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猫と涙とミンチ

主人公の旅、再開です

 狐人族の村を出てから三日が経過した。

俺たちはヤナギから教えられた方角と目印を目指して進んでいる。

順調かと言われたら微妙なところだ、本当にタマコの故郷へ向かって進んでいるのかどうかわからない。


 だってここもうあれだぞ?出口のないサファリパークみたいなもんだよ?

進もうと思ったルートにバッファローみたいな魔物の群れがいてそれを避けるために迂回したり、夜中にものすごいクラクションの音で叩き起こされたと思ったらハイエナの群れが近づいて来てたりする。

だから順調に進めないのは当たり前。


 でも俺に一切の責任はないよ、なぜなら俺は狐人族の村出てから今まで運転してないんだもの。

代わりにディーナが運転している。


 特に深い理由はないんだが、村を出る予定の日に俺は大切なことを思い出して、皆とこんな会話をした。


「大変なことに気づいた…気づいてしまった…出発は取りやめだ」

「もう借りてた場所も全部片づけて出発する準備終わってるんですよ、なんなんですか」

「竹林があるのにタケノコを探すの忘れていた、それに結局タコも食べてない」


 割と重要なことだと思ったんだが俺の話を聞いていたアイラの反応はいまひとつだった。


「それって料理の話ですか?」

「ああ、タコは知ってるだろ、なぜかランだけが釣ることのできる海の触手生物な、タケノコのほうは竹の成長前の土に埋まってる状態の物のことだ、両方とも食べられるのに一度も調理していない」

 

 ちくわに専念しすぎて他のことがおろそかになってしまった。

この二つの食材の調理法を狐人族に伝えないまま、旅立っていいものだろうか。


「とりあえず助手席に乗って下さい」

「なぜ?」

「ディーナさんに運転してもらいますので」


 俺はせめてどちらかだけでも料理させてくれと申し出たのだが聞き入れてはもらえず、助手席に押し込まれ、そのまま出発となってしまった。


「ヴォルさん料理のことになるとたまにおかしくなりますよね」


 おかしくなる、だと…?

全然そんな意識はなかったが、マーくんとディーナもアイラの意見に同調し、賛成多数により俺がこれ以上おかしくなる前にさっさと旅立つべきだと判決が下った。

タマコに「美味しいもの食べたいよな?」と聞いて俺に一票いれさせる工作までしたのに無意味だった。


 まあそんなわけでディーナの運転で進み、現在に至る。


「マーくんが止まったわ、今日はこの辺で野営かしら」


 ディーナを先導していたマーくんが漆黒号を止めたので一旦車を降りる。

まだ野営には早い時間だが、休憩かな。


「向こうに見えるひときわ大きい山が周囲の地形からヤナギの言っていた物と一致する、タマコは見覚えあるか」

「あ!たぶん知ってる!高いところ行けば、女神様のいる木が見えると思う!」


 休憩ではなく目的地が近づいて来たので相談だったようだ、まあ結局少し休憩したけど。

ようやくタマコも思い出せる場所にきたのかと思うと迷ってなくてよかったと一安心できた。


 休憩後は俺が運転を代わった、ディーナはさすがに運転を続けて疲れてるだろうからな。

マーくんは漆黒号に乗れば乗るほど元気になるので知らん、気遣い無用。


 なだらかな丘をのぼって山に近づき、そこから一度タマコに方角を確認させるため、魔動車を置いて徒歩で山を少し登った。


「うわあ…すごいところまできたわね…」


 眼下に広がる景色にディーナが感嘆の声を上げる、確かにすごい。

そこにはテレビで見たことしかないような広大な森が広がっていた。

ここはアマゾンかよと言いたくなる。


「あれあれ、あれが女神様のいるところ!」


 タマコが指をさす先には森の中にどーんと三角の山があった。


「あの山にいるのか、土の女神様とやらが」

「あれ山じゃないよ、木だよ」


 マジかよ、山かと思っていたのはどうやら一本の木らしい。

サイズおかしいだろ、あの木なんの木気になる木ってレベルじゃねえぞ。


「タマコの村はどの辺りですか?」

「んーと、たぶんあっち」


 と言われて見ても上からではぶっちゃけわからない、緑一色なんだよな…

あとこれ、魔動車が通れる道あるかな。


「大丈夫、馬車が通れるように道作ってある、ティアナも通れる」


 ああさすがにそれくらいはしてんのね、そか、でなきゃ商人も来れないか。


 タマコの故郷である猫人族の村のおおまかな位置を確認した後は、山を下りて野営の準備に取り掛かる。

今日はこれ以上進まない方がいいとマーくんが決めた。

あんなジャングルみたいなところで夜を迎えるのは嫌だから当然だな。


 皆がテント建てたり、薪拾ったりしているうちに俺は夕飯の支度だ。

青鉄庫の中から肉の塊を取り出す、作業台は<ストーンピラー>で出した。

狐人族の村で、高さを調整して使うことに気づいてから今では完全に簡易テーブルとしてその地位を築く魔法となった。

野営のたびに出してるので村に作ったやつは今頃消えてるだろう、消えるってヤナギたちに説明するの忘れたけどまあ別にいいよね、たんなる石だし。


 石テーブルに置かれた肉は、先日殺した鹿のような魔物の肉だ。

ドリルみたいな角が頭から一本生えていた、それだとユニコーンとも言えなくもないが顔と色と体格は鹿に似ていた。

名前は相変わらずわからない、タマコ曰く「おいしい系の肉」。

食材としてしか見られていなかったため狩られる運命となったのだ。


 いやしかしさあ大人の鹿一頭は相当な量の肉だよ。

狩ったその日に四人で食べ切れるはずもなく、残った分は可能な限り青鉄庫の中へ積み込んだ。

今日はそれをまた皆に食べてもらおう。

昨日はシンプルに焚火で串焼きにしたけど今日はリクエストがあるので別の料理だ。


 リクエストの内容はハンバーグ。

マーくんがハンバーガーが無いならせめてハンバーグというのでそうなった。

昨日寝言で「ックク…聖女ミーナよ、ハンバーガーを無限に生み出すその力、我のために役立ててもらうぞ」と壮大な設定を感じさせる発言をしていたのでハンバーガー欠乏症による症状が間違いなく出始めていると思われる。

ていうか心の中でミーナさんを何だと思ってるんだマーくんは。

マ〇クの店員か?他の物も注文してあげてください、スマイルとか。


 石テーブルの上で肉を細かく切る、ミンチ作るの手間だわー。

またこれやっぱ石ですり潰そうかな…


「肉だ!手伝うよ!」


 石を探してこようと思ったら意外なところから手助けの声が上がった。

なんとタマコだ、こいつ…今まで食べることしか興味なかったのに…

手伝うなんて言い出すとは…


「…まだ生だぞ?」


 食べるのを手伝う、という意味かとも思ったのでそう聞いておいた。


「知ってる、何作る?ちくわみたいなことしてるから肉のちくわ?」


 ほ、ほんとうに料理を手伝う気なのか?


「ああまあ…似たようなもんだけど」

「じゃああたしがごりごりしてあげるよ!」


 にかっ、と笑い宣言するタマコ、目頭が熱くなるな。

くうっ、いかんいかん、最近涙腺が緩くなってる気がする。


「じゃあそれはタマコに任せよう」

「うん!」


 俺は肉をミンチにする作業を任せ、一度その場を離れた。


 タマコ…成長したんだな。

そういえばいつの間にか自分の名前もひらがなで書けるようになってたよな。

車内にいるとき暇だからって、アイラが教えてたのあれ、ちゃんと意味あったんだな。

まだ「たまこ」と「にく」しか書けないけど、お前ならきっといつか全部書けるようになるさ。


 タマコのお父さん、お母さん、タマコは立派になって帰ってきましたよ。

ただ肉を焼いて食うだけの原人から確実に進化を遂げています。

いずれはプリティウーマンのように社交界にドレスを着てデビューも可能かもしれません。

これからも暖かい目でどうぞ見守ってやって…


 いやなんで俺はご両親への挨拶を考えているんだ。

プリティウーマン通じねえだろ。

それより俺も別の料理に取り掛からないと。


 感動はさておき、俺は野菜などを取り出して調理にとりかかった。


………


「ヴォルるん、あの、タマちゃんが料理してるんだけど…」


 マーくんのとってきた果物を使ってフルーツソースを作っているところにディーナが来た。


「知ってるよ、あいつが自分から手伝うって言いだしたんだ」


 だから何もおかしいことじゃない。

それより俺はスープをヴィシソワーズにするかコンソメ風にするか悩んでて忙しいんだ。

他にも野菜とフルーツをテリーヌにして見た目にも美しい料理にしあげなきゃいけない。


「野営なのに本格的な料理を作りすぎじゃない?」


 黙々と作業をする俺の様子を見てつっこみをいれてくるディーナ。

今日はめでたい日なんだ、これくらいしてもいいはずだ。


「美味しいもの食べれるなら私はいいけど…それよりタマちゃんよ」

「だからタマコはハンバーグ用の肉を潰してるんだろ?」


 ひょいとタマコのほうを見る、一所懸命やってる。

俺が火を使うから少し離れた場所でやらせてるんだ。


「そうなんだけど、タマちゃんが肉を潰すのに使ってる石、あれ通信クリスタルに見えるんだけど…」

「嘘やろ」


 俺はばね仕掛けのオモチャのようにそこからタマコの元へ飛び込んだ。


「タマコオオオオオオオオオオ!」


 マジで通信クリスタル使ってごりごりやってるうううううううう!


「なんだ?もういい?」

「それっ、その石っ、手に持ってるやつどうしたっ」

「中にあったよ」


 魔動車の中にあったのを持ってきた様子。

もう確実に通信クリスタルだった。

慌てて俺はタマコからそれを取り上げる。


「馬鹿!お前ホント馬鹿だな!何やってんだ!これどうした!俺の荷物から勝手に出したのか!?」

「え…」


 俺に怒鳴られたタマコはキョトンとした後、表情をゆがめて…なんと泣き出した。


「うう、うううう」

「あっ、いや、あの」


 泣くの!?言い過ぎたかなとは思ったけどまさか泣くとは。

タマコが泣くなんて初めてのことだ。

焦る、いやでもここはちゃんと言わなくては。


「あのなタマコ、急に怒って悪かったけど、これは俺の大事な物なんだよ、どうして勝手に持ってきたんだ?」

「ヴォルガーが…うー、座ってたとこに、落ちてたからっ」


 袋から出てたのか…やべえこれはもう怒りづらい。


「どうしたんですか?」

「お前が怒るなんて珍しいな」


 俺の怒鳴り声を聞いてアイラとマーくんもやってきた。

二人に肉と脂でギトギトになった通信クリスタルを見せ、今あったことを説明する。


「…ちゃんと教えておくべきでしたね」

「まあ…そうだな、我は知らんぞ、なんとかしておけ」


 涙と鼻水をたらすタマコの顔を見て、マーくんは関わるのが面倒だと判断したのか逃げて行った。

ディーナとアイラは俺とタマコのことを見守っている。


「ただの石なのに…うううう」


 や、やっぱ自分が怒られた原因をちゃんと分からせねばだめか。

石だと思って使っただけなのになんでこんなに怒られるの?とタマコは思っているんだろう。


「石に見えるけどな実はこれ遠くの人と話ができる石なんだよ」

「嘘だ、石がしゃべるわけない」


 いやうん、普通に考えたらな、そうだけどな。


「ヴォルるんこれ、とりあえず洗ったほうがいいんじゃないかしら」


 ディーナが水をためてるタンクを持ってきてくれた。

俺は水を出して流しながら石をごしごし洗いつつ、タマコにまた話しかける。


「嘘じゃないんだ、これな?手に持って、ある言葉を言うと遠くで同じような石を持ってる人と話せるようになるんだよ」

「石は石だ!」

「そうなんだけど!石だけど!喋れるんだよ!」

「あたしは馬鹿だけど、石は喋れないことくらい知ってる!そこまで馬鹿じゃない!」

「馬鹿にしてるわけじゃなくてな、だからこう手に持って<コール>って言うとだな」

「嘘ばっか!馬鹿にするな!」

「本当だよ、信じてくれ!」

「あほー!ヴォルガーのあほ!嘘つき!」


 あーもうめんどくせえな!

脂もなかなか落ちねえしちくしょう。

洗剤が欲しい!


『さっきから耳元でジャブジャブごしごしうるさああああい!!』


 あっ、つながってた。

うっかり<コール>って言ったせいで。


「しゃべった」

「な?ほら、嘘じゃないだろ」

「うん」


 タマコもびっくりして泣き止んでいた。

ふうやれやれ、めでたしめでたし。


『何なのだこの音は!?ええい、気持ち悪い!』


 はい、では後はこの声が誰かということだけですね。

ラルフォイじゃないですね。


「えー…おかけになった番号は現在つかわれて…」

『この不愉快な声、ヴォルガーだな?』


 うすうす感づいてはいたけどその不機嫌な声で誰か確信しちゃった。

イルザだこれ…また神につながってしまった…

そしておかけしたのは俺だ…怒られる予感。


『貴様…またアイラの傍でアレを使ったな、それとこの音はなんだ、今すぐやめろ』

「すいませんちょっと通信クリスタルを水で洗ってる音なんで…もう少しかかります」

『なに?こっちは聞き取りづらいんだ!何て言ってるかわからん!』


 仕方ないので水洗いをやめた、まだべとつく。


『妙な音が消えたな、何をしていた』

「クリスタルを水洗いしてました」

『ほう…で?その音をわざわざ私に聞かせたのはなんのためだ?嫌がらせか?』

「いや事故です、偶然つながっちゃったというか」

『ようしわかった、今後またこのようなことがあってはたまらん、そんな事故が起きないようにしてやろう』


 おっ、なんだよ、不具合直してくれるのか?

できるなら前あったときやっといてくれよもう。

融通の効かねえサポートセンターだな。


『今お前の周りにアイラがいるか』

「はい、後二人別の人もいますけど」

『ならクリスタルを持って離れろ』


 修理方法があまり聞かせられないような内容なのか?

良く分からないがイルザの指示に従って俺は三人から離れた。


「離れました」

『よし、じゃあしっかり持ってろ、はあああああ!」


 え?なんなの?神様パワー的なものを送ろうとしてる?


『離すな?絶対に離すなよ?絶対だぞ、はああああああああ!」


 …フリか?なんか猛烈に嫌な予感がする。

俺は咄嗟に通信クリスタルをポイっと投げ捨てた。


 ボン!!


 爆発した。


「…あ、あのクソ女神…ふざけんなよ…」


 通信クリスタルを投げ捨てた場所がちょっとえぐれている。

おいこれ、あのまま持ってたらただじゃすまねえ威力だよな?


 そして、当然ながら爆発後の地面には通信クリスタルは残されていなかった。

辺りに白い破片は散乱していたので砕け散ったとみて間違いなし、ミンチよりひでえや。

確かにこれなら二度と間違い電話は起こらない。

ただそんなことよりも。


「コムラードに帰ったときどうすりゃいいんだ…弁償…できるか…?」


 女神に爆破されたので支払いの請求は女神にお願いします。


 果たしてこの言い訳がラルフォイに通じるかどうか…


 たぶん通じないよなと心の中で既に答えを出した俺は、いつかイルザの上司である創造神のジジイにクレームを入れることを固く誓った。

そんでイルザはもう女神クビにしてもらおう。

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