああああ!!!」


 帰ります、という前に屋敷のどこからか女の悲鳴が聞こえた。


「何事だ!」

「私が見て参ります、旦那様はここでお待ち下さい」

「いや私も行こう、ヴォルガー、君はここで…」

「一人で待つのは嫌なので俺も行きますよ」


 結局全員部屋を出た、先頭はルビーさん、後ろにウルカちゃんと俺が続く。


 廊下に出ると屋敷の玄関付近でメイドがへたりこんでいるのが見えた。

そのメイドに駆け寄ったら、何を見てへたり込んでいるのかすぐに理解できた。


「あ、あなた…助けて…」

「何をやっている!?妻を放せ!!」


 エルフ族の女が背後からナイフを首につきつけられ、拘束されている。

ウルカちゃんが妻と言ったので、あれが奥さんなのだろう。

問題はウルカちゃんの奥さんにナイフをつきつけてるのが、メイド姿の人族の女だということだ。


「息子と、娘はドコ?」


 そのメイドは淡々とした口調でそう言った。

奥さんにそう問いかけてる様子だ、てことはつまりセサル様とお嬢様を捜してる?


「ルビーさん、あの子はこの家のメイド?」

「…ええ、一体なぜこんなことを」


 なんてこった、仕事に不満があって犯行に及んだというわけでもなさそうだ。

セサル様とお嬢様を捜してるってことは二人に何か恨みがあるのか。


 奥さんの首元にナイフがあるせいで誰も動けない。


「教えないと、殺す」


 メイドの子がさらに過激な発言をして奥さんが小さく悲鳴を上げる。


「息子たちに何をする気だ」

「殺す」


 あのそんなこと言われて教える人いないと思うんですけど。

メイドのシンプルすぎる答えにそんな疑問が頭に浮かんだ。

  

「悲鳴みたいなものが聞こえましたけど…何の騒ぎですの?」


 あろうことかこのタイミングで、俺たちの背後から聞き覚えのある声がした。

縦ロールをびよんびよんとさせながらこちらへ歩いてくるのは間違いなくお嬢様。


「カルル!こっちへ来るな!」

「え、お父様?あ!召使いも…」


 再会を喜んでいる場合ではないですお嬢様。

そしてウルカちゃんのうっかり発言のせいでナイフを持ったメイドが奥さんを突き飛ばし、こちらにすごい勢いで一足飛びに突っ込んできた。


 ルビーさんがそれを撃退しようとカウンター気味に拳を繰り出す。

メイドは体をひねってそれをかわすと、床に倒れるような体勢からナイフを投擲した。

ナイフはルビーさんの脇をすり抜け、こちらへ飛んでくる。

ウルカちゃんも俺も狙っていない、お嬢様めがけて一直線だ。


「あぶねっ」


 ナイフは俺の背後にいるお嬢様に届くことなく床に落ちた。

ふう、念のためウルカちゃんがお嬢様の名前を叫んだ時点で<ライト・ウォール>を貼っていたのだ。


 ナイフが届かなかったとみると即座にメイドはルビーさんに足払いをかける。

ルビーさんはそれをかわしたが、メイドはその瞬間に距離をとって離れた。

つーかあのメイドなに?超人的な運動能力なんですけど。

どういう基準でメイドを雇ってるんだこの家は。

 

「何をした?」


 アサシンメイドが何か言ってるけど答える義理はない。

俺はとりあえず腰をぬかしてへたりこんでたもう一人のメイドを抱えてお嬢様の近くへ飛んだ。

ウルカちゃんは奥さんの元へ、ルビーさんはアサシンメイドの前に立って俺たちの壁になっている。


「召使い!何事ですの!?」

「俺もう召使いじゃないんですけど…とりあえずお嬢様はあの子に狙われてるっぽいんで前にでないほうがいいですよ」

「狙われてる!?なんでですの!?」


 知らないですの、いや、俺も知りたいですよ。

お嬢様がこっそりいじめてたりしたんじゃないですか?

200キロくらいありそうな荷物を持てとか無茶ぶりして。


「それよりお嬢様はこの子と一緒に部屋に隠れて」


 腰を抜かしてるメイドを抱き上げてお嬢様に渡す。


「えっ、わたくしがなんでメイドを…あなた随分軽いですわね」


 お嬢様に<ウェイク・パワー>かけといたからね、運ぶくらいできるでしょ。

ていうかアサシンメイドがルビーさんと戦闘再開しちゃったから早く!


「後でちゃんと説明してもらいますわよ!」


 お嬢様はメイドを抱えて走って行った。

ウルカちゃんと奥さんは…別方向に行ったみたいだ。

逃げたのでとりあえず良し。

俺はルビーさんの援護をするために殴る蹴るの戦闘をしてる二人に近づく。


「おっと」


 アサシンメイドの蹴りをくらって後ろに飛び、よろめくルビーさんにナイフが飛んできた。

俺はそれを手ではたき落す。

怖いので<プロテクション>を一応かけといた、痛くはなかった。

俺の行動に警戒したのか、アサシンメイドがルビーさんからまた離れる。


「ルビーさんより強いメイドがいるってやばくないですかこの家」

「強くありません、殺さないよう少し手加減しすぎただけです」

「…あの子は前からあんな感じで?」

「いいえ…気弱で大人しい子でした、何を突然血迷ったのか全くわかりません」


 急におかしくなったわけか、まあなんか目も普通じゃないもんな。

キャバクラのことを奥さんに伝えられそうになったときのウルカちゃんの目よりうつろだ。


「俺がルビーさんに支援魔法をかけます」

「もうかけてます」

「いや、もっと上位の魔法を」

「…くっ、まさか貴方の力を借りることになるなんて」

「こんな時まで嫌がらなくてもいいじゃないですか!ほらまた来た!もうかけますよ!<ウェイク・スピード>!」


 俺が魔法かけた瞬間、明らかに今までとは違う動きでルビーさんがアサシンメイドの攻撃をかわした。

そのまま殴り掛かって来た腕をひねりあげ、体勢が崩れて顔が下がった所に膝蹴りをくらわした。

女の子相手でも容赦なく顔面に膝蹴りをいれるルビーさん、やや引く。

さらに首筋に手刀を叩きこむと、アサシンメイドは床に崩れ落ちて動かなくなった。


「…え、殺した?」

「殺してません…と思います…いやどうでしょう…予想外の威力になってしまったのであるいは…」

「さすがルビーさんだ、同僚であろうと容赦なしとは」

「貴方があんな強力な魔法をかけるからでしょう!!」


 俺のせいなのか。

まあなんにせよルビーさんに怪我がなくてよかった。

この物騒なメイドちゃんは…ん、まだ息があるな。

顔面は血まみれで鼻も潰れて女の子なのに酷い有様だけど。


「生きてるぞ、どうする?<ヒール>かけときます?」

「そうですね…なぜあんなことをしたのか問いただしたいので…しかしまた暴れだしても困りますから縛り上げてから怪我を治しましょう」


 それからアサシンメイドを縛り上げ、ウルカちゃんやお嬢様にも無事終わったことを伝えた。

怪我を治してルビーさんが尋問する間、また暴れるとアレなので俺とルビーさん以外は別室に行ってもらった。

俺が残ることはルビーさんの提案だ。


「では私が魔法で話せる状態まで治します」

「いや、ちょっと待って、この子急におかしくなったんですよね?」

「ええ、街に出かけて帰って来た直後、突然奥様に襲い掛かったそうです」

「街で何かされたのかもしれないな」

「何かとは?」

「精神を操る魔法とかみたいな?」

「そんな魔法はありません」


 あれ、ないのか、いやでも…ルビーさんが知らないだけかも。

一応念のために<キュア・オール>をかけてから<ヒール>しよう。

なんらかの状態異常ならそれで治るはずだ。


 俺はその話をルビーさんにして、椅子に縛られて座らされているメイドに<キュア・オール>をかけた。

あとついでに<ヒール>も俺がかけた。


「完全に治してどうするんです!」

「え、いや、ちょっとだけ治すとか逆に難しいので…」

「それは自慢ですか?私程度の光魔法は自分には使う価値もないと?」

「ちょいちょいつっかかるのやめてくださいよ!そんな意味は込めてないですよ!」

「…ん…あれ…私…?」

「ほらルビーさんこの子気が付きましたよ!」

「ではこちらから先に尋問しましょう」


 それだと後で俺も尋問するみたいに聞こえるんですけど…


 とにかく目覚めたアサシンメイドにルビーさんが尋問をはじめた。

だが、あんまり意味がなかった。

彼女は街に出かけてから、何も覚えていなかったのだ。 

いつ屋敷に帰ってきたのかもわからず、ルビーさんに詰め寄られ、しまいには泣き出してしまった。

まあそりゃ泣くよ、正直に言わないと指を順番に折るとか言われたら。


 結局拷問もしなかった。

アサシンメイドは自分が奥さんを襲い、お嬢様を殺そうとしていたことを聞かされると自ら死のうとしたからだ。

どうか殺してくださいと懇願するその姿に、俺もルビーさんもこの子が嘘をついている様には思えなかった。


 それとよくわからんので何か俺も屋敷に泊ることにした。

俺が帰った後、第二、第三の襲撃があると寝ざめが悪いからな。


 とにかく今日はキャバクラに行けそうもない、それだけが心残りだった。

ウルカを途中からウカルとか書いてました 正しくはウルカです

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