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局長たち

なんかの四天王みたい

 技術局を出た俺たちは再び神殿に戻った。

火の女神のためか、やたらとかがり火を焚く暑苦しい神殿だ、女神本人は暑がりなのでもしかしたらやめてあげたほうがいいのかもしれない。


『ここまでの道のりをマップデータに記録しました』

「おっやるねえ、次からはロリエにあっち行けとかこっちに曲がれって指示されずとも技術局に行けるわけだ」

『イエス、自動運転はできませんがナビゲートは可能です』

「結構役に立つな」


 俺は神殿の駐車場、いやたぶん駐車場ではないんだけど、入り口脇の広いスペースに魔動車を停め、そこから降りた。


「ちなみに俺がいないときドアロックとかできる?」

『イエス、盗難防止のためドア、ならびにエンジンをロックしておきます』


 やったぜ、なんだよティアナやればできるやん。


「たまげたものなのじゃ、魔動車が喋るとはのー」

「そうですね、『えーあい』というのはよくわかりませんけど…」

「ねえねえ、私と似てる名前をつけたのは何か意味あるの?うふっ」


 同乗者の面々は、魔動車を眺めつつティアナの存在にそれぞれ思いをはせている。

ディーナの発言で言われてみればディーナとティアナは似てなくもないなとは気づいたが別段意味はない、偶然だ。

あとディーナの正式名称はメンディーナなのでそこまで似てるとは言えない。


 神殿に戻る道中でとりあえずティアナのことは説明した。

AIの概念が理解できるとは思えなかったのでAIのことは魔動車に魂が宿ったとか適当なこと言って納得させた。


「ねえねえ」

「うるさい、意味はない、元の世界でそういう名前の似た乗り物があったんだ」

「私たちにはよく理解できない単語が時々ありましたけど、それもヴォルさんの元の世界にはあるんですか?」

「ああ、まあ割と一般的なことだよ、さっきは地図を作って覚えたとか、ドアを知らない人が勝手に開けないように鍵をしておくとかそういうことを言ってたんだ」

「すごーい、賢いのね!」


 地球産の車にそこまでの機能はないけどな、未来にはできてるかもしれないが。


「それより技術局の騒ぎは一体なんだったんだ?捕まえていた魔物が脱走したとは聞いてるんだが、イルザが暴れてたのはなんでだ?」

「それについては私から説明してやろう」


 うわあ、神殿の入り口にいつの間にかイルザがいた。

いつのまに戻っていたんだ、神様だから転移とかいうずるか。


 イルザがここではなんだというので、最初に出会った神殿奥の祭壇がある部屋まで行った。

そこにノワイエはいなかった、どうやら意味もなくこの部屋に待機してはいないようだ。

健康のために散歩でもしてるのかもしれないな。


「あれはアイラのためにやったのだ」


 俺を一人魔動技術局に放置した後、イルザたちはすぐさま食堂に向かったらしい。

つまり俺を待つ気は微塵もなかったということだな、別にもういいですけど。


「そこで変な男に絡まれたのだ」

「魔法技術局の局長でロンフルモンという人族の男性です」

 

 アイラが変な男について補足してくれた、イルザはちゃんと説明する気があんのか。


「ロンフルモンはアイラが魔族の疑いがある少女だと知っていたみたいでな」

「それについてはもう誤解であったと事を知る物には通達してあるのじゃ!だからロンフルモンにも注意したのじゃ!」

「別に魔族とかは関係なしに私に用があったみたいですけどね」 


 ロンフルモンはどうやらどこかで聞いたのかアイラの闇魔法、<イロウション>に興味があったようで、それについて詳しい話を聞きたいとアイラに詰め寄ってきたそうだ。

あの魔法、見た目が恐ろしいのであまり見せびらかすとまたあらぬ誤解を受ける可能性がある。


 アイラもそれについては理解してて、ロンフルモンにはお断りをしたみたいなのだが…


「少々しつこくてな、邪魔なので焼き殺してやろうかと思った」


 俺としては焼き殺すという判断をする前に、もうワンステップ、邪魔なのでやめてください、さもないと殺しますよ、くらいの警告を挟むことをイルザには覚えて欲しいと思うが無理かなぁ。

それができたら俺の首をすぐにはねようとはしなかっただろう。


「次から腹が立ったら、せめて私は怒ってるということを口でまず言ってくれない?」


 無理かと思ったが、今後のために意を決して提案した。


「なんのためにだ?」

「いやいや、なんていうかこう、相手に謝る機会を与えてやってもいいんじゃないか、ほらそのほうが神様っぽいよ?」

「そうか?うーん…ロリエはどう思う?」

「え、わ、わちしは…あっ、わちしもそのほうが良いかと存じますのじゃ!その方がイルザ様の威厳を感じられますし、あとええと恰好良いと思いますし、いきなり火の玉を降らせるよりかはその…良いと思いますのじゃ!」


 余裕がないのか、のじゃ言葉になってるし最後完全に本音だけになっていたな。


「ふむ、なら次からそうしてみよう」

「ありがとうございますなのじゃ!」


 話が逸れたが、ロンフルモンが焼き殺されずに済んだのは彼が謝ったからではなかった。

魔物の脱走騒ぎが起きたせいである、俺はその頃ティアナと会話中。


 ロンフルモンもアイラに構ってる場合ではなくなって魔物を探しに食堂を出て行った。

そこでイルザがあることを思いついた。


「私が魔物を派手に退治してやれば、私に注意が向くと思ってな」


 なるほど、つまりイルザは自分が目立つことでアイラに向けられる興味の目を減らそうと考えたようだ。

「ちょっとすごい魔法を使う少女」の噂を、「ものすごい魔法を使う冒険者」で上書きしようとしたのだ。

すまないイルザ、今まで怒りっぽい面倒なやつだと思っていたけどいいやつだったんだな。


「しばらくは皆『爆炎を操る謎の美人冒険者ルイ』を探すのに夢中になるってわけだな?」

「わっはっはっ、『爆炎を操る謎の美人冒険者』か…なかなか気の利いたことを言うな!ヴォルガーのことを単なるクズから話のわかるクズに格上げしてやろう!」


 クズの部分をかえろよ、せっかくヨイショしてやったのに。


「イルザ様、その…ありがとうございます」

「なに私もそろそろ戻らねばならんしな、その前に姉…いや、アイラのために何かひとつくらい力になりたいと思っていたのだ」


 イルザはやはりアイラのことをアイシャとつなげて考えてるみたいだ。

俺のことはクズ呼ばわりだが、アイラのことを良く思ってくれることには感謝しよう。


 そしてイルザは「ではな」と言ってあっさり姿を消した。

ロリエは少し名残惜しそうに、さっきまでイルザがいた空間を見つめていた。


「やっぱりイルザ様は優しい女神様なのじゃ!」


 そうだな、俺以外には優しいな。


「しかしそうなると、アイラはしばらく技術局には近づかないほうがいいかな」

「イルザ様の好意を無駄にしないように、そうしたほうがいいでしょう」

「そっかー、じゃあもうコムラードに帰る?ロリエ様の用件は済んだわけだし」


 そうしたいのは山々なんだが、俺はブロンと約束してしまっている。

明日も魔動技術局に顔を出さなくてはいけない。


「金貨10枚分ですか…それは、断るわけにもいかないですね…」


 ブロンとのやり取りを教えて、すぐには帰れないことをアイラたちにわかってもらった。

そして俺が魔動技術局に行っている間、アイラとディーナの二人はロリエに面倒をみてもらうことにした。

ディーナは別に俺についてきてもいいんだが、アイラの傍についてやって欲しいと頼んで残ってもらうことにした。

イルザが手を打ってくれたが、まだ変なやつに絡まれないと決まったわけではない。

ディーナでもいないよりはマシだろう、不安は和らぐはずだ。


「では明日、あまり目立たぬところの家を二人に用意しておくのじゃ、神殿に寝泊まりするよりは良いと思うのじゃ」


 神殿は結構人が出入りしてるからなあ、常駐してる人たちの他にも、火の女神の加護を授かるために各地から人が訪れたりもするようだし。

でもわざわざ家を用意してれるのか、宿じゃなくて。


「家なら数日はくつろいで滞在できるのじゃ!暇なときはわちしと遊びに行けばいいのじゃ!」


 もしやロリエが神殿を出て遊びほうけたいから口実にされているのではなかろうか。

でもまあいいか、ここまで散々な目に会ったし、ディーナとアイラにオーキッドでなにか良い思い出を作ってから帰っても罰はあたらんだろう。 


 そんな感じで話はまとまって、その日は神殿の部屋をまた借りて寝た。


 そして翌日。


「それじゃ俺は行ってくるから」

「はーい、行ってらっしゃい、私たちはロリエ様と一緒に家のほうへ行くね!」

「何か私のために色々すみません」

「気にするな、ロリエ、二人のこと頼んだよ」

「任せておくのじゃ!あ、それと今日は夕方になったらわちしがヴォルガーを迎えに技術局へ行くのじゃ!そのつもりでおってくれなのじゃ」


 帰りはロリエに家のほうへ案内してもらうということだな。

俺は返事をすると、魔動車に乗り込んで技術局へ向かった。

道のりは昨日言った通りティアナがナビをしてくれたので迷わずに行けた。


 技術局…四つの部門があるけど通称が技術局らしいのでそう呼ぶが、この技術局の門にも門番はいる。

魔動車の窓を開けて門番に「ブロンさんに用があるんだけど」と言うと、話が通っていたようですぐそのまま魔動車ごと中に入らせてくれた。

ただ俺は、その時魔動車の窓がティアナに言えば開閉できると知って感動していたので門番が何言ってたかよく覚えてなかった。

なんかとにかく早く行ってくれみたいなことを言われた気はする。


 魔動技術局という名のガレージまで行くと、ブロンが表にいることに気が付いた。

白衣を着てひょろっとした背の高い人族と思われる男と言い争っている様子だった。

それと、その二人の横では女性二人が同じようにこちらも…片方はあれ、昨日あった医療技術局のサジェスだな、もう片方は知らん、背が小さいところを見るとドワーフ族の女かな。


 その四名は俺が魔動車で近づいて行くと、争いをやめた。

ブロンがジェスチャーで中に入れと言っていたので、とりあえずガレージの中へ魔動車を入れて停める。


「よーしよし!よく来たな!」


 ドア開けたらブロンに魔動車から引きずり降ろされた。

なにこの扱い。


「ブロン!ずるいわよ!」

「ンン、いけませんねぇ、貴重な人材を乱暴に扱うのは」

「そ、そーです!横暴なのです!」


 なんだなんだ、サジェスと他二名が言い寄ってきた。


「えーいうるさいお前ら自分の持ち場に帰れ!こいつはわしとの約束で来ているのだと言っただろうが!」

「ちょっと彼と話がしたいだけよ!」

「こちらも同じく、ンン、できれば魔法を使うところもみたいですがねぇ」

「私はとりあえずお礼が言いたいのです!あとそれから魔物の捕獲部隊の手伝いに付き合ってほしいのです!」


 よくわからんがこいつら全員どうやら俺に用があるみたいだ。

ブロンがあっち行け!と言っているが今度はブロン対三人の言い争いになってしまった。

どうしたもんかなと思いつつ、それを眺め、それぞれが言い争いに疲れてきたころ「出直そうか?」と俺が提案すると一番元気だったブロンが「とりあえず昼までは約束通りこいつはわしが借りる、ついでにお前らのことも教えておく」と話をまとめた。

他の人らはたぶんここが暑いのもあって疲れたのだろう、汗をぬぐいながら仕方ないといった感じでガレージを出て行った。


「あの人らなんなの?一人は昨日会ったけど」

「医療技術局の局長サジェスは知ってるんだな、痩せた背の高い男が魔法技術局の局長ロンフルモン、ドワーフ族のおさげ女は生物調査局の局長フリュニエだ」


 あの男が例のイルザに焼き殺されるところだった男か。


 しかし全員局長だったとはな…付け加えるとロンフルモンはぼさぼさの青い髪と白衣のせいでどことなくマッドっぽい雰囲気をだしていて、フリュニエはうっすらピンクの三つ編みを二つして革のドレスのようなものを着て地球だとお嬢ちゃんアメあげるからいいところ行こうか?とかおじさんに言われそうな危うさを感じた。


「俺に用があったのかな」

「そうらしいぞ、お前昨日医局で大層な魔法を使って色々やったらしいな、それでサジェスがあちこち探し回っててわしのところにも来たんだよ」


 ああーやっぱ昨日魔法で怪我を治したせいかぁ。

サジェスは俺が帰った後、各局に俺がどこの局のやつなのかと尋ねて回ったらしい。

そのせいでロンフルモンにもフリュニエにも俺のことが伝わってしまったようだ。


「今日お前が来る予定だなど、うっかり言うんではなかったよ…まったく」


 ブロンから俺のことを聞いてようやく技術局の者ではないと理解した三人は、俺が来るのをいまかいまかと待ち構えていたらしい。

なんか怖いです。


「そういうわけで悪いがあとであいつらの話を聞いてやってくれ」

「まあいいけど、なんか面倒なことになったなぁ」

「サジェスのところに首をつっこむからだ…それとフリュニエはともかくロンフルモンにまで目をつけられたのは厄介だぞ」

「えー…どういう風に?」

「あいつはしつこい、気を付けろ、ああでも黙って逃げたりはせんほうがいい、そのうち家までおしかけてくるからな」


 家まで…それは困る、ストーカーかよ。

今日借りるであろう家にはアイラもいるのに、来られると大変迷惑。


「あいつらのことはともかく、まずはわしの用事に付き合ってもらおうか」


 これ夕方に帰れるかなぁ。


 俺は心の中で、なるべく早く迎えに来て下さいとロリエに祈りを捧げたのだった。

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