なぜなに魔王1
後半へ続く!
「これまでのあらすじ!こことは違う地球と呼ばれる世界にある日本という国にいた善良で紳士的な一市民の俺は趣味でやってたVRMMOを通じてアイシャという女性と知り合い日々を楽しく過ごしていた!しかしある時突然、俺にとっては異世界となるこの世界へ転移させられる!なんと犯人はアイシャで彼女はこの世界で光の女神と言われる存在だった!女神とはつゆ知らず俺は彼女と共に暮らし始めたのだが、異世界から俺を呼んだことは神様たちの中で禁じられた行為だったため、アイシャはやがて罰を受けることになり生まれ変わって俺のことを完全に忘れてしまう、そして俺は色々あってこの世界で生きることにした説明終わり」
………
オフィーリアの元へ行くと決めたときから、もうある程度アイラの事情は言わなくてはいけないことはわかりきっていた。
アイラは自分のことが自分でわからないこととは別にも、ディーナやマーくん、後一応タマコ、この三人に何の説明もなしにこの先自分の事情でオフィーリアに会うと決めたことについて悩んでいた。
普段そっけない感じだけどアイラはああ見えて皆のことを信頼できる仲間だと思っているのだ、だから仲間にこれ以上隠し事を続けることが嫌になった。
俺はそのことを二人きりで話をしているときになんとなく感づいていた。
だからアイラがもしかしたら自分のことをバラす可能性については考えていた。
それはいい、それはいいが、俺のことは別に打ち明けなくてもよい。
アイラは俺とアイシャが恋人だとバラした後に「もう隠し事はやめませんか、ヴォルさん」と優しげに言ってきた。
たぶん何も聞かずいつも助けてくれる仲間に対して恥ずかしくない行動をとりましょうとかそういう感じの意味合いで。
でも俺としてはごまかせることは死ぬまでごまかしたかった!
アイラは子供だからそこんところがわからないんだ!
大人になるといろいろなんか世間体とか気にして偽りのペルソナをかぶって生きていかねばならないんだぞ!
少なくとも俺のいた世界で大人は正直者なだけでは生きていけない!
職業適正診断で貴方は政治家に向いていますって言われるくらいでちょうどいいんだ!
芸術家とかクリエイターって言われたらあれ嘘だぞ!他に言うことないだけ!
等と反論したかったがそんな空気ではなかった。
俺が完全に真実を打ち明けないと許されない雰囲気だった。
だってみんな俺が何か言うまで「待ち」の体勢になっちゃったもの…
なので俺は開き直った、これまでのあらすじとか言って。
こうなったらもう、勢いだ、勢いで乗り切るしかない。
そう思って早口でまくしたててやったのだ!
語り終えたら皆シーンとしていた。
「じゃあ特に質問もないようなので俺の話はこれで置いといて、水の女神の件についてだが…」
「あの、質問はあります」
オフィーリアが口を開く、チッ、あるのかよ質問!
大人しくディーナとタマコみたいに脳が考えることをやめた状態になっておけばいいものを!
「全体的に理解しがたい内容だったのですが、ええと…まずぶいあーるえむ…というのは何なのですか」
「説明しよう!VRMMOとはヴァーチャルリアリティ技術を利用したネットゲームの一種である、仮想空間上の舞台に多数の人がログインして共にファンタジーなアドベンチャーを繰り広げるのだ」
「………分からない言葉が余計増えたのでもう少しわかりやすく」
「なりません!」
「………そうですか」
「はい、じゃあ他の人は?質問ないね?ではこの話は終わりでいいね?」
このままうやむやにして次の話に行こうよ。
「い、いいわけありませんよ!なんなんですか今の話は!」
アイラが叫ぶ、まあはい、そうですよね。
「ちゃんと説明してください」
「アイラ、すまんがあれでちゃんと説明している」
「最後の方なんか、適当に言いませんでしたか!?」
「気のせいだよ、ありのまま言うとああなるんだ!俺にも良く分からない部分があるんだ!」
嘘は言ってない、ただちょっと俺の体がホムンクルスとかの部分は飛ばした。
この後に及んでも俺はまだごまかすことを諦めない!最後まで戦い続けるぞ!
だってホムンクルスってたぶんいい感じのことじゃないもの!
ナインスが自分の父親殺すの決意するような要素なんだぞ!!
ホムンクルスが原因で迫害されたらどうする、ディーナに気持ち悪いとか思われたらかなり辛いし、いやそんなことは無いと信じてはいるけど…信じてるよ?でもそれとこれとは話が別!
俺のことが公になったら、ただでさえ魔族とか言われて立場が危うい事があったのにホムンクルスとまでわかったら完全に人間扱いされないかもしれない!最悪銭湯とかホムンクルスの人お断りって張り紙されるかも、その場合俺はショック死する。
「なあアイラ、もう一度考えてみてくれ、俺がここで新たな混乱を招くよりここはひとつひとつ解決できる問題から取り組むのが正しい道ではないだろうか?いやそうに違いない!俺の恥ずかしい過去を暴いたところで一体誰が幸せになる?俺たちがやるべきことは俺の過去の女性関係について掘り下げることではなくて水の女神に会うための方法を知ることだったはずではないか!」
「え、ええと…そう、言われたらそうだと思いますが…あれ、それでいいんでしょうか…?」
「そうだよ!本当にやるべきことを見失ってはいけない!だから早くオフィーリアはウェリケに会う方法を説明してっていうか呼べるならもうここに呼んでくれ」
「へっ、あっ、ええと、ではウェリケ姉さまに連絡をとってみます…しかしウェリケ姉さまは、気まぐれな性格で自由にあちこち動き回るので、すぐには連絡がつきません、何日か待ってもらうことになりますが…」
「一年待つとかでないならいいよ」
「そんなにはかかりません、一週間以内だと思ってください」
「だってさアイラ!これでいいよな!?」
「あ、はい、会えるなら何も問題はないです」
ふうよしなんとかうやむやにできたな。
「ところでさっきの」
「ところでえええええ!魔王とかいうやつのことなんですけどおおお!」
「ひっ」
オフィーリアが話を蒸し返そうする気配をキャッチ!そうはさせん!
「殺しちゃったので良く分からないんだが魔王ってなんなんだ?」
「ま、魔王とは過去ルグニカ大陸に現れた異世界人の…貴方と同じような立場の人間ですね、魔族と言ったほうが他の人にはわかりやすいでしょうか、その魔族の中で取り分け危険だった人物たちのことを魔王と呼ぶのです」
そこから俺は魔王の話がすぐ終わらないようにあれこれ質問する作戦に出た。
で、いつの間にか皆は魔王の話を真剣に聞いていた、タマコは途中で飽きて寝ていたけども。
その結果わかったこととイルザから聞いた話をあわせて考えると…大体こうなる。
過去にここへ来た日本人の転移者たちは、闇の女神から力を与えられ魔法を作り出した後、お互いに協力するなんてことはせずに殺し合いをはじめてしまった。
原因は闇の女神が全員に同じように授けた「他人の魔力を奪う魔法」にある。
魔法の名前は<ソウル・イーター>、ゴキさんが使っていたやつだな。
あの手に捕まれると魔力を奪い取られるらしい、集まった転移者の中に女神から授けられた直後にふざけて試しに使ったやつがいたのだ、近くにいた転移者に向けて。
<ソウル・イーター>というのはゲームで言うとバランス崩壊魔法だ。
転移者たちが一生懸命考えた魔法の数々は、消費魔力が激しすぎてすぐ使えないのに対し、こいつは少ない魔力でも撃て、対象から魔力を奪うという特性上、使えば使うほど魔力が増えるというクソ仕様だった。
クソ仕様な点として魔力を奪うことにくわえ命も奪うということがあった。
俺もやられたからわかるが、あんなもんまともに食らって絶対無傷で済まされるわけがない。
魔法名の響きから使う前にあぶねえ魔法だと気づけと思うが、まあ100人近い転移者がいたのでその中にとびきりの馬鹿が混じっていたとしてもおかしくはなかったのだろう。
そこからはパニックが起きて、かなりの人数がその時点で死んだ。
まあすぐ隣に立ってる人全員が拳銃持ってるようなものである。
自己防衛の手段として、やられる前にやれ的な発想で先に攻撃をはじめる者がいたのは当然とも言える。
そこで下手したら全滅に等しい出来事が起きたはずだが<ソウル・イーター>の持つ唯一の弱点がそうはさせなかった。
弱点…<ソウル・イーター>は防がれるとしばらく使用不能になる。
同じくらいの威力の魔法をぶつければ相殺できるのだとか。
つまり<ソウル・イーター>は<ソウル・イーター>で相殺できる、俺の場合は力技で防いだけども。
ゴキさんが呆けてたのはそのせいかもしれない。
オフィーリアもどれくらいの間、使用不能になるのかについては詳しく知らなかったが少なくとも一回防げば逃げるくらいの時間はできるようだった。
そのことに気づいた転移者たちから順にその場を逃げ出した。
そのおかげで最後の一人になるまでのサバイバルゲームにはならなかった。
方々に逃げたあとしばらくは大人しくしていた転移者たちだが、時がたてば恐怖も薄れ、やることやるようになる。
その状況に開き直って、この世界で好き勝手やり出したのが後に魔族、中でも酷いのが魔王と呼ばれる連中だ。
ある者は日本で得た知識を生かして成り上がったり、またある者は暴力で国を支配下に治めたり、後はなんか王族を影で支配する女の魔王とかもいたようだ。
ここら辺はオフィーリアも魔王全員が何をしていたのか全てを把握していないので曖昧だ。
そうして表立っての活躍が他の転移者たちにも伝わるとまたここで問題が発生する。
そうした悪行を見逃せない正義感を持った転移者が魔王を倒す活動を始めたのだ。
そっちは魔族でも魔王でもなく、勇者と呼ばれていたらしい、元は同じ存在なのにこの有様、せつないね。
その勇者を支援していたのが闇の女神以外の、他の女神だ。
オフィーリアが力を貸した勇者は魔王コックローチを倒したらしい。
だから逆恨みされて狙われてたんだな。
「倒したはずの魔王コックローチはなぜ復活したのです?」
話を聞いている最中にアイラがそう言った、確かに復活した理由がわからないと困る。
また出てこられても面倒だし…
「魔王の中に死をなんとか回避できないかと厄介な方法を生み出した者たちがいるのです、それが魔王ケモニスト、魔王ロリコニア、魔王コックローチ、魔王ドールオタの四人です」
まともな名前の魔王いねえの?全部悪意あるネーミングに感じられるんだが。
ま、そんなこと気づくのこの場で俺だけなんだろうけど…
「どういう理由があってそうしたのか私にはわかりませんが、魔王ケモニストは『憑依』、ロリコニアは『不老』、コックローチは『群体』、ドールオタは『人形』、といった概念を持つ魔法を作り出していました、この四人の魔王は互いに協力して『復活』する方法を生み出してしまったのです」
「群体?魔王コックローチは腕が燃えて火の玉を投げる魔法を使っていたんだけど」
「それは…あの魔王は一度イルザ姉さまを倒しているからなのです…イルザ姉さまから奪い取った力で火魔法が使えるようになったのです」
え、まじかよ、イルザはゴキさんに負けたの?
今度あったら言ってやろうかと思ったけどたぶん冗談抜きでマジ切れすると思うのでやっぱやめとこう。
「かくいう私も一度、魔王ロリコニアに<ソウル・イーター>を使われ、戦いに破れました、あの時は本当に屈辱でした、ババアに興味はない等と言われ侮辱され…私ってそんなに老けて見えますか?人族でいうと10代くらいの女性の姿のはずなのですが」
「ああうん、実年齢はともかくとして若い女の子に見えるから大丈夫だよ、俺が思うに魔王ロリコニアは幼い外見の女の子にしか興味を持てない性癖なのだと思うよ」
「幼い女…なるほど、そう考えたなら彼がドワーフ族を支配しようとしていた理由がわかります、そういうことだったのですね…」
「その魔王は見つけたら念入りに殺しておきましょう、二度と復活しないように」
アイラもたぶん守備範囲に入るもんな、危険だよな。
「そもそも魔王はどうやって復活してんの?」
魔王ロリコニアが復活しないためにもその手段を聞いておかなくてはならない。
方法がわかれば阻止することもできるはずだ!
「それが詳しくはわかりません、ただ魔王ドールオタが生み出してしまったホムンクルス製造の方法が利用されていることだけは確かです、魔王はホムンクルスの体を使って復活するのです」
………………えっ?えっ?
ホムンクルスって言った?
俺以外のメンバーはそもそもホムンクルスって何って感じで分かってない様子だけど…
聞かなきゃよかった感が凄い。
「ホムンクルスとは何なのですか?」
アイラがオフィーリアにそう尋ねる。
「精神体のない人の体です、魂の無い肉体と言うべきでしょうか、人の営みによって生まれる生物ではなく、魔法と人の血肉を使って生み出された忌まわしい存在です」
ごまかしといてよかった…本当に…
忌まわしいって神様から言われちゃってるやん…
アイシャ…なぜそんな大事なことを俺に黙っていたんだ。
気をつかって黙ってたのか?
厳密に言えば、今の俺をホムンクルスを使って生かせと指示したのは元の俺なので文句言えないけど。
でも魔王とか関係してるなら一言教えておいてほしかったなーーーーーー!
創造神のくそじじいもちゃんとそういうとこ伝えてくれよなーーーー!
俺あやうく魔族のカテゴリから魔王のカテゴリにうつるとこでしたよ?




