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それやめようか

今日の話完全に勢いだけ

 さて、今後料理するなら自分で味見をすることとフライパンを壁に突き刺さないことを我が家の掟に加えた翌日。

家の庭では本日、俺と共に技術局に行くメンバーが魔動車に乗り込んでいた。

助手席には久しぶりということでマーくん。

俺とティアナとの会話を聞くのは初になるが、大して驚いてなかった。

「お前の周りはうるさい女だらけなのでもはや驚かん」とやや失礼な感想をくれた。


 後部座席にはディーナ、アイラ、タマコと女三人が騒がしく乗っている。

タマコは初乗りなのでちょっと怯えている。

ディーナは頼まれていた魔物の絵が完成したのでそれの提出に、といってもピンクラビットの絵と、もう一つは魔動車に轢かれたりアイラに闇魔法で千切られたりして可哀想な死に方をしているプレインワームの二つしか無い。

見せてもらったがウサギはともかくミミズは絵が上手い分よりキモさを感じられた、思わず破り捨てたくなったほどだ。


 絵をフリュニエに渡すだけなら別に俺がもってくだけでいいんだけどなんか本人が直接渡したいらしいので連れて行くことになった。

そうなると家にアイラとタマコだけになるんだが、タマコがアイラと二人きりになることを猛烈に拒否して、じゃアイラ一人で留守番というのも可哀想だしもう面倒だから全員で行こうかという結論に達した。


「んで、ディムは本当に乗らなくていいのか?」


 俺は運転席の窓の外にいるイケメンエルフに話しかけた。


「ああ、オレはあまり人に姿を見せるわけにはいかんしな、姿を隠してついて行くからほおっておいてくれて問題ない」


 魔動車で行くから結構スピード出るのに大丈夫なんかなとも思ったが本人が普段通りにしてくれればそれでいいと言うのでほおっておくことにした。

技術局に着いても基本、身を隠しているから必要なときだけ名前を呼べば姿を見せるとも言われた。

なんかこの人あれだな、忍者っぽいな、風車でも今度持たせようか。


 そんな感じでワイワイと技術局まで行った。

道中マーくんに「ミーナさんが心配してたから連絡してあげなよ」と通信クリスタルを渡して連絡させたらラルフォイが出てきて「なんでマグナさんが」と面白いことになってしまったので「間違えました」と言って切っておいた。

とりあえずマーくんがいることがあっちのギルドに伝わったからよしとしよう。


「なぜ我が街を離れることをミーナに教えなくてはならんのだ?」

「おいおいーそりゃないよマーくん、ハンバーガー貰いまくってんのにさあ」

「ハンバーガーの代金はちゃんと渡してある、毎回半分しか受け取ってくれんが…」

「金の問題じゃないよ!あー色々と言いたいことはあるが会議室についたので一旦この話は中止、はいーそこのー後ろで騒いでる女子たちも静かにしてー」


 物珍しそうにちょろちょろ動き回るタマコとよく知らないくせに「ここは色々とあれ、あれが凄いのよねー」と解説をするディーナに「三階まで来たことないじゃないですか」と冷静なツッコミをいれているアイラの三人に静まるように伝えた。

今から入る部屋にはめちゃ怒りっぽい人がいるので気を付けなければならないのだ。


 皆が静まったところで会議室に突入した。

いや普通に入ったけどイスベルグがいると思うと気持ち的にテロ組織のアジトに突入するような気分になる、そんな経験ないけど。


「やあおはよう、あれっ…イスベルグだけ?」


 中にはイスベルグがごつい鎧を着て立っていた。

てっきりフリュニエたちもここにいると思ったんだけどまだ来てないのかな?


 イスベルグは俺たちを見て変な顔をして…まあ人数多いから驚いたのかな、説明いるよな。

 

「えーあの、まず背の高い女がメンディーナと言って…」

「馬鹿なのか?」


 説明しようと前に出たらイスベルグに胸倉を掴まれた。

なぜだ、まだ怒らせるようなことはしてないはずなのに。


「えっと、なにが?」

「何をゾロゾロと連れてきている!!」

「いやそれを今から説明しようと思って」


 イスベルグはプルプルと震えると、声を大にして言った。


「朝イチで来いと言ったのは貴様と二人だけで話したいことがあったからだ!!」


 …ああ。

そういう意味だったのか、あれか、たぶん神様関係の話をしたいってことか。

あの話をしてからダンジョン出るまで日数あったから忘れてたわ。


「それならそうと言ってくれないと…」

「ふ、フフ…まったく人をイライラさせるのが上手いヤツだ」

「お、どこかで聞いたことあるような大物っぽい台詞」

「黙ってついて来い!!」


 俺はイスベルグに引きずられるようにして部屋を出た。

とりあえず俺のことを見守る皆には「あーとりあえずその部屋でくつろいでてー」と言い残した。

皆素直に頷いていたのでたぶんイスベルグの怒りのオーラみたいなもんを察してくれたのだろう。


 イスベルグは俺を誰もいない部屋に連れて行くと「そこで少し待ってろ」と言って自分はどこかへ行った。

朝から怒りのボルテージMAXにしてしまったけどどうしようかなと考えつつ部屋の中を見ると、非常に気になるものがあったのでそれをあれこれいじくって過ごしているとイスベルグが戻ってきた。


「貴様の連れはフリュニエに任せて来た」


 ふむどうやら見ず知らずの者たちを放置するわけにもいかずフリュニエに対応をしてくれることを頼みに行ってたのか。


「これでようやく…おい、何をしている」

「コーヒーを入れている」


 俺は陶器のカップに黒い液体を注ぎながら言った。

部屋にあったのはどうみてもコーヒーメーカーらしきものだ。

傍にコーヒー豆にしか見えないものとそれを挽くための機械があったので確実にそうだと思った。

実際水瓶もあったので水いれてポチってみたらコーヒーができた。


「イスベルグもいるか?」

「いらん!ここでそんな苦い物を飲むのはロンフルモンだけかと思っていたが…」


 あ、じゃあこれロンフルモンの物なのかな、うわー欲しいなー。

異世界でコーヒー飲めると思ってなかったからなー。


「これどこに行けば売ってるんだ?」

「ロンフルモンが過去の文献を見て作った魔道具だから売ってはいないだろう」

「そうか…じゃあ直接本人に言ってもう一つ作ってもらおう、ロンフルモンどこいるかな?」

「貴様は私をどれだけ怒らせる気だ?」

「すいません、ロンフルモンは後でいいです」

 

 イスベルグの怒りが頂点に達しそうだったので大人しく椅子に座った。

うーんコーヒーが美味しい。


「それで、二人きりで話したいことってなんだ」

「わかっているだろう、フォルセ様と貴様の魔法のことだ」


 やっぱりそこかあ、しかしなんでイスベルグがフォルセにこだわるのか今一つ分からない。

そのあたりの理由を聞かせてもらった方が良さそうだな。


「話してもいいがイスベルグがなぜそれを知りたいのか理由を教えてくれ」

「…いいだろう、私にとってフォルセ様は…」


 話を一通り聞いて大体理解した。

イスベルグはフォルセから加護を授かっていて<プロヴァケイション>はフォルセの加護がもたらした魔法だと思っているらしい。

あとついでに自分の異常な体力も。


 あの犬やろうめー俺には散々だったくせにイスベルグだけひいきしやがって。

美人だからか?いやでも顔が犬なんで美的感覚が人間と一緒とは思えないな。


「貴様はフォルセ様に会ったことがあると言ったな!どんなお姿だ!当然、偉大で、厳かで素晴らしい方なのだろうな!」


 イスベルグにとってものすごーく大切な神なんだな。

なんか迂闊なこと言ったら殺されそう。


「あー…まあ、そうだよ、大体そんな感じ」

「もっとはっきり言え!!例えばどんなお顔なのだ!」

「い…」


 犬の顔だよ、と言っていいのかどうか。


「い?」

「イケメン…だよ…」

「イケメンとはなんだ?」

「格好いい男ってことだよ」

「男の神様なのか!そして格好いいのか!!」


 俺の回答に大変満足していらっしゃるようなのでこれでいいか、どうせ会うことねえだろうし。


「他には何かないのか!」

「いや俺もちょっと一回、すこーしだけ会ったことがあるだけで」

「言葉は交わしたのか?」

「え?ああまあ多少はね」

「殺したい」


 ひえっ、また急にイスベルグの殺意がみなぎってきた、なんだよもう!

地雷しかねえのかよ!!


「あっ、そうそう、法を守るための神様だとか言ってたよ!イスベルグも治安守るのが仕事だしそれで気にいって加護くれたんじゃない?ハハハハ」


 適当に気に入りそうなワードを詰め込んで精一杯頑張ってみた。

するとイスベルグは満面の笑みを浮かべて喜んでいた、うっ、可愛い。


「そうか…フォルセ様は法を司る神様なのか…」


 遠い目をしてトリップしている。

今のうちにコーヒーのお代わりでも入れようかな。


「しかし解せんのはなぜ貴様がフォルセ様の加護を授かっているのかということだ」


 トリップタイム終了、俺のドリップタイム(コーヒー)も終了、イスベルグはまた不機嫌になりつつある。


「そもそも光魔法を使うということはアイシャ様の加護を授かっているのではないのか?そうなると貴様は二つ加護を持っていることになる、そんな人物は今まで聞いたことも無い」


 土魔法も使えるといったらどうなっちゃうんだろう。

これ以上良くはならないとだけは思う。


 困ったなあ…俺が何か言うまで逃がさんぞという目でこちらを見ている。

コーヒーを飲んでいつまでも黙っているわけにもいかなそうだ。


「まあ、なんだ、世の中にはそういう人もいるんだよ、うん」

「ごまかしは効かんぞ」


 …えぇ、もう、どうすりゃいいのよ。

ほわほわオンラインをやって覚えましたとか言ったところで絶対意味わかんねえし信じねえだろ。

大体それ言ったら異世界から来たことをいわにゃならんしそうすると魔族と思われるし。


 こうなったら…いろいろでっちあげるしかない。


「仕方ない…イスベルグには真実を教えよう」


 俺はいつになく真面目な顔をして声のトーンをおとした。


「実は俺は、フォルセ様に言われてイスベルグの元へ来たのだ」

「なにっ!?貴様はイルザ様に呼ばれて来たのではないのか!!」

「それは…まあ、嘘だ。フォルセ様の名前を出すわけにはいかんので表向きそうなっているのだ」

「なっ…そうか、それで詳しい理由が秘密なまま神殿から解放されたのだな…ノワイエ様はフォルセ様の使いだから家を貸し与えて好待遇しているということか」


 …お前がそう思うんならそうなんだろう、お前の中ではな。


「もしかして…貴様、いやあなた様は、ダンジョンの異変を知ったフォルセ様がこの国のため、いや私に力を貸してくれるためにここへ来たのですか?」

「あなた様って…あ、ああうん、その通り!バレてしまっては仕方ない」


 全然違う、変な方向に行ってる気がする。


「い、今まで数々のご無礼、大変申し訳ありませんでしたああああああ」


 イスベルグが土下座した。

あのイスベルグが。

とてもいい気分になったのでもうこの方向で行くことにしよう。


「顔を上げなさい、イスベルグ」

「は、はいっ!」

「とりあえず今言ったことは決して誰にも言ってはいかんぞ」

「わかっております」

「だから他の人がいる前では今まで通りの態度でよろしく」

「そ、それは…しかし…今まで通りというわけには…」

「無理なら帰る」

「わかりました、できる限り努力いたします!」


 はーあ、必死な顔のイスベルグを見てると腹を抱えて転げまわりたいんだが我慢だ。


 いやしかし驚くほど素直に信じたなー。

これ結果的に良かったんじゃない?今後マーくんとかの加入もすんなりいくと思うしさぁ。

今ならお尻触らせてとか言ってもハイって言いそう、でもそれすると疑われる可能性はあるな、やめとこ。


「あのっ!ヴォルガー様!」

「え?な、なに?様は…いいよつけなくて」

「で、ではヴォルガー殿…折り入ってお願いがあるのです」


 お願い?なんだろ、エイトテールキマイラ討伐は決定事項だからそれ以外のことだよな。


「私に新たな魔法を教えていただけないでしょうか」

「新たな魔法?」

「はい…常日頃、鍛錬はかかしていないのですが、私は<プロヴァケイション>以外の魔法を一向に習得することができないのです」

「はあ、それで?」

「ヴォルガー…殿が使った<プロヴァケイション>は私の魔法より強力な物でした、ヴォルガー殿は私より遥かにフォルセ様の加護を使いこなしているということでしょう」


 もし俺にフォルセの加護とかあったらドブに投げ捨てたいんだが。


「どうかお願いします!私に新たな力を!教えてください!」


 おーう…そうなるか…

ここで今更無理です、とは言いづらいな。

ちょっと真剣に考えてみるか。


「イスベルグが最初に<プロヴァケイション>を使ったときのことをまず教えてくれ」

「それは…少々長くなりますが、よろしいですか」

「長いの?じゃあ一回トイレ行ってくる」


 コーヒー飲み過ぎたのでちょっとおしっこしたかった。

俺はトイレに行って、部屋に戻ってきた。

「おかえりなさいませ」というイスベルグにちょっと引いたが、またコーヒーを入れて椅子に腰かけ彼女の話を聞くことにした。


………………


………


 聞いた、なんかヘビーな内容だったんすけど。

ゴロウという獣人族との生活や、剣豪目指して修行とか、シロウという宿命のライバルとの死闘とか。

幼少期はゴミ溜めで生活してたとかその部分の話いるかな?と思ったけど大人しく聞いた。


 それでわかったのはイスベルグは俺と同じく<プロヴァケイション>を使うのに詠唱を必要としていないということだ。

やっぱり詠唱なんか最初からいらんかったんや!


 あとこいつ魔動車にはねられて平然としてたらしいのでもしかしたらその時既にある魔法を習得していた可能性がある。


 魔法というか、俺からしたらスキルになるんだけど…


 俺とイスベルグの共通点について考えてみよう。

異常な体力とか<プロヴァケイション>とか。 


 これらのことを俺の条件にあてはめるとフォルセ様の加護というのはほわオンで『盾』の特技にあてはまるのではないだろうか。


 『盾』の特技の中には<トラヴェラー><ガーディアン>という名のスキルがある。

これらは俺も習得していてそれぞれ体力、防御力と魔法防御力が上昇するという効果がある。

 

 俺はわざわざこれらのスキルというか魔法を口にだして使ったことは無い。

俺が今まで口に出して使ってきた魔法は全てアクティブスキルと言うやつだ。

それに対してこの二種はパッシブスキルと呼ばれるタイプの物で習得した時点で永続的に効果を発揮している。


 もしかしたらイスベルグも同じようにパッシブスキルを習得しているのではないだろうか。

そうであればいろいろと説明はつく。

ただ俺の場合、ほわオンの素のステータス、レベル299のあれも加算されてるかもしんない。

魔法使いまくれるし、パッシブスキルの効果以上にタフだし。

力は初期ステータスのままなんだが力がある程度高いのは<ウェイク・パワー>を覚えるための条件だった<ブレイカー>という力の上昇するパッシブスキルがあるからだろう。


 ちなみにそういうステータス上昇関係の上位スキルに<〇〇・コントラクト>という〇〇の部分に入れる言葉で色々効果の変わるアクティブとパッシブの中間みたいなスキルもあったが別にそれは覚えてない。

オン、オフをいちいち切り替えなきゃならんし、そもそも自分にしか使えないので支援専門としてはいらねえなと思って放置した。

まあこの話はどうでもいいか、今関係ないな。


 話を戻してイスベルグのことだが『盾』関係の新たなアクティブスキル、いや魔法か、魔法を覚えようと思ったら当然盾を持たなきゃいけないわけで…

そうするとなんで<プロヴァケイション>が使えたのかがよくわからない。

ゲームじゃねえから気合で無理やり覚えたのかなぁ。


「あの…ヴォルガー様…?」

「様はやめてくれ」

「申し訳ありません、それでヴォルガー殿、私はどうすれば新たな魔法を覚えられるのでしょうか」


 結論、知らんよ。


 と、言いたいがまあやれるだけのことはやってみるかね。


「んー…とりあえずそうだなあ、あの大剣使ってるよね今」

「はい、それがなにか」

「それやめようか、まず盾持とう」

「……………え」


 イスベルグは硬直して、しばし俺の顔を見つめていた。

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