それから異世界で
ある意味もうここまでプロローグなんじゃ…
「ではお主は、この世界で普通に人として生きていく道を選ぶんじゃな」
「アイシャの最後の頼みだからな、そうするよ」
俺は隣に立つ創造神のジジイにそう告げた。
「ワシはお主を神にスカウトしようかと思ったのにのう」
「神だって?なんでまた」
「自らの出生を知り、アイシャとの別れを経験してなお、お主の精神はさほど乱れず、安定しておるように見える。そういう強い精神体を持つものは神に向いておるんじゃ」
「あのな、ジジイに一応言っておくけどな。アイシャの転生刑は俺は納得してないからな。彼女の決意と願いを無駄にしないために文句言わないだけで」
「細かいことまでいちいち気にするところや、ワシに対して臆せず物を言うところも向いておる一因じゃな」
評価されてもこのジジイの部下になるなど死んでもお断りだ。
「まあひとまずは人として生きるがよい。お主の肉体が死んだときにまたスカウトに来るとしようかのう」
「死んだ後も働かせようとすんなよ!?地獄かよここは!」
「なあに日本でいうブラック企業のひとつだと思えば安心じゃ」
何も安心できない、その言葉の意味をちゃんとわかってんのか?
「んでお主、この場所で良いのか?」
「いいよ、どこがいいとか、まだ何もわからないしな。ここから歩いて始めることにするよ」
俺は今、小高い丘にある草原に立っている。
まわりは特に変わったものは見えない、木が適当に生えてて遠くに山が見える。
あと後ろを振り返れば海も見えるな。
ここは、豪快な飛び降り自殺の着地点になりそこねた場所だ。
やっぱ、この世界の第一歩になる場所だったと言い換えよう。
さっきの言い方はあんま縁起がよくない気がする。
地上に連れてくからどこがいいかジジイに聞かれたけど、そんなこと言われても全然わからんのでここにした。
「そうじゃな、ではまずあちらの方角を目指すがよい。ここから歩いて一日はかからん程度の距離に人の村がある」
「わかった、そうしてみるよ、ありがとな。えーと…そういやジジイの名前なに?創造神様とは呼びたくないしジジイって呼ぶのも失礼かなと思ったんだが」
「その態度がかなり失礼じゃと思うが…まあ、ワシは特に名前を持たぬ。創造神という立場の者はなんせワシ一人しかおらぬからのう。ただ、日本に行ったときに使っておる名前ならあるぞ」
「それでいいよ、なんていうんだ?」
「うむ、キヨシと名乗っておる」
キヨシ。まさか清と書くんじゃねえだろうな、こいつに一番相応しくない。
それに創造神キヨシか…なんだろう…間違っても並べて使う言葉でもない。
「そうか、じゃあ俺はそろそろ行くことにするよジジイ」
「今ワシの名前聞いた意味はなんだったんじゃ?」
「気にするな、特に意味はない」
ジジイは何か不満そうだった。
名前で呼んでほしかったのか?やめろ、気持ち悪い。
「ではワシもそろそろ戻るかの、達者でな」
「ああ、じゃあな、俺が死んだあと来なくていいからな」
「ほっほっ、その時はフォルセの下につけてやろうかの」
おい絶対に来るなよ。
「あ、そうじゃ、そこら辺魔物が出るから気を付けての」
最後にそう言って想像神のクソジジイは姿を消した。
「ジジイおい!そういうのはもっと早く言えって!ここやっぱなし!人里からスタートする!聞いてんのか!」
俺の叫びはむなしく響いて消えた。
最後の絶対わざとだろ!!嫌がらせか!
「くっそ…本当に帰りやがったあのジジイ…」
はあ、魔物ってなんだろうな、やっぱゲームに出るやつみたいな恐らく俺に対して友好的ではないだろう生物のことかな。
魔法とかあるファンタジー世界なんだから考慮すべきだった。
俺は一人、手ぶらで丘の上。
かっこつけてこんな場所選ぶんじゃなかった。
せめて食糧くらい頼むべきだった。
いやもう全裸でないだけマシだと思おう。
ほわオンのとき覚えた魔法も使えるし。全然平気。
それにほら、村があるって言ってた、そこまで行けばなんとかなるさ!
俺はジジイが言ってた方角に向かって歩き出した。
そして、それから異世界で
俺は他の誰でもない、ヴォルガーと言う名前の人間として生きていくことを決意した。