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最終兵器タマコ

子供増やし過ぎたかな

 猫人族の村は森の中を切り開いて作られていた。

軽く見た感じでは狐人族の村よりもかなり広そうだ。

余裕で魔動車が走れるくらいの道幅があって、建物ひとつひとつの間が結構あいてる。

建物もテントとかじゃなくてちゃんと木造の家が建ててあった。


 タマコの家は俺たちが村へと入ってきた場所から割と近くにあった。

タマコの家は農家でなくて代々狩人の家系らしい。

それで森から近いところに住んでる方がなにかと便利だそうだ。


 とかいう話をタマコ父のタケオさんから聞いて、家に入ろうとしていたところなのだが。


「なんだこれっ!鉄の馬車だ!」

「おっさんおっさん、商人か?でもたまに来るエルフ族の人と全然違うな」

「ねーみてみてーのぼれたー」


 タマコの家から飛び出して来た少年少女に囲まれて身動きがとれなくなった。

ええとまず魔動車に興味を示している男の子が一人。

おれのことをおっさん呼ばわりして話しかけて来る男の子が一人。

あと俺のことを獣人族だと勘違いしているのか「尻尾がない」と言いつつ尻をバシバシ叩いてくる男の子が一人。


 他には魔動車の屋根にのって飛び跳ねる女の子と、それを心配そうに下から見あげておろおろしてる女の子。

全部で何人?五人?全部ご家族の方ですか?


「こらぁやめんかお前たち!この人はタマコを捕まえてウチまで持ってきてくれた大事なお客さんだ!」


 捕まえてってなんだよ…タマコはこの家でどういう扱いなのか、脱走兵かなんかなの?


 タケオさんに怒られた子供たちは「親父が怒ったぞ逃げろー」と叫びつつ蜘蛛の子を散らすように散開して逃げて行った。

ただ一人、魔動車の屋根の上に乗った女の子が、そこから飛び降りるのは怖かったのかへたりこんで「待って待って」と言いつつ涙目になっていた。


「はいここは危ないから降りてねー」


 俺はその女の子を抱えて魔動車の上から降ろす。

つうかこの子はどうやっていつの間にのぼったんだ。


 無事地面と再会できた女の子はたぶんさっきの子供たちの中で一番幼いと思われる。

俺の顔を見上げて無言で何度か目をぱちぱちさせた後、だだっと走ってタケオさんの足にしがみついていた。


「えっと、全員家族?」

「うるさくてすまんな、元気だけはどいつも有り余っててな」


 タマコいれたら六人も子供がいるのか、たまげたなあ。

なにがたまげたって恐らくタマコがあの中で一番年上で長女なはずなのに全く落ち着きがないという点に気づいてたまげたよ俺は。


 子供の集団が去ったことでディーナが眠ったままのアイラをおぶって魔動車から出てきた。

マーくんはちなみに少し離れたところで漆黒号にまたがったまま石のように固まっていた。

絶対に子供に漆黒号を触らせないという鋼の意志がそうさせているのだろう。

魔動車の屋根の上にのぼってた女の子を見た途端そうなったからな。


「家の前で立ち話もなんだ、中へ入ってくれ」

「でもまだ二人戻ってないけど」


 タマコとタマコ母であるカヨさんはこの場にいなかった。

二人は近所の人たちに俺たちが来てることを伝えにいったのだ。

あとなんか長老にも話してくるとか言ってた。

村のまとめ役が村長ではなくて長老と呼ばれてる辺り、杖を持ち長いヒゲを持った凄い魔法を使いそうなジジイに違いないと勝手な想像をしてしまう。


 それとそういう話は母親じゃなくて父親が行きそうなもんではあるが、タマコの言ってることは実の父親であるタケオさんですらよくわからないことがあるようで、一番タマコと意思疎通ができる母親が代わりにタマコを連れて共に行ったのだ。


「あの二人はしばらくかかると…」

「ただいまーっ!」


 しばらくかかりませんでした、タケオさんが言う途中に猛スピードでタマコが戻ってきた。

あれ、でもタマコだけだな。


「なんで一人で戻ってきたんだ?}

「お母さんがもういいから先に帰れって」

「はあ?あいつは何を考えてんだ?タマコがおらんと長老に説明できんだろう」


 タケオさんはタマコの様子に頭を抱えていた。

なんだろう、お母さんがタマコだけ帰らせた気持ち、なんだろう、わかっちゃう。


「タマコは腹減って話どころじゃなくなったんじゃないかな」

「あたり!なんでわかった?」


 そろそろいつもなにかしらおやつを食べていた時間だからね、わかってしまったよ。


「はー…あんたタマコのことよくわかるなぁ…」


 タケオさんに感心されつつ家の中へと俺たちは入った。

でもマーくんだけは「しばらく外にいる」と言い張っていたのでそっとしておいた。

今漆黒号を離れたらたぶんマーくんは死ぬ。


 ずっと寝たままのアイラを見てタケオさんが寝室のベッドを貸してくれた。

そこにアイラを寝かせるとディーナが「起きた時びっくりしちゃうと思うから私はここにいるわ」と、アイラの傍について寝室に残った。


「何か食べたい」


 食卓らしきものがある場所につくなりタマコはそう言った。


「お前帰ってきて他に言う事があるだろう…皆心配…はあんまりしてなかったがその、一番上で皆の姉なんだからそろそろ落ち着いてだな」

「食べ物探してくる」

「少しは父親のいう事を聞け!!」


 タケオさん怒りのげんこつ、家庭内暴力か?

しかしタマコはそれをひらりとかわした。

さらに二手、三手と攻撃を繰り出すタケオさんだが全部避けられて最終的にぜぇぜぇ言ってるだけだった。


「タケオさん何か食べるもんタマコにあげてもいいかな」

「え?いやいやそこまでしてもらわんでも」

「でもほっとくと森の中へ飛び出して行くと思うが」


 外へと続く扉に手をかけるタマコを見て俺の言う事が現実になるとタケオさんもわかったようだ。

「母さんが戻ってきたら食事にするから少し待て」と言ってタマコを引き留めようとしているが恐らく無駄なので俺はさっき魔動車から出しておいた物を荷物から取り出す。


「タマコ、ちくわあるけど」

「食べる!!」

「あー食べてもいいけど他の子にもやれよ」


 男の子供らはどこいったか知らんが女の子が二人、実はさっきから廊下のほうでちらちらと何度か顔を出してこっちを見ていたことに俺は気づいていた。

この状況でタマコだけに食べさせるのはあんまりだ。


 タマコはちくわを収納していた竹筒を受け取ると、妹たちを連れて違う部屋の方へ行った。

これで落ち着いて話ができます。


「タマコがずいぶん喜んでたが…ちくわって言ったか?知らん食べ物だな」

「魚の身を潰して焼いたものなんだ」

「へえ、でもいいのか?あんたたちの旅の食糧だったんだろ?」

「そんなに日持ちしないんで今日中に全部食べるつもりだったんだよ、だから気にしなくていい」


 狐人族の村を出る日に作ったやつだからな。

海離れたらちくわはもう食べれないということで最後に大量生産して竹筒に詰め込み、青鉄庫の中で保存していた。

でも賞味期限的にはそろそろアウトな気がしていたのでちょうどいい。


「そうかぁ、何から何まですまんなあ、あの様子じゃ飯もずっとあんたにたかってたんだろ?」

「いやあ、まあそうだけど別にそれはいいよ、俺は料理するのが好きだから」

「食べるんじゃなくて作るのが好きなのか」

「同じくらい好きかな、ああでもタマコも何もしてないわけじゃないよ、例えば…」


 そこからタケオさんにこれまでタマコがどういう日々を送っていたかを話した。


「えーと…まずオーキッドまで行って偶然会ったあんたらの家に住み着いて、飯食ったり風呂入ったりしてたと」

「一応あれだ、畑の害獣駆除に行く仕事もしてたよ」

「あ、あいつがそんな…人に言われた仕事ができるなんて…」


 タケオさんはわなわなと震えていた、タマコが仕事をするのがそこまで意外なことであったか。

初日にピンクラビット捕まえて即座に畑から戻ってきたことは言わないでいてあげよう。


「それで、その後はタマコが全然帰らないからウチまで連れてきたと…」

「要約するとそう言う感じだ」

「なんだ…その、本当にすまん」


 タケオさんの胃に穴があきそうだったのでいろいろ話題を出してタマコの成長を伝えておいた。

ここ来る途中で狐人族の村に立ち寄った時は海の魚を捕る手伝いをしてたとかね。

ああでも一番驚愕してたのは、つい先日、俺の料理の手伝いをすると自主的に言い出した時の話だったな。


「どうやってタマコをそこまで躾けられたんだ!?凄すぎる!」

「いやたいしたことは特に…あ、ついでに言うとタマコは最近自分の名前も書けるようになってたぞ」

「奇跡だ…!信じられん…!」


 今までどれだけ低評価だったんだよタマコは。


「もしあんた…いやヴォルガーさんが人族でさえなければ、今すぐにタマコをひきとっ…嫁にやってもいいくらいだ」


 今一瞬、引き取れと言おうとしなかっただろうか?


「嫁はシンタロウのところへやってあげればいいのではないだろうか」

「ああ、そういえばあいつ、シンタロウを捜しに行くと言って村を飛び出したんだったな…あれ、シンタロウのこと知ってるのか」

「知ってたからタマコのことほっとけなくてな」


 タケオさんはシンタロウについては「父親と一緒にオーキッドに商売に行ったまま帰って来ない」くらいの情報しか持ってなかった。

タマコの言う通りシンタロウがまだここには来ていないのは確定だな。

なのでやっぱ俺が知る限りのことは、言っておいたほうがいいだろう。


 俺はリンデン王国内でシンタロウと出会ったことを伝えた。

勿論シンタロウの父親が関与していた悪事も含めてだ。

それ言わないとなんでリンデン王国内に彼ら親子がいたのか説明のしようがない。


 話を聞いたタケオさんは唖然としていた。


「そんなことになってたのか…じゃあヴォルガーさんは元々はリンデン王国に住んでたんだな」

「まあそう、用事があってオーキッドまで来てたんだ」

「そうか、それでシンタロウのほうは生きてるんだよな?今はどこに?」

「俺が最後に聞いた話だと、サイプラスを経由してここを目指し旅に出たとのことだった」


 一つ不安なのはシンタロウが村に帰ってきたとき、どういう扱いを受けるかについてだ。


「シンタロウが帰ってきても、なんていうか、この村に居場所はあるよな?」

「家はまだあるぞ、うちの隣だからな、全然帰って来んからたまに掃除してやってたよ」

「いやそういうんじゃくて、いじめられたりしない?」

「ああ父親のことでか、うーん…今の話嘘ではないと思ってはいるが、シンタロウが帰ってきたら本人からも話を聞かねばならん、それまでは何とも言えないな」


 それもそうか、上手くシンタロウが村人たちに迎え入れられればいいが…


「不思議だな」

「なにが?」

「ヴォルガーさんのように獣人族のことを気にかける人族がいるってことがだよ、未だに夢でも見てるのではないかとすら思う、それとも…もしかしてあんた実は人族じゃないんじゃないか?」

「人族デスヨ?」

「はははっ、すまんすまん、もしかしたら耳の短い黒髪のエルフ族だとか、背の高いドワーフ族が世の中にはいるのかもしれんと思ってな!」


 ふうおい変な汗かいたわ、魔族か?とか言われるかと思った。


「変な話になったがシンタロウのことはたぶん大丈夫だと思う、タマコがいるからな」

「タマコはそりゃ捜しに行くほどだからシンタロウのこと嫌いではないとは思うけど、でも村人の一人でしかないだろ」

「…もしシンタロウを迫害する者が村の中にいたら、タマコが絶対に力ずくで黙らせに行くだろう、残念ながらあれはそういう娘なんだ…」


 そういう…娘なんだ…そしてやっぱり残念なんだ…


 その後タケオさんからタマコが男であればと何度思ったかなどと悲しい話を聞かされた。

フォローになるかわからんが、オーキッドじゃ剣豪っていう偉い地位にいる人も無茶苦茶強い女だったから、暴力的であっても出世の道はあるよという話をしたら余計落ち込んだので言わなければよかったかもしれない。


 どうやらタケオさんの中でタマコは「俺より強いヤツに会いに行く」的な発想を持つ生命体だと考えられているらしく、今度目を離したらその剣豪に喧嘩を売りにいくのではないかという新たな不安が生まれてしまったようだ、すまない。


 そんな感じで話をしていたらカヨさんとどこかへ行ってた男の子供たちも帰ってきた。

長老とやらに話を通して来た結果、意外とすんなり俺たちがこの村に滞在する許可をくれたらしい。


「最初は小難しいことごちゃごちゃ言ってたんだけどね、娘を連れて来るから同じこともう一度言ってくれるかい?と聞いたらすぐ話がついたよ」


 タマコは長老のところでも過去に何かやらかしてるんだなと察した。

もうこの村で完全にアンタッチャブルな存在になってない?

お母さんそれでいいんですか?


 その後はカヨさんが夕食を一緒にというので外で黄昏ていたマーくんと寝室でアイラの様子を見守るといって完全に寝ていたディーナも呼んで夕食にした。

しかしタマコ家だけでも子供が六人いるのである。

壊滅的に賑やかな食卓だったのは言うまでもない。


「びええええええええん!」

「かーちゃーん、またミミコが泣いたー」

「アンタが肉とるからでしょ!この馬鹿っ!」

「ねーちゃん何食ってんのそれ」

「ちくわ」

「なんだよちくわって!?ずりー!ねーちゃんだけずりー!!」

「かーちゃん!おれたちにもちくわ!」

「ちくわ!?なんだか知らないがそんなもん無いよ!」


 結局言っちゃってるがまあ大体こんな感じ。

俺たちは黙って食事をとらざるを得なかった。


 食事の後は俺たちが今晩寝る場所をどうするかということが問題になった。

タマコの家は俺たち全員が泊まれるほど余裕のある部屋がなかったのだ。

そこでタケオさんが隣の家、今は空き家となっているシンタロウの家を使えばいいと言うのでそこを借してもらうことになった。

勝手に使っていいのかという気はするがそんなことは言っていられない。

タマコ家は超絶うるさいのでマーくんもディーナもシンタロウ家で寝る以外の選択肢は選ぶ気が一切ないのだ、俺もない。


「じゃ我は向こうの部屋を借りるぞ」


 マーくんはそう言って奥の部屋に消えた。

俺はディーナと一緒に、まだ寝たままのアイラを見守っている。


「アイラちゃん、起きないね」

「そうだな…明日の朝には起きるとは思うが…」


 アイラの体には異常は見られない、寝息も安らかだ。


「ディーナはどうする?ここで寝るか?」

「うん、ヴォルるんは?」

「んー?まあマーくんのところへ行くか」


 ちなみに簡素だがベッドはここに二つある、一つはアイラが寝ている。


「たまには一緒に寝よう?」

「えっ…えっ?この状況で?」

「うん…あっ、寝るだけね!さすがに!」


 そ、そうですよね、わかってたよ。

まあなんだろう、落ち着いて二人で寝たのは随分前のことだから、たまにはいいか。

そう思って一緒に寝ることにした。

でもベッドに二人は入れないので床に寝ることになる。


「毛布しいたけどちょっと体痛いね」

「野営のときよりはマシだろ?」

「それもそうね」


 …なんか久しぶりだからか落ち着かないな、横でアイラが寝てるのもあるかもしれん。


「タマちゃん、帰って来れて嬉しそうだったわね」

「まあなーやっぱり家族には会いたかったんだろうなあ」

「ヴォルるんは…」

「ん?」

「ヴォルるんもやっぱり、元いた世界に帰りたい?」

「いや特には…」

「え、あ、そ、そうなんだ」


 そもそも帰れないからな…帰ったところで地球には俺がもう一人いるわけで。


「じゃあもう、ずっとこの世界にいる?」

「うん」

「何があっても?」

「うん、なんなの?帰ってほしいの?」

「ううん全然そんなことこれっぽっちも思ってないわ!断じて帰ってほしくない!」

「え、あ、そ、そうなんだ」

 

 急にそんな勢いでこられるとどうしていいかわからんわ。


「うふふそっかあ、帰らないんだぁ、安心したっ」

「…仮の話として聞きたいんだけどもし俺が帰るっていったらどうしてたの」

「決まってるわ、私もヴォルるんの世界について行くだけよ!」


 どうやって?とは聞かなくてもいいな。

所詮仮の話なんだから。


「元の世界帰ると俺が二人になるんだけど、その場合どうする?」

「ヴォルるんが二人!?どういうことなの!?」

「いや…まあ、冗談だよ、おやすみー」

「増えるの!?ヴォルるんて増える生き物なの!?」


 そう言われるとアメーバみたいでなんかやだな、と思いつつ俺は目を閉じた。


「増えたらもう一人のほうは何て呼べばいいのかしら…」


 寝ろ。

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