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偽りの記憶

しばらく頭あんまりよくない子の視点ですすみます

「…嘘だわ」


 ヴォルるんとアイシャ様の間に生まれた子供がアイラちゃんでしかもそれが嘘ですってぇ!?

ええええええ?ええ?あれ?


 嘘だと言ったのはウェリケ様。


「女神と人の間に子供なんてできない、どうしてそんな嘘をつくの」

「やっぱりそうですか…私もおかしいとは思ったんですけど…」


 嘘なんだ…一瞬本当にそうなのかと思っちゃったわ。

だってアイラちゃんて髪も目も、ヴォルるんと同じで黒いんだもの。


「…部屋の中で何を思い出したの?あの白露水晶は何に使うの?」


 ウェリケ様はなんだか少し怒ってるみたいだった。

はく…なんとかって、部屋の中にある岩のことよねたぶん…あれしか部屋の中にはないし…


「…ここで立ったまま話を続けるのもなんだ、下に降りんか」


 マーくんの提案で私たちは台所へ移動して話をすることにした。

気づけばもう外は暗くなってて、階段を降りるときに足元が怖かったんだけど、アイラちゃんが壁についてた突起を触ると急にパッと辺りに光が溢れた。

ヴォルるんの魔法みたいな白い光だったわ、上を見ると天井についてた丸い玉が光を放ってるのだとわかった。

なにかこういう魔道具が王都の神殿にもあったわ、きっとあれと同じね。


 台所の壁にも同じような突起があって、試しにそれを私が触ってみると、カチッて音がして台所が明るくなった、なんだかおもしろい、なんで触ってるところと離れてる天井が光るんだろ?


「ディーナさん、明かりのスイッチを何度もカチカチやるのやめてください、目が痛いです」


 もう一度触ると明かりが消えることに気づいて何度も明かりをつけたり消したりしているとアイラちゃんに怒られた。


「だってこんなのがついてる家みたことないんだもん」

「この家はヴォルさんの元々いた世界にある家を真似て作られたものです」

「そうなの!?えっ、なんでそんなこと知ってるの!?」

「その理由をこれから話すんです」


 私たちが席に着くとアイラちゃんは二階のあの部屋で何があったのか語り始めた。


「まだ私も混乱してて上手く説明できるかわからないんですが…」

「部屋に入って何が起きたか最初から順に話せ」


 うんうん、私もそうして欲しいわ。


「では…あの部屋に入った私は白露水晶に手を触れました、白露水晶というのはあの白い岩のことです、精神クリスタルとか通信クリスタルと呼ばれてる物と同じ石です」

「なにっ!あのでかさでか!…む、すまん続けてくれ」


 マーくんが驚くなんて…よく知らないけどヴォルるんが持ってた石と同じ物ってことよね。

あれって確かすごく高価なものだったはずだから…はっ、大きい分きっと物凄い値段なんだわ!

だから驚いたのね!?


「触れる瞬間まで知らなかったんですけど、あれは色々な使い方があって、その一つに肉体から精神体だけ分離させて移動できる道具にもなるんです」

「…え、なに、せいしんたい…?」

「魂って言ったほうがわかりやすいですか」

「あ、それならわかる!」


 アイシャ教でも人は死んだら魂になって女神様たちが住んでる天国って国へ行けると教えてるからね。

でも生きてる間に悪いことばかりしてると天国へ行けなくて、辺りをさまよって、いつしか魔物になってしまうらしいの、特に運が悪いとアンデッドとかっていうガイコツの魔物になるって教えられたときは怖くて漏らしそうになったわ。


「魂だけの状態になると思うがまま自由自在に移動できるんです、空を飛ぶ鳥みたいな感覚でしょうか…それで…あの白露水晶を使うと、魂の状態である場所に行けるんです」

「…それがアイシャの言ってた誰にも見つからない場所のことね?」

「はい、それは女神アイシャとヴォルさんが初めて出会った場所、こことは違う世界のことです」

「ヴォルるんが住んでた世界!?あのええと…にほんだっけ?そこへ行けるの!?」

「いえ…日本ではないんです…ここが少し説明しづらいんですけど…」


 アイラちゃんはうーんうーんと唸って考えた後、ぽつぽつと話し始めた。


「ほわオンっていう…ゲームの世界で…」

「「「は?」」」


 真剣に話の続きを待っていた私とマーくんとウェリケ様は揃って同じ言葉を発した。

意味わかんないよアイラちゃん!?

ほわおん!?ゲームの世界!?


「ええと、とにかくヴォルさんの住んでた『日本』と私たちの今いるこの『カヌマ』の間にもう一つ世界があるんです!それが『ほわほわオンライン』っていうところで、略してほわオンって言うんです!」

「変な名前の世界だな」


 私もそう思う、なによほわほわって?

オン…なんとかも聞いたこと無い言葉でよくわかなんないし。


「…まあ名前はなんでもいいんだけど…とにかくそういう世界があって…ヴォルガーとアイシャはお互いの住んでた世界から精神体だけになってそこへ移動して、会ってたということよね…」

「はい、そういうことです」

「…それでアイラはその世界を再び訪れたことでアイシャの記憶を取り戻したの?」

「行ってはいません、白露水晶に触れた瞬間にそういうことがわかったんです…それで一度に色んなことが頭に入ってきて…少し混乱して…怖くなって外へ出たんです」


 アイラちゃんはテーブルの上に両肘をついて頭を抱えていた。

なんだか辛そうだわ…頭が痛いのかもしれない。


「あの…ウェリケ様、今日はもう休みませんか?なんだかアイラちゃん、すごく疲れてるみたいなので」

「…そうね、そうしたほうがよさそう」

「マーくんもいいよね?」

「アイラがこの状態ではな、それも仕方ないだろう」


 私たちは席を立ち、それぞれ休むために場所を変えた。

ウェリケ様はここが本当の自分のお家じゃないので、一旦本当の自分の家に戻ってまた明日の朝ここへ来ると言い残すと、魔法でどこかへ消えちゃった。


 マーくんはソファーのある部屋で、ソファーに寝転がって寝始めた。

私は少しフラつくアイラちゃんを二階の寝室まで連れてって、近くの何もない部屋に毛布でもしいて寝ようかと思ってたんだけど…


「ここで、寝てもいいですよ」


 ベッドから離れようとする私に向かってアイラちゃんがそう言った。


「え?でも私がここで寝るとアイラちゃんは嫌なんじゃなかったっけ?」

「いいからここで寝てください、気が変わったんです」

「そうなの…あっ、ははーん、なによーもーう、一緒に寝たいならそう言えばいいのにー」


 これはきっと一人で寝るのが怖くなったのねっ!

今までずっと寝るときは私かタマちゃんがそばにいたから。


 やっぱりまだ子供なのね…子供で思い出したけどアイラちゃんは何でヴォルるんの子供だと言ったのか結局まだちゃんと理由を聞いてなかったわ。


 明日聞けばいいか、そう思いつつベッドに入るとアイラちゃんに足をつねられた。

ふともものところ、痛いんだけど!?


「いたっ、何するの!?」

「やっぱりちょっとムカっときたのでつねりました」

「もう!…あ、このベッドすごいふかふかーああーすぐ寝れそうー」

「…その切り替えの早さは正直羨ましいですよ…」


 アイラちゃんが何か言ってたけどもうすでに眠くなってきた私。

はあ~やっぱりアイシャ様が住んでた家だけあっていいベッド使ってるのねぇ~…

…これ…持って帰れないかしら…


 どうにかして…ううーん…


 ………ヴォルるんも…ここで寝てたのかなー………むにゃむにゃ…


 ………


「っはあああああああああああああああああ!」

「ななな、何ですか!?急に叫んだりして!?」

「いやだって!?ここにアイシャ様とヴォルるんが一緒に住んでて!恋人同士だったってことは!」


 要するにこのベッドの上で二人は…!


「つまりここで愛しあっ…」

「もう黙って寝てください!!」

「いたいっ!?」


 アイラちゃんに後頭部を思い切り殴られたような気がする。

よく分からなかったのは、次に気が付いたらもう朝だったからよ。


 ………………


 ………


 台所のテーブルで私とアイラちゃんとマーくんの三人がもそもそと食事をしてると、ウェリケ様がやってきた。


「…朝から暗い顔ね…何かあったの…?」


 何かあったわけじゃない、本来あるべきものが無いから私たちはどんよりしてるの…


「ヴォルるんがいないから…」

「…そんな顔で言わないでよ…私も悪いとは思ってるんだから…」

「ヴォルるんがいないとごはんが美味しくないんです!昨日は我慢できたけどヴォルるんがいないと私たちは美味しいごはんが食べられないんです!」


 私たちが食べているのは魔動車に積んであった分の食糧。

普通、旅するときは、あんまり手を加えなくても食べられるものをたくさん持って旅するんだけど、私たちはヴォルるんがいたので手を加える前の食べ物…例えば、パンじゃなくて代わりに小麦粉そのものがあったり、芋みたいな野菜類も泥がついたまま取れたての状態で保存していたの。

そしていつもはそれらをヴォルるんがその場で調理して、出来上がった料理を私たちは食べていたのよ。


 ヴォルるんがいない今、私たちはタマちゃんの好物だったために作り過ぎてしまった干し肉をかじったり、そのままでも食べられそうな青鉄庫にあった果物を食べている状態。


「…そう…人は家族や、大切な仲間と食事をすると美味しいというものね…」

「それもあるんですけど、ヴォルるんが料理してくれないと…」

「…ひょっとして、あなたたち誰も料理ができないの…?」


 アイラちゃんとマーくんが無言で動かしていた手と口をピタっと止めた。


「…今までの食事は全部ヴォルガーが…?」

「あっ、あのでも、私はちくわが焼けます!」

「…はあ、ちくわ…何か知らないけど、だったらそれを作れば…?」

「魚がないとできないんです!あっ、そうだウェリケ様は水の女神様だから魚くらいすぐ捕まえられるのでは!」

「あなたちょっと水の女神をおかしな風に解釈してるわよね?漁師と女神は違うのよ?」


 少しきつめに言われたので私は反射的に何度も謝って後は無言で干し肉を食べた。

ウェリケ様も席についたので、念のために干し肉を食べるか聞いたんだけど、いらないときっぱり断られてしまった、こんなことなら先に果物を食べつくすんじゃなかったわ。


 食事を終えるとアイラちゃんが改めて昨日の話の続きをすると自分から言い出した。

そしてまずどうしてヴォルるんがこの世界に来てしまったのか…そこから話は始まったわ。


 …一時間くらいたった、な、長かったわ…


 アイラちゃんはできるだけ私にもわかるように話をしてくれた。

感謝はしてる、でも実はよくわかってないわ。

もう一度言って…と今言うと怒られそうな気がするから、その前に自分で今の話を整理してみよう。


 えっと、ヴォルるんとアイシャ様が会ったほわオンって世界は、私たちの世界とあんまり変わらなくて人族以外にエルフ族、ドワーフ族、獣人族もいて、魔法もあって、あとその世界の女神様もいるらしいわ。


 だけどその世界だと魂だけの状態になっちゃうから、手とかつないだりできないんだって、触ろうとしてもすり抜けちゃう…水に映っただけの物と似てる…だったかな。

アイシャ様はそのことに我慢できなくなって、ヴォルるんを転移魔法でこっちの世界へ呼んだみたい。


 それからヴォルるんと二人でこの家で暮らし始めて、たまに二人でほわオンの世界に行ったりなんかもして楽しく過ごしてたんだけど、フォルセ様っていう神様を見張る神様みたいなのに見つかって…アイシャ様は創造神様から罰を受け、ヴォルるんはこの世界で普通に生きていくことになった、たぶんこれであってるわよね。


 こんな感じのはずなんだけど、アイラちゃんはこの話をして、自分で自分の話が変だと思ってるの。

自分に都合のいい事しか覚えてないのがおかしいって。


 突然、自分の住んでる世界と違う場所に魔法で呼ばれたらヴォルるんは怒るんじゃないかって。

でも記憶の中のヴォルるんはいつも優しくて、ほわオンの世界でも凄い魔法使いだったり、家では色んな料理したりしてるだけなんだって。

ちなみに寝室にいた時の記憶はあるのか聞こうか迷ったけど、聞かないでおいたわ。

よく考えたらそれを聞いても、私は辛くなるだけということに気づいたからね!

それにアイラちゃんから肉がえぐれるほどつねられるかもしれないもの。


 寝室のことはもうずっと考えないことにして…ええと、なんだったかしら、あ、そうそう、ヴォルるんてあんまり怒らないけど…確かにそうよねぇ、無理やりこっちに連れてこられた訳だし、いくらヴォルるんでも少しは怒るかもしれないわよねえ。


 ふう、結構考えたけどまだ話は終わりじゃなかったわ。

次はアイラちゃんのことよ。


 アイラちゃんがヴォルるんの子供って言ったのはほわオンの世界が関係あるみたい。


 アイシャ様はヴォルるんを呼んだことでいつかは罰を受けるのがわかってたみたいなのよね。

だからその前に二人が一緒にいた証として何かを残しておきたかったと考えたの。

それで、ほわオンの世界に行ってるときに結婚…しすてむ?って言うのがあると知って、結婚の後についてる言葉の意味がわかんないけど、とにかくほわオンの世界だと結婚して子供が残せるって知ったらしいの。

何か女神様が頑張って子供をうむとかそういうことではないらしいわ…

異世界だけあって別の方法でもいきなりアイラちゃんくらいの年の子供が誕生するらしいのよ…そこはどう考えても私にはわからない気がするわ。


 そのよくわからない結婚しすてむっていうのを使って生まれたのが自分なんじゃないかって、アイラちゃんはそう思ったみたいなのよ。

ウェリケ様は全否定してたけど。


「…アイラの言う通り何か変だわ?都合が良すぎる」

「そう、ですよね…」

「…大体その結婚システムって話は誰から聞いたの?ヴォルガー?違うわよね?彼が知ってるならわざわざ私を捜しには来ないものね」

「わかりません、肝心の情報の入手手段に関係する記憶がないんです」

「…あまり、思い出した内容については信用しないほうがよさそうね、残念だけど」


 アイラちゃん可哀想…今、彼女がどんな気持ちなのか私にはまるでわからないわ…

自分が覚えてることが本当のことじゃないかもしれないって、そんなこと考えたこともないもの。


 これからどうしたらいいのかしら…


「アイラの記憶を確かめる方法が二つある」


 マーくんが腕を組んで椅子にふんぞり返って言った。


「一つはヴォルガーに会って聞くこと、あいつたぶん色々隠しているからな」

「でも、それは何か言いたくないことがあるからかもしれません…」

「それでも聞くべきだろう、今後もあいつと一緒にいたければな」


 マーくんはフンと偉そうに言ってるけどたぶんあれは照れてる。

そうよね、ヴォルるんとは今後も一緒に過ごすものね!


「それからもう一つ、ほわオンとかいう世界に我らも行ってみることだ」

「え!私たちもいけるの!?」


 アイラちゃんの方を見ながら私は身を乗り出した。


「…たぶんですけど、私と一緒ならば行けます」

「すごーーい!」

「…へえ面白そうね…こことは違う世界か…私も一度見てみたいわ…」

「あっ!でもやめたほうがいいです!特にウェリケ様は絶対行っては駄目です!」

「…どうして?」

「これも本当の記憶かどうか怪しいんですけど…その世界に行くとなぜか最初に今まで鍛えたほとんどの力を失っちゃうんです、アイシャはそれで困ってたところをヴォルさんに助けてもらってなんとかなったんです」


 力を失う…てことは弱くなっちゃうのね。

仮に私が行くと、今までマーくんに言われて嫌々ながらもやってきた鍛錬の成果が全てなかったことになるのかしら…それは嫌だわ…


「…それが真実なら危険ね…」

「力を失うとはどれくらいのものだ?」

「ええと、そうですね…」


 そこでアイラちゃんは私を見た、ん?私?


「二人とも向こうに行くと今のディーナさんくらいになると思います」

「危険すぎる、やめておこう」

「…異議はないわ」

「私の名前が出た途端諦めた!?」


 ウェリケ様とマーくんが即決するほどなの!?

私ってそんなに弱いの!?

そりゃ、つ、強いと思ったことは一度もないけどぉぉぉ!


 そして私は決意したわ。


 大して意味ないならもう鍛錬とかしないでおこう、と。

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