これからのこと2
会話ばっかりしてんなこいつら。
「あ、そうそう、お主ここに来て既に2日たっとるから」
「は?」
さらっと創造神はおかしなことを言い出して話をはじめた。
「お主とアイシャを助けるときに時間を止めたんじゃ。それでアイシャから先に事情を聞こうと思うてな。その間、お主だけ時間を止めたままここに転がしておいたんじゃ」
「なんで俺だけ」
「面倒だったからじゃな」
面倒か、なるほど、じゃねえよ何が面倒だよ!!
「お主が止まってる間に大まかな話は聞いたぞい。その結果アイシャには転生刑を受けてもらうことになっておる」
普通に話を進められたので仕方なく聞くことにした。
聞いておかなきゃいけない疑問もあるしな。
「その転生刑って…どういう刑なんだ、生まれ変わるのか?」
「今のアイシャから不要なものを消して、それを元にして新しいアイシャを造る感じじゃな」
新しいアイシャってなんだよ…それ…
「それはもう、完全に別人じゃないのか、俺のことは忘れるのか?」
「姿や性格は同じじゃ、記憶は継承せんからお主のことは忘れるというよりは元々存在しない記憶になる。それゆえ思い出すということもないかの」
…本人はわからないだろうけど…死ぬよりひどくねえか…
「あんまりだ、ひどすぎる、アイシャは俺を呼んだだけだろ?それがそんなに重い罪になるのか?」
「人間の感覚からしたらそうなるのかのう。ただな、これはもう他に手はないんじゃ、アイシャだけに限らず女神という存在は最終的にはみな転生刑になるんじゃ」
「なんでだよ!?」
あんまりにもな扱いに思わず怒鳴ってしまう。
そんな俺に対して創造神は平然と話を続けた。
「女神というのは地上に住む人々を理解して時には助けたり、罰を与えたりして世界のバランスを保つためにおる。そのために人の姿と心を持っておるのじゃ。あまりに人と離れた存在だと人のことを理解できなくなるからのう」
それを聞いて犬の顔したフォルセのことを思い出す。
あいつは言葉こそ通じたけど俺のことを処分とかゴミみたいに扱いやがった。
「しかし人の心というのは長い年月を生きるには向いとらんのじゃ。長く生きるといずれ女神は精神的におかしくなる日が来る。言ってみればそれは心の寿命なんじゃ」
「わかってるんならなんとかならないのかよ!?神のシステム根本的に問題があるだろ!!」
「今のところこれが一番マシなんじゃ。違う神に人間たちを担当させたら何度か世界が滅びそうになっての。それはワシも困るんでこういうやり方でやっておる」
この世界ロクな神がいねえよ!!
「アンタはどうなんだ、アンタも人の姿をしてるけど実はもうおかしくなってるんじゃないのか。創造神っていうくらいだから一番長く生きてるんだろ」
「はっはっはっ、ワシはほら鍛え方が違うからの」
「やはりもうボケてるようだな」
「…これはお主と話がしやすいようにこういう姿をとっておるだけじゃ。ボケてなどおらん、お主、人からよく失礼なやつって言われない?」
「俺よりさらに失礼なやつには言われることはあるな」
言われない?じゃねえよ大体。急にフランクな言い方になるな。
「ま、そういう事でアイシャは転生刑なんじゃ」
「そういう事って…アイシャは確かにおかしいところはあるけど本当にそうしないといけないほど狂ってるのか?俺にはそこまでだとは思えない、彼女は人として優しい心も持っている」
「ふむ、なかなか気が回るやつじゃのう。お主はどちらかというと被害者の立場じゃぞ?なぜかばうのじゃ?」
「そりゃ最初はアイシャから離れたかったけど、1か月近く一緒に生活したら情もわくよ。そういうもんだろ」
「そういうもんかのう?」
人間はそういうもんなんだよ。たぶん。
「お主が今の話で納得してくれたら、ワシも適当に次の話にうつってさっさと片付けて帰りたかったんじゃがのう」
「おいちゃんと話せよ!人の人生を適当に片付けようとすんな!」
「仕方ないのう、まあアイシャは確かに転生刑になるほど狂ってはおらん、それでもそうなるのは罪の重さゆえにじゃ」
「俺を呼んだことがそんなにダメなのか!」
「異世界への干渉はまあ良くはないがそこまで問題ではない。ワシも日本行ったことあるしの、今きとる服もお土産で買ったんじゃ」
ええ…このじじい自由すぎない…?
「神には絶対に破ってはならんルールが3つあっての」
3つしかないのかよ。
「ひとつ、異世界のものをこの世界に持ち込んではならん」
おい。じじい。
「ふたつ、時間を操ることの禁止、止めたり過去を変えたりじゃな」
あれれーおかしいぞー?
「みっつ、生命の創造の禁止」
「すいませんちょっといいですか」
「えーいなんじゃ!今説明しとるじゃろ!」
「俺の知る限りで3つとも破ってる神がいるのですが」
「ん?誰じゃ?」
「創造神とかいうやつですね」
「ワシが決めたんじゃからワシは破っても良いに決まっとるじゃろう」
この世界大丈夫か?こんなのに管理されてるんだぞ?
「ともかく、アイシャはこのルールを破っておるのでな」
「納得いかねえ!ジジイは浴衣買ってきてるのに!」
「異世界のものに関しては、この世界から元の世界に戻せばいくらか罪を軽くしてやれんこともない、浴衣は戻さぬが」
「どんだけ浴衣が大事なんだよ…って」
ジジイの浴衣はともかく俺は帰れるってことか?
「俺は元の世界…地球の日本に帰れるのか?」
「ワシならできる、たまに旅行に行くくらいじゃからな」
このじじいは外国人観光客みたいなノリで日本行ってんな。
でも本当にそれができるのなら…
「俺を日本に帰してくれ!」
たぶんもう会えない気はするけど…それでアイシャが助かるならこれが一番いいと思う。
アイシャのこと以外じゃ特に未練ないしな。
日本で俺の立場が今どうなってるか考えるのは恐怖だがそれでも一言、勝手にいなくなったことを謝りたい人たちもいる。
「うーむ、ワシは別にお主を日本に送ってやってもいいんじゃが…」
「なんだよ!?やっぱり無理とか言うなよ!?もう絶対に帰るからな、それでアイシャの罰ちゃんと軽くしろよ!」
「お主が日本に行ったところでアイシャの罰は変わらんぞ?」
「おおおおおい!嘘つくなよ!!」
こっちはそれなりに寂しさを感じつつも帰ることを決意したのによおお!
「アイシャの罪は異世界のことではない、生命の創造じゃ」
「お…う?どういうこと?」
俺が尋ねるとジジイはさっきより少しだけ真面目な顔をした。
「あー、お主、自分の名前を憶えておるか?」
何だ急に?俺の名前はヴォルガー。
ではなくて。それはほわオンのキャラ名だ。
日本人としての俺の名前は…あれ…なんだっけ…え、忘れた?
自分の名前を?記憶喪失だったのか俺は!?
いやでも他のことは覚えてるしな。
「やはり分からぬようじゃな。まあ無理もない、お主はこの世界の生まれじゃからな」
「いや俺は生まれも育ちも地球の日本で…」
「お主はアイシャによってこの世界で造られた唯一の存在じゃ」
ジジイのジョークは本当に笑えない。