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納得いかない子

闇魔法は最強の魔法だぞ! マーくん談

 俺の無理かな発言を受けて悲壮な表情になってしまったフリュニエだがちょっと待って欲しい。

無理と言ったのには理由がある。


 まずそのいち、こっちの戦力を良く知らない。

フリュニエが強いとは聞いてはいるが実際戦うところを見たことがないので判断できない。

もし前と同じメンバーに俺を足して行くつもりだったにしてもフリュニエ以外のメンバーの戦闘力も不明だ。


 そのに、場所を良く知らない。

ダンジョンにまだ一度も行ったことないのでどういう地形で戦うのかわかんない。


 そのさん、俺のことをただの回復役としてカウントしている。

これはまあ俺がついていくと決めた場合、大したことない相手だったらあんま目立たないように後ろで適当にヒールとかキュアオールしてればいいか、とは思っていた。

だってようやく疑いがはれたのにダンジョン行ってあんまりハッスルするとまた魔族だって言われるかもしれないから…


 しかし俺の知ってるツインテールキマイラが相手ならハッスルはまぬがれない。

足りない戦力は人数と支援魔法で補うしかないのだ。


 あとそのよんだけど、本当にほわオンと同じ強さのエイトテールキマイラが出てきたら俺一人で肉壁はたぶん無理。

切り札の<パーフェクト・ライト・ウォール>なら絶対に防げるけど前回あれをバジリスク戦で使ったら、劇的に眠くなってその結果寝てる間に攫われちゃったんだよな。

ダンジョンの中で寝るのはやばいと思う、仮にエイトテールキマイラを倒しても、その後完全なるお荷物と化すので帰り道が怖い。


 とまあ様々な理由を考慮した結果とりあえず無理と言ったのだ。


「それもそうなのです」


 無理な理由を説明したら、フリュニエも納得してくれた。

ちなみにそのいち、そのに、はそのまま言ったが、そのさんは「俺を単なる回復役として連れてくなら無理」と言ってある。

そのよんについてはなんら説明していない、ほわオンがどうこう言ったところで伝わらないからだ。


「行くとしたら私とロンフルモンは確定なのです、あとは…前回一緒だった冒険者は、ヴォルガーさんの話通りの敵がいるなら連れて行かない方がいいと思うのです」


 足手まといってことらしいな…しかしそれじゃあパーティーメンバーが少なすぎる。


「フリュニエはハンマーで戦う前衛、ロンフルモンは魔法使いで後衛なのかな」

「なのです、でもロンフルモンは火魔法以外にもナイフや鞭を扱えるし罠を見破るのも得意なのです」

「器用なやつだな」


 魔法使い兼シーフ?レンジャーとでも言うのか?ポジションはどうなるんだろう…未知の生命体だな。


「もう何人か強いやつがいればな…」


 この街の冒険者ギルドには何級までのやつがいるんだろう、実際行って自分の目でみたほうがいいかなあ。


「ねえちょっと、ヴォルるん?行くつもりなの?」


 考え込んでいるとディーナに声をかけられた。


「ん?まあ…行くかなぁ」

「無理って言ったのに!?」

「いやでもフリュニエたちだけで行かせてもより無理なだけだしたぶん」

「おかしいよ!より無理なのが普通の無理になっても…それは結局無理ってことよね!?」


 鋭いな、言ってることはかなりアホっぽいが。


「なんとかしてちょっと無理、くらいには近づけたいところだな」

「なんで?これはオーキッドの問題でしょ?ヴォルるんが頑張る必要ないよ、もういいよ、全部ほっといて帰ろう?コムラードに帰ってそれで私と一緒にギルドで6級の仕事を探して…」


 いやコムラードに帰ったとしても6級の仕事は探さないよ…だって安いから…


「ディーナさん、言っても無駄ですよ、ヴォルさんは関係なくてもすぐ首をつっこみたがる病気なんですから」

「そんな…アイラちゃん…でも!!」


 なんか俺病気扱いされてる?えらい言われようやな。


「私も関係ないのに助けられましたから、ディーナさんも同じようなことがあって一緒にいるんじゃないんですか?」


 アイラにそう言われてディーナは黙ってしまった。

関係は…あったと思うんだけどなあ。

一緒に館に監禁された仲だったわけだし。


「だから今度は私たち…いえ、私がヴォルさんを助けましょう!」


 なぜ言い直した、ディーナはアイラから見ても戦力外通告か。


「私も一緒にダンジョンに」「いやだめだよ」


 ………………


「なぜですか!私は闇魔法が使えるんですよ!ただの子供とは違います!」

「使えるけどその…」

「はっきり言ってください!」

「まだ弱いし…」


 レベル不足っていうか…それ以外に言い様がないんだけど…


「弱い?この私が弱いってことですか?」

「アイラちゃんが行くなら私だって行くわっ!」

「い、いやさらに弱いのが増えても困るから」

「それより私が弱いってどういうことですか!!」


 ひぃ、二人がムキになって俺に詰め寄ってくる。

アイラは弱いと言われたことに納得がいかないようで説明を求めて興奮している。

ディーナは弱いとか関係なしについてこようとして興奮している。


「今日はこの辺でおいとまするので続きはまた明日」

「あ、はいなのです…」


 やいのやいのと騒ぐ二人をなだめつつ、俺はそそくさと生物局を出た。

去り際に見たフリュニエの目が、うわぁめんどくさいなぁと訴えていたような気がした。


………


「ほう、これがバイクの正式な全体像か」


 俺はブロンに今日描いたバイクの絵を見せた。

帰る前にせっかくなので渡しておこうと思ったのだ。


「いまいちだな」

「えええ、前よりじっくり描いてんのにいいい」

「ハンドル部分が前のほうがいいな、これはなんだかチャチな感じがして気にくわん」


 どうしてもハンドルを曲げたいのか…ならいい、好きにすればいい。

もうイメージ画像は頼まれても提出せんぞ!


「だが参考にはなった、ありがとな」

「そ、そうか、ならまあいいや」

「んで、一応聞いとくが嬢ちゃんたちは一体どうした」


 ブロンの視線の先にはアイラとディーナがいた。

技術局の入り口に立って二人して腕組みしながら俺のことをじーっと見ている。

もう帰るから早く入ってきて魔動車に乗ってほしいのに。


「虫の居所が悪いんだよ」

「何か怒らせるようなことしたのか」

「まあ色々と…」


 ここに来るまでもあーだこーだ言うからだめなもんはだめだってと何度も言ったのに。

あーとりあえず魔動車に乗ってくれねえかなぁ。

俺はもう一度説得を試みようと二人のほうへ歩いて行った。


「こっちに来て下さい」


 二人の元まで行くと有無を言わさずアイラに手を引かれて、ひと気のない技術局の建物の裏に連れて行かれた。

表から完全に見えなくなった辺りで不良にカツアゲされる寸前みたいだなとなんとなく思った。

ただディーナが下っ端みたいにアイラのちょい後ろに付き従ってるところがうける。


「何をにやにやしてるんですか!」

「いや別に」


 というかわざわざこんなとこ連れてきてなんなのだ。

俺が問いただすとやっぱりというかなんというか、さっきの件をまだひきずっていた。


「私が弱いというのは冒険者としてはまだ6級だからですか?」

「まあ…はい」

「確かに6級です!でも戦い方はマグナさんから教わっているんです!闇魔法の訓練だってしています!」

「そうそう!私だって剣の練習は欠かさない!」


 ディーナは剣…持ってきてないじゃん既に…

今日あの借りてる家に置いて来てるじゃん…木剣…


「その、訓練とやらは毎日してるのか」


 俺が聞くと二人は「勿論」と大きく頷いた。


「オーキッドに来てからしてる?それ」


 二人は俺から目を逸らした。


「はい、してないよね」

「いやだって!ずっと魔動車に乗ってたし!途中は剣取り上げられたから!」

「そうです!私だって無暗に魔法を使って目立つわけにはいかないと思って!」

「ふむふむ…確かにフェールからオーキッドまでは監視もあったし、輸送型魔動車の中は俺しか魔法が使えなかったのもある、そして着いたら着いたでイルザが出てきて慌ただしかったもんな」

「「そうそう」」


 息ピッタリなのはいいが二人とももっとよく考えてほしい。


「じゃ昨日は?昨日は時間あったろ?」


 二人は俺から目を逸らした、おい。


「昨日は家の片づけと掃除があったじゃないですか」

「それにロリエ様があの家の近くで美味しい食べ物がある店を案内して」

「それは今言わなくていいことです!」


 俺が技術局の食堂で嫌がらせの名物を食べているとき、二人は美味しいものを食べていたわけだ…


 そして、俺が帰ってきた後は夕食を共にし、ロリエからお風呂の湯沸し器の使い方を聞いてきゃっきゃっとはしゃぎながら風呂に仲良く女性三人で入って、食後の片づけを終えた俺が最後に風呂に入って居間というかリビングというか、まあ戻ってきてみればディーナはロリエと一緒にいつ買ってきたのか酒を飲んで酔いつぶれており、アイラはすやすやとソファーの上で毛布にくるまって寝ていたので結局三人とも部屋に俺が運んだわけだが。


「訓練…してないよね?」

「していませんがだったらなんだと言うのです!私の強さは一日二日訓練を休んだところで失われません!」


 なんとアイラは逆ギレしてきた。


「しょうがないな…わかったよ、じゃあ二人で俺に攻撃してみろ、一撃でも当てれたら弱くないと認めよう」

「えっえっ?戦うの?ヴォルるんと?」


 俺の言葉を聞いてディーナはうろたえていたが、アイラはニヤリと笑うと「いいでしょう」とすぐに承諾した。

待ってましたって感じだな。


「はいじゃあいいよ、いつでもかかってきて」

「えっ、ちょ、あの武器が、私武器がないんだけど」

「…そこに落ちてる木の枝でも使えよ…」


 ディーナは慌てて近くに落ちていた手ごろな長さの木の枝を拾って構えた。

その間にアイラが何かしてくるかと思ったが距離をたもって様子をうかがうだけで何もしてこない。


「ディーナさん!私が援護するので攻撃を!」

「えっ、えええ!」

「早く!」

「ううう、わかったわ、てやああああああ!」


 と叫びつつディーナが木の枝を俺に向かって振り下ろして来た。

なんだろうなー、囮ってことかなー。


 避けるまでもないので俺は枝を片手で掴んで受け止めた。

そのまま掴んでる部分をディーナの手元まで滑らせ、それをボキッと手元から折る。

さらに折って奪った木の枝でディーナの尻を叩いてやった。

 

「きゃん!?」


 悲鳴を上げて驚いているディーナ。

尻は別に痛くはないはずだ、俺の呪われたクラスの力で。


「いつの間にか枝折られてるうううう!?」


 尻を叩かれるまでよくわかってなかったディーナはさておき、アイラは<イロウション>で闇の腕を作り出し、俺を挟むように左右に手を回りこませてきている。

ガッ、と大きく広げた手のひらを見るに、俺を捕まえて握りしめようという算段だろうがそのまま手を近づけるとディーナまで一緒に捕まるんだけどいいのか。


 俺はたぶん平気だがディーナは巻き込まれたら危ないかもしれないな。

ここはひとつ、安全に対処するか。


「<ディスペル・オーラ>」


 俺とディーナをサンドイッチにしようと迫ってきた手は、俺に近づいたところで何かにバチッと当たるとそのまま弾かれて消えた。


「え…?」


 アイラはなぜ<イロウション>が消えたのかわかってない。

それもそのはず、さっき俺が使った魔法はまだこの世界で誰にも見せたことはない。

効果は単純で、物理攻撃を遮断する<ディバイン・オーラ>とほぼ同じ。

違うのは物理じゃなくて魔法を遮断するバージョンということだ。


 俺はうろたえるアイラにすたすたと歩いて近づいて行く。


「うっ…<ダークボール>!!」


 アイラは闇の球を魔法で作り出し、俺に向かって撃つ。

<イロウション>が通用しないから変えて来たのか、単に慌ててそれにしたのかどっちかわからない。


 が、どっちにしても無駄だった。

俺に当たる直前、はじけてかき消える。


「<ダークランス>!!」


 今度は槍の魔法か、まあ何が来ても一緒なんですけど。

 

 バシュン。

また、消えた。

俺はすたすたと歩いてアイラの元に難なくたどり着く。


「ぐさー」


 俺は手に持った木の枝で軽くアイラの胸をついた、セクハラではない。

はいこれで心臓さされて死にましたよ、という意味だ。


「………」

「魔物はもっと早く近づいてくるぞ」


 アイラはうつむいて黙っている、ディーナも俺の後ろでしょんぼりしていた。


「…卑怯です」

「え?」

「魔法が効かないなんて卑怯です!!」


 えぇ…いや…まあその卑怯くさい魔法を使って防ぎはしたけど…

実際<ディスペル・オーラ>は強すぎるってことでゲームでも問題になってたけど…


 <ディバイン・オーラ>も強いけどまだ武器に属性魔法かけて殴ればいいだけとかいろいろ攻略法があるのであんまり言われなかったんだが、<ディスペル・オーラ>は違った。


 この魔法、あらゆる攻撃魔法を防ぐので、純粋に何の魔法もかけてない物理攻撃しか通さないのだ。

ほわオンの物理攻撃スキルは割と連発がきいたんだけど魔法は時間かけて大技一発決めるって色が強いので、魔法をメインに使ってるプレイヤーからしたら<ディスペル・オーラ>の仕様はバランスブレイカーだった。


 そのため実装後、<ディスペル・オーラ>は弱体化された。

クレーム多数により悲しい修正をくらったのだ。

修正前は『3分間魔法を防ぐ』だったのに対し『3回魔法を防ぐ』に変えられた。

俺からしたら<ディバイン・オーラ>と同時に使えない&連発できないという点でそんなに強いとは思ってなかったんだけど、ギルドメンバーのかいわれに言わせれば「クソスキル」だったらしい。

あいつは魔法メインだったからな。


 ということで実はさっきアイラにもう一回魔法を撃たれたら普通に食らっていた。

でもわざわざそんなことは教えない、弱点だからな。


「…でもなアイラ、卑怯かもしれんが世の中にはそういうことがあるんだ」

「………」

「今もし、実戦だったらアイラは死んでたかもしれない」

「でも魔法が全く効かないなんて…わかるわけないじゃないですか…」

「そうだけどたぶん熟練の冒険者なら俺が無造作に近づいてくる時点で何か察してるはずだ、魔法がきかなければ武器に切り替えたかもしれない、何もなければディーナみたいにその辺の物を拾って武器にしたかもしれない、でもアイラは俺に木の枝で刺されるまでここから動けなかった」


 ここら辺がまだ弱いと言える部分だと思う。

経験不足かな…俺の経験もゲームによるところが大部分なのであまり偉そうには言えないけど。


「…これじゃ納得できないか?」

「いえ…わかりました…わがまま言ってすみません…」

「そうか、ならいい、それに俺も何の策もないままダンジョンに行くわけじゃない、二人が心配してくれるのはよくわかった、だからもしこのままダンジョンで例の魔物に勝つ見込みがなさそうだったら…その時はなんだ、とりあえず逃げよう」


 かっこつかないがアイラとディーナの無事を第一に考えよう。

後はなんかほら、フリュニエたちがどうしようもないと判断したらそれこそ国で一番強いやつとか、1級冒険者とかに仕事がいくだろ。

ああそうだ、暇そうな神様に頼んでもいい。

どうせ神様なんて普段に何やってるかよくわからねえんだから頼めばいいよ。

イルザ様最高!カッコイイ!抱いて!とか応援すれば行ける気がしなくもない。


「それはそれでカッコ悪いですね」


 アイラにも言われてしまった。


 だけど、そう言ったアイラの顔はさっきまでと違い、笑っていた。

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