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ロンフルモン1

変態を掘り下げていくと決めた、需要がなくとも。

 曲がり角から飛び出して来たのは二匹の『レッドフォックス』

赤みがかかった毛並みが特徴の狐の魔獣です。

この『赤き鼓動の迷宮』を代表する魔物といってもよいでしょう。

第一階層から第三階層まで幅広く生息し、最も多くの数が確認されてる魔物ですからね。


 レッドフォックスは<ライトボール>に飛びつくように出てきました。

松明を持った冒険者が近づいて来たとでも思って先手をとったつもりでしょう。

しかしそこに我々はいません、あるのは<ライトボール>だけです。

レッドフォックスの体当たりで<ライトボール>は消滅しました。


 本当にあっけなく、ただ消えました。

どうやらヴォルガーの言う通りあれに攻撃能力はないようです、体当たりしたレッドフォックスに痛がる様子はまったくありません。


「光に飛びついたか、所詮は獣の知恵だな」


 イスベルグが剣を構えて前に出ました、レッドフォックスは左右に分かれ、両側から彼女に向かって飛び付きます。


「フン、雑魚め」


 左側から来たレッドフォックスは大剣で胴体から真っ二つにされました。

もう一匹はイスベルグの足に噛みつきましたが…


「何をじゃれついている」


 ミスリルで作った全身鎧の彼女に噛みつける場所はありません。

イスベルグは空いてる足のほうでレッドフォックスを蹴飛ばしました。

こっちにわざわざ蹴飛ばしたということは私に始末しておけということでしょうねえ。


 少々相手としては弱すぎますが、ここで私の実力をヴォルガーに見せておくのもいいでしょう。

そう、このロンフルモンがなぜ魔法技術局の局長なのかということをね!


「えーい、なのです」


 ぐちゃっ。


 レッドフォックスは壁に叩きつけられて死にました。

フリュニエのハンマーで見るも無残に。


「ミンチよりひでえや…」


 それを見ながらヴォルガーが呟きました。

そして「めっちゃ強いね」としきりにフリュニエを褒めていました。


 ンンンンンンン!!ここは私が相手をするところだったのに!

そしてわざと危機に陥ってヴォルガーにまたあの魔法をかけてもらう予定だったのに!!


 私は訓練場での出来事を思い出し、一人悔しさに悶えました。


………………


………


「ロンフルモン、君を次の魔法技術局局長に任命する」


 先代の局長に呼ばれ、そう言われた時は「なぜこの私が?」と思いました。


「なぜ私なのでしょう?魔法の腕ならば私より優れた者が他にいくらでもいると思いますが」


 まだ若かった私は正直にその理由を尋ねました。


「確かに君の言う通りだ、しかし忘れてはならん、ここは魔法『技術』局なのだ、ただ上級の魔法が使えるというだけでは局長にはなれん」


 詳しく聞けば、どうやら局長は私が研究していた『魔法と武器の融合』のことを高く買ってくれていたようでした。


 魔法と武器の融合とは簡潔に言えば、魔法の詠唱部分を省略し、比較的簡単に魔法が使えるよう武器等にあらかじめ細工をしておくことです。


 私がこの研究をはじめたきっかけは魔動技術局で開発される魔道具の存在があったからでした。

あそこで量産されている赤鉄板や青鉄庫といった日常的に利用される魔道具が、最初に発見されたのは全てダンジョンからと言われています。

魔動車と同じですね、構造が魔動車と比べて簡単だったために複製が作れるようになったのです。

もっともそれも手先の器用なドワーフ族がいたからこそ、できたことかもしれませんが。


 しかしドワーフ族は魔道具がなぜそのような働きをするのか?といった点にはあまり着目していません。

彼らは設計図があって、作成可能であらば、とりあえず作ってみたくなる欲求があって、つまるところ作りたいから作っただけなのです。

言ってしまえば根が単純なのです。

そのため新たな魔道具を開発するということにおいては非常に不得意でした。


 そこを補うのが魔法技術局の存在です。

私たちの仕事は新たな魔法が発見された場合、それがいかなる効果を持つものか調べたり、後世に伝えるため記録を残すことが主な内容ではありますが、それ以外にもやっていることはあります。

私の研究もそれ以外のことと言える物のひとつです。


 私は常々、魔道具に彫ってある溝や魔道具の形状は魔法の詠唱部分を形にしたものではないかと考えていました。

私と同じような発想に至った者は過去にもいましたが、それを完全に解明できたものはいませんでした。


 複雑すぎるのです、ただ炎を出す赤鉄板ですら、その内部は細かな模様が彫ってありますが、それがなぜ、赤鉄から炎を出すという現象につながるのか解明できていませんでした。


 しかぁし!それを解明したのがこの私!ロンフルモンです!

私は模様に特定の法則があることに気づき、それを解析し、独自の模様を作り上げました。

そして試しに私の持つナイフに模様を施したところ、突き刺した部分が燃え上がるという現象が起きました。

まぁこれは危なくて投げナイフとして使う他なくなりましたけどね。

手に持って使うと自分の手が炎に包まれて火傷しますので。

魔法で作り出す<ファイアボール>等は別に自分は熱くないのですが…この辺りはまだ研究中です。


 ともかく、私は新たな可能性の第一歩を示したのです。

なぜ私がこんな研究をしていたかと言うと…私は魔法が得意ではないからです。

イルザ様の加護を神殿で授かったものの、私は総合的な魔力量が低いようで魔法を使っても大した威力はありませんでした。

二節の魔法など夢のまた夢です。

同期に魔法技術局に入った者たちからは「ヘボフルモン」と言われ嘲笑されることもありました。


 悔しさから、一時は冒険者のようにダンジョンに入って実戦を経験すれば能力が向上するのでは?と思い冒険者登録もしました。

何度かダンジョンに行くうち、私以外の魔法を使う冒険者の能力は向上しました。

私は…大した変化はありませんでした、無駄に強くはなりましたがそれは魔法が強くなったのではなくて体力や魔法を操る技術が向上しただけです。


 私の<ファイアボール>はずっと同じ。

小さな火の玉が飛んで行ってボン、と軽く爆発するだけです。

まともにあてても倒せる魔物は精々ピンクラビット程度。

ゴブリンを怯ませることはできますが致命傷にはなりません、むしろ魔法をうってるよりナイフでも投げた方が早いという結論に達しました。


 なぜこの私だけが貧弱なままなのか…!

他の能力が向上した者たちとの違いはなんなのか…!

考えてもわかりませんでした、魔法に関して私の成長はここが限界だったとしか思う他ありません。


 だが許せるわけがない!

ンンン、例えこれ以上魔法の成長が見込めないと知っても到底あきらめきれません!

私がダンジョンへ行くのに付き合ってくれたフリュニエは「力こそすべてなのですよ?」とか言って励ましてくれましたが私はそんな脳まで筋肉に染まった存在にはなりたくないのです!


 苦悩の日々が続く私の元へ、ある日技術局で見慣れない女が訪れました。

後に医療技術局の局長となる女、サジェスです。


「これ、フリュニエから頼まれて作ったんだけど…貴方に渡してくれって」


 謎の液体が入った瓶をサジェスから渡されました。

私が「これはなんです?」と聞くと「筋肉増強剤、毎日飲んで運動すれば筋肉が発達していくわ」とサジェスは答えました。


「いりませんよこんなもの!!」


 私は瓶を投げ捨てました。

サジェスは「何よ言われて作ったのに失礼しちゃう!」と怒りながら去っていきました。

彼女とはそれ以来微妙に仲が悪いままですが別にそんなことはどうでもよいことです。

あとフリュニエは私が筋肉のことで悩んでいると思っていたようなので誤解だと伝えたのですが「筋肉さえあれば悩みも魔物も飛んでいくのですよ?」としつこく筋肉を推してくるのでしばらくダンジョンに行くのはやめることにしました。

冒険者カードにもいつの間にか不愉快なクラス名が付いていたのでちょうどいい、これからは魔法のことに専念しようと決めたのがその時です。


 そして、研究に専念した結果、燃えるナイフを作り上げました。

その後もいくつか魔法の力を発動させる武器を作り上げ、局長の目にとまり評価を受け、とうとう魔法技術局の局長までのぼり詰めました。

武器にこだわる必要は特になかったのですが…まあ目に見えてわかりやすいからですね。

軍、といっても今は治安維持が主な仕事になっている連中からも強い武器を作ったということは評価されるからです。

軍からも支持を受けた私が魔法技術局の局長になることは誰にも反対はできませんでした。


 局長になったことで、私の魔法が貧弱だったことを馬鹿にしていた連中も黙り、だいぶ気分は晴れたのですが、それでもやはり強い魔法を使うことへの憧れは消えませんでした。

それに私の作った武器はどうも使う者の魔力に影響を受けるようなのです。

元々魔法が強い者が使えば、その威力も増すのです。

それで腹が立つのは試しにサジェスへ燃えるナイフを投げさせてみたところ、飛んで行った先で大爆発するという事件があったことでした。


 彼女は私より強いイルザ様の加護を持っていたことが発覚しました。

魔力を持たない者でも使えるのかという実験だったのに実はサジェスは魔法の才能があるとわかったのです。

しかし彼女は医療にしか興味が無いのでその才能を磨く気は全くありませんでした。

その日以来、サジェスとの仲は余計に悪くなりました。


 ついでにフリュニエにも試させると爆発も炎上もしませんでしたが、的となった木の人形をへし折って貫通しついでにナイフも訓練場の壁に当たった衝撃で粉砕したのでよくわかりませんでした。

なのでフリュニエを実験に使うのは以降やめることにしました。 


 また苦悩の日々が続く私の元へ、久しぶりにフリュニエがダンジョンへ行こうと誘いに来ました。

なんでも新たな魔物の出現が確認され、並の冒険者では討伐できないというのです。

仕方ないので討伐を手伝うことにしました。

私は一応、冒険者の級はフリュニエと同じく2級に達していますからね。


 予備戦力に冒険者を三人雇って私とフリュニエは赤き鼓動の迷宮へと赴きました。

そこで、後にツインテールキマイラと名付けられた魔物に出会ったのです。


 奴は確かに強敵でした、まさか毒だけではなく幻覚を与える魔法を扱うなどとは。

魔物のくせにかなり知能が高いようで雇った冒険者が犠牲になりました。

まあそれはフリュニエが幻覚で混乱した彼らをぶっ叩いて気絶させたせいですが…


 それでも私とフリュニエの攻撃で魔物は倒れました。

かろうじて息があったのでフリュニエがこれを持って帰って生きてるうちに調べたいと言い出しました。

私もその魔物が使う魔法に興味があったので賛成し、捕獲して連れ帰ることにしました。


 技術局まで無事運んだまでは良かったのですが、その魔物は自己治癒能力が高かったのか、後日檻を破って逃げ出しました。

技術局は大惨事です、私のところにも報告が来ました。


 魔物が逃げ出した報告を受けたとき、私は食堂にいました。

何をしていたかというと、そこでとある噂の少女を見つけたのです。

ロリエが連れてきたという魔族の少女…なんでも見た目とは裏腹に恐ろしい魔法を使うとか。


 見た目はただの人族の少女です、長い黒髪は珍しくはありますがそれだけです。

私は魔族がどうとかよりも魔法のほうに興味がありました。

是非使って見せて欲しかったのです。


「ええいやめよやめよ!わちしらは今忙しいのじゃ!」


 身も蓋もなく一緒にいたロリエにそう言われました。

ちょっと魔法を見たいだけなのに、なんなんでしょうこの警戒ぶりは。

何かあるなと思って食い下がると、急に背筋も凍るような威圧感を感じました。


 少女とロリエの他に、まだ二人、人族の女がいました。

片方は女にしては珍しい長身で、美しい金髪を持っていました。

だが威圧感を感じたのは彼女ではありません、彼女はむしろおどおどしていたように思います。


 私を威圧したのはもう片方の、赤い髪を持つ冒険者風の女です。

腕を組んで私のことを見ていました、ただそれだけです。

それだけで、息ができなくなるほどの迫力がありました。


 思わず後ずさって、その場から逃げるように食堂の入り口へ向かいました。

ちょうどその時です、逃亡した魔物の報告を受けたのは。


「魔物はどこです?」

「二階の生物局で暴れています、既に負傷者が何人も」


 私は気持ちを切り替えて生物局がある二階へと向かいました。

先ほどの少女と私を威圧した女は気になりますが、それどころではありません。


 二階へ行くとフリュニエがいました、彼女もどうやら報告を受けて戻ってきたところのようでした。

「貴女がいながら一体何をしていたんです!?」そう問い詰めると「お、お腹が痛くてトイレにこもっていたのです…」と恥ずかしそうに言ったのでそれ以上聞くのはやめました。

生物局員はよく変な物を食べるので腹を壊すのは日常茶飯事だったからです。


 私とフリュニエが現場に駆け付けたとき、すでに魔物はいませんでした。

魔物がいた部屋の窓があった場所が大きく破壊されていたのでそこから外へと逃げだしたようです。


「急に何かに怯えたような感じになって、無理やりそこを破壊して飛び降りました」


 戦っていた者たちの話によると、魔物は最初目につく者を手あたり次第襲っていたのですが、急にそれをやめて逃げ出したようでした。

不幸中の幸いとでもいうべきか、おかげで死人はまだ出ていないようです。


「私たちもすぐ外に行きましょうなのです!!」


 フリュニエの言葉に従い、また来た道を戻って一階へ向かいました。

魔物が技術局を出て、街にまで逃げ出てしまうと厄介です。

イスベルグに怒られるだけでは済まないでしょう。

最悪フリュニエは責任をとって局長を辞任、死者が出れば処刑か国外追放もありえます。


 私の心配をよそに、事態は意外な結末を迎えました。

表に出た私とフリュニエが駆け付けたときには既に魔物は死んでいたのです、跡形もなく。

やったのは食堂であったあの赤い髪の女でした。


 燃え上がる火柱の前で高笑いをし、傍にいる者たちに何かを語っていました。

私とフリュニエは呆気にとられて女の放った炎の魔法を眺めていました。

この時のことは今でも後悔しています。

なぜならその女はいつの間にか姿を消しており、それ以来どこを探しても見つからないのです。


 ルイという名の冒険者とだけ、後日ロリエに聞いてわかりました。

それ以上のことは何も…冒険者ギルドにも行ってみましたがギルドに登録はなく、他の冒険者も誰一人としてそのような人物は知りませんでした。


 フリュニエはルイのことよりも、怪我をした生物局の局員たちのことを気にかけていました。

サジェスの元へ全員運ばれていたので私も一緒に見に行ったのですが…全員完治していました。


 話に聞く限りでは酷い怪我だった者もいたはずなのですが全員ピンピンしています。

私はサジェスを見直しました、彼女が魔法の才能を捨ててまで医療を研究した成果は確かにそこにあったのです。


「正直、貴女の腕がここまでとはみくびっていましたよ」


 これを機に私はかつてのことを謝ろうかと思いました。

ナイフを投げて爆発させたときは「いずれ患者も爆発しますよ!」などと言ってしまったのです。


「ああこれ?私がやったんじゃないのよね」


 謝るのはやめました、どうやら治したのはサジェスではなかったようです。

普通に考えたら医術で傷が一瞬で治るわけはありませんね。


 治したのはサジェスではなく別の者。


 それこそが、魔族の少女でもなく、ルイという謎の冒険者でもない、後に私にとって至高の存在となる人物。


 その者の名はヴォルガーと言いました。

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