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もっとがんばれランちゃん

誰の視点で行くか悩んで決められなかったので色んな人の視点でいきます

 ざざーん。

海は今日も変わらず静かなようで荒々しい。


 村から少し離れた場所にある岩場は今やすっかり村人たちの釣り場になっていた。

私もそこで今、釣り竿を構え海に向かって立っている。


「ランよ、立派なやつを頼むぞ」


 後ろからヤナギ様がそんなこと言ってくる、他の村人たちも頑張れ頑張れと応援している。

正直うるさい、魚を釣るなら静かにしてなきゃ釣れないのに。


 と、思うけど今の私は別に釣れなくてもいいとも思ってる、というよりむしろ釣りたくない。

なぜなら私が持ってるこの釣り竿にはエサとしてカニがつけられていて、私がカニがついた釣り竿で釣りをしようとしたらなぜだかわからないけどいつも


「ほれほれ!引いておるぞラン!はようあげぬか!」


 ほらぁもう!かかっちゃった!

皆が見てる手前、釣り上げるしかない。

私はもう何度目かわからないお祈りをした。

どうかアカウオ…いえ、この際アカウオじゃなくても構いません!あれ以外ならなんでもいいです!

水の女神ウェリケ様、私にアレ以外を釣る力を貸してください!


 力いっぱい釣り竿を持ち上げる。

釣り竿が折れるんじゃないかってくらいぐにゃって曲がる。

でも折れない、この竹で出来た釣り竿はなぜだかなかなか折れない。


「うーん…わわっ!あいたっ!」


 私は尻もちをついて転んだ。

踏ん張っていたところで急に釣り竿が軽くなったせいだ。


「「「ああ~」」」


 後ろから残念そうな声が上がる、もう!誰か助けるくらいのことはしてよ! 


「ランよ、大丈夫かえ?」


 ヤナギ様が手を取って起こしてくれた。


「あっ、はい…お尻が少し痛いですけど…大丈夫です」

「しかしこの釣り竿でも駄目か、無念よの」


 私が持つ釣り竿から伸びた糸は途中でぷっつりと切れていた。

皆は残念そうだけど私はホッとしている。

なぜだかわからないけど私が釣りをするとしょっちゅうかかるあれ…ヴォルガーがタコと呼んでいた、うねうねと触手がいっぱいある気持ち悪い生き物が釣れてしまうから。


 つまり、今この状態は皆で私にタコを釣らせようとしてたの。

ヤナギ様まで一緒になって…


 ヴォルガーが見たらきっと驚く、だってヤナギ様は今ではすっかりタコが好きになってしまったんだもの、あんたのせいよ?どうにかしてよ!


 あの日ヤナギ様が、タコなんか食べたりするから…


………


 それはヴォルガーたちが出て言ってから数日後のこと。

私はちょっとだけ寂しくて、あいつらが暮らしてた場所をなんとなく散歩して訪れてた。

タマコはいつもここでわーわー騒いでだっけ。

居るときはうるさすぎって思ってたんだけど、いなくなると静かすぎる。


 私はそこに残された、よくわかんない石の柱を眺めながらそんなことを考えてた。

後からヤナギ様に石のことを聞いたらヴォルガーが魔法で作ったって言われてむせたわ。

てっきりヤナギ様がやったと思ってたから。

あいつなんで土魔法が使えるのよ…色々とおかしすぎるでしょ!


 そして私はその石の柱に腰かけてぼんやりしていたんだけど…急にふっ、と石が消えた。

私はストンと地面に落ちて、したたかにお尻を打った。

え?なんで消えたの?

まさかどこかでヴォルガーが私のことを見てて、狙って消した?だとしたら許せない!


 「いるならでてきなさいよーー!」と叫んだけど、誰も出てこなかった。

意味がわからなかった…二、三日したら三本あった石の柱が全部無くなってたし…

村人たちの誰かが持って行ったのかと思ったけど誰も知らないって。


 まあ石のことはどうでもいい、別にタコのことと関係ないもの。


 私が石の柱から落とされた翌日、村人の一人が私のところへタコを持ってきた。

初めて釣れたけど、食べれるかどうかわからないから持ってきたらしい。

そんなの私だって知らない、そう言い返すと「ランちゃんはタコ釣り名人だから詳しいのかと思って」なんて言われた、いつそんな名人になったのよ!


 私としては海に捨ててきて欲しかったのに、その様子を見ていたヤナギ様がふと「ヴォルガーはそれを食べたいと言っておったよな、ならば食べられるはずぞ」と頭がどうにかしたのかと心配になるようなことを言い出した。


 ヤナギ様もタコなんか大嫌いだったはずなのに。

どうしてそんなことを言い出したのかは「憎きタコをくろうてやる」と決意したせい。

ヤナギ様はやられっぱなしではいられない性格なのよね。


 でも自分では調理しない。

やるのは私、ううっ、嫌だなあ。

「心配せずともランも共に食べてよい」いやそんな心配をして嫌な顔をしてたわけじゃないです。

こいつのこの触手についてる吸盤でピッタリくっつかれるとなかなか剥がせないんです!

おまけにぬるぬるしてて掴みづらい!

さらに口、ここ、ここが口です、よく見てください、ここから墨を吐くんですよ!


 私がそう説明したら「やっぱり名人は詳しいなあ」なんて言われた。

タコを持ってきた男に魔法を食らわせようかと思った。


 でも我慢して私は調理に取り掛かった。

どうしたらいいかわからないから、とりあえず鍋いっぱいに水をいれて火にかけ、丸ごと茹でることにした。


 だって生のままあんまり触りたくないから切るのも難しい。

焼くのもありかなと思ったけど、焼き網の上で暴れられたら困る。


 なので茹でた、茹でればきっと死ぬ。

煮えたぎるお湯の中で苦しみもがくといいわ、と思った。

鍋なら蓋をすれば出てこられないからね!


 そして茹で上がったらタコは真っ赤になった。

ぬるぬるもしなくなったし、身もギュッと固まった感じがする。

足と思われる触手をヤナギ様が好きな刺身みたいに薄く切った。

で、それを三人で食べた。

意外と美味しかった…塩茹でしただけなのに…


 魚とも全然違う食感で、なんだろう、くにゅくにゅしてる?

吸盤はこりこりしてる?みたいな。

ヤナギ様はその食感がすごく気に入ったみたい。

タコを持ってきた男も魚より肉食べてるみたいだなって言って面白がってた。


 おかげでその日から村人の間でタコをいかにして美味しく食べるかということを考えるのが流行り出して…今では触手を一本まるごと竹串に刺して魚醬を塗って焼いて食べるタコ串なんていうのも誕生してしまってる。


 でもタコを一番釣れるのは私だってことになってて…私は無理やりタコ釣りをやらされる毎日。

はっきりいって嫌、いくら美味しくても気持ち悪いものは気持ち悪い!

だと言うのになんで私だけタコがたくさん釣れるの!?

ウェリケ様の加護のせいですか!?だとしたらタコじゃなくてアカウオに変えてください!


 私の祈りが届いた、ということでもないんだろうけど、少ししてタコ釣りは中止になった。

釣ろうにも釣り竿の数が少なくなってきたから。


 タコは意外と力があって、まだ釣り竿作りに不慣れな私たちが作った釣り竿では大きなタコを引っかけると竿が折れることが何度かあった。


 釣り竿自体は竹がいっぱい生えてるからいくらでも作れるので問題ないんだけど、釣り竿には竹以外にも釣り糸が必要になる。


 ヴォルガーたちが持ってた糸はすごく丈夫なんだけど、村には無い物だった。

だからうっかり折れた釣り竿を手放して海に流したりなんかすると糸もなくなっちゃう。

それで糸の数が不足してきた。


 いなくなる前になんの糸かちゃんと聞いておけばよかった。

村では代用となるいい糸が見つからない。


 試しに私たちの衣服なんかにつかってる綿糸を使ってみたけど…釣りにはあんまり向いてないみたいだった。

だから私はまたお尻をうつはめになったの。


 つまり私たちの今抱える一番の問題は、釣り糸をどうしたらいいかってこと。


………


「では意見のあるもの、申してみよ」


 村ではヤナギ様の元、村人たちが集まって集会が開かれていた。

場所は私たちの家の前。

題目は勿論、釣り糸をどうしたらいいか。


「糸をたばねて太くしてみてはどうですか?」


 裁縫が得意な女の村人が言った。


「太くすると魚たちが警戒するのか、全然釣れないんだよ」

「そうなんだ…」


 誰かが代わりに応えたけど確かにその通りだった、あと結局針の部分は細くしないといけないから、そこが取れちゃって意味ないのもある。


「村にないものならば、行商人に頼んでみてはどうでしょう」


 私をタコ釣り名人呼ばわりする男がそう意見を述べた。


「確かに商人なら知っておるかもしれぬ、しかしこの村はまだできて間もない、この場所を知る商人がおらぬぞ」


 ヤナギ様が言う通り、商人だって知らない場所には来ない…皆もうんうん頷いてた。


「では商人が訪れる村に行って、そこで商人を待つと言うのは」


 また別の男がそう言った。


「いつ来るかもわからぬ行商人を、他の村で待つと言うのか、まあ確かにそうすればいずれは商人にも会えるやもしれぬ…しかしの、この付近は他の村が無い、それ故この地ならば争いが起きぬであろうと村に選んだのを忘れてはおらんかえ?」

「そ、それは…はい、勿論です」


 あれは忘れてたって顔だ…この村の男たちはなんでどこかちょっと抜けてるんだろう。

勇敢ではあるのになー。


「馬鹿だなお前は、行商人に会っても俺たちは金を持ってない!そこんところをどうする気だったんだ!わはははは!」


 さらにさらに別の男がさっきの男を馬鹿にして笑ってるけど笑えるようなことじゃない。

ヤナギ様の顔がひきつってるのがわからないの!?馬鹿はあんた!


 ここはやっぱり、ヤナギ様と旅をしたことがある私がしっかりしなくっちゃ!


「他の村に行くくらいなら、いっそオーキッドまで行ってはどうですか、ヴォルガーはオーキッドから来たから糸もあっちで手に入れたのだと思います、それに今後のことを考えたら、やっぱりオーキッドの商人と話をつけてこの村にも立ち寄ってもらうようにしたほうがいいのではと」


 私がそう言うと男たちが「さすがランちゃん」「かしこい!かわいい!」「タコ釣り名人なだけはある」などと口々に褒めてきて悪い気はしないんだけど最後の言ったの誰よ?

タコのことは関係ないでしょうが!


「それが最善か、ではオーキッドに向かい…あちらで金を得るためにも何か売る物を考えて持って行ったほうが良いかもしれぬな、手ぶらで行くわけにもいくまい、この村に商品として扱えるものがなければ商人も来る気にはならぬであろうよ」


 ヤナギ様がそうまとめたので、オーキッドまで何人かで行くことになった。


「では旅をする者のまとめ役としてランを」

「ええっ!?私が行くんですか!?」

「…ランがおるとおらぬでは大きく違う、すまぬが頼まれてくれぬかえ?」


 はい…わかりました…確かにおっしゃる通りです…

水魔法が使える私がいれば道中水の心配はしなくて良くなる、これだけで大分違う。

荷物としての水が減らせるのでその分、他の物が持って行ける。


「でもでも、私はオーキッドに行ったことがありませんよ!?」

「…わらわも無い、誰ぞ、オーキッドに行ったことがある者はおらぬかえ?」


 しーん、誰も行ったことが無かった。

まあ行ってたら糸のことももっと早くわかってたかもしれないので当然のことだった。

西に向かって進めばオーキッドには着くはずだけど…誰も知らない道を行くのは不安しかない。


「困ったのう…この村にもタマコのような者がおれば…」


 タマコは勘だけでオーキッドまで行ったと聞いている。

しかも一人でそんなことができるのはあの子だけだと思う。

タマコは馬鹿なんだけど、旅することに関してだけはずば抜けて優れている。

どこにいても本能で自分の故郷の方角とかがわかるらしい、おかしい。

だからあの子の異常な土地勘を村人に求めるのは酷だと思います、ヤナギ様… 


 今度はどうやってオーキッドまで行くかについて皆が悩んでいると「おーい大変だぁー」と言いつつもあまり大変ではない様子で誰かがこちらに歩いてきた。

大変なことがあるなら普通は走る。


 その呑気な男はハーピーの巣へちくわを届け、卵を貰って来てる村人だった。

名前はシュンスケさん。


「シュンスケか、何事ぞ?」

「ああえっと…外に兎人族の連中が来て…」

「「「ええええええええっ!?」」」


 皆一斉に慌てふためいた、私も。

そりゃだって兎人族よ?私たちの前の村を襲ってきたあのにっくき兎人族。

まさかこんなところまで来るとは誰も思ってなかったのに。


「そのような一大事を何をのんびり伝えに来ておる!!」

「す、すいません、その、集会の最中だったようなので…」

「あほう!集会どころではないわ!して兎どもはどこぞ!」

「その…村の外に、あ、でももう倒しちゃったので特に問題は」

「「「ええええええええええっ!?」」」


 倒した!?嘘っ!一人で?シュンスケさんつよっ! 


「あっ、いや俺が倒したわけじゃないです!」


 そ、それもそうか、落ち着け私、シュンスケさんが強いわけない、いつだって逃げるのは一番なんだから。


 とにもかくにも、私たちは村の外へ慌てて駆けて行った。

各自が家から武器を持ってきて。

シュンスケさんが別に武器は無くても!とか叫んでたけど誰もそんなこと聞いてなかった。

皆もう村を捨てて逃げる気はないのだ。

ここの地がすっかり好きになったから。

あと兎人族はいい加減むかつくから。

もう逃げない、あの時の屈辱を倍にして返す!


 で、覚悟を決めて皆で村の外へと行ったんだけど…


「キィーーーー!」

「キャキャキャキャ!!」

「もう勘弁してくれぇ!!!」


 兎人族たちは、ぼろぼろの姿で頭を抱えて地面にうずくまっていた。

そしてそれをたくさんのハーピーたちが空から何度も降りてきては小突き回していた。

様子を見るにもしかしたらハーピーたちは遊んでいるのかもしれない…


「…どういうことぞ?」

「ええっとですね、まず俺がいつものようにちくわを…」


 シュンスケさんは今日も卵を貰う代わりに、ハーピーたちのいる山へ出かけて行った。

しかし道中で運悪く兎人族の群れに見つかり、追いかけられることに。

いくら足に自信があるシュンスケさんでもあっちはインセクトホースという六本足の馬に乗っているのであっという間に追いつかれ、囲まれた。


 もうだめだ!と思ったその時、なんと山からハーピーたちが降りてきて兎人族をけちょんけちょんに蹴散らした。

ということらしい。


「一応ハーピーたちにはまだ殺さないでくれと頼んでるんで遊んでるだけなんですが…」

「そなた…ハーピーたちとそこまで仲が良かったのかえ」

「やっぱり毎日ちくわ届けてるせいですかねえ?」


 他に思い当たることはないのでやっぱりそうなんだろうという結論に落ち着いた。


 シュンスケさんはそれからヤナギ様に、ハーピーをとりあえず止めるように頼まれ、ハーピーたちに「もういいよーありがとうー」と言った、するとハーピーたちはばさばさと山のほうへあっという間に飛び去って行った。


「こいつらどうするんですか?」


 兎人族は10人ほどいて全員が風魔法でやられたのか引っかかれたのかわからないけど服はぼろぼろ体は傷だらけ、顔は涙と鼻水でグシャグシャだった。

インセクトホースは…全部死んでいるみたい。

私は彼らをどうするのかヤナギ様に尋ねた。


「…わらわたちを襲ってきたあの兎人族ならば、このまますぐにでも殺してやろうかと思っておったが…どうも違う様子、人数も少ないうえ顔に見覚えもない」


 私も見覚えはなかった、見間違いなんかじゃない、村を襲ったヤツの顔は憎くて忘れようがない。

他の村人たちもそうだった、この兎人族は今回初めて会う。

シュンスケさんもたぶんそれでハーピーたちに殺さないよう言ったのだろう。

むやみに殺せば、また違う兎人族が今度は復讐に来るかもしれないから…


「お前たちは、どこの兎人族ぞ?」


 ヤナギ様が兎人族たち全員に聞こえるよう声を上げた。

そしてその声に一人の兎人族の男が応えた。


「お、おれたちは南の一族だ…」


 兎人族は神樹の森を囲むように東西南北に部族がある、私たちを襲ったのは北の一族。

こいつらはそれとは真逆の南の一族だと言う。


「なぜ南の者がこのような北の果てに来た」

「し、仕方なかったんだ!森の周りはとんでもねえ化け物だらけになっちまって遠くに逃げるしかなかったんだ!」

「化け物とはなんぞ?」

「突然、南の山脈からやってきたんだ…変な男がたった一人で…顔は隠してたけど尻尾がねえから最初は人族かと思って囲んで脅かしてとりあえず有り金全部奪ってやろうかと思ったら…」


 人族が山を越えて来る事自体おかしなことだけど、この兎人族は真剣に話をしていた。


「そいつの腕が突然燃え出して火の玉を投げてきやがった!う、嘘じゃねえ!それでこっちは半分近くあっという間に殺されたんだ!」


 なによそれ…一人でこいつらの一族の半分を殺したの?

いくら魔法が使えるからってそんなの…


「それでおれたちは北西に逃げた、でもそこでもまた別の化け物に会っちまったんだ」


 こいつらよっぽど運が無いのね。


「その時は変な鉄の箱が動いてるのと、その傍で鉄の馬に乗ってるやつを見つけたんだ、それで、よしときゃいいのにその時のお頭が、南でやられた腹いせにそいつらを追っかけるって言いだして…俺は嫌だったんだけど他の者も乗り気になっちまって」


 鉄の箱と鉄の馬…今度はなんだか物凄く心当たりがある。

ヤナギ様も話を聞きながら微妙な顔をしていた。


「で、鉄の箱から男が出てきて、馬車みてえなもんなんだとわかったんだが出てきた男が人族でな、お頭がそれ見た瞬間完全にブチ切れて攻撃を仕掛けちまったんだよ…」

「それでそちたちはその連中にもやられたわけじゃな」

「そうだ…鉄の馬に乗ってた男は狂ったように闇魔法を使うし、鉄の箱から出てきた男には近づけねえし矢も当たらねえ、おまけに箱からは猫人族の女と人族の子供の女も出てきて…猫人族は目にも見えない速さで動き回って子供のほうは地面から黒い巨人を呼び出していた」


 えーっと…最初のはマグナよね、次がヴォルガーで、目にも見えないのは…タマコかしら、あの子そんなに強いんだ…子供はアイラのことだと思うけど黒い巨人?あの黒い手の魔法のことかな?

きっとあの手を見て巨人が出てくると思い込んだのね、気持ちはわかる。

ディーナのことだけ何も言ってないけどあの人だけはちゃんと弱いからきっと魔動車に乗ったままだったんだ、あの中で唯一の癒しね。


「その時のお頭はそこで死んだ、だから俺たちは残された者だけでここまで逃げて…そ、そこの狐人族の男も別にどうこうする気はなかったんだ!いきなり逃げやがるもんだからつい追っかけて…そうしたら今度はハーピーが出て来るし…もう許してくれぇ!頼むよ、助けてくれぇ!」


 うおおおんうおおおんと泣き出す兎人族の男たち、しくしく泣くものもいるので見れば女も二人ほど混じっていた。


「泣きたいのはわからぬでもないが、そちたちは普段、他の者を襲って暮らしておるであろう、それが今度は襲われる側になって死ぬ真際になり、違う一族に助けてくれと泣きつくのは虫が良すぎるのではないかえ?」

「わ、わかってる!見逃してくれたらもう他の一族には手を出さねえ!約束する!」


 頭を地面にこすりつけながら頼む兎人族の男。

もしこれが兎人族じゃなければ、村の皆も許したかもしれない。


 でもこいつらは兎人族なんだ。

兎人族は畑を耕さない、何も作らない、狩りはする…けど食べ物以外は他の村から奪って生きる一族。

とても信用できない。


「ふむ、ならば苦しまぬよう一撃であの世に送ってやろう」

「ひいいいい!」


 ヤナギ様の言葉を聞いた兎人族たちは傷ついた体を寄せ合って固まった。

…漏らしてるやつもいる。


「と、少し前までのわらわなら言っておったかもしれぬな」

「ひいいい…え…?」


 えっ?


「じゃ、じゃあ見逃してくれ…」

「いやそれはできぬ」

「おれたちにどうしろってんだよぉ!?」


 兎人族は混乱してた、私も混乱してた。


「…わらわたちもな、少し前にある者たちを襲った…そして負けた、だがわらわたちは見逃された、それどころか襲った相手に色々と助けられた」


 …ある者っていうかそれはヴォルガーたちのことですよねヤナギ様…


「お前たちも違う出会い方をしていれば…あるいは…」

「な、なんのことだ?」

「…いや、なんでもない、してそちたちのことじゃが…わらわは一度だけそちたちが立ち直る機会を与えようと思う」

「どういう意味だ?」


 そこでヤナギ様は私と、村人たちに向き直って言葉を続けた。


「皆の者、よく聞け、わらわはこやつらを村に迎え、他の一族を襲わず生きていくすべを教えようと思う」

「「「ええええええええっ!?」」」

「戸惑うのもしかり、しかしわらわたちは変わらねばならぬ、いつまでも村という狭い世界だけで生きて行くわけにもいかぬのじゃ、先ほどの話し合いでもわかったであろうよ」

「しかし!それがこいつらを村に入れるのと何の関係があるんですか!」


 村人の誰かが言った。

そうですよヤナギ様!なんで兎人族なんかと一緒に暮らさなきゃならないんですか!


「今、なぜこんなやつらと共に暮らさねばならぬ、と思ったものたちよ」


 ギクッ。


「忘れたのか?わらわたちは、少し前まで兎人族よりも得体の知れない者たちと共に暮らしていたであろう」


 …いやでも、それはこいつらよりは話が通じて、まともだったからで…


「今、それはあの者たちは話してみれば平気だった、と思ったものたちよ」


 ギクギクッ。


「この兎人族たちも、もしかしたら変われるかもしれぬ、何も話さずただ殺してしまえば何も得られぬであろうよ…こやつらが知っているこのマグノリアの大地のこともな」


 大地?まさかヤナギ様…

こいつらを…オーキッドへ行かせる気じゃ…いやいや、まさかね?いくらなんでも。


「ランよ、聡明なそなたならわらわの言いたいことわかるな?」


 うわぁ、これそのまさかだぁ…

確かにこいつらはインセクトホースを捕まえて従えることができるから旅にはうってつけ。

いっつもあちこち走り回ってるだろうから私たちより道に詳しい。


「まあ、ランがだめというなら、諦めてこやつらはここで始末しておこうぞ…」


 えっ、私!?私に全てがかかってるの!?

うああああ、兎人族の人たちがものすごい私のことを見てる。

やめてよぉ!そんな目で見ないで…私はあんたたちのこと嫌いなのよ!!


「ああもう!わかりました!私はヤナギ様の意見に従います!!」

「ランならばわかってくれると信じておったぞ」


 ずるいですよヤナギ様は!!

こんなの断れないじゃないですか!!

いくら兎人族が嫌いでも、私の言葉一つでこの南の一族が滅ぶなんてわかったら…無理ですよ!!


「ランちゃんが言うなら」

「そうだなあ、じゃあランちゃんがいうなら俺も賛成」

「タコ釣り名人には逆らえねえもんなぁ」


 他の村人もずるい!あと最後のやつ!絶対あとでぶちのめす!!


 そんなわけで、私たちの村に新しい村人が加わった。

10人の兎人族。


 一体この村はこれからどうなっちゃうの?

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