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埋没系の女神

たぶん皆で行ったのは間違い

 魔王コックローチと名乗った日本人風の若者を倒した後、周囲の違和感に気づいた。

さっきまですぐそこにあったはずの大木が跡形もなく消えていたのだ。

結界がまた発動したっぽい、念のために大木があったはずの場所まで歩いてみたけど見えない何かにぶつかって頭をうつようなことも無かったのでただ単に見えなくなるだけの結界ではないらしい。


 それから守り人たちが俺たちのところまで結局きて、魔王の死体見て驚いてた。

死体の顔と魔王コックローチという名に心当たりがあるか聞いてみたが誰一人知らなかった。


 とりあえず俺たちは一度村へ戻ることにした。

ドリアードちゃんも消えたまま帰って来ねえし、俺たちがここにいたら守り人も帰ろうとしないし、あとタマコがおなかすいたとか言い出すし。

村について家族の顔見た瞬間にもタマコはおなかすいたって言っていた。

狼狽えたり、心配でおろおろしていた村人たちがいる中、その安定ぶりを見るともしかして精神的に一番完成されている存在はタマコなのではと思えてきた。


 一方でまだ精神的に未熟な俺はアイラとディーナの泣いてるんだか怒ってるんだかよくわからない顔を見た瞬間に「すいません」と謝ってしまった。

とても「今晩何食べたい?」とか何事もなかったように返せる精神力は持ち合わせていないのだ。


 謝罪後に詳しい事情を説明しようと思ったが、長老に呼ばれてると村人が伝えてきたので、どうせ長老にも説明しないとダメなんだろうなぁじゃあアイラたちも一緒に行こうか同じ話何度もするの嫌だから、ということで俺とアイラとディーナは長老の元へ。

タマコはそんなことよりごはん、マーくんはリクカイクウの三馬鹿に武勇伝を聞かせていたのでほおっておいた。


「魔王コックローチか…なるほどなるほど」

「知っているのか長老!」

「いや全然知らん」


 一通りあった出来事を説明した後、長老は自らの無能さをアピールしてきた。


「コックローチという名に心当たりはないが、魔王というのが昔いたのは知っとる」


 ただの無能ではなかった。


「昔、わしらの祖先が別の大陸に住んでいた頃、魔王ケモニストというのが獣人族を支配しようとしていたという言い伝えがあってのう」


 ケモニスト…ゴキさんも言ってたな、あれは魔王の名だったんだ。


「そいつはどうなった?実はまだ生きてるとかないよね?」

「女神様から加護を授かった獣人族の英雄が打ち倒した、これはオフィーリア様から伝えられた話なので間違いないぞい」


 オフィーリアはやっぱ何か知ってるんだ、是非会ってウェリケ以外のことも聞いておきたいな…

というわけで長老に土の女神様に会いたいけどいいよね?と聞いてみた。


「普通なら無理と言うところじゃが…村人も世話になっとるし、その上守り人を助けてもらって、魔王も倒してもろうた…わしからは到底その頼みを断れぬ、ただ会えるかどうかは結局、森の精霊次第じゃよ?」


 やったぜコツコツ根回し頑張ったのとゴキさん倒したかいがあったというもの。

ドリアードちゃんも好意的な感じだったし、ていうかこれでだめなら起訴も辞さない。


 長老から許可を貰った俺たちは早速次の日にオフィーリアの元へ行くことにした。


「女神様に会えるなんて楽しみねっ、アイシャ様とは夢の中でお会いしたことはあるけど、こうして現実で女神様に会えるなんて感激だわ!」


 意気揚々と森を行くディーナは、俺のいない間にアイラからウェリケのことで会いたい云々の話は聞いている。

ただ、なんというか…ディーナは当然のごとくついてきてるが、一番関係ないので一緒に行っていいんだろうかという気がしなくもないんだけど一人お留守番しててねと言うのも可哀想なのでそのまま着いてこさせている。


 アイラは用件があるので当然いる。

タマコとマーくんも森の中は魔物がいるので護衛としていてもらう必要がある。

この二人は俺と一緒に魔王倒したから女神に会う権利もあるはずだ。


「これは酷いですね…」


 守り人の集落までたどり着いた時、それを初めて目にしたディーナとアイラは息をのんで様子を見ていた。

無茶苦茶なのだ、無事な家屋がひとつも無い。

守り人たちはここで夜を過ごさず、昨日はそれぞれ猫人族は猫人族の村へ、犬人族は犬人族の村へと帰ったくらいだ。

今日はそれぞれの村から、俺の魔法によって治療され十分に動ける体力を取り戻した守り人たちが後片づけをしている。


 その中に一人、片腕で頑張っている猫人族の男がいた。

俺たちに気づくとこちらに駆けよってくる。


「昨日は本当に助かった、どれだけ感謝しても足りない」


 俺が魔法で最初に治療した守り人だ。

腕が無くなって、足が千切れてた人。


「お前が見る限り一番酷い怪我だったんだぞ、まだ村で休んでおけよ」


 こいつが相当酷い怪我だったのは、最初にゴキさんとぶつかって戦ったせいだった。

そしてすぐ力の差に気づいて、村へ伝えることを優先すべきと判断して怪我を負ったまま魔物のいる森を駆け抜けた。

そのせいで片腕で魔物と戦い、足もやられ、村に着くころにはずたぼろになっていたのだ。

他の人に頼めばよかったのに。


「いやあ、あの時は戦力外になってしまった俺にできるのはもうそれくらいしかないと思ってしまってな」

「普通は腕が片方無くなったら出血多量で死ぬ、次から馬鹿なことはしないように」

「わかっているよ、俺はもう守り人を辞めるつもりだしな」


 集落の片づけが終わったら今後はずっと猫人族の村で過ごすことに決めたらしい。

片腕になってもここで片付けを手伝っているのはは、彼なりに何か思うところがあるのだろう。


「ここは今後どうなるんだ?」

「壊れた物は作り直すよ、ここは全ての獣人族にとって重要な地だからな」


 大変だなぁ、俺たちも用事が終わったら手伝ってあげたほうがいいかなぁ。


「はは、そんな顔するなよ、ここにいる守り人は全員が魔法を使えるからそんなに苦労はしないさ」


 彼の言う通り、あちこちで魔法を使って石壁を作り出している者たちが見て取れた。

土魔法で簡易的な柵はすぐ作れるみたいだ。

俺の<ストーンピラー>と違って一度作ればずっと残るみたいだ…数の制限とかもない。


「あれで家は作れないのか?」

「あの石壁はごつごつしてて大きさもバラバラだからなあ、家の壁には向いてないよ」


 俺の魔法と違うのは、綺麗に整った形で出現させるのは難しいという点。

あの石壁で囲んだ家だと確かに隙間だらけの壁になってしまうし、削るのも一手間だ。

まあ綺麗な石壁が出せて家が作れるならとっくにやってるわな。


「なー話まだつづくー?」


 もう話に飽きてきたタマコ。

はいはい、じゃあそろそろ本題に入ろうか。


「ところで俺たち女神のところへ行きたいんだけど」

「ああ、長老から聞いてるよ、守り人たちも君たちがオフィーリア様の元へ行くことについては了承している、今案内役のドリアードを呼ぶから少し待っててくれ」


 そうして男は近くの木に手をついて何事かぶつぶつと言い出した。

するとその木がぐにゃっと変化して、みるみるうちにドリアードの姿になった。

昨日案内してくれた子だ。


「木が人になった」

「精霊というのは何かに乗り移って生きる存在なんだ、ドリアードは生命力にあふれた木があればこうして乗り移って活動できるようになる」


 タマコのために丁寧に説明してくれたのだろうが恐らく説明を受けた本人は全然理解してないだろう。

ん、でもじゃああれか?昨日俺がドリアードに他に助けて欲しい仲間がいるか聞いた時、首を振ったのは死んだとかじゃなくて今はその必要はないって意味だったのか?


 ドリアードが俺の元へ来てにっこり笑って両手で俺の手を包み込んだ、細かいことはどうでもいいか。


「ヴォルさん…?随分仲良さげですね…?」


 凍るような声が聞こえてきた、先へ急ごう。


「ヴォルるん こういう恰好の女の子が好きなの?」

「うん、いや何言ってんの?ドリアードは精霊だよ、女の子とかなんとかちょっと何言ってんのかわかんない、そんなことより土の女神様のところへ行こうじゃないか」


 そう言うと俺の手を引いてドリアードが進み始めた。

それをアイラが「別に手はつながなくていいでしょう!」と割り込んできて俺とドリアードの手を引きはがした。

ドリアードがアイラを見下ろしながら真顔になった後、歪んだ笑みを浮かべた。


 喧嘩になった。


………………


………


「はいアイラ落ち着いてーもう着いたよー?」

「はあはあ…なんですかこいつは!歩きながらピシピシ葉っぱを私の顔に当ててきたのは絶対わざとでしょう!」

「い、いやそれはほら…俺とドリアードの間にアイラが入って歩いたから…偶然だよ」

「嘘です!わざとやってたに決まってます!あああ見てくださいあの顔!」


 ドリアードの顔を見る、怯えた表情でふるふると首を振っていた。


「怯えているようだが…」

「違うんです!笑ってたんですよ!にやにやと!」


 ドリアードはさらにそれを否定するように俺を見つめながら首を横に振った。


「殺したくなってきました」

「おいなんでもいいが着いたならさっさと行くぞ」


 マーくんが付き合ってられないという感じで大木に開いた穴の中へと入って行った。

昨日ドリアードが結界をといて出てきた場所だ。

もうここまで来てるんだ、本当喧嘩やめようよ。


「後で覚えておきなさい」


 アイラは捨て台詞をはいてドリアードから離れた。

俺だけで話を聞きにきたほうがよかったのかもしれないと今更ながらに思う。


 一悶着あったが、大木に開いた出入口のような穴をくぐって中に入ると、そこは木の中だというのに広く明るかった。

洞窟と言ってもいいかもしれない、壁が木製なだけで。


「この感じ、ダンジョンに似てるな」


 マーくんに言われ確かにそうだなと俺も思った。

この木の名前が世界樹とかだったらどうしようとか思ったがそんな心配はどうでもいいことなので考えないでおく。


「え、ダンジョンって言ったら…魔物でるの?ここ?」

「なにっ敵がいるのかー!うおおーかかってこい!」


 ディーナとタマコはダンジョンと聞いて対照的な反応をしていた。

ディーナは慌ててタマコの口をふさぐ、俺としても魔物にかかってきてほしくはない。


 しかし一足遅く、タマコの叫びに反応したのか何かが辺りの地面からニョキニョキと生えてきた。

でもドリアードだった、ドリアードがいっぱい。

つまりここがパラダイスだってことだ。


「<ダーク…」

「うおい何してんの!?敵じゃないよ!?」


 アイラが<ダークボール>を使おうとしていたのでやめさせる。

「魔物と勘違いしました」とか言ってるけど明らかに相手を目視してからの行動であった。

どうやらここはアイラにとってあまり良くない場所のようだ。

変なことせずにささっとオフィーリアに会って帰ったほうが良さそうである。


 たくさんのドリアードはこちらに対し特に何かしてくることはない。

見てるだけ。


 他に魔物とかは出てこないので歩き出せば順調に奥へと進めた。

そしてひときわ広い空間…赤き鼓動の迷宮でもあったような、階層の最後の部屋みたいな場所に出た。


「すごいねヴォルるん、こんなところに神殿があるなんて」

「確かにすごい」


 オーキッドでも見たような神殿がそこにはあった。

<ストーンピラー>で建てたような円柱の柱が並んでる建物があって…ギリシャの神殿の遺跡みたいだ。


 その中へ行こうとするとドリアードはその場で止まった。


「あれ、行かないの?もしくは俺たちだけで行けということ?」


 そう尋ねると頷いて返事をするドリアード、何か決まり事があるのかな。

まあ入っていいなら遠慮なく俺たちは入るけども。

 

「女神様ーきたぞーっ!!」

「たた、タマちゃん!そんな言い方しちゃだめよ!友達の家じゃないんだから!」


 もうタマコの無礼はどうしようもないのでディーナ以外はいちいち誰もつっこまない。


「ようこそいらっしゃいました」


 奥から女の声が響く、女神かっ!

そちらへ近づいて行くとちょっとショッキングな光景を目にしてしまった。


 女の子が壁に埋まってる…


 正確に言うと木の壁から上半身だけ出て来てる…

壁の穴を通り抜けようとしてお尻が挟まって出られなくなった人みたいに…

皆なんと言っていいのか、困っている様子だ。


 ここは俺が代表してつっこまなくてはならんな。


「オフィーリア様ですか?」

「はい」

「その体勢、苦しくないんですか?」

「慣れれば平気ですよ」

「引っ張りましょうか?」

「その必要はありません」

「いやあの大丈夫ですよ、外に出ても誰にも言いふらさないですから」

「お尻がつっかえているわけではありません、これは壁ではなく木の幹なのです」

「えっ、じゃあ下半身は木の中に埋まっているということですか?」

「はい」

「つらくないですか?」

「自らの意志でこうしているのです」


 茶髪でショートカットの女神と思われる10代半ばくらいの姿をした女性はにこやかにそう言った。

いや目の前に台置いて、腕突っ張って上半身起こして会話してる時点で辛いと思うんだけどな…

トイレとかどうするんだろう…女神だからそういうことはしないのかなやっぱ…


「もしやオフィーリア様はそういったプレイが」「よくぞ参られました、魔王を倒せし者よ」


 かぶせ気味にオフィーリアは発言した。

あまり体勢について触れられてほしくないのかもしれない。


「寝るときとかはどう」「それで、あなた方がここに来た用件はなんでしょうか」


 意地でも聞かれたくないことには答えないつもりだ。


「女神様、かわいそうだから出してあげるな?」


 タマコがいつの間にか近づいてオフィーリアの胴体を引っ張ろうとしていた。


「だからいいんです!壁に挟まっているわけではありませんと言ったでしょう!!やめなさい!」


 何か意味があってそうしてるんだよな、意味もなく壁に埋まる人はいないよな。

タマコを取り押さえ下がらせる。


「女神様はああいう恰好で過ごすのが好きなんだよ、だからそっとしてあげて」

「そーなのかー…さすが女神様だなぁー」


 オフィーリアは何か言いたげに頬をピクピクさせていた。

これはいけない、怒らせてしまったか。

タマコがこれ以上変なことしないようにディーナに手を握らせて捕まえておいてもらおう。


「今日はオフィーリア様にお尋ねしたいことがあってここを訪れたのです」


 アイラが俺の代わりに聞いてくれた。


「貴女は?…あれ、以前どこかで会ったことが?」

「私はアイラと申します、ここへ来るのは初めてです」


 オフィーリアはアイラについて特に何も知らないのか…?

だとするとイルザはちゃんとアイラのことを他の神には内緒にしてるんだな。


「私はどうしても水の女神様であるウェリケ様に会わなくてはいけません、しかしその居場所について何もわからないのです、オフィーリア様であればウェリケ様に会う方法について何かご存知ではないかと思いここへ訪れました」

「なぜウェリケ姉さまに会う必要があるのです」

「私は…私は元は光の女神であるアイシャの一部でした、ですが自分がなぜ光の女神から別れ、こうして存在しているのかについて自分でもわかりません、ですがある方から、理由を知りたければウェリケ様に会えばよいと助言をいただきました、そのためウェリケ様を捜しているのです」


 言ったーーーーーとうとう皆の前でーーーー!

いやまあ言わなきゃどうしようもないんだけど、オフィーリアも驚いてるしマーくんは…表情変わらないんでわかないけどディーナに至っては口開けて硬直している。

タマコはたぶん意味わかってないのでどうでもいい。


「信じがたい話ですが…確かに貴女からはアイシャ姉さまのような気配を感じます、それにしても一体なぜそのようなことに…」


 オフィーリアはひょっとして俺とアイシャの関係も知らないのかな?

アイシャが転生刑になったことくらいは知ってるとは思うが…


「それはこの人がかつて光の女神アイシャの恋人だったからです」


 考え事をしているとアイラが俺を指さして爆弾発言をした。


 ぎゃああああなぜそれを言ったーーーー!

オフィーリアは腕を突っ張ることも忘れ、頭を台で打ったーーー!

マーくんも驚きの表情を珍しくしているーーー!

タマコは「すげー」とか言ってるー!


 そしてディーナは株で有り金全部溶かした人みたいな顔になっていた。


 なんてことをしてくれたんだ、アイラ。

俺はここから、どう発言すればいい?

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