DとLの食卓
食事…会議?
ロリエが貸してくれた家の台所はなかなか立派だった、厨房と言ってもいいかもしれない。
赤鉄板や青鉄庫もあるし、調理器具もそこそこ揃っている、ここなら思う存分料理ができそうだ。
この環境は俺の中で歴代二位だ、一位はリディオン家で見た厨房、三位はナインスの屋敷である。
あ、三位はやっぱ清潔かつコンパクトにまとまっていたアイシャと一緒に住んでた家かなあ。
でもまあなんにせよタックスさんに借りてる家が最下位なのは変わらない。
マイホームと言えるのは現在あそこなのにせつない。
他が良すぎるんだな、別に不便ではないもんな。
その歴代二位の厨房では、アイラが掃除をしていた。
戸棚や調理台を雑巾がけしてくれていたようだ。
「食器類はとりあえず使いそうなものから洗っておきました、食材は全部青鉄庫の中です」
おお…なんということだ。
アイラはしばらく人が手入れしてなかったこの厨房を、使えるように先んじて綺麗にしてくれていたのだ。
今日、食べ歩きをして遊んでいただけではないのだ。
ナインスの屋敷で料理できないから掃除ばっかりしていた経験が生きたな。
感動した。
「ありがとうアイラ、凄く助かるよ」
「い、いえ別にこれくらい…当然です」
「あのヴォルるん?他の部屋を掃除したのは私よ?私も頑張って掃除してたのよ?」
アイラを褒めているとディーナが横から頑張ったアピールをしてきた。
そうだな、さっき見た俺の部屋ちょっと汚かったけど、本当はもっと汚かったんだろうな。
一応なんとか寝れるレベルにはしてくれたんだな。
「ディーナもよく頑張ったな」
「うふ、うへへへ」
褒めたのにキモイ笑い方をするな、もうそれ以上言う気が失せたわ。
そしてさっきからこのやり取りを眺めていたロリエは…なぜか意気消沈していた。
「わちしは別になにもしておらん…」
なんだ、羨ましいのか?褒められたいのか?
「えー…金を出してくれてありがとう!ロリエ!」
「ええい!それではわちしが金だけが取り柄の女のようで気にくわんのじゃ!」
なんだよ、褒められたいのかと思って無理にでも褒めたのに。
気難しい年ごろのロリエを適当になだめつつ、俺は青鉄庫を開け、食材を眺めながら何を作ろうかなと考え始めた。
「後は俺がやっておくからアイラたちは夕食までのんびりしててもいいぞ」
「じゃあここはヴォルさんに任せて私はディーナさんと一緒にお風呂を使えるようにしてきます」
「なに、風呂まであるのか!」
至れり尽くせりだな。
サジェスの言った「もうこっちに引っ越せば…」という台詞が脳裏をよぎった。
い、いやまて、まだ慌てる時間じゃない。
ここはしょせん今だけの仮初の宿。
ロリエが一生家賃を払ってくれるわけではないのだ。
でも風呂あんのか。
「こんな家にずっと住めたら幸せねえ…愛する夫と、可愛い子供が二人…」
ディーナがどこかうっとりした顔でトリップしていた。
夫、の部分で俺の方を見て、子供のところでなぜかアイラとロリエを見た。
「だ・れ・が!貴女の子供ですか?」
「わちしは子供ではないと前にも言ったのじゃ!!」
そしてディーナは二人に蹴られたり、尻をスパンキングされながら厨房を出て行った。
それでもうっとりしていた辺り重症だな。
風呂掃除は三人に任せ…ロリエもすんのかな?
………………
………
「凄い…今日はごちそうね!」
食卓に並んだ料理を眺めてディーナが目を輝かせる。
「見たことも無い料理ばかりなのじゃ」
「もしかして、今までヴォルさんが作ってきた珍しい料理は元の世界にあった料理ですか?」
「そうだね、今日作ったのはスープはビシソワーズっていうじゃがいものスープでフランスという国の料理だ、ハンバーグはトマトソースとチーズをかけてあるからイタリアンになるのかな、それと…」
「ま、待て待て、一度に言われてもわからんのじゃ、まずびしそわす?とやらは芋なのかこれは」
ロリエがスプーンでビシソワーズをすくってほへーっと言いつつ見つめている。
原型とどめてないからな、言われなきゃわかんない。
俺は芋を玉ねぎや牛乳とまぜてなめらかにしたものだよと解説した。
ミキサーがないので大変だった、手動でかき混ぜてドロドロにしたのである。
途中まで作ってそういやミキサーがない、と気づいたが後には引けななかった。
こっそり<ウェイク・パワー>と<ウェイク・スピード>まで使って力技で作った。
魔法の新たな可能性に気づかせてくれた一品なのだ。
他のチーズハンバーグ、なんかでかいマッシュルームみたいなのがあったのでそれの傘に刻んだ野菜とニンニクやベーコンを詰めたアヒージョ、それから偽バナナじゃない本物バナナがあったのでそれをペーストにして生地でくるんだサモサ…まあ甘い揚げ餃子みたいなものかな、それらを順番に三人に説明した。
「元の世界で料理人だったのか?」
「料理人の仕事をしていたこともある、こっちに来る直前はガーデンデザイナー…ああ、庭師みたいなことをしてた」
その仕事は辞めてなければ今も元の俺が続けているはずである。
もっとも俺は単なるアルバイトだったので厳密にはガーデンデザイナーとは言えない。
飽きっぽい性格なのでもしかしたらもうとっくに辞めて全然違う仕事をしてる可能性はある。
「なんでこれだけ料理ができて庭師になるのじゃ」
「んーやりたくなったから?」
「そうか…本当におかしなやつなのじゃ」
そしてロリエはビシソワーズを口にいれた。
「ぬ、冷たい!が美味いのじゃ!」
オーキッドに来てからまず感じたのは、暑さだ。
神殿のかがり火のせいじゃなくて、普通に気温がコムラードよりも高い。
なので冷たいスープにした。
「ハンバーグはあつあつね!チーズがとろけてしあわせぇ~」
「アヒージョはナインスさんの屋敷でも作ってましたがこういうのもあるんですね、しつこいように見えるのに何でこんなに食べられるのでしょう」
それぞれご感想をいただきつつ、俺も一緒に食べた。
バナナのサモサは三人とも甘さに喜んでいた、やはり女子は甘味に弱いのか。
「ヴォルガーの故郷の国は大層な料理があるのじゃなー」
「あ、それ厳密には故郷の料理じゃないから」
ビシソワーズはフランス、ハンバーグは上がピザ風なのでイタリア、アヒージョはスペイン、サモサはインド、全部ばらばらの国の料理だ。
計四つの国の料理が混ざってるんだよ、面白いでしょ?
というと皆、真顔になった、笑ってくれない。
「ヴォルさんのいた国の名前はなんでしたっけ…?」
「日本だな」
「なんで故郷の料理は作らんのじゃ」
作れたら作りたいところではあるんだけど…
「俺の故郷は独特な調味料があってそれが味の決め手みたいな料理が多いんだけど…こっちじゃその調味料を見たことが無いんだ、作り方もよく分からない」
「なんという調味料なのじゃ?」
「醤油とか味噌っていうんだけど」
「知らんのじゃ」
「そうか…でもオーキッドに来る途中に立ち寄った村があったろ?あそこにいたフロウさんがサイプラスで食べたことあるといってたからサイプラスに行けば手にはいるかもしれない」
サイプラス、という言葉を聞いてロリエの眉がピクリと動いた。
あ、まずったな、サイプラスはエルフ族中心の国だったか。
「ほう…エルフ共が住むサイプもがが」
「はいサモサ食べてー」
なんか怒りそうだったのでロリエの口にサモサを詰め込んで黙らせた。
もぐもぐごっくんした後、あまあま、とか言って次のを食べている、ふうこれでよし。
「ねえ、ヴォルるんは今日、技術局でどんなことしてたの?」
よしいいぞディーナ!
その空気を読んでか、まったく読まない故かわからないが唐突な話題変更能力!
俺はお前のそういうところを評価しているよ!
「まずブロンのところに行った、それでドワーフ族でも運転できる魔動車があればなぁとかって話が出たんで、バイクを作ることを提案して…」
俺はブロンとバイクの話、サジェスと医局の話、それからフリュニエとダンジョンの話をした。
中でも三人が注目したのはダンジョンのことだ。
いやまあ、昨日実は医局で治療行為をしてたことも教えたら「私たちが知らない間に何してんの」って驚かれたけど。
「赤き鼓動の迷宮か、わちしも聞いておるのじゃ、新種の魔物が問題のようなのじゃ」
「そうそう、たぶんそれを討伐するのが仕事なんだろうけど…そういう魔物って一時的に倒してもまた湧いてきたりしないのかな」
「そこはなんとも言えんところなのじゃ、一度しか出てこなかった魔物もおるし、倒しても倒しても出て来る魔物もおる…例えば今から40年ほど前にタイラントバジリスクという魔物が赤き鼓動の迷宮から出てきたことがあるのじゃ、それは一度倒してから今まで40年間、再び出てきたことはないのじゃ」
タイラントバジリスクがオーキッドにもいたのか、それも40年も前に。
「倒してもまた出て来るかもしれないなら、ヴォルるんが行って頑張っても意味ないんじゃないかしら…」
「しかし放っとくわけにもいかぬのじゃ、それに新種というのは倒したきり出てこないことの方が多い、赤き鼓動の迷宮からはタイラントバジリスク以外にも過去にビッグイーター、グランドミノタウロス、クイーンメデューサ、といった凶悪な魔物が出てきたことがあるが討伐後にはどれも再び出てきたことは無いのじゃ」
「なんだって?」
俺は思わず聞き返した、今ロリエが言った魔物の名前はどれも心あたりがある。
全部ほわオンで見たことあるやつだ。
「本当なのじゃ、嘘ではないのじゃ」
「いや、嘘かどうかじゃなくて…ビッグイーターは大きな口をした太い蛇みたいなやつで、グランドミノタウロスは二本足で歩く斧を両手に持った牛の怪物…クイーンメデューサは髪が蛇の女で石化の魔法をばらまいてくるとか?」
「詳しいな…フリュニエに聞いたのか?確かにその通りなのじゃ」
なんか思ってる通りのやつらっぽい。
ほわオンと同一のやつならこれらは全部ボスモンスターだ。
ボスならタイラントバジリスクみたいに取り巻きのちっさいバージョンの魔物を連れていたのかも。
今回出てきたやつもほわオンにいたタイプか?
フリュニエの絵からは…だめだ、なんかありそうな気もするが思い出せない。
下手くそかつ邪悪すぎて動物系なのか悪魔系なのかも判別できないからなあ。
「イルザ様が一瞬で倒してしまったから、よく分からなかったが、ちらりと見た感じ今回も強そうな魔物だったと思うのじゃ」
「ロリエは見たのか」
「わちしだけじゃなく一緒にいたアイラとディーナも見ておるのじゃ」
俺以外は見てたのか…
「ここは私に任せてヴォルガーのところにいけ、と言ったときのイルザ様はかっこよかったわね!」
「うむうむ!本当はもっとイルザ様の勇姿を見ていたかったのじゃ!」
「まあそれで魔動車のところまで戻りましたけど、結局ヴォルさんはいませんでしたけどね」
すいません、医局にいました。
それで、その後グラウンドに出た俺は、俺が見つからなくてしょうがないからまたイルザのところへ戻ってきていた皆と合流したわけだ。
「その魔物、どんな姿だったか覚えてるか?」
一応三人にも聞いてみた、何かわかるかもしれない。
「確か獣の顔をした頭が二つありましたよね?」
「いやあれは尾に頭が付いていたと思うのじゃ」
「そうでしたか?そもそもロリエは怖がって私たちの後ろに隠れていたからハッキリ見ていないでしょう?」
「そ、それは今言わなくていいことなのじゃ!」
小さい子二人が言い争いになってしまった…軽はずみな質問であったか。
「私結構ハッキリ覚えてるわよ」
「何、本当かディーナ?」
「ええ…って何よ皆その顔、もしかして信じてないわね…」
いやだってなあ…一番怖がって真っ先に逃げるタイプだしお前…
「いいわ、じゃあ明日私も技術局に行って証明してあげる!」
「どうやって?」
「絵を描いてよ!ここは描く道具がないから証明できないの!」
そういえばディーナは絵が上手いんだっけ…?
描いてるとこ見たことないからよく知らんけど。
「しかしディーナまで技術局に来たら、アイラが家に一人になるんだが」
「ならば私も行きます、ディーナさんが描く絵にも興味がありますしね」
「でも局にはロンフルモンが」
ロンフルモンに絡まれるのが面倒だからこの家を借りたのである。
出向いてしまっては意味がなくなると思うのだが。
「そのロンフルモンの件は、たぶん大丈夫なのじゃ」
「なんで?」
「あやつ今日、街中で必死にルイという冒険者、つまりイルザ様を探しておったのじゃ、わちしが二人に家を案内した後、神殿にも来てあれこれ質問していったのじゃ」
ああじゃあイルザのやったことはちゃんと効果あるんだ。
つーかあいつ、俺に用があるとか言っておいて自分は街に出かけたのかよ。
もう謝る必要ないなこれ。
ロンフルモンが探すルイという冒険者については、表向きノワイエが雇った流れの冒険者となっている。
詳しくはノワイエしか知らないということだが、ノワイエは一応大神官というお偉いさんなのでロンフルモンもおいそれと面会にはいけないようだ。
さらにあんまりしつこくすると牢屋にぶち込むぞ、と神殿騎士たちにも脅されたらしい。
「それにイルザ様…じゃなかった、ルイ殿が見つからない場合、次の優先順位はアイラとは違う別の者になっておるようなのじゃ」
「あー…なんか嫌な予感」
「ヴォルさんですね」
「うむ、今日わちしの所に来た時、ヴォルガーのことを言っておったのじゃ。その時はなんでヴォルガーに目をつけたのかよくわからんかったのじゃ…先ほど医局の話を聞いて納得したのじゃ」
「ヴォルるんも目立つから、イルザ様のやったことあんまり意味なくなっちゃったね」
ええい言うな!
アイラを守る壁が二枚になったと思えばいいではないか!
あとできればなんか俺を守るためにどこかからもう一枚壁をお願いします!
魔法使える有名人をどっかから連れてこれない?
と、希望を込めてロリエに聞いてみた。
「ヴォルガーもイルザ様くらい目立つから無理なのじゃ」
そんな絶望的な答えしか返ってこなかった。
俺はイルザとは180度違うのに。
その一点だけはどうしても腑に落ちなかった。




