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アバランシュの狂気4

言い忘れましたが前回に続き、コムラード在住ラルフォイさんの視点でお送りします。

 僕が部屋で書類仕事をしていると乱暴に扉を開けて…もう慣れました。


「なああれだよな!この前した話よく考えたらあれアタシの親父も魔王教…」

「おい、迂闊なことを言うな」


 今日は最初から姿を見せていたディムがナインスの口を手で塞いで黙らせました。

扉も開けっ放しで大声で言うものですからさすがに僕も焦りましたよ。


「ぶはーっ、なにしやがる!」

「他の者に聞こえたらどうする」

「…あ、そうか、わりぃ」


 さて部屋の扉もきちんと閉め、ソファーに腰を下ろしてようやく落ち着いたナインスが、一体何を慌てて来たのかと言えば、以前話したホムンクルスと魔王教の関係から自分の父親も魔王教だったのではないかと数日あけて今更思い当って僕の元へ訪ねてきたようです。


「知りませんよ」


 これが僕のナインスの問いに対する答えです。

いや事実ナインスの父親が何を考えていたのかなど僕には知りえません。

その頃は王都にいたんですから。

 

「あーっ、どうすりゃいいんだぁ!」


 ナインスは頭を抱えて悩んでいます、正直面倒です。

ちなみにナインスはホムンクルスのことを最初は人の治療のために作っていると思い込んでいましたが、その後それは不老不死の研究だと偽の情報を掴まされ、父親を討つ決意をし、行動をおこしてしまっています。

不老不死の研究という名目は、ナインスの父親が魔王教とのつながりを隠すために用意しておいた偽りの理由でほぼ間違いないでしょう。


 今までそう信じて、父親の非道を決死の思いで止めたと言うのに、ここに来て魔王教のことを知らされ、もうなにがなんだかわからなくなったようですね。


 父親の犯罪が不老不死の研究のため、というものから怪しい宗教に加担していた、と変わったところでもう過去のことですし、悩んだところでどうしようもないと思うのですが本人はそういう風に割り切れないようです。


「まあなんにせよ…ナインスさんは実の父を討ってまでその行いを止めたではないですか、その結果助かった人たちもいます、亡き父の罪について悩む暇があったら街の清掃でもして下さいよ、スラムの住居建設は一通り終わりましたけど、それでやることがなくなったわけじゃないんですから」

「お前本当あれだよな、ずけずけと物を言うっていうか…絶対女に好かれねえ感じの男だよな」

「ナインスさんももう少し女らしくしてはどうですか?元令嬢どころか生まれついての盗賊にしか見えませんよ」

「殺すぞ?」


 ほらそういうとこですよ、なんですか殺すぞって。

伯爵令嬢がまず一生言う事の無い台詞ですよ。


「ところで俺の報告はどうする?続けてもいいのか?」


 おっと、そうでした、ディムから話を聞こうとした矢先、ナインスが飛び込んできたせいで話が中断されたんでした。


「あーそういや今日は何の話してんだ?」

「当然のように一緒に聞こうとしますね…まあヴォルガーさんのこともありますから聞いてもらっても構いませんが」

「そうか、ディムはそれ調べに行ってたのか」

「他の件もあるがな」


 他の件は後にして僕はまずはヴォルガーに関する情報から聞くことにしました。


「ヴォルガーたちはやはりマグノリアに行ったらしい、確認がとれた」


 ディムにはまたオーキッドまでひとっとびして、ヴォルガーの行方を調べて来てもらったのですが、どうやら嫌な予想があたってしまったようです。

なんでも、向こうで知り合った獣人族の子を故郷の村へ送るため共にマグノリアへ旅立ったのだとか。


「シンタロウもマグノリアに向かって旅立っちまったし、案外向こうでばったり会ってたりしてんのかな」


 どうでしょうね…マグノリアの情報はリンデン王国にはほとんど入ってこないので、あの国の内情が今どうなってるのかはさっぱりわかりません。


「今ヴォルガーがマグノリアのどの辺りにいるかは不明だ、ただオーキッドの技術局で聞いた情報によれば、マグノリアを横断してサイプラスを経由し、コムラードへ帰ると言っていたそうだ」

「魔動車があるからって思い切ったことをしますね…」

「なるほどな、魔動車か、何を考えたらそんな狂った考えになるんだって思ってたがあれがありゃかなりの速さで進めるもんな」


 とにかくヴォルガーとはしばらく連絡がとれないと見てよさそうです。


「それと別件でロリエが連れ帰った獣人族のことも多少わかった」

「誰だロリエって?」

「イルザ教の司祭ですよ、アバランシュの件でオーキッド側にいたドワーフ族の女性です」


 どちらかというとこちらが本題の情報です。

ブラウン公爵の屋敷で見つかった唯一の生存者。

リディオン男爵が発見して保護した獣人族の女性ですが、まともに会話ができるような精神状態ではなく、詳しい事情が聴けませんでした。

とにかく人族に対し恐怖していたので、ドワーフ族でイルザ教の司祭ロリエに身柄を預けたのです。


「ネッツィ子爵が話を聞きに行ったときは結局よくわからなかったんですよね」

「その時は狐人族の女性で、元はマグノリアの住人だという事くらいしかロリエからは伝えられなかった、屋敷のことを聞こうとすると叫び出して手に負えなくなるらしくてな」

「…ひでえよな、あそこにいたってことは、死体をずっと見続けてたってことだもんな、そりゃおかしくもなるか…」


 その狐人族の女は結局そのままオーキッドへ行きました。

アバランシュから遠ざけて静養させなければならないと判断されたのです。


「俺が行ったころにはようやく世話をしていたロリエだけには多少話ができるようになっていた、それでわかったんだが、彼女は目の能力があったおかげで生かされていたようだ」


 そこからディムは狐人族の持つ特殊な目について僕たちに話しました。

そしてそれがあの場でどういう意味を持っていたのかも。


「えーっと…つまりその女は、攫われて来た人たちの中から、魔力が多いやつを見分けさせられてた、ってことか」

「ああ、そうして選ばれた特別な者たちは、ある一体のホムンクルスを作る材料にされていた、それは見つかった四体とは別物だ、あの四体は余った者を材料にして作られていたらしい」

「ディムさん、その言い方だと、あの屋敷には五体のホムンクルスがいたように聞こえるんですが?」

「そういうことになる」


 屋敷では四体しか見つかっておらず、他の場所で新たに見つかったという報告もありません。


「最後の一体はどこへ消えたんです?」

「…ここから先は正直、聞いた俺も真実とは思えない」

「いやなんだよ、へ、変なこと言うなよ?」


 僕は渋るディムの反応を見て、むしろこれ以上聞きたくないなと思ったのですが…


「…動き出し、屋敷にいた者たちを魔法で魔物に変えたり、魔力を食らいつくして殺したり…しながら屋敷を出て行った、そうだぞ」


 …はてさて、なんと言っていいものやら。

部屋のなかを嫌な沈黙が支配します。

なんですか魔法で魔物に変えるって、

なんですか魔力をくらいつくすって。


「はあ、ではもう要点と思われる部分だけ聞きましょう、ディムはこれまで魔王が復活したという話を聞いたことはありますか?」

「無い」

「その狐人族の女が嘘をついている、または錯乱したままありえないことを信じ込んでいるという可能性はありますか?」

「俺はその女に会ってはいないので判断できん、しかし、嘘とは言えない証拠が既に見つかってしまっている」

「…リディオン男爵が見つけたというメイド服を着たラミア、上等な服を着ていたゴブリンですね、元々人だった者が魔法で変えられたなら、服を着ていてもおかしくはないですが…」

「それにブラウン公爵と地下以外で見つかった他数名だが、魔力を奪い尽くされて死んだなら死因がよく分からないのにも納得がいく、普通は魔法などを使って魔力を消費すると眠くなり死ぬのを本能的に避けようとするため魔力が枯渇して死ぬ現象は起きない、しかし他者に奪われたなら別だ、狐人族の女は魔力の流れが見えるため死因に気づいたんだろう」


 そして怖くなり、隠れていたため運よく見つからずに生き残れたわけですか、辻褄はあいますね。


「あ、あのさ、よくわかんねえんだけど魔王、復活した…ってことか?」


 考え込む僕とディムに向かってナインスがおそるおそる声を上げました。

良く分かってるじゃないですか。

僕もまさかとは思いますが。


「なんて、はは、何百年もできてねえのに、まさか、なあ?冗談だろ?」

「残念だがもう一つ良くない知らせがある」

「あ、僕少し用事を思い出したので後はナインスさん聞いておいてください」

「馬鹿ふざけんな!ここまで来て一人で逃げる気かよ!?」


 離してください、僕は忙しいんです。


「二人目らしいぞ、魔王」


 ほらもう!グズグズしてるからディムが唐突に一番聞きたくないような意味不明なことを先に言っちゃったじゃないですか!


「これまで活発に活動してこなかった魔王教が、ここに来て急に動きを見せたのは既に魔王が一人復活したという噂を聞いてのことだ、狐人族の女は屋敷の住人が『二人目の魔王様は必ず我々がお迎えするのだ』なんてことを言ってるのを聞いたらしい」

「僕はそんな噂知りませんよ!?どこの馬鹿です!そんな噂を流すのは!」

「アタシも知らねえ!神隠しの森にあったやつは全部焼いたし絶対アタシは関係…あ」

「あってなんです!?まだ何か隠してるんですか!?」

「い、いやなんでもねえよ…アタシの勘違い、気のせいだよ」


 あからさまに挙動不審な動きをするナインス。

黙って立ち上がろうとしたところをディムに両肩を掴まれ、再びソファーに座らされています。

これ帰る気でしたね、僕には逃げるなと言っておきながら。


「何を知っている」

「大した事じゃねえよ、その、前にヴォルガーと話したことを思い出しただけだ」

「ナインスさん、もう観念してください、ディムさんに拷問されたくはないでしょう」

「…わーったよ!言うよ!だ、だから肩から手を離してくれ、な?」


 ディムが前に魔王教の者を拷問したと聞いてるナインスは冗談とは思えなかったのでしょう。

僕は冗談のつもりで言いましたが、ナインスはあっさり吐きました。


「アイツはホムンクルスのことを知ってたみたいだから相談したことがあるんだよ、その…館にあったホムンクルスが一体いつの間にかいなくなってたんで…」

「いつの話だ?いつから消えた?」

「わかんねえよ!アタシが親父を殺して、あそこへ逃げ込んだ時にはもう無かったんだ、前に見たのはもっと前の、子供の頃に腕を治した時に館へ行ったときだったんだよ」


 頭痛がしました、なぜそんな大事なことをいままで…ああ魔王のことなんかナインスたちは知らなかったんでしたね!!


「どうやらそのことを魔王教のやつらは知ってたみたいですね、それで本格的にアバランシュで行動を開始したということですか」

「…しかし仮に一人目の魔王が復活していたとして、それはどこに行ったんだ?魔王と言う割に何の情報も入ってこないのは不自然だ」

「そうですね…『二人目は我々がお迎えする』とブラウン公爵の屋敷にいた者が言っていたということは一人目の所在は魔王教も掴んでないということです、一人目は誰に知られず、ひっそり消えて魔王という正体を隠してどこかにいるということでしょうか」


 出来れば、復活したけれどそのまま貧血か何かでひっそり死んでくれていたら有難いのですが。


「ヴォルガーは何か言ってたか?」

「ええ?いやぁ別に…なんでホムンクルスのこと知ってんのかなとは思ったけど」

「なんでもいい、思い出してくれ」


 ディムに言われナインスは腕を組んで考え込みました。


「そういや…ホムンクルスが消えた理由を聞いた時…アイツは幽霊が中に入って動かしたんじゃないかとか言ってたな…」

「ユウレイというのはなんだ?」

「アンデッド系の魔物のことだと思う、アイツなんかそういう怖え話をしやがるんだよ、死んだ女の魂が夜な夜な皿の枚数を数える幽霊になるとか言ってよ」

「皿を数えるってなんなんですか」

「なんかそういう話があんだよ!怖いから思い出したくねえんだ!」


 皿の枚数を数えるアンデッドの意味が良くわかりませんが…ともかく、魂がどうとかって話をしたということはヴォルガーはホムンクルスの本来の利用方法について知ってたということになりますね。

ますますあの男のことがわからなくなってきました。


「ヴォルガーに会って話を聞く用事が増えたな」

「まったくあの人は…なんでこういう時にマグノリアなんかに…」

「悪いが通信クリスタルをまた試してくれないか?できるだけ早めに会いたい」


 反応があるかわかりませんが、ディムの意見に賛成なので僕はまた通信クリスタルを持ってきました。


「今日反応が無くてもとりあえずこれからは毎日何度か試してみましょう」

「そうしてくれると助かる」

「なんならアタシが持っといて代わりにしてやろうか?」

「いやだめですよ、これ高価なんですから、ギルドの資産です」


 と、言いつつ実はこれほとんどタダで手に入れたものなんですよね。

ヴォルガーたちが討伐したタイラントバジリスクの体内にあったものですから。

討伐参加者にそれ相応の金貨に替えて渡す案もあったんですけど、ヴォルガーが行方不明になったりするものですから、皆で相談した結果、彼との連絡用にすると決まりました。

ヴォルガーはこのことを知りません、だってタダだとわかったら雑に扱いそうですからねあの人。


「さて…今日はつながりますかね…<コール>」


 わずかな希望を込めて通信クリスタルに呼びかけます。


 しかし結果は…無反応、やはり遠すぎるようです。


「向こうがこのことに気づいてできるだけ南に近づいてくれればいいのですが」

「近づくか…なるほど、そうだな、ラルフォイの言葉でいい案を思いついた、俺がそれを持ってリンデンの北部に行く、そうすれば反応があるかもしれん」

「お、いいじゃねえかそれ、ディムは空飛べるんだろ?普通に歩いてくより遥かに早いんじゃねえか?」


 それは名案です、ディムになら安心して通信クリスタルを預けられます、早速その手で行きましょう。


「ではこれはディムさんに…」


 僕は通信クリスタルをディムに手渡そうとしました。


 ビシッ。


 バッキーーン。


「…割れたぞ?」

「割れましたね」

「割れたな」


 ………え?


「ラルフォイお前…壊した?」

「いやいやいや待ってください、二人とも見てたでしょう?僕は何もしてませんよ!ただディムさんに渡そうとしただけです!」

「つまりこれは…向こうに何かあったということだな」


 …ああ、そういうことになるんですかね。


「アイツ本当に何やってんだ」


 僕は頭痛が酷くなってきたので「帰って寝ます」と二人に言い、部屋を出ました。


 今度は誰にも止められませんでした。

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