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ハートフル魔物ファンタジー

こんなにちくわって単語書いたの生まれて初めてだよ

 こんなの聞いてないっすよ~。

上空を旋回するハーピーが次々に急降下してきては俺に体当たりをかましてくる。


「うわーと言いつつ俺は冷静に<ディバイン・オーラ>」


 魔法によってその攻撃は防げているのだが、上のハーピーたちに警戒をしていると地上にいるやつらが見えない何かを飛ばしてくる。

風魔法だと思うのだがゲームと違ってエフェクトがないのでよくわからない、派手なエフェクトつけとけよ!避けれねえだろ!!


 まあ当たっても輪ゴムが飛んできてペチッと当たる程度のダメージなんだが、例え輪ゴムであっても顔に当てられると痛っとなって目を背けてしまう。

その隙に飛んでるやつらが急降下特攻、一人相手に連携すんなよぉ!


 なんとかここから逃げ出さないと…

左右と背後は崖なので逃げられない、残されたのは前方の海。

俺の走ってきた方角から考えて、ここから東に行けば普段釣りをしている海岸に着くはず。

問題は東側の崖が海に突き出ているせいで、それを超えるために海に入ってある程度泳がなければならないということだ。


 そうはさせんよと言わんばかりに正面に立ちふさがるハーピー数匹。

こいつらどいてくれ「ペチッ」ねえかな…やめろ!顔はちょっと痛いんだよ!


 反撃に<ライトボール>をはなつ、威力はないけどこれで驚いて道をあけてくれれば…


 パヒュン。


 ハーピーに当たる前に消えた、風魔法で相殺されたっぽい。

しかもその様子から俺の攻撃はゴミカスとバレてしまったのか「キャキャキャ!」と笑い声のようなものをあげている。

くそう…お前らだって輪ゴムみたいなもんしか飛ばせないくせに…


 まあいい、こうなったらあれを使う。


「お前らぁ!これを見ろ!」


 宣言して俺が前に突き出したのは右手に握られた二本のちくわ。

ザ・ちくわだ、それ以上でもそれ以下でもない。


 バシンッ!また一匹すげー勢いで突っ込んできて<ディバイン・オーラ>に弾かれる。

うわあびっくりした、ていうか今のやつ…俺の右手狙ってなかった?


 ちくわでもしかしたらなんとかなるかもしれん。

ただもうあまり考えてる時間がない、<ディバイン・オーラ>が切れる前に行動に出る!


「おいしいちくわだよー」


 俺はちくわを一本上空に投げた、地上のハーピーたちはそれを目で追う、目で追うだけじゃなくて飛び立てや!!

上空を旋回していた内の一匹が器用にかぎづめのついた足でちくわを空中キャッチ、それを口に運ぶという柔軟性を見せつけてくれた。


 ちくわをもぐもぐするハーピーを他のハーピーたちも見ている。


「キュキャイ」


 完食後よくわからん一声をそのハーピーがあげると、全部のハーピーが一斉に俺に突っ込んできた。

ぎゃあああ状況が悪化した!!


 <ディバイン・オーラ>の障壁があるのに殺到するハーピーたち、おしくらまんじゅうのようになっている。

血走った目をしていなければそこそこ可愛い顔のやつもいるな、これが肉食系女子か。

俺の守備範囲を超えているのでお付き合いはできない。


 全部が地上におりてきて俺に殺到したせいで、上空が開いてることに気づいた。

同時に<ディバイン・オーラ>が切れる、アカン。

急いでラストちくわを真上に投げる、ハーピーたちが目でそれを追い…今度は一斉に飛び立った。


 おらあああ今がチャンス!


「<ウェイク・スピード><ウェイク・パワー>」


 強化魔法をかけて海に飛び込む。

ちょっと寒い!この辺ってオーキッドより気温低かったからなぁ!

今はどうでもいいことだが!


 そのまま東へ向かって全力クロールで泳ぐ。

魔法で強化された肉体は服を着たままであろうがめちゃくちゃ水しぶきをあげながら海を進んでいく。

世界狙えるスピードかもしれない!


 ハーピーたちが追って来てるかどうか確認する余裕はない。

後はもうひたすら泳ぎ続けぶへえ。


 急に足を引っ張られた感じがして海中に沈む俺。

海の中を見ると、最初に釣りに行ったときに見たアザラシみたいなやつが俺の足に噛みついていた。


 ちょ、ばかおまえ、離せって、前は俺何もしてねえだろが!

魔法くらわしたのはアイラだろが!


 あの時と同じやつかどうかは俺に分かるすべはない。

海中でジタバタやってアザラシを振りほどいたんだが、俺に何の恨みがあるのかとにかくしつこい。

追いかけてきて執拗に海の中へと引きずり込もうとしてくる。


「ぶはあっ、ディバがぼぼぼ」


 ま、まずい…水の中だから魔法が使えない。

魔法名さえ言えればなんとかなるのに、その一言が言えない。

もう今後一生、海で泳ぐのはやめよう。


 はーくそ息も苦しいし、強化魔法も切れそう。

切れたら振りほどけないかもしれない…まさかここで死ぬのか俺は…


 ちょっと泣きそうな辛さを感じていると、突如後ろでザパンッッ!と海になんか突っ込んできたような音がした。


 でも海の中アザラシもどきしかいねえぞ…? 

あれ、なんかあいつ苦しんでる?


 アザラシもどきは海中に血と思われる液体をまき散らしながらのたうち回っている。

その周囲をよく見ると、空気の刃のようなものがずぼぼぼぼぼっと海底にむかって突き進んでいる。


 風魔法…か?

アザラシはあれを食らったんだ。

海面に顔を出して空を見る、そこにはハーピーが一匹羽ばたいていた。


 もしや俺という獲物の奪い合いが発生しているのでは…

村人には避けられているのに魔物からの人気急上昇中の俺、嬉しくねえ。


 ともかく今の内に全力で逃げよう。

あとクロールだと魔法つかえねえからだめだ…ここは、バタフライでいくっ!とうっ!


「ぶはっ<ディバイン・オーラ>!」

 

 ざぶん。


「ぶはっ<ウェイク・スピード>!」


 ざぶん。


 はははどうだ息継ぎのたびについでに早口で魔法を使うこの泳法!

名付けてマジカルバタフライだ!


 二匹の魔物が争ってる間に魔法によって完全強化された俺はバタフライをしながら東へ進む。

おっしゃあ上陸できそうな砂浜が見えた!たぶんあれ釣りしてる場所付近!


 急いでそこに近づき、海からあがった、はあやれやれ。

後ろを見ると、遠くでハーピーが羽ばたきながらこっちを見ていた。

あれ…あいつ、アザラシに勝ったのに追いかけてこなかったのか…?

この辺まできたら狐人族に見つかるからかな?


 まあなんでもいいや、とにかく助かったのだから。

疲れた…早く帰ろう、アイラに言われた通り大人しく寝ておけばよかったわほんと。


 ずぶ濡れで砂浜を歩いていると人影が見えた、ディーナとアイラだった。


「ヴォルるんどこいたの!?急にいなくなったから皆心配して捜してたのよ!」

「すまん、いろいろあって泳いでた」

「泳いでた!?なんで!?」

「…ディーナさん、とりあえず村に戻りましょう、ヴォルさん相当その…どうかしてるようなので」

「あ、うん…そうね、じゃあ行きましょうヴォルるん」


 なぜか二人に両側から手を繋がれた。

時折こちらに向けて来る目が気になる、その視線、俺は頭が可哀想な子だと思われてるのか?

手つないで仲良く歩くっていうか連行されてる感じ?


 やめろ、そんな目で見ないでくれ。

しかし俺の行動を第三者から見ると、休めと言われているのに朝からちくわを焼いて、寝ると言った直後、行方不明になり海で泳いでいたところを発見ということになる、なるほど、どうかしてるな。


「ところで今日は誰も釣りしてないのな」

「…あの、ちくわ作りは休むと言ってあるので…」


 ああそうか、そうだった、皆もうシロナガは練り物にしないんならどうでもいいやって扱いになってるんだったな。


「ヴォルるんの頭が治るまで私が看病するわ、だから心配しないで」


 頭ってなんだよおい、おい。

ディーナに頭の心配をされた…もう無理だ…死のう。


 俺はその後、よくわからぬまま気づけばテントの中で寝ていた。

なんか体とかをディーナに拭かれていたのをおぼろげには覚えている。

俺はショックのあまり介護が必要なおじいちゃんになってしまっていた。


………


「調子はどうだ」


 テントの中でごろごろしているとマーくんが入ってきた。


「もう大丈夫、いろいろ心配かけてごめん」


 正気は取り戻している、アイラが持ってきてくれた食事を一口食べたらあまりの不味さに目が覚めた。

気持ちは有難いが人によってはそのままショック死しかねない味だった。


 ただアイラも不味いものを作りたくて作ったわけではない。

料理をするときは自分で味見をすることを掟にしたからな。

ヤナギに言われて薬草などをふんだんにいれた結果クソまずいおかゆみたいな物体になってアイラもペロっと舐めてその不味さに気づいたが体にいいなら、と思い俺に渡して来たのだ。

でも俺は大抵のことは魔法で治せるのでもう薬草汁はいいです。 


「お前は目を離すとすぐ消えるな」

「ははは、いやーなんだろうね、不可抗力かな」


 マーくんはタマコを連れて村の外、主に海とは逆方向へ俺のことを捜しに行ってくれていたらしい。


「まあ今回はすぐ見つかったがな」


 ディーナたちが海へ捜しに来たのは知っているが、他にヤナギたちも村の中を捜してくれていたらしい。


「それにしても村人たちが協力してくれたのは我も予想外だ」


 村人たち、というのはヤナギとラン以外の村人のことだ。

なんと村の中や周囲の竹林と、村の東の方面を担当して俺のことを捜してくれたんだとか。

怖がられてたけど、嫌われてるってわけじゃなかったんだ…泣ける。


「ところで魔動車の…ティアナだったか、あれとアイラが話していたのを聞いたんだが、何かを追って竹林にいったらしいな?」

「ああ、そうなんだよ、それで結局海まで行って…」


 俺はハーピーと遭遇したことをマーくんに話した。

崖から落ちて、その後海を泳いで逃げてきたことも。


「ハーピーか、あいつらは強力な風魔法を使う上に空を飛ぶ、厄介な魔物だな」

「マーくんはハーピーを見たことあるのか」

「リンデン王国にもいるぞ、王都付近の山の中にな」


 そうなんだ、この辺にいるだけじゃないんだな。


「とりあえずもう少し寝ていろ、我は今聞いた話を他のやつらにも教えてくる」

「ああ、わかった」


 もう体は全然平気だったが、ここは口ごたえせずに寝ておくことにした。


………


「さあまた頑張ってちくわを作るぞ!!」


 翌日、俺は世話になった村人に恩を返すため朝からはりきっていた。


「元気になったのはいいけど、魚がないぞ!」


 タマコの言う通り魚がなかった、昨日は誰も釣りしてないからね。


「よしじゃあ今日は全員で釣りに」

「海でハーピーに狙われたばかりだというのに…釣りはしばらく控えた方がいいと思いますけど」


 そんな的確な意見を言わないでおくれアイラ。

魚がなければちくわは作れないんだ。


 大丈夫!マーくんも連れてくから!いいえ大丈夫じゃありません!何考えてるんですか!

といった感じで言い争いを続けていると、狐人族の青年がこちらにやってきた。

名前は知らないがちくわを貰いにきたことがある男だ。


 ディーナがちくわは今無いことを伝えたら、今日はちくわを貰いに来たんじゃなくて別の用件で来たと男は言った。


「す、すまない…たぶん、ハーピーが近くまで来たのは俺のせいなんだ…」


 初めてに俺に話しかけてくれた、しかしその内容はどういうことなの?


「アンタに渡していた卵は、俺がハーピーの巣からとってきてたんだ」


 …おーう…あれハーピーの卵だったんだ…

俺は鳥女の卵を食べていたんだ…


 男が言うには、以前はそんなに頻繁に卵をとってはきてなかったんだが、ちくわが流行りだしたのでここのところは毎日卵をとってきていたらしい、ちくわ作りに使うからな。

だからハーピーが怒って卵を捜しにきたんじゃないかと。


 でもそれだったらこいつは別に悪くはないよな。

ちくわのために取ってきてくれてたんだから。

そもそもこいつがいなきゃ作れてない。


 それでも男は結構がっくりきてて俺に謝ってきた。


「気にするなよ、むしろお礼を言いたいくらいさ、危険を冒して卵をとってきてくれてありがとうと」

「そう…か…?アンタがそれでいいなら…でもしばらく卵は取ってこれないと思う」


 そう言って男は去って行った、去り際に「はあ、ちくわ食いてえ…」と呟いていたのでよほどちくわが好きなんだと思う。


 にしても卵もうないのかー…他の卵…あったらとっくに持ってきてるよなあ。

この村じゃニワトリとか飼ってないみたいだし、ハーピーの卵が唯一の卵だったんだろうなあ。


 かまぼことさつま揚げは、卵がなくてもなんとかなるけど…ちくわが作れない。

卵白無いと微妙なんだよなあ、それになんだかんだ言ってやっぱちくわが一番人気なのだ。

ランはかまぼこ、ヤナギはさつま揚げが好きだけど。


 俺は絶望してその場に膝をついた。

再び介護が必要になりそうです。

 

「肉とってきてやるから!元気だせ…な?」


 タマコまでもがとうとう気をつかいだした。

そしてマーくんと共に肉を求めて村の外へ旅立っていく。


 魔法で出した石柱に腰かけ、空を見上げる俺。

あーああーあー…たまごたまご…卵さえあれば…


「ヴォルるん…」

「たっ…たま…たまご…?」

「ヴォルさん…」

「たまたまご?」


 自分でも何言ってるかよくわかんねえがそれくらい卵のことを考えていた。


「なんか…死んだ魚の目みたいになってるけど…大丈夫なの?」


 いつ来たのか、ランが目の前にいた。


「そうだ…ラン、頼みがある」

「なに?」

「卵をうんでくれ」

「…これはもうダメかもしれないわ」


 なんだよぉ!卵の一つくらい産んでくれたっていいだろ!?

俺を可哀想なモノを見る目で見るな!


 と、その時、背後でばさささーと聞き覚えのある音がした。

俺は10000分の1秒の速さで振りむいた。


「卵だ!」

「何言ってんの!?ハーピーよ!!」


 竹林の前にハーピーが一匹いた。


「ひえっ、あれがハーピー!?」

「ディーナさんは下がって下さい!私が魔法で」

「私も加勢するわ!」


 アイラとランが魔法を使ってハーピーを撃退しようとする。


「<イロウション>!!」

「<アイスランス>!!」


 させるかあぁああああ!

俺は<ディスペル・オーラ>をかけて二人の魔法の前に飛び出す。


 パキィィィン!

二つの魔法は跡形もなく消えた。


「ヴォルさん!?何してるんですか!?」

「どいて!そいつ殺せない!」

「よすんだ二人とも!!あのハーピーが抱えているものが何かわからないのか!」


 そう…俺は一瞬で気づいていた…ハーピーが抱える卵の存在に…


「卵様だぞ!?割れたらどうする!」

「………」

「あ、うん…」


 俺は二人に絶対に手を出すなと言って魔動車までダッシュ。

そこに置いてある青鉄庫から…昨日作って一本だけしまっておいた、正真正銘のラストちくわを取り出した。


 それを手にハーピーへ近づく。

俺にはわかる…こいつはきっと、竹林から俺のことを見ていたやつ。

ちくわを投げた時最初にキャッチして食べたやつ。

アザラシと戦って…たぶん俺を助けてくれたやつなんだ…

根拠?ない、でも顔はあのハーピーたちの中で一番可愛いからそうだと信じる。


「これだろう?お前が欲しかったのは」


 俺がちくわを差し出すとそれにかぶりついてきた、俺の手も含めてかじられたが気にしない。

ムツ〇ロウさんとかならたぶんよくあることだ。


 ハーピーはちくわを食べ終えると、卵を俺に渡してきた。

やはり、そうなんだな?

これとちくわを交換してくれと、そう言っていたんだな?

根拠?ない、フィーリングだ。


 そしてハーピーは羽ばたき、空に舞い上がるとどこかへと去って行った。


「ヴォルるん手噛まれてたけど平気なの?」

「なあにちょっと唾液でべとべとなだけさ、可愛い子だったし何ら問題ない」

「は?」

「いえあの、ハーピーはたぶんちくわが欲しいんだよ、だからここへ来たんだ」


 俺は三人にあのハーピーはちくわと卵を交換しに来ただけだと教えた。

何言ってんの?という顔で見られたが俺の手にある卵と、ハーピーが何もせずちくわだけ食べて帰ったことを考えたらもしかしてそうなのかもしれないと、三人も思い始めた。


「ハーピーは自分たちでちくわは作れない…だから襲ってこなかったのさ」


 俺は爽やかな笑顔と共にハーピーの消えて行った空を眺める。


「それはわかりましたけど可愛い子というのはどういうことですか?」

「…だから襲ってこなかったのさ」


 とりあえずもう一度爽やかな笑顔で台詞を言ってみた。


 なにが気にくわなかったのか、アイラに尻をつねられた。

この子は襲うと決めたら容赦なく襲ってくる、肉食系女子なのだ。

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