選択肢のある墓場
少し長いかもと思ったけど強引に一話にした
冒険者ギルドでこれっぽっちも予想してなかった話を聞かされた私は、足取りも重くタックスさんのお店に戻った。
トニーへの説明役を押し付けられて、そこに残されていたアイラちゃんは帰って来た私を見て、最初こそ怒っていたけど、私の様子が行く前と全然違うことに気づいて怒るのをやめた。
以前に私とヴォルるんとアイラちゃんの三人で住んでた、お庭にある家を使ってもいいって、トニーが言ってくれたから今日はそこに泊ることにした。
中に入ると私の知らない物がいっぱい置いてあった、特に剣や鎧などの装備品とか…ここは今メルーアさんとモレグさんの二人が住んでるからそれらは二人の物なんだと思う。
オーキッドに行く前に置いて行ったはずの私の枕、スヤッピーは見つからなかった、捨てられちゃったのかな。
「冒険者ギルドで何があったんですか?」
「…ヴォルるん…どこにいるかわからないんだって…」
私はギルドでラルフォイさんとディムさんから聞かされた話をアイラちゃんに伝えた。
「こっちにあった通信クリスタルはずっと前に壊れてて、しかも壊れた原因はヴォルさんの方にあると思われてた…そういうことですか?」
「うん、でもヴォルるん通信クリスタルが壊れたなんて言ってなかったよね?」
通信クリスタルはどちらか片方が壊れたら、離れた場所にあるもう一つも同時に壊れる。
ラルフォイさんはそう言ってバラバラになった通信クリスタルの破片を見せてくれた。
ある日突然、手に持ってただけでそんな風になっちゃったんだって。
だから壊れたのはヴォルるんの方にある通信クリスタルに何かあったからだと思ってたみたい。
「そう、ですよね…ヴォルさんが最後に通信クリスタル使ってたのいつ頃でしたっけ」
たぶん、野営中にタマちゃんが魔物の肉をすり潰すのに使った時だわ。
ヴォルるんが怒って、タマちゃんが泣いちゃったからよく覚えてる。
アイラちゃんにも確認したけど、やっぱり私たちが通信クリスタルを見たのはその時が最後だ。
それ以降はヴォルるんが肌身離さず持ってたはず。
「でもそれから一度も見てないですよね」
「タマちゃんの村にいる間は使ってなかったわ」
「私たちの見てない所で使ってたらわかりませんけど…でもラルフォイさんの持ってる通信クリスタルが壊れた時期から考えると、やっぱり野営したときが怪しいですよね、本当はあの時もう壊れてたのかもしれません」
「えっ、じゃ、じゃあヴォルるんは…アイラちゃんはヴォルるんが私たちに嘘ついてたって言うの!?ヴォルるんはそんなこと…」
「ヴォルさん結構嘘つきますよ」
…そ、そうだったわ、ヴォルるん割と平気で嘘つく人だった…
初めて会った時から、異世界にある日本じゃなくてルグニカ大陸から来たと嘘ついてたわ。
私とアイラちゃんはひとまずヴォルるんが嘘ついてたと仮定して話し合った。
嘘をついてまで通信クリスタルが壊れたのを黙ってた理由は、あれってものすごく高価なものだから、本当のことを言ったら私たちが動揺するから黙ってたんじゃないかって、アイラちゃんはそう言ってた。
でもだからこそ、私は言ってほしかったなと思う。
ヴォルるん一人で抱え込まないで私にも相談してくれれば…自分一人でラルフォイさんに謝る気だったのかな…
それって私に話したところで、何の役にも立たないから意味ないって思ってる、そういうことなのかな…
はぁ。
もやもやしたものを胸に抱えながら、なんだか知らない人の家みたいになっちゃったお家でその日は眠った。
………
翌朝、家のドアをドンドン叩く音で目が覚めた。
もー朝っぱらかなんなのよーと思いつつ、眠い目をこすりながら玄関へ行く。
「助けてくれ!」
マーくんがいた、そう言えば昨日はマーくんほったらかしでギルドから帰ってきてたわ。
それにしても私に対して助けてくれって言葉がマーくんの口から出てくるって何事なのよ。
私がマーくんの助けになることとか無いと思うんだけど…
切羽詰まった感じで慌ててたからとりあえずマーくんを家の中へ入れてあげた。
アイラちゃんも目を覚まし、ふらふら歩いてきた。
ふらふらしてるのはアイラちゃんは結構朝弱いから、いつものこと。
寝起き直後だったのでマーくんの相手をする前に、私たちは外の井戸で顔を洗ったりして軽く身支度を整えた。
マーくんは家の中に入ると落ち着いたみたいで大人しく椅子に座ってたから、まあ後でいっかと思って。
「それで朝からどうしたのマーくん、助けてとか言ってたけど」
「わ、我も何が起きたのかわからないのだが、今朝気が付いたらいつのまにか宿にいて、素っ裸で寝ていたのだ、それになぜか我の隣にミーナが寝ていてこれも素っ裸だったのだ」
…マーくん…それって、どう考えてもミーナさんと、その…ヤっちゃってない?
どうやらマーくんは昨日冒険者ギルドに行ってから後のことを良く覚えてないらしかった。
目が覚めた後どうしていいかわからなくなって眠ってるミーナさんを置いてここへとりあえず走ってきたらしいわ。
「そっかあ、マーくんも大人になったのねえ」
「なな、何を言ってる!我はとっくに大人だ!」
「うんうん、いいから、わかってるから」
ミーナさんはマーくんのことやっぱり好きだったのね、昨日も久しぶり戻って来たマーくんのこと抱きしめてたくらいだし。
アイラちゃんが顔を真っ赤にしながら「もうその話やめてください」と言ったので、ひとまずマーくんとミーナさんのことについての話はやめることになった。
でも一応、宿から一人で出たことを後でミーナさんに謝った方がいいわよとだけ、マーくんには言っておいた。
それで代わりにってことでもないんだけど、昨日私が知ったことをマーくんにも伝えておいた。
ヴォルるんと通信クリスタルで連絡取るのは無理っていう件のこと。
話を聞いたマーくんはすぐにでもサイプラスに向かって直接ヴォルるんを捜すべきだと提案してきた。
私もアイラちゃんもそれに賛成した。
でも…ミーナさんのことはどうするのかしら?
私は特に関係はないけど、マーくんがまた街を出てったらきっと寂しがると思うわ。
「ねえマーくん、ミーナさんのことだけど…」
その話をしようと思ったらドンドンと、家のドアが叩かれる音がした。
んもう、次から次へと忙しいわねえ、今度は誰なの。
ドアを開けるとラルフォイさんとディムさんがいた。
「昨日聞きそびれたことを聞くために来ました」
ラルフォイさんが聞きそびれたことというのは、私たちがオーキッドを出てから一体何をしていたのかということだった。
昨日、通信クリスタルのことを聞いた直後の私はかなり動揺してたから、二人にそういうことちゃんと話をせずに帰ってしまった。
二人は私に気をつかって、落ち着くまで一日待ってくれたみたい。
ラルフォイさんとディムさんを家に入れた後は、私たちが主にマグノリアでどうしていたのかってことについて話した。
二人が一番詳しく聞きたがったのは魔王の話が出た時だった。
これは私とアイラちゃんは直接見てなくてよくわからないから、マーくんが話した。
「あの、本当に魔王を倒したんですか?」
「ああ、我とヴォルガーと、ここにはいないがもう一人タマコという獣人族の娘の三人でな、ただ!とどめは我が格好良く決めたけどな!」
話してる内にマーくんもいつもの調子が戻って来たみたいね、むやみに偉そうだわ。
ラルフォイさんとディムさんは信じられないとか言いつつ凄く驚いてた。
「二人は魔王のこと何か知っているんですか?」
「今そのことでリンデン、オーキッド、サイプラスの三国は大騒ぎの真っ最中ですよ」
アイラちゃんの問いかけにはラルフォイさんが答えてくれた。
それによると…えっと、アバランシュで魔王が復活して、それからリンデン国内にある村を何カ所か襲った後どこかに姿を消してたらしくて…
アイシャ様、イルザ様、エスト様、三人の女神様からそれぞれの国にある神殿に神託もあって、その内容が魔王は女神様たちが戦って倒すから、見つけてもむやみに手出しせず、神殿にいる者を通して報告するようにってことだったみたい。
つまり魔王って、女神様たちじゃないと倒せないような相手だったってことなのよ!
それをヴォルるんたちが三人で倒しちゃったから二人はびっくりしてたのね。
「黒髪の男で燃え盛る腕を持ち炎の球を投げて戦う、ですか…確かに生き残った目撃者の証言とも一致しますね」
「他にも巨大な黒い腕を出現させて飛ばす<ソウル・イーター>とかいう魔法も使っていたな、まあそれもヴォルガーに防がれていたけどな」
「名前はなんだったかわかるか?」
「魔王コックローチです、オフィーリア様も言っていたので間違いないと思います」
私、魔王の名前なんて全然覚えてなかったわ。
ヴォルるんとオフィーリア様がなんか難しい話をしてるなーとは思ってたけど。
魔王を倒した後の話についてはきちんと話をしていない。
ウェリケ様のことは内緒だから…でもそこらへんのことは、昨日私が喋ったからあんまり話題にならなかった。
サイプラスを経由して、この街に帰ってくる途中に転移現象で飛ばされたってことになってる。
これはアイラちゃんとマーくんに通信クリスタルの話をしたときにちゃんと言っておいたから二人とも、話を合わせてウェリケ様のことはごまかしていた。
それから私たちは今後どうするつもりなのか聞かれたので、勿論ヴォルるんを捜しに行くと三人揃って答えた。
「そう言うと思ってたんですよねえ~でも今は無理です、各国の国境が魔王のことで警戒体勢になってますから旅人は一人も通れないんですよ」
「我らが既に魔王は殺したと言ってるだろう」
「マグナさんの話を疑ってる訳じゃないんですよ?ただそれを証明する方法がないので」
「オフィーリアに聞きに行けばわかる、他の女神にもそう伝えておけ」
「その魔王の件はそれでなんとかなるかもしれませんけど、それだけじゃ駄目なんですよ、まだ問題点が残ってまして」
「ええい、魔王の他に何があるか知らんが我らはサイプラスに行きたいんだ」
あわわ、どうしようマーくんがイライラしてきた。
話が長くなってきたからに違いないわっ!
「マグナさん、もういいじゃないですか」
アイラちゃんがマーくんをたしなめるように声をかけた。
「何がもういいのだ」
「国境でどれだけ警戒してるかわかりませんけど、漆黒号と魔動車で行けばそんなの関係ないですよ、あれらに追いつける人なんかいないんですから」
「それもそうだな」
「平然と強行突破することを前提で話さないでくれませんか?」
アイラちゃんも実はイライラしていたみたいね…全然冷静じゃなかったわ。
二人の言う通り私もすぐヴォルるんを捜しに行きたいのは確かだけど。
でも、魔動車ってタックスさんの物だから、ようやく持って帰ってこれたのにまた勝手に持ち出したらさすがにまずい気がするわ…
「魔王は一人ではないんだ、二人いる」
私がおろおろして、マーくんとアイラちゃんが今にも席を立ちうになった時、ディムさんが何かすごい事を言った。
「魔王コックローチではない魔王は未だ見つかっていないのだ」
「はあ~これ内緒にしといてくださいよ?一人いるってわかった時点で大騒ぎなんですから」
私たちが知らない魔王がもう一人どこかにいるらしい。
それは魔王コックローチより先に復活してて、そのことが原因で魔王コックローチ復活につながったのだと、ラルフォイさんは私たちにそう言った。
そんな話…女神様からも聞いて無いよぉ…
「だから今、国境を強行突破なんてしたら、せっかく魔王コックローチを倒したことが広まっても下手したら二人目の魔王だと勘違いされかねませんよ」
「サイプラスに住むほとんどの者は魔動車など全く知らないだろうからな、問答無用で攻撃されるぞ」
「なら我の漆黒号だけで行く、あれならば街道以外でも通り抜けられるだろう」
「それじゃあ私は後ろに乗せてください、二人乗りできましたよね」
「えっっ、ちょ、ちょっと私は!?二人とも私だけ置いてく気なの!?」
「危険ですからディーナさんはここで待ってて下さい、私とマグナさんで必ずヴォルさんを連れて帰ってきますから安心して下さい」
いやいやいや、まってよぉ~~~!?
私だけ居残りとかやだよ~~~!
はっ、アイラちゃん…昨日ここに残して私とマーくんだけ冒険者ギルド行ったから怒ってるの?そうなの?
「はぁ、わかりましたよ、僕がなんとかするのでもう少しだけ待ってくれませんか?」
ラルフォイさんがそう言って席を立った。
さすがっ!私たちがサイプラスに行っても問題ないよう、何かうまくやってくれるのね!?
すぐ戻ってきますと言い残すとラルフォイさんはそのまま家を出てどこかへ行ってしまった。
何しに行ったのかわからないけどとりあえず待ってみよう…と思ったら10分くらいしてマーくんが「漆黒号の準備をしてくる」と外に出て行ってしまった。
アイラちゃんもそれについて行く。
二人とももう少し我慢してよ!?
私とディムさんが慌てて二人を止めに追いかけて…倉庫の漆黒号の前でああだこうだ言い合いをしているとラルフォイさんがやってきた。
「なんで待っててくださいって言ったのに家から出てるんですか」
「お前が遅いからだ!」
「これでもかなり急いだんですよ、まあ行きは僕だけだったから早かったんですけど、戻るときは二人だったので時間かかっちゃいましたが」
二人?ラルフォイさんは誰か連れてきたのかな?
「はぁ…はぁ…マグナさんっっっ!!」
ミーナさんが息を切らしてこちらへ駆けてきた。
え、なんでミーナさん連れてきたの!?
「ミ、ミーナ…」
「また…行っちゃうんですか…せっかく帰って来たのに…」
ミーナさんはそう言ってぽろぽろと涙を流して泣き始めた。
「お、あ、いや、これは」
「今朝も起きたら姿がなくて…マグナさんが帰ってきたのは夢だったんじゃないかって…それでギルドでニーアに話を聞いたらやっぱりマグナさんちゃんと帰ってきてるってわかって…マグナさんは私と一緒にいるのそんなに嫌だったんですか…?だから何も言わずに出て行ったんですか…?」
「おああ、なんだ、そういうことではないが」
「なら、私の作ったハンバーガー…また、食べてくれますか」
「う、うん」
「マグナさんっ!」
ミーナさんは漆黒号にまたがっていたマーくんに飛びついて、そこから引きずり下ろすと、しっかり手をつないで笑顔でどこかへ連れて行った。
私とアイラちゃんとディムさんはそれを呆然とただ眺めていた。
ええっと…マーくん、ミーナさんをあんまり泣かせちゃダメよ?
「え…なんとかするって、こういうことですか?私たちがサイプラスに行けるよう手配してくれるとかでは…?」
「やだなあアイラさん、僕にはそんなの無理ですよ、これが僕にできる精一杯です、ところでこれがマグナさんが乗って来た乗り物ですか?うわあなんだか面白そうですね、ちょっと僕も乗っていいですか?乗りますね、どこで動かすんだろう、これかな、ん、いやここを回すのかな?」
ラルフォイさんは漆黒号をあれこれいじくった後、自力で動かし方を発見していた。
そして「わーはやいですねー」とか言って敷地内を一通り走り回った。
「ああこれ、勝手にマグナさんたちが出かけられないように僕がギルドで預かっておきますね」
ぶおおおおおん…
ラルフォイさんはそのまま漆黒号に乗って去って行った。
え…いいのかな…マーくんのなんだけどそれ…
「はっ…やられました!私たちだけではどうやったってサイプラスには行けません!それに漆黒号をギルドで預かるということはマグナさんが取り返そうと思っても必ずミーナさんと顔を合わせるということです!あの様子じゃたぶんミーナさんに駄目と言われたらマグナさんは大人しく引くでしょう」
「ラルフォイのやつ、うまくマグナを抑え込んだな」
ディムさんがなにやら感心していた。
でもこれじゃあえっと…私たち結局ヴォルるんを捜しに行くにはどうしたらいいの…?
「二人とも、後はオレに任せてくれないか?オレ一人ならサイプラスの国境も通れる、ヴォルガーはオレが代わりに捜してこよう」
ディムさんはエルフ族で、サイプラスでも結構有名人でいろんなところに顔がきくらしい。
だから国境でもとめられないと、私とアイラちゃんに説明してくれた。
私たち二人は自分たちでヴォルるんを捜したい。
だけど、今すぐはどうやったって無理だから…ディムさんにお願いすることにした。
私たちの願いを聞いたディムさんはその日のうちにコムラードを発った。
残された私たちにできるのはただ待つだけ…
私とアイラちゃんは、特に何もやる気がせず、家でぼんやりしていた。
でも途中でタックスさんのところにある家を出て、宿を借りて生活するようになった。
あそこはもうメルーアさんとモレグさんの家だし、それにずっとあそこにいるとヴォルるんのことばっかり考えちゃうから。
宿に移った後、タックスさんが街に帰って来たから二人で挨拶に行った。
タックスさんにもヴォルるんとはぐれちゃったこととか伝えて…魔動車をあちこち勝手に乗り回したことを謝っておいた。
タックスさんは全然怒らなかった、それどころか「ヴォルガーさんはなんだかんだ目立つ人ですからきっとすぐ見つかりますよ」って励ましてくれた。
あと魔動車が喋るようになって、ティアナちゃんて名前を付けたこともちゃんと話したんだけど…なぜか頭の心配をされた。
本当に喋るんだってば!今はなんでか全然喋らないんだけど!
そう言ってもタックスさんからは「少し街でゆっくりして休みなさい」とか言われるし!
ティアナちゃんが喋ってくれない以上、何を言っても頭の心配をされるだけだと悟った私は、アイラちゃんと二人で街をぶらぶらしたりして過ごした。
マーくんとはたまに会うんだけど、それはいつも冒険者ギルドではない場所だった。
なにかミーナさんに会うとハンバーガーを死ぬほど食べさせられるらしい、だからあんまりギルドに行きたくないんだって。
でも、夜はミーナさんと一緒にどこかへ帰ってるみたいだから、仲が悪いわけじゃないみたい。
冒険者ギルドと言えば、そこで前にオーキッドで会った意外な人物と再会した。
私が技術局に行ってるときよくお世話になったドワーフ族のキャメリアちゃんが、いつの間にかコムラードに来てて冒険者ギルドの職員になってたのよ。
私とアイラちゃんは、キャメリアちゃんから二人でもできそうな依頼を紹介してもらって、久しぶりに冒険者として活動して過ごしたりもした。
まあ…大体が掃除とか、どこかの店の簡単なおつかいとかなんだけどね…
アイラちゃんあんまり魔法使いたくないみたいだから、魔物と戦うような危ない仕事はやらなかったの。
「あっ、おはようございます!メンディーナさん!アイラさん!」
今日も冒険者ギルドに顔を出したら、私たちを見つけたキャメリアちゃんが挨拶してくれた。
彼女、カウンターの向こうにいても顔が見えてるけど、あれ、密かに下に木箱置いてその上に立ってるのよね。
可哀想だからラルフォイさんは早いところなんとかしてあげてほしいわ。
「おはよー…んーアイラちゃん、今日はどうする?またスラムの炊き出しとかの手伝いにいく?」
「あれあんまりやりたくないんですよね…私が食事を配ってると、大人の人たちが物凄く申し訳なさそうな顔をして逆に私がちゃんとご飯食べてるかとか聞いてきたりするんで」
私たちは一応ちゃんと人並の生活はしてる。
魔動車の中にヴォルるんの残してくれたお金が結構あるから。
でもそれはヴォルるんが稼いだお金だから、使ってばっかりは悪いと思ってこうして私たちも仕事をして、少しでもお金を稼ぐようにしてる。
「あー…あんたたちー来たのー…ギルマスからあんたたち来たら二階に通せって言われてるから、上に行ってー…」
隣の受付にいたニーアさんがカウンターに顔をのせてぐったりしながら私たちにそう言った。
「キャメリアちゃん…ニーアさん最近いつ見ても死にそうなんだけど、大丈夫なのあれ」
「可哀想ですけど仕方ないんです、ニーアさんは今、食事制限中なんです、だからニーアさんに何か言われても勝手に食べ物を与えたりしないでくださいね?」
「そ、そうなの…じゃあ私たちはラルフォイさんのところへ行くからまたね」
野良犬みたいな扱いのニーアさんに少し同情するわね…
反対側の受付にいるミーナさんは毎日つやつやしてて元気いっぱいなのに。
どうしてこんなにも差ができてしまったのかしら…
「ニーアさんほっとくと豚になりそうな勢いでしたからね」
「アイラちゃん…それ絶対本人の前で言っちゃだめよ?」
「わかってますよそれくらい」
失礼な内緒話をしながらラルフォイさんのいる部屋へ向かう。
そしてノックして部屋にはいる、もう覚えたわ。
ラルフォイさんは部屋に入って来た私たちに、まずこう言った。
「お二人に朗報ですよ、ヴォルガーさんが見つかりました」
私とアイラちゃんは、目を見開いて、それから二人合わせて「どこでっ!」と言った。
「サイプラスにあるウィンドミルという街です、ディムから手紙が来ました…ただここへ戻ってくるのはまだ先のことになりそうですね」
「な、なんでですかっ、遠いからですかっ!」
「遠いのもあるんですけど、ちょっとお二人には言いづらい理由があって、僕の口からはとても」
「じゃあその手紙を見せてください!」
「はい、あ、僕は手紙を受け取っただけですから、僕に怒らないで下さいよ?絶対ですよ?」
よく分からないことを言いつつラルフォイさんが手紙を取り出した。
それをアイラちゃんがひったくるようにして奪い取る。
私とアイラちゃんは二人でその手紙の内容を見て…震えた。
「「ヴォルガーは今、三人のエルフ族から結婚を申し込まれており、誰と結婚するのかで揉めている よってすぐには帰れない…?」」
意味不明、私に分かることと言えば、手紙を握りつぶして震えるアイラちゃんの横を、そろりそろりと足音を立てないようにラルフォイさんが通って部屋から出て行ったことくらいだった。




