なぜなに魔王2
言われなき風評被害が日本を襲う
「あの…オフィーリア様、聞いてもいいですか?}
ホムンクルスイン魔王の話を聞かされ、もう帰ろうかなとか考えているとディーナがそう言った。
「なんでしょうか」
「私、今の話あんまりわかってないんですけど…オフィーリア様は魔王っていうのが復活することを知っていたんですよね」
「そうですね…はっきりとはわかりませんでしたが、これまでおよそ100年に一度の周期で四人の魔王の内の誰かが復活することは確認されています、いずれも討伐されていますが、次の100年目が近いことはわかっていましたので予感はありました」
「…ここに来る途中、守り人さんたちが住んでいた場所を見ました、何もかも壊れてて酷い様子でした、もしヴォルるんたちがここにいなくて…誰も魔王を倒せる人がいなかったら、そばにあった猫人族の村も同じ目にあったんでしょうか…」
「…魔王が何を考えているかはわかりませんが、そうなる可能性はありました」
「だとしたらあんまりです、あそこにはタマちゃんの家族で小さい子もいて…ううん、タマちゃんの家族だけじゃないわ、他にもたくさん子供がいて、お年寄りもいて、戦える人はあんまりいなくて、それでもあの時誰一人村から逃げ出そうとせずに女神様のこと思って残ってて…えっと、そのぉ…」
自分で言っててうまく話しがまとめられないんだろう、でもディーナが言いたいことは伝わってきた。
つまり魔王が来るとわかっていながら女神様は何を呑気に木に埋まってんの?女神様が逃げないから、獣人族の皆も逃げられなくて死ぬことになるのよ?対策がノープランでがばがばすぎない?と言いたのだ、たぶん。
「…貴女の言いたいことはわかりました、私がなぜ、それでもここでこうしているかお教えしましょう、聞いてもらえますか?」
「はっ、はい」
それからオフィーリアは真剣な顔で語り始めたのだが台の上に手をついて上半身を起こしているので今一緊張感にかける。
「まずこのマグノリアと呼ばれる地は元々はとても寒く、大半が作物の育たない荒れ果てた不毛の大地で獣人族は全く住んでいませんでした、しかし人族との戦争に敗れた獣人族はこの地に追いやられ、ここで生きていくことを強いられました」
俺がこれまでマグノリアで見てきた光景とは全く違うな。
「そんな荒れ果てたこの地の中で、ひとつだけ力強く成長を続けている大樹がありました、私はその木の生命力と自分の神の力を使って、マグノリア全域を獣人族が生きていけるように暖かく緑が生い茂る土地へと作り変えました」
「その木がもしかして、ここのことですか?」
「はい、もしこの木が失われたらマグノリアは再び荒れ果てた地となるでしょう、そうしないために私がこうして一体となって、この木に力を与え続けているのです」
「そんな…それじゃどうしようも…」
うーん難儀な生き方だ、人身御供か、いや人じゃなくて神様だと何て言えばいいんだ?
「しかしそれでは魔王が再び来ても結局対処できんではないか」
マーくんの鋭いつっこみが入る。
そこんとこだよな、オフィーリアが身動きできないことが問題なわけで。
「魔王がここへ訪れることは想定していないことだったのです」
「何?さっき100年ごとに復活していると言ったではないか、阿呆なのか?」
マーくんさすがにアホウは酷いよ、ずばり言い過ぎ。
「も、元々ですね!ルグニカ大陸の住人がこのルフェン大陸に移住してきたのは魔王から逃れるためなのです!このルフェン大陸には光、火、水、風、土を司る私たち女神が守護者となって魔王復活も外から魔王が入ってくることもできないよう結界を施しているんです!」
「ならコックローチとやらはなんなんだ」
「それが分かれば私だって苦労はしません!今までずっと魔王復活の出来事はルグニカ大陸での話だったのにどうして突然こちらに現れたのか…私が知りたいですよ!」
オフィーリア逆ギレである、神は意外とキレやすいのが多いな。
「ふん、まあ貴様の話が本当かどうか知らんが、次の魔王が来る前になんとかしておけ、獣人族を無駄死にさせたくないのならばな」
「それくらい私だって分かっています!なんなんですか貴方は、私が嘘を言ってるというのですか!?ちょっと魔王倒したからっていい気にならないで下さい!」
あーもうほらマーくんがいじめるからオフィーリアがおかしくなっちゃったよ。
ていうかマーくんやけにおこだね?
いつもここまで辛辣な態度はとらないと思うんだけど…なんか様子がおかしい気がする。
「マーくんやけにご機嫌ナナメだね?どしたの?」
「この女神が嘘ばかりつくからだ」
「なっ…嘘などついていないと言ってるでしょう!!」
「あーちょっと、オフィーリア落ち着いて、台をバンバンしないで、足ついてないんだから手が滑ったらグキっといって痛いよ?…で、マーくんはどこら辺が嘘だと思ってるんだ?」
「最初からだ」
「最初というと…えー…魔王の話?復活のくだり?」
「違う!!もっと前だ!コイツが言う通りなら全ての元凶はこの世界に異世界人を呼んだ闇の女神様ということになるではないか!我に力を授けてくれた素晴らしい闇の女神様がそんなことするわけがないだろう!」
…ああ、そこ、そこか。
そうか、マーくんは知らないんだった、今の闇の女神はその時とは別人だって。
俺はイルザから聞いてたので何とも思わなかったけど。
「あのマーくん、話に出てきた闇の女神はそういう無茶苦茶なことしたんで神様を首になって、今は違う闇の女神がいるそうだよ」
「なに?…おい貴様!今は違う闇の女神がいるとは本当なのか!」
「本当です、それより女神である私のことを貴様呼ばわりするのをやめなさい」
「ええいそんなことより今の闇の女神様は何という名なのだ!どこに行けば会えるのだ!」
マーくんにとって闇の女神はアイドルか何かなのだろうか、もし会えたら握手くらいしてくれるよう俺からも頼んでみるか。
「貴方が今までの無礼を詫び、私への態度を改めたら教えてあげましょう」
「ぐっ、きっ、貴様ぁーーー!女神のくせに卑怯者め!」
はーもうあっちで怒り、こっちで怒り、疲れますわ。
アイラとディーナが無様に言い争う二人を見て俺に目で訴えてくる、どうにかして、と。
はいはいどうにかしますよ。
「はいどうどう、二人とも落ち着いて、マーくんさ一応オフィーリアは嘘はついてなかったんだから貴様呼びはやめてあげなよ」
「むっ…まあ嘘ではなかったのはそうだな…」
「それからオフィーリア、今回魔王にトドメを刺してくれたのはこのマーくんなんだから、そこんとこは考慮して無礼な態度については見逃して水に流して闇の女神のことを教えてあげてよ」
「うっ…それを言われたら…仕方ありません、教えましょう」
はいまとまった「ヴォルさんもさりげなくオフィーリア様のこと呼び捨てにしてますけどね」はいアイラいらないこと言わないでいいから。
「今の闇の女神はレイコと言います、私の妹にあたります」
「妹!?そういや他の女神のことを姉さま姉さま言ってたけど、女神って全員血縁関係なのか!」
「ああいえ、そういう設定です、私たちが人間をより理解するためにと、創造神様がそう定めているだけです」
設定て…身も蓋もない言い方するな。
ちなみに上からアイシャ、イルザ、ウェリケ、エスト、オフィーリア、レイコ、という順の六人姉妹設定らしい、創造神の考えることは謎だ。
「そうか…我に力を与えてくれたのはレイコ様というのか…」
マーくんが目を閉じ物思いにふけっていた。
近年稀にみる安らかな顔である、近年もなにもマーくんとは半年も付き合いはないけども。
「でもなんだろ、レイコだけちょっと名前が変だよな」
「おい、レイコ様を侮辱するならヴォルガーといえど許さんぞ」
「マーくんホントあれだな、親衛隊みたいだな、まあそれはいいとして、その名前って俺の故郷でもある感じの、なんていうか日本風?なんだよな、獣人族も日本風の名前多いからこの世界じゃこれも普通のことなのかもしれないけどさ」
ひょっとして猫耳生えてる系の女神とか?
そうなるとレベル高いな…他の女神より属性を盛って目立ち前に出ていずれは総選挙で一位になりセンターポジションになる系の女神かもしれない。
「レイコは異世界人ですよ、貴方と同じ元は日本人です」
なんてこった、人は神になれるのか。
そういえば俺も死んだら創造神がスカウトに来るとか言ってたな、お断りするつもりだけど。
「責任感の強い女性で、自らと同じ転移者たちがこの世界で暴れるのを見過ごせず生前は勇者にもなりました、死後に創造神様が力を与え、いなくなった闇の女神の後を継がせたのです、そしてレイコだけは今でもルグニカ大陸に残り、復活する魔王の対処にあたっています」
「やはり闇の女神様は立派な方だった、我の思った通りな!!それでどうすれば会える!」
「会えませんよ…ルグニカ大陸に残ったと言ったじゃないですか、他の女神を私と同じように考えてもらっては困りますからね?普通は地上にもまずいませんからね?」
「会いたいのならばまずルグニカ大陸に行けと言う事か…ククク、もっともな話だな」
オフィーリアは一言もそんなこと言ってないがマーくんがそれでいいのならもうそれでいい。
ただ俺としても会えるなら会ってはみたいな。
元日本人なら、聞きたいことはたくさんある、俺にしかわからないこともある気がする。
例えばなんで魔王の名前は頭おかしいのとか…あっ、そうだ。
「あのごめん、ちょっと魔王の話に戻るけど、魔王コックローチは名前を変えられたとかなんとか言って怒り狂ってたんだけどオフィーリアはどういうことか知ってる?」
「名前ですか…?魔王の名前は全て自称ですよ?最初からそういう名前を名乗っていましたから、名前が変わったという話は聞いたことがありません」
「ああそう…じゃあいいです」
自称?元日本人があんな狂った本名なわけがない。
偽名を名乗るにしてもわざわざどっちかというと酷い名前を名乗るだろうか?
明らかにおかしいけどオフィーリアは何もわからないみたいだ。
名前の意味を知らないからおかしいとも思っている様子はない。
「ふあー、よくねたー」
タマコが目覚めた、ちょうどいいのでそこで帰ることにした。
ウェリケの件は連絡ついたら向こうから教えてくれるらしいし、魔王のことはもう訳わかんねえしとりあえず次の復活まで100年猶予あるなら俺たちの人生に関係ないので後は未来の人に託す、マーくんは闇の女神の名前がレイコだと知れてご満悦なのでもうそれ以上の話はどうでもよさげだった。
無事猫人族の村まで帰って、タマコ家とシンタロウ家を目指して皆で歩く。
「むつかしい話ばっかでよくわかんなかったなー」
「お前ほとんど寝てただけだろ」
お前の村の皆が信じて崇め奉ってる神様だったんやぞ、もうちょっとなんかないんか。
「私もよタマちゃん…いろいろありすぎて何が何だか…女神様以外に創造神様っていうえらい神様がいるのなんていうのも初耳だったし…」
「確かにな、ヴォルガーは知っていたのだな?」
「まあ…はい、会ったことあるんで」
「ヴォルさん何気にこの世界で一番神様に会ったことある人なんじゃないですか」
「いやあ、会っても特にいいことないよ、あんまり嬉しくないよ」
その内二人は俺のこと殺しに来てるからね、犬顔のやつとか、いきなり剣で首をはねようとしてくるやつとか、ろくなもんじゃないよ。
「でも私はさっき話の中で、ヴォルるんがアイシャ様の恋人だったというのが一番の驚きなんだけど…」
ちくしょうそれ覚えたか!もう忘れていいのよ!
「私はこれからどうすればいいの、もう気軽にヴォルるんとかって呼ばないほうがいいのかしら」
「一番偉い創造神様とも知り合いのようですしね」
「魔王の攻撃にも余裕で耐えるしな、実力的には既に神を超えてるのかもしれんぞ」
「皆どうした!なぜそんなことを言う!」
俺たちは真の仲間じゃなかったのか!
「ヴォルガーがどうしたー?」
「うーんあのねタマちゃん、なんて言っていいかわからないんだけどヴォル…ヴォルガー様はもしかしたら神様と同じかそれ以上かわからない人で…」
「おい呼び方変えなくていいよ!様つけなくていいよ!」
距離感がつらい!
「魔王と同じ世界から来ている男だ、恐らく強者でなければ生き残れないような凄まじい世界なのだろう」
「平和、比較的平和だよ日本は!むしろここより平和!」
日本の人が聞いたら怒るよマーくん!!
「あと女であれば神様でも違う種族でも魔物でも手を出す人です」
「誤解だ!何の根拠があってそんな!」
いや神様の根拠はあるか、あとディーナにも手を出してるか、でも獣人族とドワーフ族とエルフ族、それに魔物にも手を出してないぞ。
半分以上言いがかりだ。
「皆何言ってんだ?ヴォルガーは美味しいもの作れるいい人だぞ」
タマコよ、お前だけが真の仲間だったか。
「アイラも最初は怖かったけど、字を教えてくれたからいい人だ、ディーナも酒臭いときあるけど、一緒に寝てくれるし、風呂はいったときは頭拭いてくれたからいい人だ、マグナは強いしかっこいい、しっこく号にも乗せてくれるいい人だ、だからみんな同じだよ」
俺もうここで暮らそうかな。
「タマちゃん…そうね、うん、その通りよ!何があってもヴォルるんはヴォルるんだったわ!私が難しく考えすぎてただけみたい!」
「フッ、それもそうだな」
「…みんな同じですか、でも私はタマコより字が書けますけどね」
「そ、それはそのうち覚える!やればできる!」
「じゃあ今日はこの後字の練習でもしますか?」
「今日はむつかしい話たくさん聞いて頭使ったから…明日からやる」
それは結局やらないやつの台詞だぞタマコ。
でもまあいいだろう、今日は。
この後は美味しい夕食を作るのをタマコにも手伝ってもらわねばならないからな。




