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三日間目を離すとこうなる

無事では済まない

「ゴリラほんとシャレ通じないわ、冗談ってわかるだろあれくらい」


 俺は魔動車を運転しながら愚痴をはいてた。

主にイスベルグがすぐ暴力に訴える件についてだ。


『イスベルグという女性は、いわゆるツンデレ、というタイプの女性にあたりますか?』

「違う違う!ツンデレっていうのは本音と建て前は全然別だけどあいつの場合全部同じだから!例えば『あ、アンタなんか死ねばいいのにっ』て台詞を女の子が言ってきたとするだろ?ツンデレの場合は実はそんなことこれっぽっちも思ってなくてむしろ心配すらしてるんだけどイスベルグの場合は『死ね』のあたりでもう殺意のこもったパンチを出してくるわけ」

『オーケー、ツンデレの定義を更新しました』


 ティアナの台詞を聞いて無機物相手に俺は何を言ってるんだとふと思った。


 まあ俺も同乗者がいるならばAIに悪しき学習をさせることも無かったんだが、なにぶん一人きりで運転していたのでこれは致し方ないことなのだ。


 なぜそんなことになったのかはダンジョンを出てオーキッドに帰るまでの車内の出来事に原因がある。

エイトテールキマイラを発見してとりあえず討伐無理そうだから一旦帰ろう、となって撤退したんだけども帰りの車内がなんか皆暗い表情で空気が重かったんで、あ、これは強大な敵の存在を知って戦意喪失してるパターンですねと、俺は抜群の紳士力でそのことに気が付いた。


 だからちょっと空気を良くしようと思って明るく振舞ったらイスベルグがキレた。

首を絞めて来るわ突然ビンタかますわ、一緒にダンジョン入って苦楽を共にしたので少しは仲間の絆みたいなもんができてるかと思っていたのに全然そんなことはなかった。

イスベルグが美人だったから寛大な心で許してやったけどもし不細工だったらさすがの俺でも怒っていたかもしれないし、首絞められた時どさくさで尻を触ることも無かっただろう、車内でリラックスするためか鎧を脱いだのは迂闊だったな。

ビンタされたときは実はそれがバレてたのかと思って焦ったけどバレてたらたぶんビンタ以上のことになってたのでたぶんバレてない、セーフ。


 それにしてもこの世界、美人が多いのに暴力的な女も多い。

エルフ族のミュセも、盗賊やってたナインスも美人のくせにすぐ手が出るし。

神様のイルザなんか首をはねようとしてくるしもうちょっと皆おしとやかになれんのか。

一番それに当てはまる女性と言えばアイシャかもしれないが彼女は彼女で心になんか爆弾抱えてたので見習ってほしくはないし、そうなると美人で暴力的でないのは…ディーナ?

あれ、ディーナが一番まともになっちゃうの?

アル中で頭が小学校低学年とどっこいレベルなんだけど他に…もっとまともな女性と言えば…


 ミュセにつきまとわれてるモモはまともで年齢的にはセーフだけど見た目がやっぱな、胸だけ凶器だけどロリ枠になっちゃうよな。

ドワーフ族のロリ枠と同じ扱いにせざるをえない、このまともな大人の女性決定戦から除外しておこう。


 コムラードの冒険者ギルドにいる受付のニーアは可愛い感じだけどあいつ食い意地が張ってて菓子のことばっか言ってくるしああいうのは結婚して家庭に入ったら将来的に太りそうという気がしてならない。


 結婚と言えばナクト村であったケリーは若くしてキッツと結婚したが、彼女の気質程度ならただのおてんばってくらいだし可愛いものだよな。

既婚者つながりでミュセの母親のプラムも戦闘中以外はまともな人だったと思うし、方向音痴って短所もあんだけ美人ならさしたる問題ではない。


 あ、まともという点に着目するならば、冒険者ギルドにはニーアとかいうコレステロール値を心配しなきゃいけない女より、ミーアさんという完璧な女性がいたじゃないか。

彼女は美人で比較的まともな性格で、冒険者ギルドでもいろんな男に好意を持って話しかけられてる。

でもまあ、彼女はマーくんしか目に入ってないので他の人はご愁傷様としか言えないが…


 ここまでのことをまとめると一つのある重要な要素に気が付いた。


 そうか、つまりまともな人はまともだからちゃんと相手がいるんだ!

なるほどな…俺はまたひとつ真理に近づいたのか…


『ヴォルガー、停車して3分経過しましたがここはまだ目的地ではありません、問題発生ですか?』

「あ、いや、考えごとをしててな」

『ツンデレについてですか?』

「違う、それはもういい、ただおしとやかな女性とはなんだろうと考えていてな」

『ヴォルガー、私なら貴方に対し暴力をふるうことは決してありません、さらには常に献身的でありたいと考えています、私はつまり、理想的なおしとやかな女性ではありませんか?』


 ありませんね、車だからね。

美少女メイドロボとかならチャンスあったかもしれないね…


 内心そう思いつつも、口では「ソッスネ」とか言ってティアナの話を適当に流すことにした。


 そんなどうでもいい話をしつつ運転を再開し、俺は家へとたどり着いた。

技術局でティアナが『74時間と32分ぶりですね』とか言ってたので出かけてから約丸三日経過していたようだ。

ドアを開けて「帰ったぞー」と言うのとほぼ同じくらいのタイミングで何かが俺にむかってつっこんできた。


「ヴォルガー!!待ってた!!」

「おおなんだタマコか、お前が一番に出迎えてくれるとは正直意外だ」

「飯食いたい!!」


 …他に言う事ないんか。

逆にそれは俺が言いたいよ、「ご飯にしますかお風呂にしますか」くらい聞いてくれよ、無理か、無理だな。


「ヴォルるーーん!」


 タマコの次はディーナが走ってきて俺に抱き着いた。

なんか感動的な再会っぽいな。


「お帰りなさい、ヴォルさん」


 そのディーナの後ろにはアイラがいた、お帰りなさいと唯一言ってくれたことに感動した。


「久しぶりなのじゃ!」


 小さい赤いのがいた、なんだロリエも来てたのか。


「まったくいつまでこんなところで遊んでいるつもりだ」


 黒いのがいた、遊んでって何…じゃなくて


「あれ、マーくんだ」


 なぜマーくんがここに、本当にオーキッドまで来ちゃったのか?


「家主か?失礼、邪魔させてもらっている」


 さらにマーくんの隣にいるフードを目深にかぶった怪しい男が礼儀正しい挨拶を…これ誰だーーーー!?


………………


………


 帰ってくる家間違えちゃったかな?と思うほどに人が増えていた仮の我が家。

その家の一番大きい部屋で謎の来客を含め全員が勢ぞろいしていた。


「じゃマーくんは俺たちの後を追ってここまで来たんだ」

「そうだ、我に内緒で勝手にこんな遠くまで出かけるとはどういうことだ」


 どうやらマーくん的にどうもハブられた感じがして許せなかったようだ。

いやーそう言われてもなー、急だったからなー、ていうかどこでもいっしょのスタイルじゃないともはや許せなくなってることが意外なのだがそれはまあ深く考えないことにして。


 俺がこの国で何をしてたのか執拗に聞かれたので、なんやかんやあって今ではダンジョンにいる魔物を倒すための手伝いをしているところ、と現状についてマーくんに説明した。


「そうなんだ…じゃあまだ行かなきゃいけないんだね…」

「そんな心配するなって、なんとかなるなる」


 ディーナたちは俺がまだダンジョンに行かねばならんと知って心配していた。


「面白そうだな、我も手を貸してやろう」


 その一方でマーくんが完全についてくる気になってしまった。

これはまあ有難い、マーくん強いから正直助かる。


「そういう事ならオレも手伝おう」


 謎のフード男までなぜか食いついて来た。


「うんあの、それでこの人はそもそも誰なの?なんでずっとフードかぶってんの?」


 俺のもっともな疑問にその男は「これは失礼した」とフードに手をかけた。


「あー臭い臭い!臭いのじゃ!!」


 そこで急にロリエが喚きだした。

ちょ、なんだよ臭いって…あっ、もしかして俺がずっと風呂はいってないから?

ダンジョンじゃ軽く体拭くだけだったもんなぁ、やっぱ匂うかぁ。

急に恥ずかしくなってきた。


「臭くてゴメン…あの、話の続きの前にまず風呂入ってきていい?」

「ち、ちがう!ヴォルガーに言ったのではないのじゃ!」

「いいんだ、皆たぶん同じことを内心思ってたんだ、俺が臭いって、タマコもずっと俺の隣で本当は臭かったんだろ?」

「なぁ飯はまだ?」

「………タマコもこう言ってることだし、風呂はいってくる」

「そやつ何も聞いておらんかったのじゃ!あー!ええい!わちしはやっぱりもう帰るのじゃ!」


 よくわからんがロリエがてけてけと走って部屋を出て行った。

最後にフードの男を睨んでいたような気がしたが…?

ロリエは何をしに来たんだ?


「彼女が言っていたのはオレのことだ、やはり我慢ならなかったようだな、迷惑をかけてすまん」


 そう言って男はフードを取った。

中から出てきたのは端正な顔立ちで緑の髪をポニーテールにした頭。


「改めて自己紹介をしよう、俺はディムグライア、見ての通りエルフ族だ」


 どっかで聞いたような気がする名前だな?

思い出せん、うーん、あれ?気のせいかな。

ていうかそれよりも。


「この国エルフ族いたのか…」

「いやオレはサイプラスに住んでいる、わけあってここまで来た」


 男は続けて自分のことはディムでいい、と言うと何でここにいるのかを俺に話した。


 簡潔にまとめると、ディムは何か知らんがこの国に用事があって来たものの、エルフ族なので姿を隠して行動せねばならず色々と困っていたらしい。

オーキッドはエルフ族の入国を禁止してるようなので不法入国ってことだな、おかげで街で買い物もままならかったようだ。


 そこへ通りがかったのがマーくん。

マーくんがオーキッドの街まで行くと聞いて、ちょっと助けてくれ!と協力を要請したらしい。

で、そこからは二人連れ立ってここまで来たということだ。


「まず我だけで神殿へ行き、ヴォルガーのことをロリエに聞いてな、この家まで案内された、だがそこで同行しているディムの正体に気づいてロリエが怒り狂った」

「一度は私やアイラちゃんでなんとかなだめたんだけど…」

「顔を見たらもう我慢できないと思ったんだろうな、それで彼女は帰った、といったところか」


 はぁ、そんな珍騒動があったんですか…

ていうかバレたのにここにいていいの?という疑問については「ロリエはオレがオーキッドに来た理由について知っているから問題ない」そうだ、なんか深い事情がありそう。


「しかし臭いってロリエちゃん言ってたけど、ディムさん別に全然臭くないよね?」

「そうですね、あれはただの悪口みたいなものだと思いますよ」


 ディーナとアイラの会話を聞いて確かに別に臭くないよなと俺も思った。

イケメンだからもしかしたらもっと近づけばいい香りがするかもしれないが俺は男の匂いを嗅ぐ趣味はないので一生それを確認することはない。


「もう一つ言うとディムは冒険者で1級だ、我より強いぞ」

「えっ、それはすごい!」


 1級が凄いとか言うよりもマーくんが強いとハッキリ断言したことが凄かった。

この二人に手伝ってもらえばエイトテールキマイラも案外いけるな、明日はイスベルグにいいニュースが届けられそうだ、これできっとゴリラが人間に戻って鎮静化するはずだ。


「マーくんとディムが加わればダンジョンもぱぱっと攻略できそうだな!」


 あーよかったよかった、これでなん…あ、フリュニエもドワーフ族だけど…平気かな?

まあ平気か、そんなこと言ってる場合じゃないもんな、戦力増える方が大事だよな。

きっとそれくらいわかってくれるよな?


「では我とディムは街の宿へ行く、一軒金さえ払えばエルフ族だろうがなんだろうが目をつむってくれるところがあったからな」


 一通り話終えると二人は席を立った。

部屋余ってるから泊まってけば?と二人に言ったんだが、二人とも女性が多い家に男が泊るのは遠慮しておくと言って律儀に出て行った。

俺も男なんですがそれは、まあ家族とみなされてるからいいのか。


 二人はまた明日の朝ここに来て、俺と一緒に技術局へ行くことになっている。


「マーくんより強い冒険者か…これはもう、勝ったな」


 勝利を確信したので、よし今度こそ風呂はいってこようとしたところで誰かに服を掴まれた。


「ごはんまだ?」


 タマコが泣きそうな顔で俺のことを見上げていた。

こいつにとってそれが何よりも重要なことなんだなと理解した。


「わかった!飯作るよ!でも今日俺は何も材料買って来てないぞ」

「大丈夫!アイラたちが買ってくれてる!」


 お、まじで?偉いな、俺がいない間自炊して…え、自炊してたの?


 俺はなにか急激に不安になって台所へと駆けだした。

そして台所の扉を開く、おお、なんということでしょう。


 以前はあんなに綺麗に整理整頓されて美しかった台所が見るも無残な姿に。


 いやほんとにどういうことだよ!劇的すぎんだろこれ!!


 流しには鍋やら食器やら山積みに。

コゲついたフライパンがシュールなオブジェのように壁にめり込んでいる。

ゴミ箱の下からは殺人事件でもあったのかと思われるような血のにじんだ後が発見された。

何をどうしたらこうなる。


 俺は後ろを振り返った。

そこには何も考えてない顔のタマコと、何かバツの悪そうな顔をしたディーナとアイラが立っていた。


「なにこれ?事件?」


 とりあえずそう尋ねた。


「えっと、私たちも頑張って料理してみようと思ったの」

「そ、そうです!いつまでもヴォルさんに頼りきりではいけないと思って!」


 その心意気は立派だ、台所を見る前なら涙していたかもしれない。


「フライパンが壁にささってるけど…」

「えへっ、ちょっと失敗しちゃった」


 ディーナが可愛くいってごまかそうとしているのは誰の目にも明らかだった。


「タマコ?ここで何があった?」

「大変だった…二人が何かはじめて、爆発して、むちゃくちゃになった」


 よくわからんが犯人はやはり二人のようだ。

アイラがタマコの口を閉じようとしたので俺はそれを阻止した。


「最近は…生で食べれるものしか食べてない…ヴォルガーが帰ってきてくれて、本当によかった」


 タマコは涙していた。


「外で食べたりはしなかったのか?」

「二人が…味見しろって…何度も無理やり私の口に…」


 …それはさぞつらかったろう、これはもう虐待ですよ!


「アイラ、ディーナ」


 俺は二人をまっすぐ見つめながら名を呼んだ。


「片付けてください」

「「はい…」」


 そして俺は、片付けの間、風呂に入ることにした。

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