トリプルおっさん
章機能があると知って試したくなったので二話かきました。
「やあ、俺の名前はヴォルガー。日本でやってたVRMMO『ほわほわオンライン』をプレイ中に強引に異世界に拉致された…と思ってたけど実はその拉致された人物の記憶だけ持ってる人造人間なんだ」
といった感じに俺は今、自己紹介をしている。
「つまり俺はこの世界で生まれた人間。そしていつかは死ぬだろう、それは君も同じだ。同じく大地に骨を埋める者同士、言ってみれば<ライト・ウォール>」
話してる最中に殴りかかってこられた。
咄嗟に俺が魔法で出した光る壁に、こん棒がガン、と音をたててぶつかる。
「ゲギャギャギャ!?」
人のことを初対面で殴り殺そうとした緑色の肌を持つちょっとあまり地球では見たことのない人種の…いやもうこれあれだな。
人じゃないな、わかってたけど。
頭は髪が一本もなく、尖った耳がついてる。
目は血走ってて口から出る言葉は何語かちょっとわからない。
身長は子供くらいしかないくせにやたら威圧的だ。
あの、こん棒ふりまわすのやめてください。
さっきから光の壁に当たってガンガンいってて怖いです。
「やはり友好的接触は無理だった!」
俺はほわほわオンライン、通称『ほわオン』に出てくるゴブリンという名前の敵モンスターによく似た生物と友好的に交流するのを諦め、とりあえず逃げだした。
今まで俺はちょっとした野球のグラウンドくらいのスペースがある場所に軽く監禁されるという素敵な生活を送っていたためこの世界の土地とか生物に全然詳しくない。
その生活が終わっていざゆかんと広がる世界に踏み出した途端これだ。
人の村があるって情報を元にそこを目指していたら人影が見えたので、やった!第一村人発見!と近寄ってみたところ、それがこん棒を持ったゴブリン的な生物だったせいでこの有様。
「ちょ、ついてくんなよ!<ウェイク・スピード>」
俺は魔法で自分の走る速度を強化した。
俺にはなぜかほわオンに出てくる魔法が使える、全部じゃない。
かつての俺がその時に覚えた魔法だけだ。
どうにも俺を造った人物がほわオンでの俺を完全に再現しようとしていろいろ力を与えてくれた結果がこれだ。
ただできれば、完全再現はしないでほしかった。
「俺って一人じゃ意味ないんだよなあああ!」
このゴブリンと戦う手段がないのである、いわゆる攻撃魔法が使えない。
仲間を強化したり回復したりが、ほわオンじゃ俺の仕事だったのだ。
素手で殴りかかるという手段がないことはないがやりたくない。
相手は鈍器持ってるんだぞ。
しばらく走ってると緑の、もうゴブリンでいいやゴブリンを
いつの間にかぶっちぎりで振り切ったことに気づいた。
あれ、魔法で強化したとはいえ身体能力結構あるな。
人造人間だからかな?
とにかく助かった助かったと10秒くらい喜んでから
道に迷ったと気づく。村はどっちだ。
隠れようと思って木のあるほうに走ったせいでいつしか森の中だ。
あれえ…森の中ってエンカウント率高そうだなあ…クソだなあ。
「すまん、アイシャ…俺の人生、短めになりそうだ」
この世界で、共に暮らした金髪の美女、それがアイシャ。
まあ正体は女神で俺の親のような恋人のような存在だった…もういないけど…
アイシャの願いで俺はこの世界で生きると決めたんだがもう少しぬるい感じの、平和な生活が望みだったので今の状況はつらい。
これなら監禁されてたときのが良かった。
人いねえかなあ。人っぽいのじゃなくて完全に人間なやつ。
ちゃんとした人間に会ったらあの自己紹介はやめとこう。
自分で言ってても思ったが伝わる気がしない。
頭がおかしいと思われて引かれるのも困る。
まだ見ぬ誰かに出会うまでなんとか生き延びなくては。
森の中ってせめて何か食べられるものないのか?
そう思って何か探してみることにした。
どの木も緑が生い茂ってるけど季節とかあるのかなあこの世界。
気温はちょい暑い程度か、森に入って涼しくはなったな。
そしてどうやら俺は花粉症ではないようだ、その点はラッキーだ。
森の中を歩いてたらある日突然くまさんに出会う、という内容の歌を頭の中で流しながら俺は森を歩いていたがこの状況で熊って恐怖以外のなんでもないよな。
この歌やめよ、と思ったところで今までにない音が聞こえた。
な、なんだ?人の声のようにも一瞬聞こえた。ゴブリンお断り。
行ってみるかどうか迷っていたら何か殴ってるような音も聞こえた。
行くのをやめる、という選択肢に大きく心が傾いた。
しかし、少したつと静かになったので、ちょっとだけ近づいて遠目に見てみることにした。
なんかやばいのだったらまた魔法使って足早くして逃げよう。
おそるおそる俺は音のしたほうに近づいて行った。
するとそこには二人の人の姿があった。
やった人間!けど…動かねえな?え、死んでるとかじゃないですよね?
初人間が死体とかまたつらい思い出が増えそうだったが、死にかけだったらまだ何とかなるかもしれんと思って急いで近づいた。
「うわ、血まみれだ」
近づいてわかったが一人は木に背中を預けて座り込んでいた。
もう一人は仰向けに地面に寝ていた。
二人とも男で見たところ俺よりちょい上か同じくらいのおっさんだ。
この服なんだ…ゲームで言えば戦士とでもいうのか。革鎧を着ている。
ただ座ってる方はいかついし、何より顔が血にぬれてより怖い。
「お前…ナクト村の村人か…?」
「うわぁ生きてた!」
寝てる方を観察しようとしたら座ってた男に声をかけられた。
「頼みがある、村から誰か助けを呼んできてくれ。俺は…すぐ動けないがなんとかなる。そっちの倒れてるやつがまずい」
「まずいって?」
「腹にホーンウルフの角をうけてな、止血はしたが瀕死だ」
倒れている男をよく見たら腹に血がにじんでいる。
こういう色の革の装備じゃなかったんだ。
あとこの世界じゃ狼に角があんのか?
「もう助からんかもしれん、だが頼む!まだもう一人仲間が…」
「と、とりあえず回復してみるわ」
座ってるほうがまだ何か言ってたけどとりあえず俺は倒れてる男に
「<サンライト・ヒール>」
<ヒール>より上位の回復魔法を使ってみた。
男の体を光の球が包み込み腹部に向けて収束する。
あ、実際唱えるとこんな感じになるんだ、と今更ゲームとの違いを確認する。
ゲームじゃ光る球で体全体包むだけだったな。
倒れてる男はどうやら無事回復魔法がきいたようだ。
まだ意識はないけど顔色がよくなって寝息を立ててる。
「い、今のなんだ?回復魔法なのか?」
座ってた方の男が驚いた様子で聞いてくる。
もしかしてこの世界あんまりメジャーじゃないのかな回復系…
「まあ一応アンタにも<ヒール>」
顔面血だらけで体を乗り出してくるのが気になるのでかけておいた。
さっきよりは控えめな光が俺の手から伸びて男を包んだ。
血が消えるわけではないので依然顔は怖かった。
「うおおおお!?一瞬で傷がなおった!」
男はガッとその場で立ち上がって叫んだ。
まず顔をふいてくれ。