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中の人

腰痛でちょっと死んでました

 通信クリスタルのことがただの石ではないとわかったタマコは、もう二度と勝手に使わないと俺に約束し謝ってきた。

わかればいい、さあ気を取り直してハンバーグを焼いて食べようじゃないか。

そんな感じでハンバーグを作り、それを食べ終えた頃にはそれまで少し元気がなかったタマコも元通り、元気を取り戻した。


 そして翌日、故郷の近くまで来たということで魔動車の中ではタマコが助手席に乗り道案内、それを聞いて俺が運転することになった。

マーくんは後ろから付いてくる形になる。


「あそこ!あそこ通れば森の中にはいっていけるよ!」


 タマコが指さす先には、ここを何かが通ってるんだろなとわかるように地面の土がむき出しで草が不自然に生えてない道のようなものがあった。

ここを商人の荷馬車が行き来しているのだろう。


 今のところ俺たち以外には何も見えない。

とりあえず偶然商人なんかにでくわしても危なくないよう、ゆっくりとその道を進むことにした。

まあ俺が運転する限り、万が一衝突しても絶対事故にはならないんだけどね。


「あのーところでヴォルさん」

「なんだい?」


 後部座席からアイラが声をかけてきた。


「結局昨日のイルザ様とのやり取りはなんだったんです?」

「ああ、あれ?まあうん、特にたいしたことはない」

「だいぶ怒ってたみたいでしたけど」

「いやあ、間違えてつなげてごめんごめんって謝っといたから大丈夫だよ」

「そうですか、特に問題ないならそれでいいです」


 うんもういいんだ、それは。


「あの石の話か?もう勝手に触らないよ?」

「大丈夫よタマちゃん、これからはヴォルるんが肌身離さず持つことにしたから」

「連絡用の道具なんですから本来そうすべきでしたよね、魔動車の中が安全だから置いてたというのもわかりますけど」

「ハハハ、ソウダネ、だから今はちゃんとここにあるよ」


 そう言って俺は自分の胸を叩く。

そこには硬い感触があった。


 服の内側に持ってるこれ…実は通信クリスタルではないんだ…

そこら辺で拾った、同じくらいの大きさのただの石なんだ…


 そんなことは勿論この三人は知らない。

外を漆黒号で走るマーくんも知らない。


 イルザによって通信クリスタルが爆破された後、音を聞いて様子を見に来たアイラたちに、俺はとっさに嘘をついてしまった。

離れた位置にいた三人は何が起きたかわかっていなかったから…


 それで俺は「イルザが怒って火の玉を空から飛ばして来た」と爆破によってえぐれた地面を指して言ったんだ。

あいつ前科があるからな、その嘘をアイラとディーナは信じた。

タマコは女神様すげーとか言ってた。


 その後はまああれよ…適当にその辺の石を拾って胸にしまい、今後は俺がここにずっと持っておくと皆に説明して、その話は終わりになった。


 俺はなぜこんな嘘をついたのか。

そんなの決まっている、壊した、もとい壊れたことを誰にも知られたくないからだ。

だってこれ無茶苦茶高いらしいし!?

どうやって弁償したらいいのかもうわかんない!

そ、それにそんな高いもの壊れたと知ったらタマコもまた泣くかもしれないし?


 …コムラードに帰るまでまだ猶予はある、それまでに何か打開策を考えればいいやろ…

どうせここんとこずっと連絡きてなかったし、今後しばらく連絡なくてもバレやしない。

あっちは平穏なんだろ、たぶん。


 あ、そうだ、とりあえずサイプラスに行けば冒険者ギルドがあるんじゃないか?

そこでちょっと冒険者として活動して誠意と言う名の金を稼いでおこう。

これまでほとんど冒険者としてそれらしい活動してないけど今俺は3級だしなんやかんやマーくん誘えば大抵なんでもできるし、儲かる仕事が受けられるかもしれない。

100万コルとか稼ぐのは無理でもとりあえず頑張った感を出しておけば後でラルフォイに言い訳できる。

後はえー、マーくんにミーナさんを味方につけてもらって…ニーアはプリンかなんかで懐柔して…よしそれでいけるな。


 考え事をしながら魔動車を走らせ、森の中へ入ったのを確認する。

これずっとこの道沿いでいいんか?とタマコに尋ねようとした時だった。


『警告、8時方向から何かが集団で近づいてきています』

「お、え?なに?8時?」


 ティアナから警告のメッセージ。

8時ていうと左側の後方?


「ひょっとしてタマちゃんの村の人?私たちが近くまで来たから気づいたのかしら」

「村はまだ先だよ?」

「8時方向というのは後ろのことですよ、ディーナさん何か見えませんか?」


 ディーナがよいしょと体を座席から乗り出して、魔動車の後方から外を眺める。


「なにかしらあれ、砂煙で良く見えないけど人の集団だと思うわ、馬に乗ってるのかも…マーくんも気づいたみたい、どうしよう?」


 えーどうしようか…魔物じゃないのか。

とりあえず速度だせば振り切れると思うけど森の中だからあんまり飛ばしたくないんだよな…

それにタマコの村の人の可能性も無いとは言えない。


 俺は一旦魔動車を止めることにした。


「俺は外でマーくんと一緒に近づいて来た人たちと話してみる、他の人はそのまま…いやディーナだけは念のため運転席に乗っておいて」


 そう指示して俺はマーくんと共に向かってくる集団に対し身構えた。


「来るぞ、あれは馬じゃないな、インセクトホースか」

「インセクト?あっ、足が六本ある!」


 虫みたいな馬の魔物ってことか、きもっ。

いやそれよりそれに乗ってるやつらだが…


「ヒャッハーー!!」

「グハハハハハァ!逃げても無駄ァァ!!」


 等と叫びながら醜悪な笑みを顔に浮かべ、俺たちを取り囲む。

はい、これタマコの村の人じゃないですね。

だって頭に…ウサギの耳生えてるもの…これ兎人族だよ絶対…


「とりあえず殺すか?」


 躊躇なく判断するマーくん、とりあえず殺すかってすげえ台詞だな。


「ま、まあもしかしたらその、話がしたいだけかもしれないのでちょっと待って」

「兎人族はろくでもないとヤナギたちが言ってただろ、無駄な気がするが」

「それでも一応、一応ね?ほら人数差がだいぶあるんで」


 見える限りの範囲におよそ20名はいる、森にはいってった分を考えたらもっといそうだ。

俺は一歩前に出て、先頭にいた顔に傷のあるなんかの毛皮で作った服を身にまとう男に話しかけた。


「あのー…何かご用…」

「男は殺せ!!女がいたら捕まえろ!!」


 あっ、これだめみたいですね。

ぴょこぴょこ動くうさ耳が滅茶苦茶似合ってないのと話合いは無理ということが俺にもわかった。


 一斉に俺に向かって矢が飛んでくる、うわー、でも避けれるー。

なんか思ったより平気、前は掴んで止めたくらいだからな!

マーくんの元に一足飛びで戻る。


「だから言っただろ」

「スイマセン、じゃあ<ウェイク・スピード><ウェイク・パワー><ウェイク・マジック>と」


 謝りつつ即座にマーくんに強化魔法をかける。

魔法をかけ終えるとマーくんは飛び出し<ダークボール>をめちゃくちゃ乱射しはじめた。

あれだな、怒ったら金髪になる戦闘民族が出て来るアニメのエネルギー弾の乱れうちに似ている。


「ギャアアアア!たわば!」

「なんだこの化け物はぁぁぁ!あべし!」

「お、おかあちゃーん!ひでぶ!」


 なに?なんか打ち合わせしてたの?死ぬときの悲鳴。

お前らがそれ言うのおかしいやろ、とつっこみたいがそれはさておき俺は魔動車とその傍に置いてある漆黒号の傍へ行く。

漆黒号が盗まれたり壊されたりしたらたぶん絶対に許されない事態になる。

もうなってる気もするが。


「<ライト・ウォール>」


 森の中から飛んできた矢を魔法で防ぐ、うーん片方はこれでいいけど車の反対側どうしよう。

とりあえずそっちは<ストーンピラー>でも並べて立てて置くか。


 そう思って反対側には石柱を三本ならべて生やす、若干カバーできてない部分がある。

こんなことなら土2にして<ストーン・ウォール>覚えておけば良かった。


「あたしも戦うぞ!!」


 タマコが助手席から飛び出してくる、乗ってなさいって言ったのに!!


「こらっ、外は危ないぞ!」

「でもアイラも外でたよ」

「ええおい!?」


 見ればアイラも後ろから出てきていた、なぜ言う事を聞かないのか。


「こっちは私たちで対処しなければならないでしょう?」

「それは俺がなんとかするから」

「ヴォルさん攻撃できないじゃないですか」


 ウッ。


「ほら、反撃しないから調子に乗って近づいてきましたよ<イロウション>」


 魔物の馬から降りてこそこそ近づいてきていた兎人族の数人を魔法で薙ぎ払うアイラ。


「うおーあたしもやるぞー!」

「あああわかった!わかったから!<ウェイク・スピード><ウェイク・パワー>!」


 タマコが飛び出していく直前になんとか二つ強化魔法をかけておいた。

あいつ素手なんですけどなんであんなやる気なの?


「たあーとおー!」


 掛け声は適当だがタマコの動きは無茶苦茶だった。

飛び蹴りを食らわしたかと思うとその反動で思い切り横に飛ぶ、さらに飛んだ先で木に足をついたかと思うとまた反動で飛んでいる。

タマコは地面に足をつけることなく、木々の間を飛び回っていた。

蹴られた奴はありゃどっか折れてるな…頭が地面にめり込んでるやつもいるし…

強化魔法かけたらあんななんの?


「…あの、ヴォルさん、タマコが消えたのですが」


 どうやらアイラには目視できていないようだった。

すごい速さでその辺飛び回っていることを伝える。


「ヴォルさんの魔法ってそこまでのことになるんですか」

「あー…まあ人によるけど、アイラはそういえば見たことなかったか」

「だって私はダンジョンにも連れて行ってもらえませんでしたから」


 少しむくれているアイラ、すねてる?


「ま、まあ進んで危ないところに行く必要はないだろ?」

「それはそうですけど…」

「ねえ二人とも!まだ来てるんだけど!?」


 ディーナの声でさっと前の方に移動する、前方から数名うさ耳男が武器を手に近づいてくる。

それをアイラがすかさず<イロウション>で薙ぎ払おうとした。


「避けられた!?」


 なんとそいつらはピョンと跳躍して木の上に飛び乗り闇の手を避けた。

兎っぽいだけあって魔法なしにあの跳躍力はすげえな。

アイラはムキになって闇の手を振り回すが残念ながら射程外だ。

<イロウション>は地面からしか発生させれないのである。


「このっ、ちょこまかと!」

「ちょ、待って待って、無暗に木を殴ってもダメだって、うわあこっちに倒れてきた!」


 メキメキと音を立てて倒れて来る木を<ライト・ウォール>で受け止めて別方向に倒す。

これでは自然破壊が進む一方だ。


「魔法!」

「え?」

「私も強くなる魔法かけてください!」


 いやでもアイラは近接戦闘できないから魔力強化になるけど…平気だろうか。

ぶっつけ本番でやると消費とコントロールの問題が…


「タマコばっかりひいきして!私にはないんですか!」

「すいません<ウェイク・マジック>」


 変な怒られかたしたので慌てて強化魔法をかけた。


「これは…力がみなぎって…あれ、この感じ、以前にもあったような…?」

「アイラちゃん前!前!」

「ふふ、あはははは、<イロウション>!!」


 ねぇなんで笑ったの今?怖いよ?

アイラが改めて<イロウション>を使うと先ほどより大きな二本の闇の手が地面から生え、ものすごい速さで二人の男を捕まえた。

そしてそのまま空の彼方へと放り投げる。

それを見ていた他のやつらは青ざめた顔をして一目散にその場から逃げて行った。


「ふふふ、なんと素晴らしい力でしょう…この圧倒的な強さ!見ましたか!?」

「あ、はい…見ました」

「どうですか!大木だってこの通りです!!」

「うん引っこ抜かなくていいよ、もう敵いないからそろそろしまったらどうかな」

「そうでした!敵!敵はどこです!待ちなさい!!」


 やべえ…変なスイッチ入ってる…もうアイラの情操教育に関しては無理かもしれん…


「はははは…は…あれ…うう…」

「あれっ、どうしたアイラ?」


 アイラが突如苦しみだした、魔力使い過ぎか?


「うおっ!?ちょなんで!?俺だよ!?」


 闇の手がくるりと反転していきなり俺のことを両手で捕まえる。


「ぐあああなんつう力だ…」

「アイラちゃん何してるの!?」

「わ、私じゃ…ない…勝手に…」


 勝手に動いてるのか?アイラの意志とは無関係に?

アイラはその場に膝をついて苦しそうにしながらも片手を伸ばし<イロウション>をコントロールしようとしていた。

ディーナが急いで魔動車から降りてアイラに駆け寄る。


 俺はまあ、握りつぶされるわけにもいかないので


「<ディスペル…」


 魔法を打ち消す魔法<ディスペル・オーラ>で<イロウション>に対抗しようとする。

すると闇の手は、それをまるで察知したように俺からバッと離れた。

アイラを見る、操作した様子はない、というか顔を下に向けてぜぇはぁ言っててそれどころではない。


 離れていった闇の手は、その手のひらを地面にバンと叩きつけた。

何してんだ?


 そのままぐぐぐっと、まるで人が穴から這い出る時のように肘を曲げ、力を入れている。

一体何が…と思いつつ見てると、ぼこっ、と地面が盛り上がった。


「え?そういう仕様なの?」


 出てきたのは黒い…たぶん頭。

目とか鼻とかついてないただ黒い塊なのでそれだけだと頭とは言い難いが、その下に首と思われる部分、両肩と続いて出てきたのでたぶん頭で間違いない。


 あのアイラさん…<イロウション>の中の人?出ちゃってますけど…


 <イロウション>の中の人?と思われる存在はそのまま上半身を地面から出そうとさらに両手に力を入れている様に見えた。

なんかやばいかもしれない。


「とうっ」


 本能的にこれ全部出したらたぶんいいことにはならないと感じた俺は<ディスペル・オーラ>をまとってそのままそれの頭に飛びかかった。


 黒い人?は一瞬嫌がるように両手を眼前に持ってきて顔を覆ったが、特に意味はなく俺の体当たりによってバシュンと消えた。

手も頭も、全部消えた。

地面にはそいつが出てきた箇所に深い穴だけが残されていた。


「なんだったんだ今の…」


 ほわオンの<イロウション>にこんな効果はなかった、手が生えるだけだ。

それは強化魔法をかけて使っても同じ、威力が上昇するだけ。

中の人らしき存在がいるなど聞いたことが無い。


 アイラにはもう<イロウション>を使わせない方がいいのかもしれない。

俺はそんなことを思いながら、疲れた様子のアイラを魔動車へと乗せた。


 ちなみにマーくんとタマコの暴力にさらされた兎人族はいつの間にか全員逃げ出していなくなっていた。

俺たちが去ったその場に残されたのは、インセクトホースと兎人族の男たちの死体だけだった。

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