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ゴリラを超える存在

狂気に満ちている

 ゴリラがどっか行った後、サジェスが水筒を持ってきてくれたので受け取ってごくごくと飲んだ。

ふう水がおいし…水じゃねえこれ、またやられたちくしょう!

と思ったが、不味くはなかったのでそのまま飲みきってしまった、むしろ美味しい。


「ぷはっ、この液体なんだ?」

「開発中の疲労回復用ポーションよ」


 だから開発段階のものを勝手に飲ませるな。


「でも味はよかったでしょ?」


 確かに、スポーツドリンク風味だったので難なく飲めた。

原材料は聞かないことにした、俺の体のためにその方がいいと思ったので。


 謎のスポーツドリンクよりも気になったことがあるのでそれを尋ねる。


「イスベルグは剣の達人なんだよな?」

「違いますねぇ」


 ロンフルモンが俺の問いにきっぱりとそうこたえた、剣豪ってなんだろう。


「彼女の剣は見ての通り力任せの剣です、しかし彼女がこの国で最強なのは事実ですよ」


 一体どういうことだろうか。

ロンフルモンは俺の疑問を解決すべく色々と教えてくれた。


 まず剣豪というのは現在のオーキッドでは形式的な称号にすぎないらしい。

初代の治安維持を担当していたトップの人は本当に剣の達人だったのでそう呼ばれていたが、年月がたつにつれ、いつしか役職のような存在になってしまったようだ。


 そしてイスベルグが最強と呼ばれる理由は誰も彼女を倒せないから。

攻撃力で言えばフリュニエがイスベルグを上回るというのだが、そのフリュニエのパワーで攻撃しても倒れないんだとか。


「試合をするといつも最後には疲れて私が降参するのです」

「あいつ実は疲れを知らないアンデッドなのかな?」

「い、いえちゃんと生きてる人族なのです、本人の前では絶対そんなこと言ったらだめなのです」


 アンデッドでなければロボでもないようだ。

核燃料で動く殺戮マシンだとか宇宙から来た生命体が寄生してるとか言われた方が信じれそうな気もしたけどまあ一応、言われた言葉を信じるならばイスベルグはれっきとした人間ということになる。

 

 イスベルグはその体力も気にはなるが、もう一点<プロヴァケイション>という挑発スキルを使っていたことが俺としては気になっていた。

俺も使える、ただし俺の場合は盾を持っていないと使えない。

あいつは盾なんか持ってなかったのに俺の知る<プロヴァケイション>を使っていた。


「なあ、イスベルグが最後に使った妙な技はなんだったんだ?」

「あれは…彼女専用の魔法、といったところでしょうか。他に使える人を見たことはありませんねぇ」

「そうか、他にも珍しい魔法を使うのかな?」

「さあ、それは何とも言えません、私も知りたいところですが大人しく教えてくれるような人物ではありませんからねぇ、ただ私はあれは魔族の魔法ではないかと考えていますよ」

「ちょっとロンフルモン!前に同じこと言ってイスベルグと揉めたの忘れたの!」


 ロンフルモンはサジェスに怒られていた。

なんだか以前にもひと悶着あったみたいだな…あんまり聞かないほうがいいか…


 俺は立ち上がって尻についた砂をパンパンと払って落とした。

それから借りてた盾を元の位置に戻す。

借りる前に比べてベコベコにへこんでる部分ができてて、弁償とか言われたらどうしようと考えて焦ったので盾を他の装備の後ろに隠すようにそっとしまった。

本気で叩いたイスベルグが悪い。


「これからどうするんだ?ダンジョンには明日行くってことらしいけど」

「ヴォルガーさんはイスベルグの攻撃をあれだけさばけるなら何の心配もないのです!ですので次は私とロンフルモンが試合を」「お断りです」


 フリュニエが全部言う前にロンフルモンがお断りした。


「なぜなのです?」

「嫌に決まっているでしょう。訓練用の武器であっても貴女の攻撃を食らえば骨くらい簡単に折れるんですよ、私をイスベルグと同じように考えないで下さい」

「でもロンフルモンは避けるのが得意なのです」

「万が一ということがあるんですよ、ダンジョンに行く前から怪我をしたらどうしてくれるんです」

「ヴォルガーに頼めば治してくれるんじゃない?ねぇ、骨折くらいは簡単に治せるんでしょ?」

「まあ、治せるが…」

「痛いのは嫌なんです」


 そうだよな、治せるとしても痛みはどうしようもない。

誰だって痛いのは嫌だ、俺だって嫌だ。

ロンフルモンの気持ちはよく分かるので、俺は二人の試合は無くてもいいよと言った。

とりあえず今回の俺は彼らと違って魔物と直接対峙はしない方向で行くつもりだ。

イスベルグという肉壁がいるなら支援魔法に専念すればいい。

なので対人試合を見てもあんまり得られるものはないと判断した。


 まあ一応、二人の攻撃方法くらいは知っとかないといけないので、それは聞いた。

フリュニエはハンマー、メイス、こん棒、とにかく鈍器中心で殴る近距離スタイルでロンフルモンは投げナイフ、鞭、火魔法で中距離と遠距離、接近戦は手甲や小盾で格闘するということだけは聞いた。

魔法使いなのに杖は持たないロンフルモンはどうやら俺以外の者から見ても相当な変わり者らしい。


 ちなみにサジェスもダンジョンに行くのか尋ねたら「行くわけないでしょ!!私は普通のか弱い女なのよ!」と大層お怒りになられた。

サジェスは見た目通り医療の研究が主な仕事であって、魔物とは戦えないようだ。


「でも何もしないのもどうかと思うからポーション類は支給してあげるわ」


 そういうわけで俺たちは訓練場を出て、医局に向かった。

そこでサジェスが回復ポーションと魔力ポーション、解毒用のポーションも渡してくれた。

正直使うつもりはあんまりないが何もないよりは心強い。


 そのまま明日のために色々他に必要なものを準備しておこう、という流れになって、俺は特に装備とか持ってないことを伝えると「えー!装備何もないんですか?もー、じゃあ私が一緒に装備を見てあげるので店に行きましょうなのです」とフリュニエが誘ってくれた。

幼女と一緒にお買い物か…この出費、経費として請求できるのかどうかそんな心配をしてると「ヴォルガーさんの装備などは私が見繕っておきましょう、同じ人族の男性ですし、私の余っている装備が貸せるかもしれませんからねぇ」と、ロンフルモンが優しさを見せた。


 こいつ本当は結構いいやつなんじゃ…

イルザやアイラの話を聞いたときはそんな風に思わなかったけど、やっぱり人って直接話をしないとわからないものだよな。

俺はロンフルモンの提案を快く受け入れ、彼について行くことにした。


 俺とロンフルモンは、フリュニエたちと別れ再び魔法技術局のある校舎三階に戻ってきた。

会議室を通り過ぎ、ロンフルモンの個人的な研究室へと案内された。


 どうぞどうぞと言われ、研究室に入ると雑に積まれた本がやたら目についた。

これってやっぱ魔法関係の本なのかなあと思いつつ眺めてると後ろでガチャリとなんか音がした。

振り返るとロンフルモンが部屋のドアの前に立っていた。

 

「…今鍵をかけなかったか?」

「くふ、くふふふふふ」

「お、おい何がおかしい、待て、俺に近寄るな、なぜ鍵をかけたか言え」

「ハァハァ…ヴォルガーァァァァ!」


 ロンフルモンは興奮した様子で俺に近づいてきて肩を両手で掴んできた。

顔は歪んだ笑みを浮かべ、目は血走っている。 

ま、まさかこいつ…俺と二人きりになるのが目的だったのか?

ていうか…あの…ホモ…じゃないですよね…?


 こんなとこ来るんじゃなかった!

とりあえず壁、壁を背にしておけば尻は守れる。

俺はじりじりと下がって壁に近づいた、窓が横にある、三階だがもういっそ飛び降りるか。


「私は見ましたよォォォ!」

「ひいっ!は、離してくれ!やはり俺はもう帰る!」

「いいえ帰しませんとも!あの魔法が何か聞くまではねぇ!」


 ま、魔法?


「さっきのイスベルグとの戦いで使った魔法です!あれは一体なんなのです!まさか<プロテクション>などとは言いませんよねぇ!<プロテクション>であのように強固な障壁は作れませんからねぇ!あれは体の周囲に薄く防護膜を張るだけですからねぇ!」

「いやあのあれはなんていうか…<プロテクション>ではないけど…」

「さあさあ!もう一度使ってください!私にあの力をもう一度見せなさいィィ!」

「おわああ顔が近い!<ディバイン・オーラ>!」


 バシンっ、とロンフルモンが俺から弾き飛ばされた。


「これ…は…?もしやさっきの魔法とは違う…?ヴォルガーの体を覆うように障壁を展開しているのか…?」


 カサカサと物凄い速度で俺の周囲を動き回るロンフルモン。

あらゆる角度から手を伸ばしてきたり、はたまた離れて近くにあった本を投げつけたり、いつもって来たのか鞭をぴしゃーんと振るってきたり俺にやりたい放題だ。


「すす、素晴らしい!こちらの攻撃に対し常に一定距離を保つように障壁が発生している!これは…円?いや球体なのか?魔法もふせげるのか?よし次は魔法を使って」

「やめろおおお!こんな室内で火魔法を使う気か!火事になるぞ!」


 俺の言葉にハッとしてロンフルモンは手に出現させていた炎を消した、<ファイアボール>でも撃つつもりだったのだろう。


「ハァーハァー、ならば教えなさいぃ、この魔法がなんなのかぁ!」


 <ディバイン・オーラ>が発生させている球体の障壁に両手を広げべたぁーと抱き着くようにロンフルモンが張り付いて来た。

すげえ怖い、俺からだとガラスに顔押し付けてハァハァ言いながらおっさんがこっちを凝視している、と言った感じの光景がすぐ目の前に展開されているのだ。


「わ、わかった、言う、言うから落ち着け、それともう少し離れて」

「絶対ですよぉぉぉ、言わずに逃げたら地の果てまで追いかけますからねぇぇ」


 こんなやつを信じた俺が馬鹿だった。

俺は心の中で、技術局危険人物ランキングの一位をフリュニエからロンフルモンに書き換えた。


………………


………


「ほほう…ではヴォルガーは回復魔法だけではなく防御魔法や支援魔法にも精通しているというとですねぇ」

「そうだ、逆に攻撃魔法は一切できない、<ライトボール>が使えるには使えるが威力は無いに等しい」


 ロンフルモンは俺の話を聞きながらガリガリと一生懸命何か書いていた。

こんなやつに俺の魔法について教えるのは早まったかもしれないが、もう俺にはこうするしかなかった。

<ディバイン・オーラ>の障壁を舌を出してベロベロ舐め始めたロンフルモンを見たときは、他に手は無いと思ったんだ。

こいつは間違いなくヤバイ人種だ。


 俺は諦めて<ライト・ウォール><ディバイン・オーラ>以外にも強化魔法のことについても話した。

今教えとかないと明日いきなり使ってまたこんなことになったら非常に危険だからだ。


「ふうう…それにしても素晴らしい、私の知らない魔法がまだこんなにもあったとは」


 俺から一通り話を聞いたロンフルモンはようやく落ち着いた。

まあ<ウェイク・マジック>のことを知った時はすぐにかけてくれと騒いだのだが、かけてもここで魔法は使えないから試せないぞと諭して何とか落ち着かせた。


「なあ俺からもちょっと聞いていいか」

「ンン?ええ構いませんよォ、私と貴方の仲です、なんでも聞いて下さい」


 ロンフルモンの中で俺が一体どういう存在になってしまったのかは知りたくなかった。


「い、いやあのさ…イスベルグの魔法のことを魔族の魔法って言ってたよな、そういうのって他にもあったりするのか?」

「例えばヴォルガーの魔法のような?」

「俺のは光魔法…いや、まあ言ってもそうは思えないか…」

「思えませんねぇ、特に<ディバイン・オーラ>など異質に感じます、物理攻撃だけを遮断する魔法が光魔法に分類されるのは違和感を感じますねぇ。<ライト・ウォール>は魔法も防げるのでしょう?」


 鋭いな…確かに<ディバイン・オーラ>は光魔法とは関係ない、ほわオンでは盾2のスキルだしな…


「まあともかく俺の魔法みたいなのじゃなくて、例えば…髪を染める魔法とか、聞いたことあるか?」

「かみ?この頭の髪の毛ですか?」

「そう、お前で言うならぼさぼさのその青い髪」


 ロンフルモンは少し考えた後「聞いたこともありませんねぇ」と言った。


「そもそも髪を染めるのにわざわざ魔法を使う必要がありますかねぇ?染めたければ染料を使えばよいでしょう」

「まあそうだよな、変なことを聞いてすまん、なんかそう言う魔法があったって話を昔どこかで聞いた覚えがあってな」


 イルザから過去の日本人の話を聞いた時、変だなぁとずっと気になってたのが髪を染める魔法のことだ。

聞いた時はあまり深く考えなかったが、よくよく思い出してみるとかつての日本人が互いに争うように『魔力を奪う魔法』を闇の女神から教えられたのは各自が魔法を作った後のことだったはずだ。

だから他人を囮にするために髪を染める魔法を作るというのは辻褄が合わない。


 それに制限があったとはいえ、好きな魔法を作る権利を与えられてわざわざ髪を染める魔法なんか作るやつがいるだろうか?

仮に俺が同じ状況になったら100%そんな魔法は選ばない。


 しかしイルザは嘘をついている様には思えなかった。

黒髪がどうとかはイルザから勝手に言い出したのだ、聞いてもないのに自分から嘘の話をする理由がない。

イルザは本当に、ただそういうのがあったんだと言いたかっただけだと思う。


 だから俺はイルザが思っている髪を染める魔法というのは違う魔法のことだと思っている。

もしかしたら、それは…


「はぁはぁヴォ、ヴォルガー、私はもう我慢できません」

「うおうなんだよ!?もう変なことはしないって約束したろ!」

「一刻も早く<ウェイク・マジック>の力を知りたいのです!もう一度訓練場へ行きましょう!」


 ロンフルモンはまたカサカサと昆虫のような動きでせわしなく動き始めた、めちゃきもい。


「わかった!一回だけ、一回だけな!だから俺に近寄るな!」

「ふぅー!ふぅー!くふうううううう!」

「ひい!呼吸を整えろ!人に見られたら変な誤解をされる!!」


 俺は荒ぶるロンフルモンをなだめ、再び訓練場へと向かった。


 ロンフルモンは訓練場で<ウェイク・マジック>をかけられた後<ファイアボール>を使って…その威力に興奮するあまり、呼吸困難になって白目を向き、気絶した。


 俺はこんなやつと一緒に明日ダンジョンに行かねばならないのか。


 遺書を書いておくべきかどうか、痙攣するロンフルモンのそばで俺はしばし真剣に考えるのだった。

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