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セクハラ親父

今まで子供連れだったので自重していた

 サイプラスの首都はサイプラスって名前の街で、これはやっぱり他国と同じような首都と国名が同じという分かりにくいシステムを導入しているのだがこれには一応理由があった。


 元々はサイプラスという名の一つの街から国が始まったのだ。

サイプラスが出来た当時、この大陸にはいくつも違う国というか部落、今のマグノリアの獣人族の村みたいなのが多数あった。


 それはルフェン大陸にいたエルフ族と獣人族の先住民たちで、人族とドワーフ族はルグニカ大陸から渡ってくるまでこっちにはいなかった。


 先住民は狩りを中心とした原始的な生活をしていて、非常に純粋な心を持っており、ルグニカ大陸からの移民たちが食料が欲しいと言えば狩りをしてきて食べ物を用意し、土地を案内して欲しいといえば自分たちの村へも快く連れて行った。


 そんな風にあれが欲しいこれが欲しいと移民たちが頼めば、先住民はなんでもくれた。

先住民たちには個人の所有物という観念が非常に希薄だったのだと思われる。

この大陸にあるものは、誰のものでもなくこの地に住むすべての人たちの共有物と認識していたのだろう。

航海に出たコロンブスがサン・サルバドル島で出会った原住民の話で何かこんな感じで似たようなのがあった気がする。


 ま、この世界にはコロンブスもインディアンもいなくて、代わりにけもみみやら長い耳の種族がいたんだけど。


 そこからの流れはやっぱ地球の歴史と同じく、先住民を奴隷として労働力にし移民たちが国を作ったのだが、時が進むに連れ争いが起き、国とかどうでもいいわってなった人たちが大陸の東にあったひとつの先住民の村を発展させサイプラスの街にした。

そこを中心として近隣の部族を統合した結果が後のサイプラス共和国になったのだ。


 シルバーガーデンからウィンドミルに向かう最中、何気なく暇つぶしにディムからサイプラスの成り立ちを聞いたらこんな感じのことを教えてくれた、一部俺の想像が混じっているけども。


「しかし一番栄えているのはウィンドミルだ、サイプラスの街は…まあ静かでいいところではある」


 話の最後にディムがそう付け加えていた、どうやら首都イコール一番繁栄してるという事ではない様子。

風の女神の神殿を途中でサイプラスの街からウィンドミルに移設したのをきっかけに過疎化が進んでるっぽい。

日本の首都が京都から江戸に変わった流れと同じ道をたどってんのかな。


 旅の同行者、いやむしろこっちが同行させてもらってる立場であるが、道を行く馬車の持ち主であるお嬢様セサル様ルビーさんは、ウィンドミルに実家があるのでそこへ帰るのが目的だ。

俺がウィンドミルへ行くのはお嬢様たちから我が家にご招待しますわと言われた訳でも、一番栄えてる街だから観光したい!という訳でもなく、ディムが俺に何か見せたいものがあるからとか言うのでウィンドミルに行ってるのだ。


 ディーナたちのことを考えたら寄り道せずにコムラードへ向かうべきなんだろうが、ディムには苦労をかけているので頼み事をされると断るわけにもいかない。


 だから、ウィンドミルについてディムが俺を連れて行こうとした場所に、なにかしら手続きが必要で、おまけにそれに時間がかかるみたいで、悪いが少し街で過ごして待っててくれと言われたからには観光するのも別段やりたくてやってるわけじゃなくて不可抗力なわけで。


「決まった?みんな考えた?」

「「「はーい」」」

「はいじゃあ答えを言いまーす…今君たちが考えた蛇の数が多ければ多いほど…エッチなことに興味がありまーっす!」

「えー!?」「やだーもう!」「わわ、私は一匹も想像してませんよぉ~?」


 可愛い女の子たちが笑ったり恥ずかしがったり、あるいは俺の背中を叩いたりしてくる、ありがとうございます。


 ここはキャバクラ、俺と一緒にお酒を飲んで楽しむ女の子は獣人族だったり、エルフ族だったり、人族だったりとバリエーション豊かである。

毎日がコスプレデーなキャバクラだ。

店の公式サイトかSNSが存在するならイイネを5万回くらい押してやりたい。


「ヴォルガーさんっていっつもエッチなこと言うんだから」

「いつもは言ってないだろ?それにエッチかどうかは君たちの答え次第だよ」


 ウィンドミルは栄えてるとは聞いてたけどほんとーに栄えてた。

たぶん今まで訪れた街の中で一番。

だってキャバクラあるんだぞ?

キャバクラという概念があるんだぞ、過去の日本人は何を伝えてんだ、でかしたと褒めてやろう。

 

 セサル様にこの店を紹介された時は、キャバクラっておいおい、いや仮にあったとしてもなんかこうサービス期待できんの?んん?そこんとこどうなの?

キャバ嬢もといキャストの教育も不十分で、ハズレのぼったくり店とかだったら遺憾の意を表明しますよ?

等と考えつつとりあえず行ってみたら、レベル高い子がいっぱいいてしかも日本でやったらセクハラで訴えられアメリカなら5秒後に裁判沙汰に発展しそうな悪ふざけをしても笑って許してくれる心の広い女の子たちが俺をもてなしてくれた。

ちなみにさっきエッチだとか言われたのは心理テストをした結果だ。

馬車で旅をしていたら天井に何か落ちてきて、扉を開けて確かめたら蛇が馬車内に入って来たという仮定の話で、蛇がどれくらいの数が侵入してきたかによってエッチに対する興味度の大小が分かると言われている。


 その話が嘘か本当かは知らん、それはどうでもいい。

重要なのは心理テストと称した単なるセクハラが存分にできるということだ。

俺はここに来て異世界を高く評価しはじめている。


 ウィンドミルに着いてから俺は夜な夜なこの店に通ってそういうことをしている。

それもこれもディムが俺を放り出してどっか行ったままなかなか帰ってこないのが悪い。


「ねーえヴォルガーさん、この子にもあれやってくれなーい?」


 肩を出したシンプルなデザインの赤いドレスを着ている人族の女の子が、犬人族の女の子の尻尾に酔って倒れたふりをしつつ顔を埋める作業にいそしんでいる俺に話しかけてきた。

かたわらには背の低い兎人族の女の子を連れている。


「あれってのは…まほ…おまじないのことかな」

「そうそう、おまじない」

「ようしそれじゃあ、おまじないやろうか、どこにすればいい?」


 兎人族の女の子はそっと手のひらを下に向けて両手を差し出して来た。

その手の甲は可哀想にやや荒れていて、触るとがさがさしてそうだった。


「えーあーきれいな手になあ<ヒール>れ!」


 俺の手で女の子の両手を包み適当なことを言うと、荒れていたお肌がつるつるのすべすべ、綺麗になった。

兎人族の女の子は自分の手をまじまじと見て、それから俺に抱き着いて頬にキスをした後、嬉しそうに飛び跳ねて店の奥へ行った。

何かあの子はまだ見習いらしくて店には出れないらしい。

裏でずっと洗い物とかやらされてっからああいう手になったんだな。


「ありがとー!」

「これくらいお安いごようさ」


 明らかに光魔法を使って治療をしているのは誰の目にも明らかなのだが、ここでそれはただのおまじないとして黙認されている。

きっかけは俺が最初にこの店へ来た時、相手をしてくれたこの赤いドレスの女の子に魔法を使ったことだった。

彼女も手が荒れていた、火傷の跡があって客にきづかれないようさりげなく隠していたのだがそれに気づいてしまった俺はこういう商売なのに不憫だなあと思ってつい魔法で治してしまったのだ。

酔ってて後先考えてなかったのもあるかもしれない。


 この街も一応アイシャ教があって、この店は定期的に神官を招いている。

勿論、治療の為にだ、いやたまにプライベートで来る神官もいるらしいけど。


 店の女の子たちは性的なサービスお断りが基本なのだが、気に入った客と仕事の後で個人的なお付き合いをすることもなくはない、いわゆるアフターだな。

それで変な病気もらったり、店の外で乱暴されたりとかもあるので神官を派遣してもらって治療を頼んでいるのだ。


 ただ治療には高い金がかかる、中には給料が軽く一月分は飛んでいった子もいるようだ。

店での仕事後に関しては自己責任という方針なので治療代が払えない子は当然クビだ。


 ま、だからこっそり内緒で俺が治してるってわけ。

普通は我慢してるようなささいな怪我も全部ね。

それのおかげで俺はこの店でタダで飲み食いできる権利までもらった。

かつてこんなにも俺にとって素晴らしいキャバクラが日本に存在しただろうか?


 無い、断言する。


「じゃあまた来てね~ヴォルガーさんっ」


 今日もまた楽しく女の子と戯れた後、気分よく店を出た。

ウィ、へへへ…一人になってなかったら出来なかった遊びだな…ヒック…


 俺のこと捜してくれてる皆にはすまないという気持ちはあるけど…あっちはあっちでコムラードで無事に過ごしてるってディムが言ってたし…これくらい遊んでもバチはあたらないさ。

どうせこの世界の神って適当なの多いしな、はっははははは!


 宿に向かって歩く俺の足は酔いが回ってややフラフラするが別にどうってことはない。

<キュア・オール>使えばすぐスッキリ解消さ、でもそれやると今のこの気分も冷めてしまって勿体ないのでまだやらない。


 通りを歩くと夜でもまだ人がそこそこ出歩いている。

この街は本当に人が多いし、いろいろある。

行ってないけど賭博場、カジノ的なものまであるらしい。

賭け事に使う金は無いので俺は別の店でウィンドミルを満喫している。


「おやじー、一杯くれ」

「あんたここんとこよく来るなあ」


 俺がふらりと立ち寄ったのは道の端にあった屋台。

キャバクラだけではがっつり食べた気にならないので、ここに寄ってから宿に帰るのがお決まりの流れ。


 屋台の犬か猫かよくわかんない、ピンとたったけも耳をしたおっさんが俺の前にどんぶりを置く。

中にはスープと、白くて太い麺が入っている。

あとなんかの肉の薄切りと、ねぎ。


 これはうどん、ここはうどんの屋台なのだ。


「うーん微妙に変な味のダシだが美味い」

「褒められてんのかどうかわかんねえな…」


 しょうゆベースのつゆっぽいんだけど、かつおだしとかそういうの入れてる感じでは無いんだよなあ。

前に店のおやじに何でダシとってんのか聞いたんだけど秘密だって教えてくれなかった。

商売の秘密はそりゃ確かに簡単には教えないかあ、と思ってダシを調べるのは諦めた。


 麺のほうはコシがあって日本で食べたことのある物と遜色ない。

うどんは俺も作ろうと思えば作れたけど、スープを用意できる目処がたたなかったから作らなかったんだよなあ。


 美味いからいいんだけどさ…ただ、この街うどんはあるのにラーメンの屋台がないんだよな…

店のおやじもラーメン?なにそれ?って感じだった。

ラーメン文化は伝わってなかったようだ。

俺もラーメンの麺は詳しい作り方がわからない、考えたらラーメン食いたくなってきた。


 うどん食べて腹を満たした後はもう宿に帰るだけだ。

それにしてもディムもさあ何日かかるとか事前に言ってくれよなー。

宿代が俺の財布を圧迫してるから、食事は全部屋台なんだよ。

店に入ればまた違う食べ物もありそうなのにさ。

キャバクラはあんまり食事に力入れてないのかビーフジャーキーみたいなのとか木の実とか果物系くらいしかないんだよなぁ。

そういう店だから仕方ないといえばそれまでなんだけど。


 ディムにあったら金くれよとかストレートに言ってみるか。

うんこみたいな台詞だが、あいつ金もってそうだから意外とすんなりくれそうな気がする。


「随分遅くまで遊びあるいているのですね」


 宿につく直前、背後から声をかけられた。

振り向くとメイド服、この街に来て初日に別れ、以来会ってなかったルビーさんがそこにいた。


「おー、ルビーさんじゃないっすかー、久しぶりー」

「…何ですかその態度…貴方酔ってますね…キャバクラ通いをしてるというのは真実でしたか」


 なぜそれを。

俺が連日キャバクラで飲んでることがルビーさんに伝わっているとは。


「お嬢様とセサル様は元気ですかぁ?」


 あの二人とも街に着いて別れてから全然会ってない。

ウィンドミルに入った時点で俺は召使いではなくなった。

一応揉めることなく退職できた。


「貴方はもう召使いではないので、お二人をそう呼ぶ必要はありません」

「いやなんかそういう風に呼ぶ癖がついちゃったんですよ」

「そうですか、なら別に構いませんが」

「で、二人はどうしてるんですか?街ふらついてても全然顔見ないし…まあこの街めちゃめちゃ広いから会う可能性が少ないとは思いますけど」

「お二人は元気ですので問題ありません」


 ルビーさんは相変わらず必要以上のことを教えてくれないな。


「はあ…ところでルビーさんはなにしにここへ?」

「貴方を迎えに来ました」


 俺をお嬢様、セサル様の住む家に招待してくれるってことらしい。

いやそれは別にいいんだけど…今もう夜なんですけど。


「貴方、朝からすぐ街中にふらふらと出かけているでしょう、昼間見つからないのでこうして宿の前で帰ってくるのを待っていたのです」

「なんか…すいません」

「明日の朝、もう一度迎えに来ます、決してどこかへ出かけたりしないように」


 そう言ってルビーさんは去って行った。

なんで俺を招待してくれる気になったのか聞き忘れた。

でもまあお嬢様の顔もちょっと見たかったし別に理由はなんでもいいか。


 翌朝、ディムに伝言を残して宿を出た。

『ナティア家によばれたので行ってきます、あとお金ください』


 ルビーさんに連れられてしばらく街を歩いて行くと段々でかい建物が増えてきて、人混みが少なくなって、やがてクソでかい屋敷の前に連れてこられた。


 シルバーガーデンで住んでいた家が犬小屋に思えるレベルででかい家だった。

広い庭には大きな門があって、俺たちが着くと家のほうからメイドが数人やってきて、ルビーさんとなにか会話をした後、内側から門を開ける。

門を開けるのもメイドの仕事だったのかぁ、と思いつつ庭を歩くと目の前にそびえたつヨーロッパの世界遺産か何かみたいな家とは別に、使用人の住む家らしいものが敷地内に何軒もあることに気づく。


 …これ、お嬢様やべえやつじゃん…マジお嬢様やん…


 いやわかってはいたけど…予想よりお嬢様っていうか…何言ってるのかわかんねえなこれ。


「あのえっと、俺はなんで呼ばれたんですかね…実は未払い分の給料があるとか…じゃないですよね、はい」

「旦那様がヴォルガーさんにお会いしたいと申されています」

「それはつまり、セサル様とお嬢様のお父さん?」

「そうです、失礼のないようお願いします」


 やっべ…変な緊張してきた…

結構軽い気持ちで特に理由も聞かず来てしまった…

サイプラスの本格的な食事を満喫できるかもしれないとか思ってしまって。


 ルビーさんではないメイドAとBが屋敷の扉を開く。


「ではこちらで少々お待ちください」


 案内された部屋で、俺はとりあえず頷いてソファーに腰かけた。


 ルビーさんの有無を言わさぬ態度に懐かしさを感じつつ、言われるがままにとりあえず来てはみたものの…俺は今、不安を感じ始めていた。


 セサル様とお嬢様を騙していたことを…怒られるとかじゃないよね…?と… 

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