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ダンジョンへ

まるで冒険者みたいだ

「タマコ、タマコ、タマコさん」

「がつがつむしゃむしゃっ」


 タマコは俺の呼び掛けを無視して夕飯を食い続けている。


「タマコ…タ…おいタマ」

「なんだ!?」

「野菜も食べなさい」

「わかった!」


 そしてまた肉を食い続けるタマコ、何もわかっていない。

ちなみにタマコはもう紳士服Tシャツではない、普通の恰好をしている。

買ってきたシャツとズボンを履いて…ズボンに穴が開いて尻尾が飛び出ているくらいか、ディーナたちと違うのは。


「タマコの服いくらした?」

「別に大した額じゃありませんよ、ヴォルさんから預かってる金貨1枚で同じものが20着は買えます」


 アイラは今日、俺が技術局に行ってる間にちゃんとタマコの服を買ってくれていた。

パンツも買ったようだ、ただしそれは確認はしていない、するわけにもいかない。

なんか聞けば三人で買いに行ったらしい。

買った場所は人族が住むエリア、どうも俺は勘違いしてたんだが別にそこへ獣人族が入ってはいけないという決まりはなかったようだ。


「服を買った所のおばさんはいい人だったので良かったのですが、やっぱり獣人族はこっちをうろうろしないほうがいいみたいですね、私たちを避けるように離れて歩く者もいくらか見かけました」

「しょせん人族のやつらは臆病者の集まり、私を見ても逃げることしかできない」

「逃げる以外にしつけるという手段があるのでやってあげましょうか」

「間違えた、人族は憶病者じゃない、ヴォルガーは肉をくれるからいいやつ、アイラは怖い」

「は?」

「間違えた、アイラは服を買ってくれたのでいいやつ、です」


 知らぬ間にしつけが行き届いていた、既に「は?」で意思疎通できるようになっていたとは。


「ね、それでヴォルるんはやっぱり明日…行くの?」

「行くよ」

「そっか…気をつけてね…本当は私も行きたいけど…」


 俺は技術局から帰ってきてすぐ、アイラとディーナには明日ダンジョンへ行くと話をした。

あまりいい顔はされなかった、イスベルグというオーキッド最強のゴリ…いや人族が手伝ってくれると説明したのだが、ディーナはまだ心では納得できてないようだ。


「なんだ?ヴォルガーは明日もどこか行くのか?」

「俺はねぇタマコ、お金を稼ぐために仕事にいってるんだよぉ?」


 ちなみにブロンが毎日くれる給料とは別に、ダンジョンに付き合う代金は支払って貰えることになっている。

あとロンフルモンが今夜一晩中付き合ってくれたら金貨5枚払うと言ってきたが嫌だったので断って帰った。

俺の魔法のことをあれこれ調べるつもりなんだろうが明日ダンジョンに行くっていうのにそんなことやっていられない。

一晩中という単語にも恐怖しかない。


「ふうん」


 タマコは全く興味がないようで俺の言葉を聞き流した。

こいつはどうも今一所懸命食べてる肉がどうやって食卓に並んでいるか理解してないフシがある。

やはりここは言っておかねばならんな。


「俺がお金を稼いでこないと肉はもう食べれなくなるんだよなぁ」


 そう言うとタマコは動きをとめた。

それから少し肉を見つめ、俺の方を向いて


「がんばれ!!」


 そう言った。

頑張れか、仕事の重要性は伝わったのかもしれないが、もう少しよく考えて自分がタダ飯を食ってることを恥じるところまで到達してほしい。


「やはり私たちも何か仕事をすべきでは…」


 そう!良く気づいたタマ…いや、違うわ、アイラだった。

アイラに言ったのではないのに。


 微妙に気まずくなってしまった。


「あー、そうそう、そうだ、フリュニエが仕事頼みたいって言ってたんだけど」


 ちょうどいい話題を思い出したのでそれを提案してみよう。


「フリュニエさんが?私にですか?」

「いやどっちかというとディーナになんだけど」

「え?私?」


 フリュニエの頼みというのはディーナに魔物の絵を描いてもらうことだ。

昨日ディーナが描いたツインテールキマイラの絵を生物局の局員たちにも見せたところ好評だったようで、追加注文がきたというわけだ。


「別の魔物の絵?でも私そんなに魔物を見たことがないんだけど」

「コムラードの近辺で見たやつでもいいんだってさ、ピンクラビットとか、とりあえず知ってる魔物の絵を描いてくれって」


 俺が要約してディーナに教えると、はじめは戸惑っていたディーナだったが、最低でも50コル以上で買い取る、出来が良ければもっと出す、と言ってたと教えると即座にやる気になった。

なので絵を描く道具をディーナに渡してやった。

実はもう半ば強引に絵の具とか色々渡されて持って帰ってきていたのだ。

俺としてもこれでディーナが内職をやってくれるのならば家計が助かる。


「…ディーナさんに仕事ですか、ディーナさんですら仕事があるのに私は…」

「い、いやアイラにも手伝ってほしいんだよ!ディーナは絵を描くのは上手くても字は下手なんだ、漢字もほとんど知らないし、描いた魔物について説明文も欲しいらしいのでそれをアイラに頼みたいんだ」


 ディーナと違ってアイラは字が上手い。

コムラードの我が家にいるときは、ディーナが馬鹿になってないかチェックするため、たまに算数の復習をしていた。

アイラも参加したことがあるのだが、アイラは一日でディーナの遥か高みにいってしまったというか元々頭が良かったので教えることがなかった。

黒板に字を書かせたときも上手だったし、漢字に関してはディーナのTシャツに書いてある『紳士服』が最初から読めていたので詳しいとはわかっていた。


「でもそんなの別に私じゃなくてもできることですし…」

「そんなことはない」

「生物局の人のほうが詳しく…」

「アイラにしか頼めないんだ」

「…本当ですか?」

「ああ!本当だとも!」

「そ、そこまでいうなら仕方ありませんね、私が文を書いておきましょう」


 ふう…やったぜ…アイラに笑顔が戻ってきた。


 というわけで二人は俺が出かけている間、家で内職をしてもらうことになった。


「わたしも、手伝うぞ」

「え、ええ…タマコは絵描けるの?」

「地面に描いたことある!木の棒で!」

「…字は?」

「自分の名前は………かけるよ?他はむり!」

 

 タマコには二人の邪魔をしないように言っておいた。

納得いってなかったが今の言葉を聞いて俺は期待するのをやめた。

ていうかタマコはいつになったら帰るんだろう。

この家に居座り続ける気なら何かこいつにもできる仕事を与えた方がいいか…


………………


………


 猫耳欠食児童の食費のことを考えながら眠って、目が覚めた翌日。


 俺は早速ダンジョンに来ていた。


 現地集合だったわけではない、俺は場所を良く知らないので。

今日も一応技術局に出勤した後、そこでフリュニエ、ロンフルモン、イスベルグの三人と合流した。

それから俺の魔動車ではない別の魔動車に乗り換えてダンジョンまで行った。

軍用トラックみたいな荷台が幌馬車の後ろみたいになっててあれなんて言うんだ、ああ幌馬車だからほろでいいのか、その荷台に乗せられてゴトゴト揺られて運ばれて来た。


 今言った三人と俺が荷台に乗っていた、運転はイスベルグの部下という兵士の人がしていた。

荷台ではイスベルグが相変わらずピリピリしていた。

フリュニエは空気を読んであまり何も言わなかった。

ロンフルモンは全く空気を読まずに俺に話しかけて「昨日は興奮して眠れませんでしたよぉ!今日は楽しみですねぇ!」などといって余計イスベルグをイラつかせていた。

こいつだけ遠足気分である。


「ここが赤き…なんとかの迷宮?」

「赤き鼓動の迷宮、なのです」


 俺の前には洞窟の入り口があった、別に岩肌は赤くはない、普通の灰色だ。


「お待ちしてました!イスベルグ様!」

「よし、全員揃っているな、お前たちは後ろから来い」


 イスベルグは兵士たちに何やら指示を出している。

兵士は運転手を含め六人いた、全員同じ鎧姿だ、さすがにイスベルグほどの全身鎧ではないが…


 運転手以外の兵士五人は俺たちより先に現地の入り口にいた。

現在このダンジョンはツインテールキマイラのことがあって一般の冒険者の立ち入りは制限されている。

そのためイスベルグの部下が入場を制限する意味合いでダンジョンを見張っていた。


 さらに彼らは俺たちの後をついてくる形で一緒にダンジョンへ入る。

後方警戒の役割だな、まあ前に出られて万が一ツインテールキマイラに遭遇した場合、幻覚やら毒やらされると治療対象が増えて邪魔なので前には出ないことになっている。

イスベルグが後六名連れて行くとか今朝言い出したので俺が説明して、そういうことになった。


「さっさと片付けて帰るぞ」

「今日は様子見ですよイスベルグ、それをお忘れなく」

「チッ、わかっている、ただしそれはこの武器も持たない馬鹿な男のいう事が正しければの話だ」


 舌打ちしながらイスベルグが俺を見た。

武器?ないですけど?

でもその分今日は防具とかちゃんとしてるだろ。


 鉄の盾、なんとか…ワイバーン?とやらの皮で作ったジャケットとズボン、さらに頑丈そうなブーツ、この世界来てから初めての充実した装備やぞ。

全部ロンフルモンが貸してくれたやつだが。

昨日の件で気に入られたようでえらくあれこれ貸してくれたからな!


 ちなみに言うまでもないがイスベルグは例の全身鎧に大剣、今日は兜もある。

フルアーマーイスベルグだ。

フリュニエの武器は両手持ちハンマー、体が小さいので物凄くでかく見える。

服は動きやすさ重視の革の軽鎧と言った感じ。

これはロンフルモンも同じ、ただやつはマントをつけてていろいろ何か隠し持ってる。

さらに鋼鉄のガントレットをはめて左手には小型の盾、右手には鞭を持っている。


「ではでは、気をつけて行きましょうなのです」


 フリュニエの号令で俺たちは赤き鼓動の迷宮へと入って行った。


 前衛はイスベルグと、ロンフルモン。

ロンフルモンは罠の警戒もするので魔法使いのくせに前だ。

魔物と遭遇した場合はフリュニエと入れ替わって後ろに下がる予定。

俺はとりあえずなんであろうと一番後ろだ。

そして遥か後方に兵士たちが付いてきている。

彼らは戦闘に巻き込まれないように、かなり後方だ。


 ダンジョンは案外広かった。

洞窟だから狭いイメージを持っていたが、イスベルグの大剣が振り回せるスペースがある。

つまり道幅があって高さもあるのだ、天井のほうなど真っ暗で高さが計りかねるほどに。


 それに壁、岩肌なんだがうっすらと光を発していて妙な明るさがある。

それは天井に近づくほど光が弱まるみたいで天井が真っ暗なのだ。


 無言で歩いてついて行ってたが俺は天井に何かいたら嫌だなと気になって仕方がなかった。


「なあちょっと天井がどれくらいの高さか魔法飛ばして見てもいいか?」

「何を怯えている、何もいないだろうが」

「気になるんだよ」


 俺がしつこいのでイスベルグがイラつきはじめた。

すぐ、すぐ済むから!と俺は<ライトボール>を飛ばして天井を見た。

…ふうよかった、コウモリがびっしり詰まってるとかじゃなくて。

糞が落ちてないからいない気はしたけど。


 ダンジョンの天井は何もなかった、岩肌なだけだ。

ほっと一安心して<ライトボール>を消そうかと思ったらイスベルグに止められた。


「待て、それは<ライト>か?それにしてはかなり遠くまで制御しているな」

「<ライトボール>だよ、威力がないからただの明かりと変わらないけど」

「そのまま維持して通路の前方を照らしておくことはできるのか?」

「できるよ、こんな感じか?」


 俺はそう言って<ライトボール>を進行方向に飛ばした、前がかなり明るくなった。


「どれくらいの間使っていられる?」

「こんなのずっと出しっぱなしでも平気だよ、寝るとき消し忘れて朝まで出していたこともある」


 そう言うとフリュニエに「魔力の量がおかしいのです?」と言われた。

ロンフルモンは「こんなものはヴォルガーの実力であれば児戯に等しいんですよぉ!」と言っていた。

お前は俺の一体なんなんだ。


「フン、ならばそのまま出しておけ、いい囮になる」


 イスベルグの命令で俺は<ライトボール>を前方に飛ばしてふわふわ浮かせる係になった。

地味な仕事だ、しかしイスベルグのお気に召したようなので良しとしよう。

こういう地味な仕事が後々の評価につながって給料アップになるに違いない。


 俺は偵察させるように<ライトボール>を前方でうろうろさせたりしながら歩いて行った。


 そして、何かが通路の曲がり角から、飛び出してくるのを見た。

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